−提 言−

・米国の思い違い。竹中大臣は成功しない。−不良債権処理について− (2002/10/14: 月刊 『黙(MOKU)』 2002年11月号掲載

小泉内閣改造により、竹中経済財政相が不良債権処理加速の使命を受け、金融相を
兼ねる事になった。
大臣は、早速竹中3原則として@資産査定の厳格化、A自己資本率の強化、B企業
ガバナンスの強化を打出し、10月中にはアクションプログラムをまとめるという。
これを受けて、与野党、マスコミからは処理加速が更にデフレや失業を加速させる
のではないかとの危惧が上がり、平均株価は大きく下落した。

さて、筆者も不良債権処理は必要な事であると考える。
今まで各論者により、不良債権処理を含めた現在の日本経済再生の施策として様々
の事が語られているが、人の病気治療にたとえて筆者なりに整理すると下記のよう
になる。
筆者は緊急度合いによるが、概ねこのような手順で行うのが日本経済へのトータル
な処方箋となると考える。

@インフォームドコンセント
 将来ビジョン、全体戦略、スケジュールの作成・明示
A体質改善
 規制緩和、公共投資の効率化・中身見直し、行政効率化 他
B栄養剤、輸血、麻酔
 財政支出、各種減税、量的金融緩和、消費税の福祉目的税化 他
C外科手術
 不良債権処理促進(会計処理基準厳格化)、同(売却・法的処理等)、産業整理統合 他
D止血剤、縫合、リハビリ
 銀行公的資金注入、失業保険、職業訓練 他

これまでの言動から見ると、10月中に出てくる竹中大臣のプログラムの中身は、
部分的に前後はあるが概ね上記のC外科手術→D止血剤、縫合、リハビリ→B栄養
剤、輸血、麻酔の順序での実行となる模様だ。

そもそも、今回の処理加速への小泉首相の政策転換は、アメリカの強い要請を受け
て行われた。
同時に小泉首相は、財務省の宿願を受け財政再建優先路線をこの期に及んで捨てて
いない。
竹中大臣は、この2つの条件を成り立たせるため、財政支出を絞りGDPゼロ水面
ぎりぎりの中で不良債権処理を行う「ナローパス」を考えているようだ。
個別に見れば理屈は通って見える竹中大臣のアイデアも、全体で観れば施策の手順
に無理があり、そもそも具体的な将来ビジョンを欠いた竹中プログラム、小泉構造
改革は、多くの識者も指摘するようにやはり成功する事はないと筆者にも思われる。

報道によると、米政府は11日、竹中平蔵経済財政・金融相の改革路線への支持を
鮮明にした。
米大統領経済諮問委員会(CEA)のハバード委員長は「米政府は竹中氏が優れた
改革者だと信じ続けている」と述べたという。

筆者は、アメリカは、日本が世界経済へのリスク要因とならないように処理加速を
要請しているのであり、言われるようにハゲタカに餌をやる云々は副次的なものだ
とは思う。
少々乱暴な例えで言うと、不良債権処理の過程で外資ハゲタカファンド等が破綻企
業、銀行を買収する機会を増やすのは、軍の行軍の途中、指揮官が兵に街々で略奪
するのを許すのに該当するのではないか。
これ自体忌忌しき問題であり対策が必要だが、日本経済が崩壊すればアメリカも共
倒れになる以上、あくまでも今回の処理加速を要請は第一の目的としてはアメリカ
の危機感に発したものと思いたい。

さて、その上でハバードのコメントを詳しく見ると、次の視点が希薄と観測される。

@日本が強いデフレ下である事
A現在の不良債権の多くはデフレ原因で新たに発生したものである事
Bこのため、これを処理するためには一部企業に留まらず日本経済全体への影響度
 合いが高い事
Cデフレ対策として、日本の消費者心理、設備投資の特性を考えれば、金融緩和、
 法人税率の引き下げ等だけでは不十分である事
D日本の起業家マインド・労働流動性の現状、老後への不安心理の強さ等

また、ハバードは、アメリカの要請を受けて日本独自の事情があるなら、当然に政
府はそれを踏まえた合理的なポリシー・ミックスを行うだろうと考えているだろう
が、残念ながら現政府にその能力はない。

日本の株価下落や政策の混迷ぶりを「憂慮」した米政府は、今後、流動的な要素が
残る日本の不良債権処理、総合デフレ対策などに「関与」を強めていく方針と見ら
れる。

言わば黒船やGHQとも言えるが、植民地となる事を回避しつつ有用な文化や技術
は採り入れて富国強兵、文明開化を果した明治維新のような舵取りが必要とされよ
う。
そのためには、借り物でない日本の実情に合った自前のビジョン、例えば「ナショ
ナルミニマムを伴った自立社会の建設」のようなものを造り、その下に全体戦略を
立て諸施策を実行する事が必要だ。

現在の小泉政権に何かを望むのは難しいが、国難に際して首相が「君子豹変」する
僥倖を期待したい。

 

                       以上

http://www.asahi-net.or.jp/~EW7K-STU/#提言

http://www.asahi-net.or.jp/~EW7K-STU/