−提 言−

・猪瀬直樹氏に欠落した視点 −道路公団改革について− (2002/8/25: 『実業界』 2002/10/1号掲載

政府の道路関係4公団民営化推進委員会が23日、集中審議を終え、今月末に発表
する中間報告の骨格をまとめた。民営化後は、新しくつくる公的機関「保有・債務
返済機構」が4公団の資産と債務をまとめて引き継ぐ。また、公団を母体に設立す
る複数の民間会社が、保有機構にリース料を払って高速道路の運営や建設を担当す
る。新規路線は、新会社が国と協議して「基本的に料金収入で返済可能な範囲」で
自主的な判断で建設するとの事だ。

不採算路線でも必要なものは、政府と自治体が財源を負担もしくは別途直轄事業に
より建設する場合があり得るようだが、推進委内部でも基本的に不採算路線は建設
しないとする猪瀬氏等と、道路は本来無料であるべきだとする今井委員長等との間
にニュアンスの違いがあるようだ。

猪瀬氏の考えは、出来るだけ将来の財政支出を抑制するため採算性に主眼を置いて
いるが、次の視点が欠落している。

@高速道路、一般道路、新幹線、空港等の交通網インフラをトータルな視点から見
 た国民生活のナショナルミニマム。
A高速道路の経済効果(建設による一時的な景気刺激効果のみならず流通増加等に
 よる経済波及効果)、及びそれによる税収の増加。

また、不採算路線を公費による別途直轄事業により建設すると、採算の合う路線は
料金を取り不採算路線は無料という利用者から見ると倒錯した現象が起きかねない。

一方の道路族議員側は上記の点を謳ってはいるが、本州四国間の橋を3本も造った
ような無駄の多い高速道路建設の仕組みや運営方法は基本的に従来どうりと想定し
ている。

諸外国では、高速道路等は国費で建設するのが一般的のようだが、今我が国に必要
なのは原点に立ちかえり国土利用と産業政策のビジョンを描きつつ、利用料を原則
無料としたトータルな交通インフラ整備の原則を確立する事だろう。一案を示すと
以下のようになる。

@先ず前提として、収益性、利便性、経済効果の予測を、第3者により精緻客観的
 に行う体制を整備する。
Aオープンな議論の下に前述のナショナルミニマムの基準を設け、その範囲は現道
 路特定財源の「総合交通網整備財源」への組替えを図り、これを含めた全額公費
 負担とする。
Bその範囲以上のインフラ整備は、経済効果による税収の増加をリミットとした公
 費の一部投入を行う。
Cなお、Bでの公費投入以上の整備の財源は、料金収入を返済財源とした借入金と
 し、この資金計画が成立可能な場合に限り建設する事とする。
D将来は、財源一括分与を伴った地方分権により、一般道路は全て地方自治体の責
 任で整備する事を図る。
E規格や建設方法の見直し、一般競争入札、入札案件の小口細分化、用地収用方法
 の見直し、ファミリー企業の整理、天下り禁止の立法化等により建設コストの圧
 縮を図る。

まずこのような原則を立てた上で、現行制度からの移行、競争原理による効率化や
収益意識を高めるために民営化も含めた道路公団の組織形態の変更等を議論して行
くのがスタンダードな手順である。

いずれ、推進委と道路族が対決、または足して2で割った妥協をする事になると思
うが、本来、道路公団改革には、先ず民営化ありきや従来の方法を墨守した狭く刹
那的な議論でなく、原則を打ち立てた大局に立った議論が望まれる。

 

                       以上

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