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 Chapter 9 定例探鳥会,スタート!(未定稿)

9−1 定例イベントの必要性


 2004年4月。
 新年度の自然観察イベント事業の「目玉商品」が,いよいよスタート。
 それは,「定例探鳥会」。
 博物館の回りの自然を紹介する,月に一度のミニツアーだ。

 「な〜んだ,定例探鳥会か」と思った人もいるかも知れない。博物館発着で所要2時間。フィールドは博物館の周囲限定。……これだけ聞いていると,それまでの単発で市内のあちこちの自然を紹介していた観察会に比べ,見劣りがするように見えるかも知れない。しかし,侮ることなかれ。むしろ,この「定例探鳥会」こそが,博物館の観察会事業の中心的な存在として,重要な意味を持つのだ。
 実は,前年の観察会事業の立ち上げのときから,「まずは単発イベントで観察会のスタイルを確立して市民への浸透を図り,近い将来には定例の観察会を持つようにする」と提案をしていたのだ。定例の野外観察イベントが定着することは,ひとつの目標点でもあった。

 定例探鳥会の重要さとは?

 第一には,自然観察会の「担い手」作り。私が観察会事業に関して,いちばん重視していたのが,この点だった。いつまでも同じメンバーで観察会を続けるのは難しい。継続的に観察案内する側の人材を確保し,育てて,継承してゆく場として,定例探鳥会の存在は大きい。博物館の事業を先細りさせないための,最も基本となる「活動拠点」なのだ。
 同じ場所を繰り返し観察すること。これは,あらゆる意味で,自然解説者の実力を養う。実は,単発のイベントより,継続性を要求される定例イベントのほうが,難しい面もある。同じ場所を案内してもマンネリ化しない自然解説能力や企画力,リピーターを飽きさせないトークなど,単発イベントとはやや違った力が要求される。また,同じ場所を季節を変えながら何回も眺めることで,単発イベントでは見つからなかったような発見がある。そして,観察記録は,蓄積すればするほど,そのフィールドの季節変化,経年変化をしっかり捉えてくれる。
 定例探鳥会は,自然解説者にとって,いわば,ホームグラウンドのようなものである。
 もちろん,「担い手」となる市民だけでなく,学芸員のスキルアップも考えている(^_^;)。

 第二には,市民への浸透力。観察会に参加する側にとっては,毎月同じ日に同じ場所で開催される安心感は大きい。リピーターになれば,担当者や他の参加との交流も楽しい。探鳥会自体が「溜まり場」あるいは「遊び場」にもなるのだ。こうした「溜まり場」の中から,将来,「担い手」側に回ってくれる人が出てくることも,期待できる。
 しかも,鳥の博物館の単発イベントは予約定員制なので,イベントによっては非常に予約が取りにくい。それを補完する意味でも,予約不要で参加できる定例探鳥会の存在は重要だ。

 博物館職員である斉藤さんには,博物館的な発想から,定例探鳥会の必要性を考えていた。
 それは,「フィールドミュージアム構想」。
 博物館は,「箱モノ」施設と捉えがちであるが,箱の中で完結していては,今後の発展が期待出来ない。我孫子と言う小都市の,小さな博物館に出来ること……それは,いかに地域に根を下ろし,地域に情報を発信し続けるか……言い換えれば,地域との強力なつながりの形成である。「鳥の博物館」は,名前の通り,鳥をキーワードに,地域の自然情報を集め,発信する「自然史博物館」的な将来像を持っている。その,ひとつの方法論として,博物館の周囲の自然も取り込んだ形で,地域の自然を伝えることが考えられる。観察会を,博物館の「野外展示」の1つとして考えるのだ。
 だとすれば,定例探鳥会は「野外常設展」,単発の企画による観察会は,「野外企画展」ないしは「野外特別展」と考えられる。博物館の周辺の自然を継続的に観察し,定期的に観察案内することは,まさに「フィールドミュージアム」の基本となる活動なのだ。

9−2 定例探鳥会の「個性」


 定例探鳥会にも,個性と魅力を与えたい。定例探鳥会の舞台は,おもに手賀沼沿い。このエリアは,いろいろな主催団体が,探鳥会や観察会を行っている。同じ我孫子市役所の,違う課でも,観察会事業を持っているのだから,事実上,内輪でもダブるのだ。だからこそ,「差別化」は重要と考えた。
 同じフィールドである。特別に変わったことが出来るわけも無い。予算もかけられない。経験によって得られた資産は,過去1年間の,単発の観察会のノウハウだけ。
 しかし,単発の観察会を経験したおかげで,方向性はだいたい見えている。この延長線上につながる,鳥の博物館ならではのものが作れないだろうか。

