食いあと探偵!
対象年齢:小学校中学年以上。
今回は,ちょっとしたストーリーになっています。
これを読んで,キミも生き物さがしの「探偵」になってみないか?
プロローグ
ここは,とある探偵事務所。
でも,この探偵,ふつうの探偵とちょっと違う。
……生き物にかかわる事件の謎を解く,その名も
「生き物探偵社」
生き物が元気に活動する夏。
探偵のところにも,いろんな事件の相談が持ち込まれます。
さて,今回の事件は……
【用意するもの】
・図鑑(昆虫図鑑と植物図鑑があると良い)
・カメラ,メモ,虫めがねなど,「捜索」に必要な道具。
・そして,好奇心と推理力
第1章 消えたバラの葉
夏。
生き物が元気になる季節。「生き物探偵社」も,日増しに忙しくなっていた。
「探偵,また変な事件の調査依頼が来ていますよ。」
「何なんだ?変な事件っていうのは?」
「…それが,向かいのローズガーデンからの依頼なんですが,たった数日で,バラの葉がごっそり,無くなったんだそうですよ」
「はぁ?……花泥棒なら分かるが,葉っぱ泥棒ねぇ……よし,さっそく現場に行ってみよう」
ローズガーデンに急行する「生き物探偵」と助手。
そこで見たものは,葉っぱの無くなったバラ……。
「こりゃ確かにひどいな……でも,生き物の起こした事件なら,必ず証拠はあるはずだ。」
「このバラの葉は,取られたのではありませんね。茎は全部残っているし,わずかに残った葉には,かじったあとがある。」
「それだ!きっと,まだ犯人はここにいる。葉っぱの残っているバラの枝を探してみよう。」
………
「あ,見つかりました!!」
「やはりコイツだったか………ニホンチュウレンジバチの幼虫だ。」
「それにしても,大変な食欲ですね。」
「そうだな。こいつら,集団で,葉っぱを食いつくしてしまうからな。」
「それにしても,どうやって犯人の目星をつけたんですか?」
「虫はだいたい,種類によって食べるものが決まっている。アゲハチョウの幼虫ならミカンの仲間の葉を食べるし,カイコはクワの仲間の葉しか食べない。それに……」
「ほかにも証拠があるんですか?」
「ある。それは,虫が葉っぱを食ったあとの形だ。」
「食ったあとの形?」
「そう,虫によって,葉っぱの食い方もちがう。それも有力な手がかりになるんだ。」
「食いあとかぁ……」
「どうだい,キミも,食いあとからどんな虫が食べたのか,推理してみないか?」
「おもしろそうですね。」
「食いあとから犯人を当てる,食いあと探偵。ちぢめて『食いタン』……」
「……あの,それが言いたかっただけなんじゃないでしょうね!」
「…う……するどい推理……」
かくして,「生き物探偵」と助手は,2人で葉っぱの食べあとを探しに行くことになったのである。
第2章 犯人は現場にいる…ことが多い
次に2人が見つけた「食いあと」は,これ。
「これはセスジスズメの幼虫だな。ここを見てごらん(黄色の矢印のところ)。葉っぱが丸ごと無くなっている。」
「すごい食欲ですね。食べられている葉っぱはヤブカラシのようです。」
「次はこれだ」
カシの木に注目する2人。
芽吹いたばかりの若い葉が巻かれて,食われている。
「犯人は,この,巻いた葉っぱの中にいるぞ。」
「チラリと見えていますね。」
「ムラサキシジミの幼虫だな。」
「探偵!これはわかりやすいですよ。」
「ははは……ミノムシか。じっとしているように見えても,しっかり食っているのがバレバレだな。」
第3章 「犯人」が消えてしまっても……
「これまで見てきたものは,みんな犯人が現場にいたので,わかりやすかった。でも,虫はいつまでも現場にはいない。幼虫は成長してさなぎになり,成虫になってしまう。「あし」や「はね」を使って,どんどん移動するやつもいる。その場で葉っぱを食べないで,持ち去るやつもいる。そんなときは,葉っぱの種類や食べあとの形だけが頼りだ。ちょっとむずかしくなるが,しっかり調べてくれたまえ。」
「はい!図鑑と知識と推理力で,がんばります!」
「ほら,さっそく,こんな食いあとが……」
「う……これまでと,食いあとの形がちがいますね。」
「……と言うことは,これまでのような,ハバチやチョウやガの幼虫とはちがう……かも知れないわけだ。」
必死に図鑑をめくる助手……。
「…あ,葉っぱを食べるのは,イモムシや毛虫だけじゃなくて,バッタの仲間やハムシなどの甲虫もいるんですね!」
「そう言うことだ。これはコフキゾウムシが食べた,クズの葉だ。」
「なるほど,虫の形によって,食いあとの形もちがってくるのか。」
「そうだ。なかなかの推理だな。……しかし,暑いな。ちょっと木陰で休憩しよう。」
「そうしましょう。」
2人はサクラの木の下に行き,夏の空を見上げた……と,その時!
「あれ?あんまり日陰になっていませんよ。」
「……こりゃ,葉っぱがスカスカだなー……せっかくの木陰を奪った犯人を,しっかり探してくれ!」
「でも,それらしい虫は見当たりませんが……」
「あの葉っぱの食いかたを見てみろ。」
「穴をあけるように食ってますね。さっき見た食いあとと違う……」
「こういう食べ方は,ハムシなどの甲虫に多い。今は昼間だから見当たらないが,おおかた,夜行性のドウガネブイブイとかアオドウガネなどのしわざだろう。」
「なるほど,虫の出てくる時間も考えなくてはいけないんですね。よし,夜になったらもう一度,確かめてみよう。」
「それがいいだろう。その探究心が大切だ。」
「はい!」
「よし,今日はこのぐらいにして,帰ることにしよう。」
しかし,帰り道にも,「食いあと」が待っていた。
花の終わったツツジの前を通ったとき,「生き物探偵」は目ざとく,こんなものを見つけたのだ。
「これはわかるかい?」
「ツツジの葉っぱですが,模様が入っていますね。」
「これはツツジの模様ではなく,食いあとだ。」
「え?葉っぱの形はそのままで?」
「これはツツジグンバイという,小さな虫が,ストローのような口で葉っぱの汁を吸ったあとなんだ。」
「そうか,葉っぱは,ムシャムシャ食うだけじゃなくて,汁を吸うという食いかたもあったんですね。」
「そうだ。虫の口の形のちがいも,食いあとのちがいになる。」
「なるほど……もっと虫のことを勉強しないと,良い「生き物探偵」にはなれませんね。しっかり勉強します!」
「そうだな。でも,虫だけで知っていても植物だけ知っていてもダメなんだ。いろんな生き物を知り,生き物どうしの関係がわかってくれば,さまざまな,生き物の謎が解けるようになる。そうしたら,キミも立派な「生き物探偵」になれるぞ。」
「はい!がんばります!」
しかし,夏の「生き物探偵」はいそがしい。
探偵事務所にもどってきた2人を待っていたのは,新たな調査依頼。
「葉っぱが丸くカットされて持ち去られました!これは一体,誰がやったのでしょう?」
さぁ,この事件は,これを読んでくれたキミが,「食いあと探偵」になって,解決してみよう!