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 Chapter 15 プロの技を盗め!(未定稿)

15−1 「プロ」の自然解説者が来る


 我孫子では,鳥の博物館以外にも,さまざまな主催団体が,自然観察会を行っている。野鳥関係なら,「我孫子野鳥を守る会」や「日本野鳥の会千葉県支部」などの主催する探鳥会は,かなり歴史のあるものである。そして,鳥の博物館と同じ,我孫子市役所の中にも,自然観察会を開催している部署がある。公園緑地課と手賀沼課だ。手賀沼課では,市民に公募を行って集めた「環境レンジャー」も組織されていて,環境レンジャーの指導による観察会も行われている。
 その手賀沼課で,「プロナチュラリスト」を講師に招いて観察会をする,との案内があった。


 自然解説のプロが来るのか……。


 もちろん,このことは鳥の博物館スタッフ内でも,話題になった。手賀沼課が「プロ」を招いたのは,今回が初めてではないが,ちょうど日程的に,博物館の観察イベントが無い土曜日だったので,この際だから,「プロ」の自然解説の「技」を見て,参考にしてみようと思った。どうせ遊びに行くのだから……と,子連れで行くことにした。実は,子供の反応も見てみたかったのだが……。しかし,思い立ったのが開催3日前。予約定員は25名。鳥の博物館の観察会だったら,開催2,3日前には,とっくに満員になっている。夏休み最初の週末だし,予約が取れるかどうか,ちょっと心配になる。大丈夫かな……。


 開催2日前の7月22日,手賀沼課に電話を入れてみると,あっさり3名分の予約OK。とりあえず,ひと安心。本番当日が楽しみ。

15−2 いよいよ当日


 7月24日。土曜日。晴。いよいよ観察会当日だ。今日は観察道具に関しては,なるべく身軽にして,暑くなりそうなので,水分をたっぷり用意して出撃! 行き先は岡発戸の谷戸。東我孫子駅集合だ。ここは鳥の博物館主催の観察会でも使っているフィールド。我孫子には「まともな」谷戸の風景が残っている場所はここぐらいしか無く,さまざまな主催団体の観察会が入り乱れている感もある。主催者によって,案内する人によって,観察テーマも違えば,観察会の雰囲気も違うし,観察会で参加者に伝えるものも,微妙に違ってくる。

 今回の講師は「プロナチュラリスト」の酒井さん。私よりひと回り少々若いんじゃないかな,と言う女性。大抵の子どもは「お姉さん」が好きだから,もう,それだけで「つかみ」はOKって感じ。実はこの方は獣医学科卒で,私は獣医ギョーカイ経由でも,自然観察ギョーカイ経由でも,名前ぐらいは聞いたことがある。もちろん,「本物」に会うのは初めてだが。

 参加人数は定員に達するかどうか,ぐらいのところ。このぐらいの人数のほうが,参加する身としては,快適だ。子どもも10人ぐらい。さすがに夏休み企画だ。……おや,斉藤さんも子連れで来ている(笑)。斉藤さんはもちろん,市の職員だから,手賀沼課の人にも顔が分かっている。私のほうが,「お忍び」っぽい。なるべく目立たないようにして,一般参加者として遊ぶことにしよう。今日は子供からなるべく離れて,子供の反応を観察することにする。

15−3 「プロの技」を分析する

 さて,観察会の内容だが,岡発戸の谷戸を舞台に,ノンセクションで何でも見る観察会だ。具体的な「見せるテクニック」については,ネタバレしてしまうと,「プロ」としての商売に影響するかも知れないので,細かい所は省略させていただく。
 なるほど,上手いな,と思う点はいくつもあった。喋り方はもちろん,子どもを乗せて,ノリの良くなった子どもに観察会を盛り上げてもらう展開とか,唸らせるものがある。そりゃ,コレで収入を得ているんだから,上手くなくてはいけないのだが…。こういう人って,「名司会者」であり,「演出家」であり,「タレント」なんだな〜,と思う。

