PART 4 ボツネタ集


 嬉し恥ずかし「ボツネタ」特集。
 なにしろ,正味オンエア時間10分半に対して,丸1日ロケして,たっぷりとテープを回すのだから,大部分が「ボツ」になっているとも言える状態。明らかなNGとか,失敗談もある一方,いい話だったのに涙を飲んでボツにしたものも多々あるわけで……。
 そんな,ボツネタの中から,ボツにしたのが惜しかった話や,笑える失敗談などを,気まぐれにピックアップ。

☆NGを発生させた人の不名誉になるようなネタは(たとえ笑えても)載せない方針です。


 ・歌わんでよろしい!
 ・日の当たらない植物
 ・野鳥の雛を拾うのはNGなんだけど…
 ・野鳥に「芸」をさせてはいけません
 ・冬に「鉄道草」?


 ・歌わんでよろしい!

 代々木編にて。「春の小川」の碑の前で,碑に書かれた歌詞を読むのも,なんか間が抜けているかと思って,歌ってみる。……実は,碑に書かれた歌詞は,オリジナルの文語調のもの……「春の小川は さらさら流る……(中略)……にほひめでたく 色美しく 咲けよ咲けよと……」というもの。これを,今,学校で教えている現代語版と比較しても面白いかな,などと思いつつ,結局のところ,呑気に歌っているほどオンエア時間が取れるわけでもなく,ほとんど最初から約束されていたようなボツ。
 結果的には,オンエア時に恥ずかしい思いをしないで済んだのだから,いいのだが……

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 ・日の当たらない植物

 さんざん撮影して,オンエアしたことがない自然観察ネタの最右翼は,ヤドリギ。代々木編でもけっこう時間をかけて収録し,久我山・烏山編でも,寺町の中にあるエノキの大木に,立派なヤドリギを見つけて,思わず「お〜,こりゃすごい!」と唸ってしまったのだが,このときも撮影しておいてオンエアされず。
 ヤドリギは冬の落葉樹(しかも,かなり大きい木)の観察にアクセントを添えてくれる,名脇役だ。早春にはベタベタの果肉を持った果実が熟し,これを鳥が食べると,種子入りのベタベタのウンチが出る。こいつが木の幹に貼り付いて,新たな場所で発芽するという,分布拡大をほとんど鳥に頼っている寄生植物だ。鳥の好きな人だと,「ヤドリギ」→「レンジャクが実を食べて運ぶ」→「レンジャクが居るに違いない」という超短絡思考の人が多くて,ちょっと参るが,実際,レンジャクがめったに現れない都区内の木にはヤドリギは少なく,その種子を運ぶのも,レンジャクではなく,植物食をする中型の小鳥類だったりする。
 ヤドリギは木の幹に寄生するため,夏場は日当たりが悪くて,ちょっと劣勢になるのだが,冬になって木のほうが落葉してしまうと,がぜん元気良くなって,次の年の早春頃までには果実を作り,日当たりの良くなっている季節を有効に使っている。言うなれば,冬に「旬」を迎える自然観察ネタなのである。
 しかし,どうもTV的には地味で……面白いんだけれど,オンエアまでにはカットされていると言う,かわいそうな奴だ。
 まぁ,いずれ,日の目を見る時が来るかも知れない。たとえば,ヤドリギの実を鳥が食べに来るシーンとか,撮影できれば,1カットぐらい出てくるかな。……そんなことを言っておきながら,ヤドリギの実を食べてベタベタになった鳥の糞のほうが,ネタとして採用されたりしたら……(笑)。

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 ・野鳥の雛を拾うのはNGなんだけど…

 霞ヶ関・日比谷編で,「丸の内さえずり館」でのインタビュー。ここはボランティア主体で運営されていて,「丸の内自然を楽しむ倶楽部」と言う組織も作られている。そのメンバーの,とあるOLさんが,さえずり館のボランティアになるきっかけになったエピソードをMさんから紹介していただいた。……ある朝,通勤途中に皇居の近くで弱ったキビタキを見つけ,それを拾ってしばらく休ませて体力を回復させて放した経験から,野鳥により深い興味を持ち,ボランティアを始めるきっかけになったと言う。……いい話だなぁ,と思いつつ,後で気づいたのだが「キビタキの雛を保護して…」と喋っていた。実は,正常な巣立ち過程の途中にある小鳥の雛……巣から出たものの,まだ上手に飛べないので,親から餌をもらいながら,地面でウロウロしていたりするのだが……を,巣から落っこちた雛と誤解して「善意の誘拐」をしてしまう例が後を絶たない。そのため,野鳥の会などでは「ヒナを拾わないで」と言うキャンペーンを大々的に推進中なのだ。野鳥の会の人がヒナを拾った「美談」をアピールするのは,すごくまずいのでボツ。後で,当事者のOLさんに聞いたら,そのキビタキは綺麗な黄色い色をしていたと言うから,間違いなく成鳥。おそらく,「渡り」の途中で,ちょっと疲れて落っこちたものだった(だからすぐに体力が回復した)と言うことが判明。明らかに「雛」ではなく,休ませて放鳥と言う処置も正しい。「キビタキの雛」と喋ってしまったために,涙を飲んでボツになった。すごくいい話だっただけに,もったいなかった。

