続・光る花


 これは,「光る花」の続きのお話です。

 デジカメで花を撮影しているときに,露出オーバーになりやすい花がある。
 その原因として,デジカメのCCDが,近紫外領域や近赤外領域に感度があるために,肉眼より明るく写る可能性があるのではないかと推測してみました。
 また,「虫の目写真の試み」(「その2」)で,花の近紫外線反射率に関して,調べてみました。


 春先に咲く花には,ぴかぴかと目立つ花が多い。
 その理由としては,近紫外線の反射率が高いことも考えられますが,現に肉眼でも,かなり明るく見えると言うことは,可視光線もかなり強く返している。それが,花を目立たせたり,フクジョソウの花のように,花がパラボラのようになって,局所的に暖かい空間を作っていたり,と言ったことも考えられます。

 先日,子供の学習教材に,紫外線LEDを使ったペンライトがついてきました。
 本来の使い方は,可視光線で見えないようなインクで印刷された答えを,このライトを使ってチェックして,答え合わせに使うのですが,これは持ち運びの便利な近紫外線照射装置として使えるぞ,と思い,さっそく,外に持ち出して観察に使うことにしました。



 まずは室内で,蛍光ペンを使って,実験してみます。
 紙に蛍光ペンで絵を書いて……


 ライトを点灯すると,このとおり。
 バッチリ,紫外線を受けて蛍光(=より波長の長い光)を返していることが分かります。
 このペンライト,ブラックライトと同様の効果のあるスグレモノです。


 さぁ,外に出て観察だ!




 オオイヌノフグリ。
 天気の良い日にデジカメで撮影すると,露出オーバーしたり,色の再現が悪かったり,とにかくデジカメ泣かせの花です。
 ペンライトの光量があまり無いので,手で少し覆ってやって,暗くしています。

 ……ペンライトを点灯すると……


 花びらが青く蛍光を発しています!
 この花は,紫外線も利用して,明るく光っていたのですね。


 他の花はどうでしょう?



 ヒメオドリコソウ。
 オオイヌノフグリと違う色。分類学的にもかなり違います。

 紫外線を当てると……



 良く光っています。
 紫外線を浴びると,青紫色に明るく光るのですね。

 オオイヌノフグリの青も,ヒメオドリコソウのピンク色も,アントシアニン系色素です。
 この色素の分子構造が,蛍光の鍵を握っているのではないかと思います。

 では,少し,色素の違う花を見てみましょう。
 黄色い花はカロチノイド系色素を多く含むものが多い……と言うことで,セイヨウタンポポです。



 まだ冬なので,陽だまりに辛うじて咲いていたのが,この花でした。
 日の光を浴びると,これも明るく光って見えます。



 ……でも,紫外線ライトには反応している様子はありません。
 カロチノイドは近紫外線で蛍光を出さない,と言うこと?

 この花がデジカメで明るく写る理由は,オオイヌノフグリとは異なり,デジカメの,黄色〜赤の長波長域の感度が高いことが影響しているように思えます。,


 早春,これらの花を訪れる虫と言えば,ハナアブや小型のハナバチ。彼らの目には,どんなふうに見えているのでしょう?
 オオイヌノフグリは,近紫外線〜青の光を強く反射しています。ハナアブやハナバチの目は,人間の目よりも,見える波長が短いほうにシフトしていますから,近紫外線を反射したり,青い蛍光を発する花は,とても明るく見えていると考えられます。ヒメオドリコソウも,虫の目には,人の目よりも目立つように出来ている,と考えられます。一方,タンポポの場合,虫の目の感度の低い(あるいは,ほとんど感度の無い)波長を強く返しています。虫の目には黒っぽく見えているはず。……これはこれで,周囲とのコントラストが得られるので,目立つことが出来るのかも知れません(実際,ハナアブは黄色い花を好んで訪れます)。
 もうひとつ,まだ寒い時期に花をつけた場合,虫が動ける温度を確保することも,花にとっては重要な生存戦略になるとが考えられます。だとすると,黄色い皿型,おわん型の花は,短い波長の光を吸収し,太陽のエネルギーを効率良く熱に変換し,花の上の温度を稼いでいる可能性もあります。


 生き物の多様性は,競争を避けて共存する方向で,さまざまな方向に進化した結果である,とも考えられます。もし,春の花にもそのルールが生かされているとしたら,異なるアプローチで花粉を運んでもらう手段を獲得した,いろいろな花が,同じ時期に花をつけ,共存している,と考えても良いのではないでしょうか。ここでは紹介しませんでしたが,2月上旬にはハンノキやスギも花をつけ,風に花粉を運んでもらっていますし,同じ時期,ヤブツバキは鳥に花粉を運んでもらっています。花粉を運んでもらう手段が違えば,花の作りや色も,違ってきます。

 いろいろな花がある。そして,それぞれの花にかかわりを持つ,いろいろな生き物がいる。……こうした「多様性」が,同じ環境を上手に共有しながらさまざまな生き物が生活することを可能にし,自然環境を豊かなものにしている。花の個性の違いは,そんな生き物の「多様性」の,ほんの一端のことなのです。


(2005年1月29日記)

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