「外来種の移入」に懲りない人々


 2月13日のNHK関東ローカルニュースで,横浜市が公害対策を目的として,2001年度予算で,道路の中央分離帯にケナフを4千数百本植える,と言う話が流れていました。

 ケナフについて,御存知でしょうか?
 ケナフは,もともとは熱帯系のアオイ科の草で,トロロアオイやオクラに近い植物です。生長には高温を要求します。夏季には勢い良く生長し,条件が良ければ人の背丈の倍以上にも伸びるほどで,二酸化炭素の吸収量が多いとされています。また,ケナフの繊維は木材パルプの代替品として,紙への利用も試みられています。
 現在,市民団体や学校などで,ケナフの植栽を推進しているところも数多くあります。

 ……そこまで書くと良いことずくめのようですが,いろいろと問題点もあります。
 もし,ケナフが大量に二酸化炭素を固定したとしても,秋には枯死します。枯死したケナフが,何らかの形で「死蔵」されない限り,せっかく固定した二酸化炭素は,全て環境に戻ります。枯れたケナフを土に埋めても,土壌中の分解菌などによって,水と二酸化炭素に戻ります。ケナフ繊維を紙にしても,いずれは焼却されたり,酸化されますし,製紙のためにはケナフが固定した以上の二酸化炭素の排出が伴います。

 さらに問題になると思われるのが,日本の環境中へのケナフの定着,進出です。
 もしもケナフが管理された耕作地以外の場所で自生を始めたら,在来植物の生態系は,ケナフの成長力と背の高さに負けて,大きな影響を受けることが予想されます。日本在来の植物が環境から追い出されれば,それを利用していた昆虫や動物など,さまざまな生き物に影響が出てきます。

 公害対策や地球温暖化対策の「切り札」的な発想で,ケナフを扱っている団体や学校もお見受けしますが,こうした一面的な見かたは危険です。

 確かに,環境対策のイメージリーダー的な役割をケナフにお願いするのは,そうした団体のイメージアップや学校の環境教育上,安易に行われているようですが,ケナフの本当の実力と問題を隠すようではいけません。横浜市によれば,中央分離帯のケナフ植栽実験で,1日に車100台分の二酸化炭素を吸収したと言いますが,幹線道路の交通量は1日に数万台。しかもケナフは盛夏しか活躍しない。……どう見ても,市民のご機嫌取りのための政策,ないしはイメージアップのための政策と言わざるを得ません。もし,そこからケナフの種子が近隣に散布され,ケナフの自生地が広がったら,市は将来,その対策に,植栽時の何十倍,何百倍と言う対策費を計上しなければならなくなります。
 賢明な市民なら,予算の無駄遣いを指摘し,反対すべきなのです。


 当サイトでは,外来生物種の移入に関しては,度々問題を指摘してきました
 農業昆虫としてトマトの受粉用に輸入されたセイヨウオオマルハナバチが,日本在来のマルハナバチを駆逐し,日本在来マルハナバチに受粉を頼っていた全ての植物が危機に瀕すること。
 「ホタルの住む清流の復活」などの名目や,単なる観光用の「見世物」を含めた,ホタルの捕獲,長距離移動によって,「地域個体群」の中で維持されてきた遺伝子グループに遠隔地のホタルの遺伝子が混ざり,遺伝子攪乱が起こる危険(→参照)。もちろん,国内の植物の移動でも,「遺伝子攪乱」の危険はあります。香川県の「どんぐり銀行」制度などでも,各地からドングリを送ってもらって,「貯蓄額」に応じてドングリの苗を送るなどの制度がありましたが,ドングリの長距離移動に関して,専門家が「遺伝子攪乱」の問題を指摘しています(当サイトWebmasterは,遺伝子攪乱だけでなく,ドングリの収集によって,ドングリを餌として利用していた昆虫や鳥,小動物等への影響も懸念しています)。
 さらに,飼いきれなくなったペットを野に放したり,ペットが逃げ出した場合,それが外来生物であったら,さまざまな影響を生む危険を懸念しています。既にタイワンリスやアライグマ,タイワンザル,ミシシッピアカミミガメなど,外来種が在来の生態系を破壊したり,最近見つかったタイワンザルとニホンザルの交雑種のように,近縁の在来種との交雑による,目に見えるような形での遺伝子攪乱も起こっています。産業用として輸入された動物も,野生化して問題を起こしています。食用として輸入されたウシガエルは,今では完全に野生化しており,その餌として輸入されたアメリカザリガニも,日本在来のザリガニを駆逐し,今ではウシガエルと共に,水田耕作の敵となっています。さらには,毛皮用のヌートリアやミンク,ハブ駆除用のマングースなどの野生化個体も増えて,生態系に影響を与えています。
 1999年より大幅に緩和されたクワガタムシ類の生体輸入も,近い将来,何らかの影響が懸念されます(→参照)。
 もちろん,植物に関しても,幾多の「帰化植物」による弊害を,私たちは経験してきたはずです。セイタカアワダチソウやオオブタクサなど,背丈が高くて成長の早い帰化植物は,非常に厄介なものであることは,じゅうぶんに解っているはずです。
 野草だけではなく,園芸用,作物用として移入された数々の植物も,野に出れば,移入種です。ガーデニングブームの昨今,近所の空き地に草木を捨てる例も多々お目にかかります。それが将来,セイタカアワダチソウのような厄介者になる危険性を,完全に否定することは出来ません。また,「緑化」と称して,本来,野草が茂っていた河川敷を潰して花を植えるのも,在来の野草にとっても,昆虫にとっても,決して好ましい方向には働きません。

 もし,ケナフが野生化したら,厄介者になることは間違いないでしょう。
 ケナフが野生化する際のネックは,おそらくは温度でしょう。
 まだ,ケナフの大規模な野生化は見つかっていませんが,特に温暖な気候の地域では,ケナフが野生化する危険は高いと思われます。しっかり監視してゆく必要性を感じます。
 その一方で,ケナフの「環境教育効果」は,ちょっと捨てがたいものがあります。
 「環境対策の切り札」としてではなく,「環境問題を考えるきっかけ」として,じゅうぶんに管理しながらケナフを育てれば,教育効果も上がるでしょうし,「園芸」としても面白いのではないでしょうか?……もちろん,それがきちんと出来る人がいれば,の話ですけどね。

 それ自身は決して環境対策にはならないけれど,それを扱う人の心に環境を考える気持ちや自然保護の芽を作る,と言う意味では,もしかすると,ケナフって,自然観察会や,怪我をした野生鳥獣の救護などにも,ちょっと似ているのかも……。


(2001年02月14日記)

→もどる