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今夜はとっておきの話をしましょう。お話しする小説の題は「接続された女」です。 おっ来た来た、と思われた方は、SF通でいらっしゃる。 そう、今でも「私の好きなSF」と云うアンケートをやると、必ず上位に来ると言われる、あの、短編です。 (ハヤカワ文庫SF「愛はさだめ、さだめは死」J・ティプトリー・ジュニア著 収録※) ...どこから話し始めるのが妥当でしょうか。 主人公は二人。類い希れなる美しさと可憐さを持つ少女、デルフィ。ある日社交界に突然デビューした彼女は、地上に降りた天使の名を欲しいままにします。 もう一人の、そして本当の主人公、P.バーグ。彼女もまた多感な少女です。けれど残酷なる運命の神はバーグにこれっぽっちの美しさも与えませんでした。 デルフィは実は、人工的に培養され優良な形質のみを発現させた改良クローンでした。自分では何もできないのはもちろん、目覚めることもない何の人格もまだ植えつけられていない、白痴の天使。 ある日からバーグは、そのデルフィのボディに接続されることで、新しい人生を踏み出したのでした。 そう、そして(もちろんですが)、デルフィになったバーグは恋をします。相手が誰かはこの場合さほど重要ではありません、やはり上流階級の御曹司とでもしておきましょう。 ...もうおわかりですね。バーグは恋をしたのです。けれど、相手が愛しているのは自分ではない、デルフィなのです。 そして物語は定められる運命のまま、悲劇へとなだれ込みます。..ラストシーンは、語りません。ただただ、運命に翻弄されることの悲しさと、それに精いっぱい抗おうとする恋する者の想いに、..涙し、そうして、思うのです。 ..人が人らしく生きるというのはどういうことなのだろう、と。 著者J・ティプトリー・ジュニアは、作品の中で繰り返し問うています。人とは、人の心とは何か、と。バーグの肉体が死んだあとも残る想いは、(おっと失礼)その「何か」を訴えかけ、読む人の心を直接揺さぶるようなメッセージを残します。それが、この短編をただの恋愛小説を超えたものにしています。人としての尊厳とは、人が人であることがどれほど気高く、なにものにも侵されないものであることかを、...どうか感じとっていただけたら幸いです。 | |||
※収録本題名未確認です(「たったひとつの冴えたやり方」だったかもしれない) 茶房メニューに戻る |