−提 言−

・中国新幹線売り込みは慎重に (2003/8/10: Voice』 2003年10月号掲載

中国国内での思わぬ世論の反発で一時様子見のスタンスだが、ドイツ、フランスと
受注合戦を繰り広げる中国政府の高速鉄道計画(北京−上海)への新幹線システム
の売り込みに、扇国交相、奥田経団連会長をはじめとした政府、財界が積極姿勢だ。

8月2日には、政府は環境対策、内陸部の民生向上事業などに限定する従来の指針
を覆し、有償資金協力(円借款)を供与する方向で検討に入っている。

政府、財界が新幹線売り込みに熱心なのは、(1)日中友好の象徴とする(2)日
本企業の受注機会増加(3)新幹線の高速鉄道スタンダード化等が狙いと伝えられ
るが、数々の不安材料も有る。

当のJR各社からも、技術移転後に中国が国内製造すれば日本側にビジネスとして
の旨みがない事や、運行、保守も含むシステム一括採用でなく部分的な協力にとど
まった場合「安全に責任が持てない」との懸念も出ている。

大陸深く鉄道関連事業で入って行く事には、状況は全く違うが漠然とかつての満鉄
の二の舞にならねばよいがという連想も湧かない事もない。

WTOに加わったとはいえ、まだまだ中国は法治ならぬ人治の国である。
甘い考えで中国に進出した企業が、一方的に契約不履行をされたり、突然課税され
たりで大赤字となってほうほうの態で撤退したりの事例はよく聞かされる。

また、一層中国の法治が進み、十分に誠実な国になったとしても、発展に伴う政治
上の変動で中央政府が機能不全に陥る可能性も皆無ではない。
とはいえ、中国は魅力的な生産基地であり、巨大消費市場である事は確かである。
これに臆病過ぎるのは、企業に取っては戦いの放棄とも言える。

筆者は、一般に現在の中国への投資は、リスクを計算した上で逃げ足早くして置く
のが基本だと考える。

今回の新幹線についてはもし受注すれば円借款を利用する方向だが、もし今後この
ような巨大プロジェクトを行うのであれば、保険や投資会社へリスクを分散し、ま
た中国側事業主体、中国政府、地方政府、日本政府、日本側企業、商社、アジア開
銀等の責任の所在を明らかにし、間違っても国際版の第3セクター問題のようにな
らぬ注意が必要である。

それでも、リスクは残る。
円借款を利用するなら、最後はそのリスクを取るのが総合的な国益に適うのかで決
めるべきである。
筆者は、現小泉政権はもとより、その応援団である財界トップ、トヨタトップの奥
田氏についても単なる財界人、企業人を超えた国益感覚が在るかについてその言動
を注意深く見守る必要性なしとしない。

 

                       以上

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