−提 言−

 ・文明の衝突と新世界秩序の創造 (2001/11/25: 『週間金曜日』 2001/12/14 392号掲載)

9月11日のハイジャック機のNYワールドトレードセンターへの突入という衝撃的なニュース映像は、振り返れば将に文明の衝突を具現化して見せた観があった。
ビンラディンとその率いるアルカイダの手によるとされるこの事件は、引き続く米国による「報復」戦争を招いた。
これを書いている11月25日の時点で、米国の空爆と北部同盟の進行はタリバン政権の崩壊を導いたが、今後のアフガンの復興、ラディン逮捕、引き続くパレスチナ問題を含むイスラムと西洋との和解の進展は予断を許さない。

今回のテロを、安易にイスラムと西洋との衝突とすべきではないとの主張があるが、その主張自体には筆者も賛成である。
だが、文明の衝突の要素は、直接間接に少なくないものと思う。

「文明の衝突」という言葉は、言うまでもなくハンチントン博士によって提唱されたものである。
いわく「文明の違いは、世界秩序の中で決定的に重要な要素で、その文明の持つパワーが急激に大きくなると他の文明と必然的に衝突を起こす。もしくは起こす可能性が高い。」
ハンチントン博士自身、今回のテロを文明の衝突としてはいけないと強く主張したと伝えられるが、これは背後にあるこの要素を強く感じている事の裏返しでもあろう。

一方、今回のテロの原因に、貧困と機会の不平等の要素を大きく見る人達もいる。自由党の小沢一郎氏は「食べるものに困らず、家族そろって安心して暮らせれば誰も好き好んでテロなど起こさない。」と繰り返し述べている。
帝国主義時代の植民地支配により今のイスラム諸国の停滞と貧困があると強調するものもいる。

あるいは、冷戦後1人勝ちしたアメリカの身勝手さに対する反発がテロを引き起こしたと言う人々もいる。
これは、アメリカが謀略的な手段も用い自分の望む国際支配体制を築こうとした面が少なからずあった。これについてはアメリカの猛省と路線変更が求められる。  
また、無意識の内にあるいは善意として、結果として強引な押し付けを行っていた面もあっただろう。
超大国に限らず大国とは、小国に対しそうなりがちだ。これについては十分な配慮が必要であろう。

今回テロをどう見るかの主な論調に以上のようなものがある。それぞれの強弱をどう見るかの問題があるが、これら全ての側面を持つと言うのが妥当なところだろう。

筆者は、ここ数年短い夏期休暇等を利用して、欧米、中東、アジア、旧ロシア等の何カ国を足早に旅行している。
そこで感じる事は、各地で出会う人々には親切な人もいれば狡賢い者もいる。直情的な者もいればそうでない者もいる。そのことは日本社会を含めどの社会も同じである。個々人で見れば文明間で基本的な人情の機微には大きな違いはないと言う事だ。
しかし、各地を全体で見ればそれぞれの傾向があり、信じる神も違い価値観、思考パターンには違いがある。

個々の人間が主体である以上、文明間の相互理解は出来、衝突の回避は十分可能であると思う。
しかし、それには様々な工夫が必要だろう。

文明の衝突を避け、これを止揚し新世界秩序を造るための筆者の考える方法として次の点を挙げたい。


・経済、芸術、学問等の諸分野を含めた地球規模の発展と調和の同時実現を究極的に目指すべきであると言うような、大構えのシンプルかつ強固な世界の共通認識を築く事。

・上記のような共通認識のもと、各文明が持つそれぞれの「神」は、至高の神の別々の側面であると考えるぐらいの柔軟さ、寛容の精神を各文明の成員が持つ様にして行く事。

・そのために異文化の交流の場を飛躍的に広げる事。これは直接的ものに加えインターネット等のバーチャルな場など多様な手段を模索する事。

・人々の営みを守る母船、公器としての主権国家というパラダイムを尊重し安定したものにして行くとともに、国連等の機関の調整機能、援助の機能を高めて行く事。

・具体的な国連改革としては、貧困撲滅、機会の不平等の解消および経済発展の促進のために、各補助機関等の機能を強化する事。
 また、この目的のため、これらの機関の活動経費を「活動分担金」として負担能力に応じて各加盟国に義務付ける事。

・また、国連各加盟国兵力の一定比率(5%程度)の国連への供出を義務付け、国連常設警察軍を創設する事。
 これにより安全保障理事会による迅速な措置を可能にし、国連憲章の精神に従って各国の個別自衛権及び集団的自衛権の行使を必要最小限に留める事。

・さらに、安全保障理事会の常任理事国による実質事項に対する拒否権を、国連総会での90ないし95%以上の賛成により行使不可と出来るようにする事。
 これにより、加盟国の圧倒的多数の意志と安全保障理事会の決定との乖離を防ぐ事。

結局は文明の衝突もその回避も人の行う事である。
すなわち今後の人間的努力により、第3次世界大戦にも地球規模の発展の調和の同時実現にもなる。
今後我々に求められるのは「現実主義的な理想主義」であろう。

 

                       以上

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