 しかし,弱点もある。
 こうして,あちこちのフィールドを飛び回って観察案内をしている人の宿命とも言えるが,フィールドの特性を使いこなせていない。この場所に何度も通って,このフィールドの自然を熟知している人には,どうしても太刀打ちできない部分はある。この場所の自然史とか,他の季節にはどうなっているのか,と言った,深い情報が無いので,一般的な観察案内しか出来ず,喋っているネタも,他のフィールドに使い回せるような汎用性の高いものが多い。そのマイナス点を補って,観察会を魅力的にしてしまう自然解説技術は凄いが,それは,結局のところ,プロナチュラリスト本人のパーソナリティ,ないしはタレント性に依存した部分によるものなのだ。

 観察会が終わってから,子供に聞いてみた。

−−「今日は面白かった?」
  「うん,面白かったよ」
−−「何が一番面白かった?」
  「……お姉さん!」

 ……なるほどね。


 これで,なんとなく,「プロ」の自然解説者の位置付けも見えてきたような気がする。そして,我々の目指す所も……。

 現在の観察会の担い手は,大きく3つに分けることが出来る。
 ひとつは,職業上の「専門家」が一般向けに解説する場合。学芸員の観察案内や,レンジャーの観察案内など,調査,研究で得た情報をバックに持つ人たち。私のような生物系研究者もこのカテゴリに入れて良いと思う(実際には,研究者が一般向けに解説する例は少ないが)。
 もうひとつは,アマチュアの「自然愛好家」。自分のフィールドを熟知し,その自然を愛する人たちが,観察案内をする例。全国各地にある,地域の自然保護団体や自然愛好団体の行う観察会や,現在の野鳥の会の探鳥会は,ほとんど,このタイプの人たちの手で運営されている。これが現在の主流とも言える。

 そして,商売として,自然解説で報酬を得る「プロ」の存在。

 それぞれに,メリット,デメリットはある。
 専門家のメリットは情報量や知識の深さ,アマチュアの自然愛好家の場合は,地域情報や地域の人脈に精通していること,プロの自然解説者は,人を楽しませる話術や演出力。
 逆に言えば,お互いの,持っていない部分が弱点でもある。専門家は伝え方が上手くなかったり,アマチュアの場合,知識が狭く偏ったり,好き嫌いの分かれるキャラクターだったり,プロの自然解説者の場合は,地域情報に疎かったり……。

 もし,お互いの弱点に気づき,それを克服しようと努力したり,異なる立場の自然解説者が共同で観察会を開催して補完しあったり出来たら,自然観察会は,さらに面白い展開が期待できる。
 現時点での,鳥の博物館の学芸員は,地域情報にも詳しく,専門性も高い。これに,語りの面白さやキャラクターの面白さが加われば,ものすごく強力な自然解説者になるかも知れない。この観察会の後,斉藤さんに,「どう?笑いの取れる自然解説とか,やってみませんか?」などと冗談半分に聞いてみたけれど,斉藤さん,どちらかと言うと,お笑い系より,ダンディなキャラクターだからなぁ……。
 じゃ,私が「お笑い系」をやるの?………う〜ん……
 (こんなことをやっていますが,一応,私も生物系の専門家の端くれです)

 もうひとつ,思ったこと。

 観察会の参加者にとって,プロナチュラリストの「有難味」があるとしたら,その1つは,間違いなく,ネームバリューだと思う。観察会で同じことを教わるんだったら,「有名人」に教わったほうが,有難味がある。どこの馬の骨か分からん,アマチュアの自然解説者の言うことよりも,信頼が出来そうだし。また,ある意味,タレントさんに会って話をしてサインを貰うのにも似た感覚があると思う。もちろん,受け手が「プロ」の価値を認めている場合に限るが…。
 子ども達にはそんなこと,あまり関係無いから,面白ければそれで良いのだが。

 ……だとしたら,「イケメン自然解説者」とか,「アイドル系自然解説者」とか,「お笑い系自然解説者」,「カリスマ自然解説者」等々,いろいろと個性を持った,自然解説以外の部分の楽しさを演出できる人材がいても,面白いかも知れない。

 自然解説者は,人と自然を繋ぐ人。そう考えれば,さまざまな形で,人と自然とのつながりを演出することも,悪くはないと思う。

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