−提 言−
・イラク派遣には、大義を立てよ (2003/11/23: 竹村健一『これだけメール』 2003/11/28 VOL.251掲載)
「大義を四海に布かんのみ」
これは、幕末の志士の一人で坂本龍馬等に思想的影響を与えた横井小楠が、明治維
新前夜に在るべき外交の要諦を述べた言葉である。
筆者は、ここに述べられた「大義」と長期的な国益とが外交の2本柱で在るべきと
考える。
さて、今政府がイラクに自衛隊派遣を企図している事について、盛んに議論が行な
われている。
これについては、単純化すれば派遣するかしないかだが、その関わり方、意味付け、
派遣時期等については、イラク戦争の目的、復興支援の大義、長期的な国益、リス
クの大きさについての判断を組み合せれば100通りの答えが出る問題である。
◆大義と国益◆
先ず、アメリカの戦争目的として、開戦前後に大量破壊兵器の排除、サダム・フセ
イン政権転覆によるイラクの民主化等がブッシュ政権から語られた。
正義や大義の有無は、0か1の世界ではない。
時間軸や全体の関係の中で、判断されるべきものであると筆者は考える。
その上で、トータルで見た場合、独裁政権の消滅は歴史の大きな流れに沿ったもの
であるとしても、また大量破壊兵器が未だ発見されていない事の評価を留保しても、
国連決議を経ないで開戦した事、開戦動機の中に石油、軍需、復興利権、来年秋の
大統領選でのブッシュの再選狙い等の恣意的要素が明らかに存在する事を考えれば、
やはり大義なき戦争と言わざるを得ないだろう。
次に、イラク復興協力の大義であるが、10月半ばに復興に向けて国際社会が協力
する国連決議が通ったが、現在の状況で軍の派遣をするには、イラクの戦後復興を
統括する米英占領当局(CPA)の軍政下での参加になり、復興の主導権争いも絡
みフランス、ロシア、ドイツ等も軍の派遣を見合わせているという現状がある。
しかし、11月下旬のここに来て、イラクへの主権移譲を来年6月までに行うこと
になったことを受け、アメリカ側に新たな国連安保理決議の採択を模索する動きが
ある。
更に、国益とリスクの問題であるが、特に北朝鮮問題を抱えて日米同盟を動揺させ
ない事に焦点を当てれば、派遣をするのが少なくとも当面の国益に適うとは言える
だろう。
一方リスクとして、派遣された自衛隊員達が死傷する可能性に加え、派遣への報復
として東京がテロに狙われる可能性が出てきた。
◆大義を布かんのみ◆
「大義」と「国益」との関係について、筆者は少なくとも危急存亡の秋でない限り
は、大義を必要条件とする事を原則とすべきと考える。
また、それが長期的な国益と一致すると考える。
自衛隊員は、死を掛けて危険な任務に就くのが宿命であり、存在理由である。
しかし、それが大義と長期的国益のため行われ、そこに自らの生命を超えた価値を
見出すからこそ死のリスクを超越し、流す血は報われる。
イラク戦争を大義の戦争とせずとの前提に立つならば、復興支援は軍政と一線を隔
した形で行うべきであろう。
アメリカの派遣要求に無条件で従う事は、短期的な国益ではあっても、長期的な国
益ではない。
また、もうイラクは、危なくない場所を探して派遣するという状況からは遠い。
逆に危ないところにこそ、治安部隊を含め大量に人員が必要となるだろう。
日本としては、大義の下にこそイラク復興の国際貢献をすべきである。
フランス、ロシア、中国を説得しアメリカとの間を取り持って国連の新決議を促し、
石油の国連管理とイラクへの主権移譲を前提とした、占領行政と確たる一線を引い
たスキームを造る。
そして、求められれば、国連の錦の御旗の下に自衛隊を送り出すべきである。
政府は、早急にこうした方向を模索しなければならない。
イラク戦争を支持した手前出来ないという事なら、現政権は替わらざるを得まい。
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・イラク派遣には、大義を立てよ (短縮版:
2003/11/29: 『実業界』 2004年2月号掲載)
「大義を四海に布かんのみ」
幕末の志士の一人で坂本龍馬等に影響を与えた横井小楠は、外交の要諦をこう述べ
た。
筆者は、大義と長期的な国益とが外交の二本柱と考える。
イラクへの自衛隊派遣は、イラク戦争の目的、復興協力の大義、長期的な国益、リ
スクについての判断を組み合せれば百通りの答えが出る問題である。
先ず、イラク戦争については、独裁政権の消滅は歴史の大きな流れに沿ったもので
はある。
しかし、現時点の大量破壊兵器未発見の評価を留保しても、国連決議を経ないで開
戦した事、開戦動機の中に石油、軍需、復興利権、ブッシュの再選狙い等の恣意的
要素が明らかに存在する事を考えれば、やはり大義なき戦争と言わざるを得ないだ
ろう。
次に、復興協力の大義であるが、10月半ばに復興に向けて国際社会が協力する国
連決議が通ったが、現状は米英占領当局の軍政下での参加になり、フランス等も軍
の派遣を見合わせているという現状がある。
更に、北朝鮮問題を抱えて日米同盟を動揺させない国益と、自衛隊員の死傷可能性
に加え報復として東京がテロに狙われるリスクの問題がある。
「大義」と「国益」との関係について、筆者は少なくとも危急存亡の秋でない限り
は、大義を必要条件とすべきであり、それが長期的な国益と一致すると考える。
自衛隊員は、死を掛けて危険な任務に就くのが職務であるが、それが大義と長期的
国益のため行われ、自らの生命を超えた価値を見出すからこそ流す血は報われる。
日本は、大義の下にこそイラク復興の国際貢献をすべきである。
フランス、ロシア、中国を説得しアメリカとの間を取り持って国連の新決議を促し、
石油の国連管理とイラクへの主権移譲を前提とした、占領行政と確たる一線を引い
たスキームを造る。
そして、求められれば、国連の錦の御旗の下に自衛隊を送り出すべきである。
イラク戦争を支持した手前、アメリカ追従しかないという事なら、現政権は替わら
ざるを得まい。
以上