江戸を旅するってえこと。
(江戸東京博物館潜入記)


その1

 近年「江戸」がブームである、ということをどこかの雑誌か新聞の記事で目にした。

 かくいう僕も「江戸」はマイブームの一つである。別にブームに乗っかっているつもりは無かったが、気付いたらそういうことになっていた。

 まあ僕としては、ここ数年近代都市のルーツとしての「江戸」に興味惹かれるものがあった。

 よくあるように江戸の文化を嗜好しているというわけでは無いので、服を江戸調にしたり、江戸風の小物を使用したり、今はそういったことをするまでには至っていない。ましてや今さらちょんまげを結ってみたかった、などと思ったわけでも無い。当たり前か。
 歌舞伎等の観劇も今は積極的に行いたい、という気は無いが、今後たぶん当時の流行と現代の流行との比較文化という観点からは興味をもって見られる気がする。

    要するに文化そのものよりも、それに携わった人々の意識の方に興味がある。

 偉そうに述べているが、ま、それはそれとして、なぜ「江戸」なのか?なぜ「鎌倉」ではないのか?「室町」の立場は?・・・、ま、ちょっと長くなりそうなので、なぜ「江戸」なのかということについては、ここでは割愛させていただくことにする(じゃ言うなよ!)。


 そんなわけで(どんなわけだ?)とある土曜日、一度行ってみたいと思っていた両国の江戸東京博物館に、ついに行って参りました。

 さて、両国の、という位なので、もちろん両国にそれは存在しているわけであるが、両国と言えば、まず代表的な建造物として国技館を思い浮かべる人が多かろう。
 なんつったって日本の「国技」が行われる殿堂である。
 国技館はJR両国駅を降りてすぐの所にある。

 片や江戸博(略してそういう呼称で呼ぶらしい。以下私も「江戸博」という呼称を使用させていただく)は?・・・これも両国駅からすぐの所にある。なんと恐れ多くも国技館の裏にあるのである。両国を代表する建造物国技館の裏手にあるので、ひっそり江戸の情緒を醸し出しつつ佇んでいると思いきや、あんた、全然そうではないのである。
 両国駅を通過した人は江戸博を見たことがあるかと思うが、むしろその威容は国技館を完全に凌駕している感さえあるのである。
 高さ62.2メートル・広さ3万平方メートル(東京ドームのグラウンドの2.4倍)の近代建築を象徴する大建造物なのである。
 「俺が両国のホントの主役なのさ」とでも言いたげな感じなのである。
 両国の「影の黒幕」とでも言いたげな堂々たる建造物である。
 両国駅西口を出て、国技館の手前を入っていくとデーンという感じで出現する。


 余談であるが、駅から江戸博までの通路のコンクリートの壁に、集団系オートバイ系オーバースピード系の方々のアート作品(?)が、展示(?)されている。おそらく深夜作業でなされたことと思われ、その切は大変お疲れ様でした、という感じであるが、見るとおそらく自分のグループ名の宣言であるかと思われるが、私はその内容よりも書体の方に心奪われるものがあった。
 よくよく見ると、この書体どこかで見たことがあるような気がする。・・・歌舞伎に使われる、パソコンのフォントなどでもお馴染みのあの書体・・・「勘亭流だ・・・・!」。そう、このアート字体、勘亭流に似て無くも無い。さすが、江戸博!落書きも(はっきり言っとるぞ)江戸調なのである。


 何はともあれ、早速入場することにする。
 無料で入場できる図書室や映像ホール等もあるようだが、今日は初めてなので有料の常設展示室へ入場することにする。

 江戸博の建物は、高床式の「倉」をイメージして建てられたそうである。全体は7階建てで、1・2階は土台部分といった感じで、4階以上が高床の床上の部分にあたっている。3階の柱の部分の空間は「江戸東京ひろば」と称して広いスペースになっている。

 常設展示室は5・6階にあり、3階の「江戸東京ひろば」からエスカレーターで行け、と案内版に書いてある。3階までは普通に階段でも行けるが、「動く歩道」が用意されているので、せっかくだから、それに乗ることにする。

 土曜日ではあるが、それ程混んでいるという感じは無い。老夫婦と外人がやけに目につく。


 ゆっくりとした動く歩道をのぼり切ると3階の「江戸東京ひろば」に着いた。

 「江戸東京ひろば」というので、最初、屋台や見せ物小屋等の展示がなされ、賑わっていると思いきや、そこはガランとした、本当に文字どおり只の「ひろば」なのである。
 パンフレットには「開放的な空間を生かして、さまざまな催しを行っています」とある。前半部の「開放的な空間」という部分は確かに正しい。が、後半部の記述に関してはどうも江戸博側はあまり責任をもって記述はしていないようである。

