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さっそくですが、今夜はこの本をおすすめしておきましょう。 「無伴奏ソナタ」(ハヤカワ文庫SF) オースン・スコット・カード著 | ||
心を打つ短編SFを読みたい、と思った方に、ぜひおすすめいたします。 名作の誉れ高い「エンダーのゲーム」の習作短編が入っていることもそうですが、 ここに収録されたどれもが完成度の高い、胸を打つ話ばかりです。 私が今までで出会ったSFの中でも ベスト3に入る話が2編もここには入っています。 そのひとつ、表題作「無伴奏ソナタ」については語るべき多くの言葉は ありません。 ただその周辺に関しては、いつかお話したいと思っています。 今日は、もう一編の話、「磁器のサラマンダー 」の話を少々いたしましょう。 | ||
..生きていくというのは、どういうことなのでしょう。 大切な、決して失いたくないものを、それでも失うのが、生きていくということです。 この話は、決して失いたくないものを失う哀しみを知る人の心に 深く響くことでしょう。 まだ失ったことの無い方には、..この話の語る真実の意味がわかったとき、 あなたは、生きることの哀しさと、それを越えた先にあるものを知ることでしょう。 | ||
◆ 「磁器のサラマンダー」 | ||
呪いによって、ごくわずかに歩ける体力しか持たなくなった少女キーレンのもとに
磁器製のサラマンダーが届けられます。魔法によってまるで生きているかのように
動きしゃべるサラマンダーのおかげで、キーレンは笑みを取り戻し、少しずつ
体力を取り戻してゆきます。 「あなたを愛してるわ」キーレンは言います。呪いから救ってくれた恩人、孤独なキーレンのたった一人の話し相手であり慰めである、この磁器のサラマンダーを、キーレンが愛するようになるのは当然のことでしょう。 さて、キーレンにかけられた呪いとは、「心の底から愛する誰かを失うまで、自由に体を動かすことはできない」というものでした。サラマンダーは、まさにその呪いを解くためにキーレンのもとにやってきたのです。 キーレンを完全に呪いから解放するためには「最後の仕上げ」が必要でした。 そのための「罠」が、とうとうキーレンとサラマンダーを捕らえる日がやってました。 見えない壁に閉じ込められ、しかも、その壁が徐々に迫ってくる魔法の罠の中で、二人は必死で脱出しようと試みます。あと少し、 ほんの少しでキーレンの指が壁のへりに届くのです。 「何か踏み台になる物があれば..」そう言ってから、キーレンはハッと気付き、悲鳴をあげました。 「だめ、だめよ、止まらないで!」..サラマンダーは、一度動きを止めたなら、永遠に物言わぬ冷たく固い磁器の置物に戻ってしまうのでした。そういう風に作られたのです。 けれども壁はどんどん迫って来ます、一刻の猶予ももはやありません。 「あなたのためなら、止まります」 「だめよ!」キーレンの悲鳴が終わらぬうちに、サラマンダーは壁ぎわで足を止め、そうしてただの磁器の置物になりました。 キーレンが泣いたのは、ごくわずかな時間でした。壁が合わさり始め、キーレンは必死で壁をよじのぼらなければなりませんでした。 壁の向こうに転がり落ちた瞬間、通常の少女の持てる力の全てが、キーレンの体内にみなぎり、キーレンは走ることができ、跳ぶことも大声で話すことも出来るようになりました。こうしてキーレンは呪いから完全に解き放たれたのです。 けれどもキーレンの悲しみはどれほどだったでしょう。 泣きじゃくる彼女に、魔法使いが言います。 「彼が動くのをやめ、永遠に凍りついた時、その心の中をどんな感情が横切っていったことだろうか。 ..今、彼は記憶となった。 しかし、このことを忘れぬがよい、サラマンダーもまた記憶を持っていることを。 凍りついた時のままの記憶を持ち続けていることを」 | ||
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いかがでした、今夜の物語は。 私がオースン・スコット・カードのSFを好きなのは、まさに、こういったことなのです。 こんな話を、私も書いてみたいものです.. | ||
さて、今夜の酒はお口に合いましたか。 茶房の玄関へ戻る方は こちらへ。 |