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 ・野鳥に「芸」をさせてはいけません

 PART 2でも少し触れているが,手に乗る野鳥の話。
 とかく,野生の生き物相手の撮影は,気まぐれで,まさに「一期一会」の世界。それは,TV撮影だけでなく,アマチュアカメラマンでも同じ。そんな中,少しでも撮影チャンスを増やして,「絵になる」写真をとりたいと考える人が,やっぱり居るわけで……。都内の某公園では,カワセミを撮影するために,公園内に生簀とカワセミ専用の止まり木を自分たちで設置して撮影しているマニアもいる。餌付けをして思い通りの写真を撮ろうとすることなど,朝飯前なのだ。
 明治神宮にも,ヤマガラを餌付けしている人たちがいる。代々木編の撮影時,カワセミを頑張って撮影していたのだが(明治神宮のカワセミは餌付けされていない),撮影クルーがカワセミを待っている間,ヤマガラがチョロチョロ近くにやって来る。もしかして,こいつが噂の「餌付け済みヤマガラ」かな?……そう思って,餌付けしているカメラマンが手から餌を与えるときのポーズを真似て,手を差し出してみると……見事に手に乗った!
 餌付けについては,さまざまな賛否両論があるのだが,基本的には,自然保護の立場では,むやみな餌付けは慎むことでコンセンサスが得られている。まして,撮影目的で「芸」を仕込まれたように手に乗ると言うのは,ちょっと普通じゃない。「手乗りヤマガラ」のシーンは,撮影もせず,一直線にボツ。
 その昔,縁日などの夜店の「見世物」で,ヤマガラにおみくじを引かせると言う「芸」があったそうだが,ヤマガラはこういう「芸」を覚えやすいらしい。ヤマガラに近い種類のシジュウカラは,決して人の手に乗るようなことはしない。

 いずれにしても,「人と自然との接点」を考える上では,こういう行動をする人と言うのは,個人的には興味深いのだが,残念ながら,決してオンエアできるようなネタにはなれない。ペット動物と野生動物の間の線引きは,しっかりしておかないと……(獣医師としての倫理の問題にもなるし……)

 余談だが,同じ野鳥でも,カラスに餌付けすることを歓迎する野鳥マニアは滅多にいない。

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 ・冬に「鉄道草」?

 「取手編」の打ち合わせ段階での話。
 担当ディレクターは奥山コーシンさんの回も担当しているが,その,奥山コーシンさんの作詞した歌に,「鉄道草」と言うのがある。そこで,「鉄道草」ってどんなものなんだか,紹介できないか?との相談。

 もともと「鉄道草」と言う名前の植物は無い。明治以降,海外との貿易の際,輸入貨物に紛れ込んだ野草の種が,貨物輸送ルート……明治・大正期では,その主力は鉄道……に乗って,鉄道沿線に分布を広げたものを,「鉄道草」と呼んでいるのだ。現在,「鉄道草」の代表選手はヒメムカシヨモギ。ヒメジョオンも「鉄道草」と呼ばれたことがあるらしい。戦後はさまざまな物流手段が発達したので,鉄道の優位性も消えたが,それでも「鉄道草」と言う表現は残っている。戦後を代表する「鉄道草」と呼べる植物があるとしたら,それはセイタカアワダチソウやオオブタクサ辺りではないだろうか。

 薀蓄はさておき,この鉄道草の話が出てきたのが12月末。
 ヒメムカシヨモギは多年草ではあるが,この時期,ぼうぼう伸び放題の鉄道草に遭える可能性は,きわめて低い。やはり撮るなら,8月後半〜9月頃の,花をつけた時期だろう。

 とりあえず,「自然観察は旬のものを見るのが基本で,この時期に鉄道草の観察は不向き」と言うことでボツにしてもらったが,言われると気になるのが人情。ロケハンのときに,ヒメムカシヨモギの場所だけはチェックしておいた。図鑑片手に,ヒメムカシヨモギの越冬中の姿……「ロゼット」状態のものを確認した。
 ところが,この年の冬は思い切り暖冬だったので,年末だと言うのに,まだ花の残った株も見つけてしまった。しかも,都合の良いことに,線路脇。

 とりあえず写真だけは撮っておいたが,これは,晩夏〜秋にロケをするときの宿題にさせてもらおう。


 ヒメムカシヨモギの花。暖冬で,年末年始まで残っていた。
 いかにも「鉄道草」らしい光景を求め,あちこち探した結果……
 冬にこんな姿が見られるとは……


 ヒメムカシヨモギの冬越しの姿。
 本来,冬にはこのような形(ロゼット)になっているのだが……

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