PART 3 TWMサイドストーリー


「自然観察的東京散歩」は,いかにして作られているのか。
散歩師が見た,制作現場の様子とか,番組を作りながら思ったこと,考えていることなどを気ままに紹介します。

 ・ロケ地はどうやって決めているか
 ・下準備とかロケハンとか
 ・実はボツネタだった「自然観察ウォーキング」
 ・自然解説のツボ
 ・コメントの喋り方
 ・プロとアマ
 ・「自然観察する散歩師」の目指すもの
 ・身につけているものについて
 ・「散歩師」と「鉄ちゃん」

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 ・ロケ地はどうやって決めているか

 「自然観察する散歩師」には,常に「自然観察」と言うサブテーマがあり,制作会社のほうに,こっち方面に強い制作スタッフが居ないと言うこともあるため,積極的に散歩コースを組み立てて提案している。これは,自然観察会を組み立てる要領とまったく同じなので,比較的手慣れた作業である。自然観察は「旬」や「季節感」が,特に重要になる。季節に合わせたメインテーマを決め,それに合う場所を決め,サブテーマを選び,細かいエピソードを組み込みながら,ストーリーを組み立ててゆく。必ず独自にロケハンし,自然観察的エピソードをいくつもチェックしている。途中で立ち寄る場所,食事やお茶の場所まで提案することもある。「自然派」の人にフィットするような場所で,タウン情報誌に登場しにくい場所が狙い目。「霞ヶ関,日比谷編」では,「丸の内さえずり館」を訪問したが,これはボクの提案。地元企業と野鳥の会のコラボレーションによって生まれた,ボランティアが運営する,自然情報の発信基地だ。非営利,ボランティア運営であるが故に,宣伝力も無いし,素晴らしい活動をしても,その成果を紹介する手段があまり無い。こうした場所を電波に乗せることも,公共の電波の使い道として良いのではないだろうか。実際,「さえずり館」のボランティアスタッフからは,大変感謝された。

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 ・下準備とかロケハンとか

 ボクの場合,打ち合わせはメールで済ませている。場所とコースをだいたい決めたら,休みの日に1人でひととおり歩いてみて,自然観察的エピソードをピックアップしておく。それを,ディレクターさんのロケハン結果とすり合わせながら,散歩コースを構成してゆく。……かなり内容に口出ししているほうだと思う。自然観察ネタに関しては,ほとんど任されているので,だいたいこんな感じになる。毎回,何か1つは,視聴者の心に引っかかるような自然観察ネタを用意して欲しい,と言うことは頼まれている。「代々木編」では,街路樹の上のカラスの古巣をクローズアップした。「霞ヶ関・日比谷編」では,タンポポの在来種/外来種の力関係とか,国会前庭で見つけたセミの卵など,インパクトのあるネタが多かった。
 場合によっては,途中で立ち寄る場所も提案する。自然観察の好きな人が好みそうな場所とかお店など,「自然」と言うサプテーマに似合う場所なら,いろいろ情報を持っている。しかし,どうも,食べ物屋さん系は弱い。担当のディレクターさんは,元料理番組の担当。さすがに飲食店に関しては目利きが素晴らしい。…と言うわけで,自分の得意な所をきちんとやるほうが,得策なのだ。

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 ・実はボツネタだった「自然観察ウォーキング」

 それは1995年頃のこと。この時期に,自然観察をしながら街を歩くイベントの構想は,既にあった。
 ボクは1980年代から,某・野鳥系の自然保護団体を中心に自然解説をしているが,1990年頃になると,探鳥会への参加人数はどんどん下降線をたどっていて,年配者ばかり目立つようになっていた。それはまさに,ブームの終焉と言える状況。鳥を見せるだけでは人を集めにくくなっていることは明らかだった。その時期に,いろいろと奇抜な企画を出して,イベント化していた。ピクニックのように,観察場所を固定し,お茶なども用意し,自由な時間に参加できる観察会とか,バードウォッチャーなら持っているであろう双眼鏡を持参してもらって,各自の機材で星を探す天体観望会とか……。
 そんな中で,街の自然をきちんと見直そうと,街歩きをしながら自然観察をする企画を考えていた。その第1回目の候補地が,新宿,代々木エリア。新宿中央公園や高層ビル街の緑を起点に,代々木方面に歩き,街路樹や街の自然を丹念に観察し,最後は明治神宮か代々木公園で締める。この企画案を出したとき,反応は冷ややかだった。「そんな場所で鳥が見られるのか?」「参加者が集まらないぞ」等々の批判を浴び,あえなくボツになった。……実はこの企画,「東京ウォーキングマップ」の「代々木編」と半分ぐらい,ネタが重なっている。今でこそ,「ウォーキング」の認知度も上がり,歩きながらいろいろと街を観察する……ネタは自然観察に限らないが……と言うのも,市民権を得てきている。街歩きを楽しみながら,街の自然を観察し,解き明かしてゆくと言う観察会は,1995年当時には,時代を先取りし過ぎた企画だったのだろうか?……もっとも,いまだにその手の企画は某・野鳥系自然保護団体からは出て来ないが……。
 いずれにしても,酷評を浴びたボツネタが,TV番組として日の目を見たのは,ボクとしては痛快な出来事だった。まぁ,この企画そのものが,「東京ウォーキングマップ」の番組コンセプトにマッチしていたのも事実だが……。