 まずは,ネーミングだ。
 誰でも,気軽に参加できる,親しみのある名前……「ブランド名」ないしは「商品名」の選定にも似た作業だ。ボツネタには,「ぶらっと手賀沼観察会」とか「気ままに探鳥会」など,気軽さをアピールするような言葉が並んだが,最終的に決まったのは

  「てがたん」

 鳥の博物館主催を明確にしたいときは,「とりはく てがたん」と表記している。
 簡潔=気軽さ,と言ったところか。長いネーミングやキャッチコピーの多い御時世に,平仮名4文字と言うのは,思い切りが良いと言うか……。

#その後,「利根川ゆうゆう公園」(2005年部分開園)でも,定例探鳥会を立ち上げると言う話が持ち上がったとき,自然発生的に「とねたん」と呼ばれるようになった。定着してしまえば,しめたもの。結果的には,短い名前で良かったようだ。

 次に,誰がどうやって作るか。
 これは,博物館の公式イベントなので,最低1人の学芸員が「当番」で当たることにして,あとは任意で担当することとした。この「任意」の部分に,ボランティアスタッフや,自然解説者の修行中の人とか,応援の学芸員とか,いろいろな人に入ってもらう。自然観察会の「担い手」を育てる場所を,用意しておくのだ。もちろん,学芸員の負担をあまり増やさないことと,学芸員自身のスキルアップも想定してのこと。
 単発の観察会と同様,定例探鳥会にも「パンフレット」は用意する。但し,開催時間も毎回同じで,フィールドも毎回,ほぼ同じ場所なので,パンフレットの内容は,そのときに観察できる「旬」のものを紹介する程度の簡単なものにして,省力化と,単発行事との差別化を図る。いちどフォームを決めてしまえば,観察対象の写真(+簡単な紹介文)を入れ替えるだけで済むはず。
 また,定例探鳥会は,内容的に自由度の高いものとして考え,担当する学芸員の個性によって内容に差が出てもOKだし,新しい企画や「観察ネタ」を試してみるのもOK,と言う具合に,アンテナショップ的な性格も持たせることにした。これはマンネリ化の予防策でもあり,自然解説のスキルを磨くためでもある。

 開催日,開催時間も大切なポイントだ。
 基本的に,「学校休日土曜日対応行事」と言う設定で観察会事業を進めているので,これに合わせて,土曜日にする。第1土曜日は年始や学期始め,5月の連休などに重なるのできつい。第3,第4土曜日は,単発イベントを入れることが多いので,第2土曜日に決定。気軽に参加してもらうために,所要時間は2時間。博物館の開館時刻が午前9時30分なので,参加受付時間を30分間取り,10〜12時の間に観察をすると言うスケジュールとなった。

 単発の観察会のセットアップから約1年,満を持してのスタートだ。

9−3 「旬」を楽しむ

 第1回目の「てがたん」は2004年4月10日。この年のサクラの開花は早かったので,花見の後の手賀沼沿いを,春の自然を楽しみながら,ゆっくり散歩する予定。
 4/1の市の広報に大きめの告知記事が出たおかげで,参加人数は26人。上々の滑り出しだ。

 田植え前の田んぼには,タシギやコチドリの姿もあり,わずかだが冬鳥も残っている。畦ではキジが,なわばり争いをしているのか,盛んに鳴き交わす。春の花も数十種類観察。天気が良かったので,チョウも何種類か。スズメノテッポウやホトケノザで笛を作ったり,子ども向けのネタも忘れない。予定通り,「探鳥会」を名乗っておきながら,鳥にこだわり過ぎず,「我孫子の自然を楽しむ」と言う姿勢を示した内容だ。こうした内容が,「鳥の博物館らしさ」として定着してくれたら,しめたものだ。

 内容的にも,参加者の感想も上々だった。がしかし,定例探鳥会の実績が本当の意味で評価できるのは,1,2年続けてからのことになると思う。今回は「はじめの一歩」でしかない。

9−4 「てがたん」の隠し球

 「てがたん」には,小さな隠し球がある。
 「てがたん」に参加すると,その日は,「てがたん」のパンフレットを見せるだけで,博物館の入館料が免除される。「てがたん」開催日は学校休日なので小中学生には無料開放しているため,このメリットは大人(高校生以上)のみとなるが,ちょっと嬉しいサービスだ。
 これも,館内展示と野外観察を気軽に行き来してもらうための作戦の1つ。午前中は無料で2時間の観察会が楽しめて,さらに午後は博物館に無料で入館できるなんて,なんて大盤振る舞いな!これで丸1日,博物館で遊べる。

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