−提 言−

・猪瀬直樹氏は名を惜しめ −説得力に欠ける高速無料化批判− (2003/11/2: 『週間金曜日』 2003/11/14 484号掲載

総選挙の争点の一つとして、高速道路の在り方を巡る議論が高まっている。
選挙戦の場外でも、道路公団民営化推進委員会の中心メンバーとして民営化議論を
リードしてきた猪瀬直樹氏と高速道路無料化の提唱者山崎養世氏の間でテレビ、雑
誌等での発言を通し、真っ向からの論戦が行われている。

猪瀬氏は、山崎氏の無料化案に対して、「無料化論では4公団で40兆円の債務が
消えてしまうかのように装っているが、債務は結局、税金で返さねばならない。高
級レストランで食事をしてレジでは『タダです』と言われ、帰宅したら請求書が届
いていたようなものだ」と批判している。

◆無料化案◆
山崎氏の無料化案は、著書の「日本列島快走論」によれば、次のようなものだ。
@大都市圏の首都高速や阪神高速を除き、無料化を図る。
 高速道路の出入口を3キロごとに1か所に増やしサービスエリア等を民間に開放
 して、この新出入口周辺を生活者の町づくりの拠点にする。
A元利併せて返済額120兆円以上になる現在の4公団の借入金を、低利の国債発
 行で借り換え、金利コストを削減する。
Bこの新国債の返済総額は、2%固定金利なら64兆円。年間約2兆円ずつを道路
 財源からまわし、30年間で完済する。
C道路の権限と財源を都道府県に移し、地域ごとに特色を生かして道路を早く安く
 作るインセンティブを与える。
Dこれらにより、流通コストが下がり経済活性化が図れ、料金所がなくなることで、
 渋滞の緩和が期待でき、有害排気ガスの排出を抑え、市街地を走る営業車が高速
 道路を迂回することで、交通事故の減少も望める。

◆民営化案◆
一方、猪瀬氏が主導した昨年12月の民営化推進委員会の最終報告案は、次のよう
なものだ。
@ 民営化後は、新しくつくる公的機関「保有・債務返済機構」が4公団の資産と債
 務をまとめて引き継ぐ。
A 公団を分割して設立する民間会社が、保有機構にリース料を払って高速道路の運
 営や建設を担当する。
B 新規路線は、新会社が国と協議して「基本的に料金収入で返済可能な範囲」で自
 主的な判断で建設する。
C また、不採算路線でも必要なものは、政府と自治体が財源を負担もしくは別途直
 轄事業により建設する場合がある。

◆全体のビジョン、将来の国の形から◆
欧米諸国の大多数では、高速道路を無料もしくは限定的に環境対策、混雑緩和等を
目的にした低額の料金を課すに止めている。
山崎氏の案は、この実証済みで一応成功しているモデルを基にした極オーソドック
スなものだ。
何も欧米の標準に全部の政策を合わせる必要はないのだが、有料を前提とするなら
それなりに説得力のある理論が必要だろう。

猪瀬氏の考えは、言うまでもなく道路公団を民営化し、高速道路を有料とする事を
大前提に置いている。
また、出来るだけ将来の財政支出を抑制するため採算性に主眼を置いているが、約
6兆円に上る道路特定財源(道路整備財源全体では約9兆円)について、手付かず
のままとしている。

筆者には、道路公団民営化は、従来の予算配分の権限を守りたい財務省と国交省の
考える枠の中、官僚の発想を出ていない議論に映る。

猪瀬氏と異なり、民営化推進委員会のメンバーの一人、川本裕子氏(マッキンゼー・
アンド・カンパニー シニア・エクスパート)は、委員会の最終報告案は、あくま
でも民営化、有料という前提内で考えた最善の案であると述べている。
異なる前提なら異なる結論になる事を示唆する所は、経営コンサルタントとしての
一種の割り切りを感じるが、恐らく川本氏のスタンスの方が「民営化を前提として」
結論を出すミッションを課された委員会メンバーとしての正しいスタンスだろう。

民営化議論を通じて、猪瀬氏は、「1台200万円の緊急電話機」等の公団の無駄
使いを指摘する等、道路行政の改革議論に対して有意義な役割を果した。
これらは、今後、行政全体に企業会計を導入する等、別途生かされてよい。

しかし、民営化、有料化に固執して、無料化議論を頭から封じようとする猪瀬氏の
態度は根拠不足で説得力を持たない。
「ミカドの肖像」「日本国の研究」等の優れた仕事で得た名声を汚さぬ様、猪瀬氏
には全体のビジョン、将来の国の形を見据えた大所高所に立った議論を期したい。

 

                       以上

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