道草のすすめ


 休日ぐらい,ゆっくり歩きましょう。
 ゆっくり歩くと,いろいろなものが見えてきます。
 道端の草や,近所の家の庭に生えている木,上空をかすめる小鳥……身近なものから,さまざまな「自然」を,そして季節を感じ取ることができます。何か面白そうなものが見つかったら,ちょっと立ち止まって,道草を食うのもいいですね。どうせ道草食うなら,1人よりは誰かと,お喋りしながら,「道端の観察」を楽しんでみてはいかがですか?
 この,「身近な生き物(身近な自然)に気づくこと」と言うのは,私たちが忘れてしまった,生き物(自然)とつき合う感覚の原点とも言えるのではないでしょうか。

 春になり,ツバメが飛ぶようになったのに気づく。
 道端にオオイヌノフグリの青い花が咲いたのに気づく。
 庭木の枝にセミの抜け殻があるのに気づく。

 自然の変化に気づくことは,自然への興味の第1歩。そして,同じ場所を繰り返し眺めていることで,身近な場所にも次々と新しい発見があります。「自然が好きだから」と,週末ごとにいろいろな場所に出かけてゆく人よりも,身近な自然を繰り返し眺めている人のほうが,より多くの発見があり,自然を深く知ることができるかも知れないのです。身近な場所で,「自然に気づくこと」は,自然観察の基本中の基本なのではないでしょうか?

 私も子供を持つ年齢になり,子供を連れて,子供のペースでゆっくり歩くことが増えました。
 そんなとき,「あ,もう,ナズナの花が咲いている」とか,「ヤマノイモのムカゴができたね」とか,ちょっとしたことを子供に教えて,「自然に気づく」きっかけを与えるようにしています。興味を持てば,じっくりしゃがんで観察します。あるとき,ツバメの巣を見つけて,5〜6分,子供と餌を運ぶ親鳥を眺めたことがありました。その後,子供とそこを通るたびに,道草をすることになりました。急いでいるときは,なだめるのが大変ですが(笑)。
 そんな「道草」を繰り返しているうちに,子供のほうから,「この前見つけた花は,どうしたろうね」と「道草」のリクエストが出たり,自分でどんどん新しい「発見」をするようになりました。その成果(?)の一部を紹介したのが,「なっちゃんの虫めがね」です。

 身近なところから,自分で気づき,発見する楽しみがある。だから,身近な自然観察は面白いのだと思います。でも,その「身近な自然」に気づく人は,どのくらい,いるでしょうか?また,子供達に気づくきっかけを与えることの出来る人は,どのくらい,いるでしょうか?

 確かに,手つかずの大自然は素晴らしい。でも,身近な生き物に気づき,観察する目を持った人が大自然を見たら,それは,身近な自然に気づかない人が見たときよりも,はるかに素晴らしいものに見えることでしょう。
 街の中の身近な自然は,わりあいに構成がシンプルです。人の手が入って,単純化しているのですね。でも,そのシンプルさが,観察のしやすさにもなります。人と自然の関わり合いを見つめるための,良い素材になります。
 都会には自然がないから,とあきらめていませんか?
 決してそんなことはありません。
 生き物に「気づく」目と心があれば,自然観察のフィールドは,街の中にもあるのです。
 たまにはゆっくり道草しながら,身近な自然に気づいてください。


(2000年1月12日記)

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