 街歩きで自然観察会をする企画は,シリーズ企画で考えていたので,代々木だけでなく,いくつもモデルコースを用意していた。もちろん,かなり良く現地を歩いて,下見をしてある。今後,これらのボツネタが「東京ウォーキングマップ」で蘇る可能性は,十分にある。

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 ・自然解説のツボ

 自然を紹介するのは,映像的にも美しく,見る人を癒す効果も高いと思う。しかし,生き物を見つけて名前を紹介するだけでは,ストーリーに深みが出ない。すぐに飽きられてしまう。そこで,必ず,紹介する生き物にまつわるエピソードや,都会に住む人と生き物とのつながりなど,単純な生物分類的な話を超えた,生態学的な話や,人文科学的な話,さらには,その土地の自然史やその土地に住む人の歴史なども取り込みながら,「イキモノ観察」の枠にとらわれない,幅広い解説をするようにしている。イキモノを1つ紹介するにも,さまざまな切り口が考えられるのだ。この番組では,自然解説は,街を紹介するためのエピソードの1つに過ぎない。街の成り立ちと自然との関わりが上手く繋がってくれば,興味深いストーリー展開が期待できる。
 こうした自然解説のどれか一つでも,見る人の心のアンテナに触れるものがあれば,ぐっと興味を持ってくれることと期待している。……実際には,オンエア時間が限られているので,コンパクトに面白く説明するのは,かなり大変な作業なのだが…。

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 ・コメントの喋り方

 この番組には台本は無い。人や風景,モノとの出会い(ボクの場合,これに自然とかイキモノが加わる)が中心だから,予定される台詞は無いのだ。
 自然解説に関しては,手慣れているから,特に気にせず,喋りまくる。ボクの場合,ものごとを正確に伝えようとするので,理路整然とする反面,理屈っぽく,回りくどくなる。喋りの時間が長くなるのは,短い番組では致命的なのであるが,趣旨を変えないように編集するのは,さぞかし御苦労なことだと思う。
 この他に,「お約束」として,オープニングコメント,ラストコメントがある。オープニングのほうは,今回の散歩の趣旨などをさらっと喋るだけだが,ラストコメントは,番組を締めくくる重要なポイントとなる。初めてこれを撮ったときは,同じことを繰り返してしまったり,なにやら訳のわからんことも口走ったり,さんざんだった(もちろん,良い所だけを編集してオンエアするが…)。喋りにくい場合,あるいは,演出のために引き出したいコメントがあるときなど,ディレクターさんがカメラの横から質問を投げ,それに答える形でコメントを出してゆく。「我孫子編」あたりでは,カメラのセッティングの間にざっと喋りたいことを頭の中で整理し,3分ぐらい一気に喋って,ディレクターさんの質問に2,3答えて,後は編集任せ,と言った具合である。自分でいろいろと企画段階から口出ししていると,コメントも考えやすい。ラストの一人語りは,散歩師のキャラクターをいちばん印象付ける場面なので,それなりに落ち着いて,できれば知的にコメントしたいものだが,いまだに自分で納得のゆくコメントは,なかなか実現していない。

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 ・プロとアマ

 ボクは断じてタレントでもプロのナチュラリストでもない。その立場はきちんとわきまえていたい。
 何を以って「プロ」と称し,何が「アマチュア」なのか。異論もあると思うが,少なくとも,「それで飯を食っている」商売が「プロ」であると言っていいと思う。もちろん,ボクは生物屋としては「プロ」の立場にあるから,たとえ平日の肩書きをオンエアしていなくても,自分のコメントにはプロなりの責任を負っている。しかし,マスメディア出演に関しては,「プロ」ではないのだ。

