ガープス・キャンペーンNOVEL

「支配と運命の狭間に」

−序章その弐−

 狭い部屋の中で電子音が鳴り響く。まるで早く止めてくれといいたげに。

 「ん?ふぁ、はいはい起きますよ起きます。」

 部屋の主は音源を黙らした後、着替えをしようとクローゼットを開ける。

 「んー。今日は、どうするかなーっと」とクローゼットを漁っている。あまり整頓されていないようでもうごちゃごちゃであった。その服の海に埋もれそうな部屋の壁にあるディスプレイに光が点り、一人の女性が映し出される。

 「はぁー、やっぱりここにいた。全く何のんびりしているんだか。室長、おーい、しーつーちょー返事してください。」

 服を漁っていた男は、その声に気づくと、

 「おお、マヤさん。今日も奇麗だねー、いや君はいつも奇麗かな。はっはっは!」

 「相変わらず室長、朝はテンション高いですねー。そのテンションのままでいいですから早く来てくれません。第一、今日がどんな日か判ってます?」

 室長と呼ばれた男は、一瞬眉間にしわを寄せ考える仕種をした後に、

 「そうだったな、今日は大切な日だったんだ。危うく忘れる所だったよ。そう!今日は、君と僕の結婚し・き・・・・」

 そう言いかけて、固まる男。ディスプレイからは、いやーな雰囲気が・・・

 「とまあ、冗談は置いといて。判っているよ、配置地域発表の日だって言いたいんだろう。」

 「そのとうりです!!ですから早く聞いてきてくださいね。私達じゃ判らないんですから!いいですね。」

 プツンと切れるディスプレイ。それを見た男は、「やれやれ」とつぶやきながら着替え始める。

 (うむ、彼女はまじめすぎていけない。もう少し余裕という物を持たないと。さてそれにしても、配置地域か・・・確かに正式発表日は今日だが。)


 それは、昨日の事・・・

 仕事が終わり、廊下を歩いていた男に向かって呼びかける人がいた。

 「咆月君、ちょっと良いかね。明日の事で話があるんだが。」

 咆月と呼ばれた室長は、

 「ええ、かまいませんが。何か問題でも?」

 「たいしたことではないのだが、ちょっと君に意見を聞きたくてね。まあ立ち話もなんだからこっちに来てくれないか。」

 そういって、案内された部屋のプレートを見た咆月は一瞬自分の目を疑い何度も確認したが、そこには、{プロジェクト本部長室}とあった。


 (いったい、部長達は何を聞きたかったのだろうか?ほとんどが計画の確認で終わり。最後になって突然、書類を渡されて「君達の担当は、{支配}の第36番世界に決まったよ。君なら間違った選択はすまい」と言われてその後退室。6人の部長に囲まれて、まるで面接を受ける学生の気分だよ。ん?面接??いやまてよ。まさか・・・)

 「しーつーちょー、自分の仕事場を通り過ぎてどこ行くんですかー?」

 突然かけられた呼び声にびっくりする咆月。どうやら考え事をしていたら危うく目的地を通り過ぎる所だったらしい。

 「いやー、すまんすまん。ちょっと考えごとをしていてね。」

 「ふーん、どうせ今日の昼食何にしようとか考えていたんでしょ。まったく早く入ってください。」

 「うむ、バレテシマッタカ。いやなに朝飯を抜いてきたもんだから腹へって。」

 (部長達が、いったい何を期待しているのかは今は判らないが、自分にやれる事をやってみよう。)

 「しーつーちょー、なぁにそんな処で突っ立ってるんですかもう。」

 「ああ、すまん。」

 部屋に入っていく咆月。この時点で彼はまだ知らない。これから自分が選択したことでどれだけの人が悩み、苦しむのか・・・・

 

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