「虫の目」写真の試み(その2)


 前回の続きです(読んでない方は,前回の試みを先に読むことをおすすめします)。

 デジカメで,虫の見た世界を擬似的に体験することが,ある程度出来そうだ,と言うことは分かりました。
 そこで,実際,虫の身になって(?),彼らがどういう視覚情報を活用して生活しているのか,もう少し深い考察をしてみることにします。
 今回は,他の虫や外敵との関係を中心に考えます。



 ウラギンシジミ。
 人間の目には,ぴかぴかに白く光る翅,として認識されます。



 「虫の目写真」で見ると,意外と明るく写りません。



 モンシロチョウのメスです。周囲の葉との明るさの差を考えると,虫の目には,ウラギンシジミよりも明るく見えているかも知れません。
 モンシロチョウの翅は(表側ですが…),オスよりメスのほうが紫外線反射率が高いことが知られていて,人間の目ではほとんど同じ白色でも,彼らの目には違う色として認識されていて,オスがメスを見つけるサインになっているのではないか,と言う話があります。つまり,生殖活動のために目立つ色を身にまとっている,とも考えられます。
 一方,ウラギンシジミがモンシロチョウと決定的に違う点として,成虫の姿で越冬すると言う特徴があります。ウラギンシジミの翅の表側は,裏とは対象的に,褐色ベースの比較的暗い色です。寒い時期には翅を広げ,暗色の面を日にかざして,体温を稼ぐのに使っているようです。白い裏側のほうは,休眠中,じっとしているときに,敵に見つかりにくい色として,使われていると思われます。この白い翅には,身を隠すための秘密がありそうです。



 さて,こちらはクルマバッタ。
 人間の目で見ても,なかなか上手に草むらの風景に溶け込んでいます。



 「虫の目写真」でも,しっかり隠れてます。植物の葉は,400nm付近と700nm付近の波長を良く吸収し,光合成に利用しています。この「虫の目写真」では,植物が良く光を吸収する(つまり,あまり反射しない)波長域を捉えていますので,葉の色も,かなり落ち込んで見えているのですが,それに負けないくらい,バッタの色も落ち込んでいます。

 敵から身を守る,と言う意味でも,この,青〜近紫外領域の光の使い方には,興味深いものがありそうですね。


 それでは,「敵」となる,捕食者の様子も観察してみましょう。



 ノシメトンボ。緑をバックにした赤トンボですが……



 「虫の目写真」では,意外と目立ちません。やはり,獲物に気づかれにくくするためなのでしょうか。


 次は,ナガコガネグモ。



 コガネグモの仲間には,白い飾りのようなものを網につける種類があります。この「飾り」は,「かくれ帯」などと呼ばれる場合もあり,巣の中央部にいるクモの姿をカムフラージュするのではないか?と言う話もある一方,餌となる虫をおびき寄せるためのサインではないかと言う話もあります。ナガコガネグモは,ちょうど体の幅ぐらいの「かくれ帯」を,自分の居場所の上下に作ります。

 そこで,この網を「虫の目写真」にしてみます。



 「かくれ帯」は,光っていました……。
 クモの姿が,意外とはっきり見えない点にも注目です。

 たとえば,コガネグモはX字型の「かくれ帯」を張り,その中央にクモが陣取りますが,近紫外線領域で,周囲が明るく放射状で中央が暗く見える……と言うのは,蜜のある花に良く見られるパターンでもあります。……そう考えると,もしかすると,この「かくれ帯」と呼ばれていたものは,クモの巣を花に見せかけるための手段だったのかも知れません。さらに,コガネグモの仲間は,網を揺らす行動が観察されます。この行動も,光る「かくれ帯」を目立たせて,虫を誘引している可能性も考えられます。



 「かくれ帯」の真ん中でお食事中のナガコガネグモ。
 これも「虫の目写真」で見てみましょう。



 やはり,「かくれ帯」の部分が,いちばん良く光っています。

 ナガコガネグモは,幼体の時期には,親とは違う形の,円板形のレース編みのような「かくれ帯」を作ります。成長するに従い,幅の狭いリボンのような形に変わってゆくのですが,なぜ「かくれ帯」の形を,成長段階で変えてゆくのか,「かくれ帯」の役割が分かってくれば,この謎にも明快な答えが見つかるかも知れませんね。


 不思議で興味深い,近紫外線の世界。フィルター1枚買えば,比較的簡単に体験出来ますので,デジカメをお持ちの方はぜひ,お試しください。


(2004年9月25日記)

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