 実は,ボクが「自然観察する散歩師」に起用される前に,とあるナチュラリスト氏が候補に上がっていたのだそうだ。その人はボクとも面識のある人だったので,内心,ちょっと驚いた。詳しい経緯は省略するが,結果的には,メディアでの知名度の低いボクのほうに,お役目が回ってきたことになる。この話を聞いたとき,正直,ボクの「プロ」の立場としてのプライドを刺激した。
 自然解説などでマスコミと関わって収入を得る「プロ」は,近年,やっとこ成り立ち始めた商売と言える。確かに彼らの喋りは面白い。マスメディアを渡り歩くのも上手い。しかし,こっちにはイキモノ系の専門家としての情報量と情報の新しさがある。正確で豊かな情報量で,「プロナチュラリスト」達を凌駕し,平日の肩書きに恥じないようにしたい,と言う思いはある。ボクが長いこと自然解説者を「アマチュア」の立場で続けているのも,「プロの生物屋」が休日に自分の能力を無償で社会還元し,皆さんに喜んでもらうと言う目的があったからだ。その舞台が自然観察会からTVに移っても,立場は同じだ。その自然解説のクオリティの良し悪しについては,見聞きした人に判断を委ねるしかないが,プロの生物学者としての能力は注ぎ込んでいるつもりだ。
 少なくとも,オンエアされる内容が視聴者に好感を持って受け入れて頂けることを目標に,ボクを「自然観察する散歩師」に起用して良かったと制作サイドに思ってもらえるような仕事はしておきたい。それが「プロのお仕事」って言うものだと思う。

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 ・「自然観察する散歩師」の目指すもの

 「自然観察する散歩師」であるボクが,番組で提案したいもの。
 それはズバリ,「日常生活レベルでの自然観察」である。
……ん〜,ちょっと堅苦しいかな。
TV的に表現すれば,「自然コンシャスな日常生活の提案」と言ったところかな。

 「散歩」と言うものを「日常」/「非日常」で分類するなら,「東京ウォーキングマップ」のような散歩は,日常生活の延長線上の,「日常」からほんの少しだけはみ出た「非日常」の楽しさを与えてくれるものだと思う。その「プチ非日常」に持って行く道具として,「自然コンシャスな目」を用意しよう,と言うのが,ボクのおすすめ。
 普段から,身の回りの自然を意識して眺めていると,自分の住む町の環境が良く見えてくる。もちろん,身近にいろんな生き物が,自分たちと共に暮らしていることも見えてくるし,そいつらがいろんな形で,自分の日常生活に関わったいたりすることも,少しずつ発見できたりする。その予備知識と観察眼を携えて,何駅か離れた,近くの町に行ってみると,自分の住む町と同じものもたくさん見つかって,ちょっと親しみが湧いてきたり,自宅の近所と微妙に違うものが見つかって,ちょっと驚いたり,新しい発見があったりする,と言うわけだ。

 例えば,下町には自然なんて無いサ,などと言う先入観を捨てて,下町の路地裏に迷い込んでみよう。一見,庭なんかどこにも無いのだが,玄関の脇とか軒先とか道端とか,ちょこっと植木鉢を並べて置いてあったり,もっとお金を掛けてない人だと,魚屋さんのトロ箱に土を入れて野菜やハーブを植えてあったりして,意外とバラエティ豊かな植物が見つかる。植生がバラエティに富めば,やってくる虫の種類も意外と多かったりする。防災対策のために綺麗に整備された公園なんかより,路地裏のほうが自然が豊かだったりすると言う,意外な発見だ。さらに,植木が取り持つ縁で,地元の人との対話が生まれたりする。そうすると,さらに興味深い「自然情報」が得られることも,たまには(笑)ある。
 自分の住む町の,日常の自然の風景が分かっていれば,それを基準にして,いろいろな発見が出来るのだ。

 「自然観察的お散歩」は,まず,自分の身の回りの自然に親しくなることから始めよう。
 そして,いつもと少しだけ違う風景を探しに,お散歩に出かけよう。
 慣れてくると,自然との対話の中から,街や人の歴史まで見えてくる。

 「自然観察する散歩師」は,単なる生き物探しの達人でも,生き物の名前を教える先生でもない。生き物の生態を見ながら,その街の自然史を読み解いたり,自然と人との関わり合いの中から生まれた文化や,人と自然との共生関係をも探ってゆく,科学的にも文化的にも奥の深い観察をしているのである。

