デイパックで持ち歩ける8cmF6屈折


また8cmですかぁ?

 8cmF5のジャンクレンズを使った短焦点屈折望遠鏡があるのに,また8cmのアクロマート対物レンズを買ってしまいました。
 ……東所沢のガラクタ部屋ビクセン光学展示室に遊びに行って,つい,買ってしまったのです。

 ジャンク扱いですが,モノは確かです。
 ビクセンでは8cmF5の対物レンズは現役で,SXシリーズのエントリーモデルにも採用されていますが,F6はちょっと珍しい。8cm双眼望遠鏡や,廃盤となったシャトルスコープなどで採用されていたレンズが,8cmF6です。私が手に入れたレンズは,購入時,2枚のレンズがバラバラで,錫箔を別に貰って帰り,自分で適当にニュートンリングを見ながら芯出し(=位置合わせ)をしました。確か,双眼望遠鏡の対物レンズでは,錫箔ではなく,樹脂製のリングを挟んでいましたから,これはシャトルスコープ用の対物レンズだったのかも知れません。だとしたら,双眼望遠鏡用の対物のように,正立プリズムを入れた状態で最も性能を発揮するような設計ではなく,純粋に天体用として使えるはず。

 どうせ作るのなら,持ち運びやすく,セットアップが楽なものを作って,稼働率を上げたい。
 そこで,思い切って各部を切り詰めた設計を考えました。

目標は,デイパックに入れて持ち歩けること

 収納,運搬時はこんな状態です。



 右のほうに対物レンズが入っています。前後には既製のVU75キャップとVU65キャップを付けています。
 一見,フードが長く見えますが,青い帯から左側の部分は,フードを逆向きにして,対物セル(右側の太くなっている部分)の後ろ側からかぶせるようにして,収納してある状態です。この状態で全長約34cm。6cm級のフィールドスコープといい勝負です。




 各パーツです。これは「天体用・眼視仕様」のときの全パーツです。フードをはずし,1枚目の写真と逆向きに置いています。
 本体は,実は2段鏡筒。右の,一見,フードに見える部分が対物セルで,筒の先端からレンズ面までは2.5cmしかありません。対物セル部はVU75管。内径が83mm弱なので,直径82mmの対物レンズが,ギリギリで収まります。レンズセルの構造は,レンズ後部を塩ビの薄板で内径を81mmに落として,そこにレンズを乗せ,前側は未接着の塩ビの薄切りの環で軽く押さえ,ガタツキを植毛紙で埋めています。レンズにあまり無理な力がかからないように,かつ,光軸がきちんと出せるように,丁寧に作ります。
 左側の細い部分はVU65管。内径は67〜68mm。この内径で対物レンズがケラレない,ギリギリの所で,VU75管と繋いでいます。
 接眼部の繋ぎ方は,例によって,VU50ジョイントにBORGのM57/60延長筒[7602]を押し込んで,M57ネジが出ています。VU50ジョイントの外径とUV65管の内径には,2mm少々の隙間がありますので,そこは塩ビの薄板を巻いて接着し,ギャップを埋めています。




 こちらは以前作った8cmF5ですが,鏡筒にVU75管を使っているので,太い印象です。




 気軽な天体観望に使うときには,こんな形にします。
 写真の例では,対物側から,2インチホルダーSII[7504],ミニドローチューブN[7202],M57→36.4mmアダプター[7364],36.4mm天頂プリズム,直進ヘリコイドS[7315],アイピース,と言う組み合わせです。2インチホルダーがついているのは,45度地上プリズム使用時にピントが出る長さに鏡筒を切り詰めた結果です(^_^;)。とりあえず,これで,全てのアイピースのピントが出ます。



 フードを前に被せると,こうなります。
 やっと天体望遠鏡らしくなった…。




 接眼部拡大図。
 M57ヘリコイドを付ければ,月の撮影ぐらい,難なくこなせます。
 地上プリズムも使えますが,45度地上プリズムを付けると,色収差が目立ちます。
 やはり,天体観望用途が本命です。


 VU65管で鏡筒を作ることにこだわった理由が,これです。



 コンパクトな箱形フリーマウント,「星の巣箱」に乗せたかったのです。
 もともと「星の巣箱」は,口径5cmの望遠鏡の架台としてデザインしていますが,鏡筒取り付け部(上下回転軸のリング=耳軸がついている部分)の幅が82mmあるので,ギリギリでVU65管の入る鏡筒バンドが作れるのです。鏡筒取り付け部は,回転軸となる耳軸のついたコの字形の構造で,この中にスリ割りを入れた「Cリング」状態のVU65管を接着してあります。このCリングに鏡筒を押し込み,適度なフリクションでホールドするだけの簡単なものですが,フリーマウントはバランスにうるさく,鏡筒を前後させてバランスを取る操作が多くなりますので,これが実に便利なんです。鏡筒を軽く作ってありますので,5cmの鏡筒を乗せたときと変わらない軽快な操作感で,気持ち良く使えます。

 RFT用途であれば,これでバッチリです。
 なにしろ,自作ワイドアイピースと組み合わせて,約3.8度の視界が得られますから,ファインダー要らずでスイスイ動かせます。

 もちろん,普通に鏡筒バンドを付けて,他の架台に乗せることも可能です。



今後の展開は?

 8cmF5と8cmF6。似ているようで似ていない,微妙な関係です。
 F5のほうは,写真撮影には向かないし,広い視野を楽しむほうが良い,との割り切りで,合焦機構も,大胆に大きな摺動チューブを採用しました。眼視での軽快さを重視しているのです。一方,F6のほうは,月ぐらい撮影できないかなぁ,と言う欲が出てしまったので,接眼部を重装備にしています。実際,F5よりも色収差も抑えられており,きちんと見えるな,と言う印象です。但し,視野の広さと言う点では,F5のほうがずっと有利です。F5なら,余裕で4度以上の視野が得られますから,これは楽しい。双眼鏡並みの扱いやすさです。……F6でも,オリオンの三ツ星ぐらいなら余裕で入りますけどね……。
 並べて比べてみると,けっこう個性の違いがあるのに驚かされます。しばらくは,どちらも使って,いろいろ遊んでみようと思います。

 …なのに,眼視用に作ったF5のほうは,鏡筒が太いのでフリーマウントに乗りません(悲)。
 F6のほうも,フードが重いので,バランスの微調整に適した,薄手の巻き付け式のフードも作ろうかと思っています。
 まぁ,あれこれいじくりながら,使いやすい方向に進化すれば,それで良いのですが……。

 おかげで,11×80双眼鏡の稼働率が下がっています……。


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