ガープス・キャンペーンNOVEL

「支配と運命の狭間に」

−序章その壱−

 広いガラス製のシリンダーの中に何か浮かんでいる。しかも二つ。周りでは研究員が、コンピュータらしき物と向かい合い作業を行っている。

 そして、そのシリンダーの前には苦悩とも後悔とも取れる表情をした白衣を着た女性と年老いた研究員がいた。

 その女性研究員が、ため息交じりに老研究員に言った。

 「本当に良かったのでしょうか、先生。」

 先生と呼ばれた老研究員は、目を細めまるで子供をさとすように、

 「そんなに心配かね?それとも母親としての母性本能のせいなのかな。なに、大丈夫だよ。彼女達は立派に育ってくれるさ。君の遺伝子を持ち、我々が我が子の様に愛情を持ってあくまで一人の、いやこの場合は二人かな。ともかく人間として育てたんだから心配はないじゃろ。」

 老研究員の誇らしげに語るその口調に、女性研究員は首を横に振りながら、

 「違いますよ先生。まあこの子達のことは、心配していない訳ではないんですが、私が本当に心配しているのは、この計画そのものなんです。」

 「??」

 「プレーンマテリアル(純粋生命)に受精卵時から教育を施し、重要な決定に際して意見を聞くような事は過去何例かありますが、マテリアル自身をしかも自分とまったく同じ能力を持ったマテリアルと戦わせるなんて、今まで例がありません。」

 「しかし、彼女達は、{指導者}候補だよ。その能力を直接使う機会は少ないはずだが?」

 「いいえ、{指導者}として直接戦うことは少ないとはいえこれは危険です。しかも今、二人に行っている記憶封鎖が何らかの影響で解けてしまった時、彼女達がどのように行動するか予想できません。」

 「予想がつかないって、そこまでのことにはならんとおもうが?」

 「ええ、私の娘達ですから、めったな事はしないと思いますが。多分、計画は狂うと思います。そのことを上は、全く考えていない。作られたとはいえ彼女達は人間です。普通の女の子なんです。」

  真剣に聞いていた老研究員は、「ふっ」と笑うと、再び女性にさとすように、

 「確かに、彼女達が自分の生い立ちを知った時の精神的なものについては考えていなかった。でも彼女達は理解してくれるのではないだろうか、私はそう思うよ。彼女達には色々な能力が与えられている。そこから、彼女達なら答えを導きだせるだろうて。しかし、先ほどの話を聞いていると君は計画より娘達の方を心配しているようにしか聞こえんかったが?」

 「えっ!いっ、いや、あの。」

 顔を赤く染め狼狽する女性を尻目に笑いながら立ち去っていく老研究員。そして女性研究員は振り返る。シリンダーに浮かぶ自分の娘達をもう一度目に焼き付けるように眺めた後、女性研究員も自分の仕事の為にその前を離れる。その後この部屋の照明が落とされ、ぼんやりと光るシリンダーが残された。そこには、数々のデータ表示と共に、「ユーフェミアとニーサ、我が娘達」と書かれていた。

 

・・・そして、物語は幕を開ける。支配と運命の狭間に生きる二人の女性の辛くそして悲しい物語が・・・

 

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