 今日は、たまたまだったのか、催しの「も」の字もやっていない。ガランとしたスペースが寒々しく侘びしい。このスペース「無駄」のような気もしないでもない。
 もしかして江戸博側も、「パンフにああは書いちゃったけど、実際問題ねえ・・・」などと、このスペースをどう使ったらいいやら、持て余しちゃっているのかもしれない。

 そういえば、この「江戸博」、以前都政の税金の無駄使いの汚点、みたいなことを言われていたような気もする。
 ただ、有明のビッグサイトへ行った時も感じたことなのであるが、この近代建築の税金無駄使いの一見「無駄」なスペースも、混雑し緊張感一杯の昨今の他のイベントスペースに疲れた僕にとっては、妙にちょうどいい落ち着ける空間になっていたことは、一応白状しておく。


  またまた余談であるが、「江戸東京ひろば」の写真が、このページにあると思うが、ちょっとそれを見ていただきたい。
 中央左よりに常設展示室行きの赤いエスカレーターがあり、写真上だとその左方向にコンクリートの壁が見えている。この壁をもっと手前の方に行くと、写真では見えぬが実はそこにトイレがある。

 何を言い出すかと思ったら、トイレかよ、とお怒りの方もいらっしゃるとは思うが、まあ聞いていただきたい。
 このトイレ、おそらく江戸博に来た客、ここのトイレの存在にはほとんど気付かないのではなかろうか。大抵の客はおそらく国技館の方から来るので、ここのトイレはエスカレータなどに阻まれて存在が隠されてしまっている。江戸博の中にも当然トイレがあるので、客はまず館内のものを利用すると思われる。
 僕は何が言いたいかと言うと、この江戸ひろばのトイレ、「空いている」のである。ラッキーなことに館内に入らなくても利用できる。いわば公衆便所なのである。国技館や両国駅のトイレが混雑している時など、このトイレ、非常に有効な働きをするものと推察される。まあ、もっともここの場所まで我慢できればの話だが(駅からはちょっとあるよ)。




 江戸東京ひろばの自動販売機で、常設展示場の入場券を購入する。綺麗なお姉ちゃんが切符を販売している窓口もあり、僕としては是が非でもそちらを利用したかったが、老婆のグループが何やら噛み付くように窓口に殺到していたので、やむなくこの試みは断念する。大人1枚600円。

 切符売り場脇の休憩所では、両国らしく、若い力士と見られるお兄さんが、数人たむろしている。まだ髷を結えるまでにはいってないので、半ばロンゲ風になっている。何やらこれからナンパでも始めそうな怪し気な相談をしているかにも見える。

 更に僕と時を同じくして修学旅行の中学生らしき団体が来たようである。パラパラと動く歩道から学生服をきた少年少女達がやってくる。僕もいよいよ常設展示室へのエスカレーターを上ることにする。


 僕の前に女子中学生の6人組がエスカレーターに乗った。
 女3人集まれば姦しいというが、この6人組、どういうわけか全然活気が無いのである。
 若い、ましてやこれから花盛りを迎えようとする少女達が群れ集まっているのに、会話が全然無い。
 6人それぞれ違う方向を見つめている。

 どうやら相当疲れているようなのである。修学旅行のスケジュールが、彼女達のパワーの限界を超えるハードなものであったことが伺える。
 たとえスケジュールが過密であっても、彼女達が渇望しているアミューズメントパーク等に行けば、きっと彼女達もリフレッシュできたことであろう。
 しかし先生達はそれを拒絶した。「東京に来たなら、江戸を修学しろ!」と。
 まあ、そんな経緯があったかどうか知らぬが、とにかく彼女達としてはおそらく不本意なコース「江戸東京博物館」に来ちゃったのである。
 きっと彼女達の心中は「江戸博物館だかなんか知らないけどー、超(ちょお。お、にアクセント)ダサイー」みたいな声が渦巻いているのであろう。

 まあ、彼女達の心中わからないでもない。この年齢で江戸に興味を持てと言われても、それは土台無理な話なのかもしれない。かくいう僕も江戸に興味を持ち出したのは、青年(中年?)になってからである。
 ま、きっとここに来たのも無駄にはならんよ君達、江戸もたまにはえーど(いいぞ)・・・などと勝手にあれやこれや憶測している内に、長いエスカレーターも登り終え、常設展示室入口に到着。



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