ネオ・都会派の野鳥たち


 自然は,時の流れと共に,少しずつ姿を変えてゆきます。
 まして,人工的に地形や環境がどんどん変わる都会では,そこに住む生き物も,人の活動の影響を受けながら,ダイナミックに変化してゆきます。
 そんな変化の様子を,ちょっとだけ見てみましょう。


 1960〜70年代の高度経済成長期に,都会の自然は大きく変わりました。少なくとも,野生生物にとって,良くなる方向には進んでいないことだけは確かでした。そんな時代に,新たに都会に繁殖地を広げていった野鳥がいます。それが,ヒヨドリとキジバト。明治神宮探鳥会の観察記録を見ると,彼らは冬に人里に降りてきて,明治神宮でも観察され,夏の繁殖期には,明治神宮から消え去り,山で繁殖をしていたのですが,1960年代の末頃より,夏でも観察されるようになりました。
 一説には,彼らの繁殖地であった,低山や丘陵地帯に開発の波が押し寄せ,そのために都心のわずかな緑を求めて移動してきた,と言う話もありますが,これだけでは説明のつかない部分もあります。彼らは明らかに,餌の内容を変え,巣を作る場所も変えて,都市生活に適応してきたのです。


キジバト。雨上がりの公園で,水たまりの水を飲みに来た。
かつては「ヤマバト」だった彼らも,すっかり「マチバト」だ。


 キジバトやヒヨドリが,都市生活を始めてから10数年後,新たな「都会進出」をしてきた鳥がいます。
 コゲラです。


イチョウ並木で見つけたコゲラ。
コゲラと樹木の関係は,切っても切れない。



 コゲラは,首都圏では1980年代前半に,多摩地区から都心方向へじわじわと繁殖地を広げ,明治神宮探鳥会の観察記録では,1985年から,1年中いる鳥になっています。今では下町のほうにも進出しています。
 彼らは木に穴をあけて巣を作りますが,それほど太い木は必要としません。また,枯れた木でないと,なかなか穴を開けることが出来ないので,街路樹の太い枯れ枝などを利用しながら,繁殖地を広げていったようです。1980年代と言えば,オイルショック以後の時代。街路樹や公園の木も,かなり育ってきて,緑が落ち着いてきた,と言う背景もあったのかも知れませんが,今まで都会にはいなかった鳥の進出,と言うことで,注目されました。さらに,東京以外でも,同様の「都会進出」があったことも,注目されます。
 「都会にキツツキ」と言うミスマッチ感ゆえ,身近な場所にやたらとコゲラがいることに気づいていない人も少なくありません。コゲラの「ギーギー」と言う特徴ある鳴き声を憶えておくと,あちこちでこの声が聞こえることに気づくでしょう。

 オイルショックが去り,公害問題が一段落した1980年代には,かつて,都会から消え去った野鳥の復活劇もありました。
 その代表がカワセミでしょう。


「清流の宝石」どころか,都心の公園の池でも繁殖するようになったカワセミ。


 かつては水の汚れがカワセミを追い出した,とも言われていました。
 しかし,いま,都会で暮らすカワセミは,多少の水の濁りには,あまり影響されない様子です。
 さすがに繁殖に適した場所は,都会にはあまり多くなく(カワセミは本来,土の崖などに巣穴を掘る),繁殖地は限られているようです。

 コゲラやカワセミよりやや遅れて,ハクセキレイも都会に出てきました。
 現在ハクセキレイは,都市部に越冬場所を求め,繁華街などに大きなねぐらが出来たりします。
 駅前の喧騒の中のねぐらも多く,こちらでその様子を紹介しています。
 彼らは昆虫食主体ですから,冬でも暖かく,蚊やハエなどが発生する都心部に,あらたな越冬場所を求めることは,可能性としては十分にありますが,彼らの行動を観察していると,ゴミあさりをしていることも多く,こうした適応力が,都市生活を可能にするキーポイントになっているような気もします。
 最近では,夏場でも,本来の生息地である河原に戻らない個体もいるようです。私は,駅のホームの屋根で営巣しているハクセキレイを観察したことがあります。

 もともと都会にいた鳥で,人の影響で数を増やした,と言えば,カラスでしょう。東京都心部には,ハシブトガラスを中心に,2万羽はいるだろうと推計されています。カラスに関する論議は尽きませんが,少なくとも,「カラスが増えた原因は人である」と言うことだけは,間違いの無いことです。


 一方で,この20〜30年の間に,都会を追われている鳥もいます。
 キジやコジュケイなど,地上生活が主体の鳥。
 理由はいくつか考えられますが,巣づくりや身を隠すのに適した藪や荒地が,都心部から消えてしまったことや,野良猫による捕食などが,大きな原因になっていると言う話です。


キジ。こういう,大きくて行動範囲の狭い鳥は,都会向きではないのかも知れない。

 実は明治神宮探鳥会の観察記録を見ると,ここ数年,オナガの観察例が極端に減っています。
 さらには,ムクドリについても,10年前は毎月確実に観察されていたのに,ここ数年,観察記録が無いことが,年に数回あります。彼らも都会から消え去る方向にあるのでしょうか?今後,注意深い観察が必要です。


☆おまけ。
 コゲラのgifアニメです。
 ファイルが大きい(142〜213k)ので,下記をクリックして見に行ってください。

 1)つんつんコゲラ
 2)ぐりぐりコゲラ

 


(2001年1月30日記)

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