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 ・身につけているものについて

 「自然観察する散歩師」が着ている服。あれは完全に自前。はっきり言って,普段着(苦笑)。ロケはアウトドアだし,「散歩」と言う,限りなく「日常」に近いものを演出するのだから,着飾っているほうが違和感があるのでは? 参考までに,多少バラしてしまうと,Eddie BauerとかLANDS' ENDなど,定番のアウトドア系を使っている。一部は個人輸入品で,こんなところにも「こだわり」と「ひねり」があったりする。
 よく,野鳥を観察するときは地味な色の服を着なさい,と言われるが,服の色にはこだわっていない。都会の自然観察では,迷彩服やフィールドベストなどを着ているほうが,かえって街の風景から浮いてしまう。派手な色の服を着ても着なくても,都会の野鳥は,目に見えて人との距離の取り方を変えることは無い。どうせ,周囲にはお洒落な人たちがたくさん歩いているのだし……。「自然観察」だからと言って,気負って服を買い揃える必要は無いよ,と言うメッセージも込めて,普段着で気楽に歩いている。基本的には,行動しやすいカジュアル系であれば何でも良いと思う。ただ,TV的配慮として,こまかいチェックやストライプの服だけは避けている。

 余談だが,冬場の狩猟期に目立たない服で野山を歩くと,ハンターから誤射される危険もあるので,かえってカラフルな服を着て,身の安全を守ったほうが良いかも知れない。

 ところで,デイパックの中身は……身の回りの物の他に,観察道具が入っている。図鑑,双眼鏡,デジカメは必ず持ち歩いている。図鑑は季節と観察内容に合わせて,持ってゆく物を変えているが,ハンディサイズの物を常時数冊持ち歩いている。双眼鏡は,コンパクトでコストパフォーマンスの良いもので,実は旧モデル。最近は,バードウォッチングを始めると,いきなり10万円を超える超高級双眼鏡を買ってしまう人も結構お見かけするが,買ってはみたものの,双眼鏡が重くて稼働率が上がらないとおっしゃる人も多い。もっと気楽にやろうよ,と言う意味もあり,実売価格1万円未満で,重量300gと言うチョイス。それでも,しっかり基本性能は押さえている。何を隠そう,ボクは天文マニアでもあるので,光学機材にはちょっとうるさい。デジカメは,ロケの場で名前が同定出来なかった生き物などを記録して,あとで検索するために使っている。要するに「宿題」用。水辺での野鳥観察のあるときは,スポッティングスコープ&三脚を詰め込んでいたりする。スコープ+三脚で合計2kg。スコープを持つと,荷物がデイパックから溢れるので,ウエストポーチに図鑑を入れる。
 いずれにしても,重装備にならないのが基本。お気楽なお散歩に大荷物では,ちょっと場違い。気楽に,身近な場所で「自然との出会い」が楽しめることを演出したい。

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・「散歩師」と「鉄ちゃん」

 先日の船橋ロケのとき,Wディレクターから聞いた話。……「散歩師」には鉄道マニア,乗り物好きとか,地図好きが結構多いんだとか……。
 何を隠そう,ボクも結構好きだったりする(笑)。電車の撮影とか車両工場見学とか,そう言うのはほとんど経験が無いが,鉄道旅行は大好きで,子供の頃からいつも,手の届くところに時刻表とか地図とか,転がっていた。高校時代には周遊券と夜行の急行列車で貧乏旅行していたし……。もちろん,東京近辺の鉄道はほとんど乗り潰している。どうせ電車に乗るなら,乗って折り返すだけでは勿体無いので,駅を降りて沿線も歩いてみたりする。なるほど,自分の経験からみても,地図好き,電車好きには,街歩きに慣れている人が多いことは想像がつく。さらにボクの場合,市街地図だけでなく,地形図もけっこう買っている。地形図を見ながら,自然観察的に面白そうな場所を拾い出して,思い立ったときに電車で出かけてみる。ここ10年ぐらいは,自然観察会を開く場所をあちこちロケハンすると言う目的もあるので,出かけるときには首都圏の詳細な時刻表と市街図,地形図などに加え,デジカメや双眼鏡も持ち歩く。
 この番組の「代々木編」では,小田急線の踏切を渡るシーンの撮影時に,チラッと時計を見て,「あ,あと5分ぐらいでロマンスカーが通過しますから,それを撮影しましょうよ」などと言い出して,「隠れ鉄」ぶりを発揮してしまった(実際,ロマンスカーを待つシーンがオンエアされている)。
 東京の街の中を移動するなら,鉄道がいちばん確実で早い。さらに地図を把握していれば,本来は乗り換え駅扱いになっていない駅でも,ちょっと歩けば乗り継げる場所があったり,電車と歩きの組み合わせで,街を思い通りに歩けるようになる。なんだかんだ言いつつも,東京の街歩きと電車,地図は,切り離して考えることが出来ないのだ。
 暇なときに地図や時刻表を眺めて時間がつぶせる人は,「散歩師」の素質があるのかも?!

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