モテナイ独身エトランゼの魂
(ジョンレノンミュージアム潜入記)


その1

 ジョンレノン・・・。
 20世紀を代表する往年の偉大なロックバンド「ザ・ビートルズ」のメンバー。

 僕がロンドンにいた頃に彼とはビッグベンでよく飲み明かしたたものだった・・・<オイオイ!行ったことあんのかよ。それにビッグベンて飲み屋じゃねえし>。
 アイツが亡くなって、もう二十年になるのか・・・<なんで知り合い口調なんだよ>。
 そんなアイツThisBoy、ジョンの想い出のために、俺達は今度立派な記念館を作ってやった<オマエが作ったったんじゃねえだろ?!>。

 どこにって?
 リバプール?いやいや。
 ジョンが住んでいたニューヨーク?いやいや。
 じゃドイツのハンブルグかって?違うんですな。

 埼玉です。
 えっ?、そうですよ、あの埼玉です。
 埼玉って、あなたイギリス地図のどこを探してもありゃしませんよ。
 日本の皆さんにはお馴染みの、あの日本の埼玉ですよ。埼玉は与野と大宮の間の旧中山道すぐ近くにあるわけであります・・・<中山道関係あんのかよ?>。

   *   *   *

 ・・・というわけで、埼玉に一時居住経験もある、このモテナイ独身エトランゼ(僕のこと)は、今回埼玉新都心にオープンした「ジョンレノンミュージアム」を訪れることとなった。

 とある11月の月曜。時刻は2時半、ちょうど学生たちがそろそろ下校しだすような頃合いに、モテナイ独身エトランゼは、いつものように一人まだ新築で綺麗な「さいたま新都心駅」を降りた。
 天気はどんよりと曇り空。”まるで僕が幼少を過ごしたロンドンのようだ・・・”<焼津出身じゃねえかよ>。
 カーペンターズに「雨の日と月曜日は」という名曲があったが、その曲が流れてきそうな少し物憂げな天候である。
 「ジョンレノンミュージアム」(略してJLM。なんかJLM側もこの呼称を使用しているようなので、僕も以下そう呼称させていただく)は、このJR京浜東北線さいたま新都心駅を降りてすぐのところにある、「さいたまスーパーアリーナ」内の4・5Fにある。

 駅の改札を出て、そのまま程なく行くと北西の方に大きなアリーナがすでに見えて来る。
 ついでに女子高生の群れも見えて来る。
 意外なものも見えて嬉しくなるモテナイ独身エトランゼであった。
 アリーナの壁面には、ジョンの顔のイラストが掲げられているので、すぐにそれとわかった。

 昔僕は大宮に住んでいてこの辺も何度か通りかかったが当時から殺風景なところだと思っていた。
 今も(2000年11月時点)建設中の箇所があったり、殺風景には変わりないが、もしかしたらいずれはここも人が集まりだしてオシャレな街に変貌していくのかと想像してみると(ジョンだけに「イマジンすると」なんてね)、何となく感慨も無いことも無い。
 
 アリーナ自体はもちろん立派なもので、そういえば僕は行かなかったが、この間ここでNBAの選手を招待してバスケの試合を行ったくらい充実した建物である。
 アリーナの向かって右側に、大きなジョンの顔写真があるので、そっちが入り口だとすぐわかる。
 駅から来るとアリーナの2Fから入ることになるが、2Fにチケットカウンターがあるので、まずそこで入場券を購入。大人1500円。ちなみに中高生は1000円、子供は500円。
 回りに警備員が数人いて、ちょっと物々しい感じもある。
 チケットカウンターの後ろにはエスカレータがあり、そこから直接4Fへ上がると、いよいよ入場。

   *   *   *

 入り口には入場を待つ何人かの客がいた。
 係員が、ある程度の人数が溜まった時点で、まとめて入場させていく。
 なんか白タクシーのようでもあるが、なんでこんなことをするかと言うと、ミュージアムの最初に必ず10分位の映画を見させる、というシステムになっているからである。
 まず映画を見て、それから展示物の観覧、という流れになっている。映画を見ないと先に進めない仕組みになっている。展示物の安全の為への配慮だろうか?
 シアターは100人位が入れる程度で、そんなに大きくは無い。

 僕も係員に命ぜられるままに入場し適当な位置に着席。
 オープン時は大変な混雑だったらしいが今は落ち着きを取り戻したらしく、平日ということもあり席は半分くらいの埋まり具合。
 着席してから間も無く上映開始された。

 映画の冒頭ではジョンの代表曲「マザー」が流れる。
 すると会場の前方にいた子供のワーッという泣き声が聞こえて来る。
 子供は「マザー」の冒頭の「マザー!!」というフレーズと場内の大音響にビックリしたようである。
 おそらく母親がビートルズファンなのだと思うが、母親はこの一件により会場のヒンシュクを買わないよう、せっかく入ったばかりのシアタールームから敢え無く退場せざるを得なくなったようである。
 マザーで母退場の図。

 この「マザー」という曲、「ジョンの魂」というアルバムのオープニング曲であるが、聴いたことのある人はわかると思うが、イントロは鐘の音がゴーンゴーンと荘厳な中にちょっと不安なような無気味なような響きで流れて来る。するといきなりジョンの切れ味の良い声で「マザー!!」と始まる。少し音量を上げて聴いていたりすれば子供で無くともチョットびっくりしてしまうようなインパクトのある導入部分である。

 ちょっと横道にそれるが、この「マザー」ではジョンの自分の両親への赤裸々な思いが語られている。それは彼の悲痛な叫びでもある。
 通常こうした曲なら短調の曲に仕上がっていそうなもんである。日本であればこんな切々とした思いなら「捨ててくれるなオッカサン」みたいな短調のド演歌調にでもなりそうである。
 ところがこの曲には短調のコード(和声・和音)が一切使われていない。
 冒頭から最後まで徹底して長調、長調、長調で攻めまくる。
 エンディングではジョンの両親への叫びもヒートアップし絶叫に変わっていく。
 僕は最初聴いた時は、正直壊れている・・・と感じたものだった。
 概して長調というのは明るいイメージの調子であり、子供むけの歌やCMソングでも長調が効果的に使われる。
 しかしここがジョンの非凡なところだと思うが、長調で攻めまくることがかえってヤリキレナイ思い、一種の混乱した感じを産み出す。この曲においては長調がそんな狂気感ともいうべきものをを演出するのに非常に効果的な役割をしている。「簡単な素材もジョンが使うとこうなる」という典型的な例とも言える。
 そういえばビートルズ時代の名曲「トゥモロウ・ネヴァー・ノウズ(リヴォルヴァー収録)」では、ジョンは僧の唱えるお経をイメージしたらしい。僕はお経もジョンの手にかかるとあんなエキサイティングなサウンドに変貌するんだ、と感嘆したものだった。

 閑話休題である。
 数分間のシアター上映も終わり、シアター出口を抜けると、いよいよ本格的な展示ゾーンに突入する。

続く。

●上記レポートを読む場合の推奨BGM
                  ジョン・レノン:「マザー」(「ジョンの魂」収録) 

その2
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