| ||
いえ、たいそうなことではないので、あまり期待しないで下さいよ、 お出しするのは本当にささやかなメニューなんですから。 季節のメニューはいかがですか、梨とプルーンの一皿です。 ..梨はお話ししながらむきましょう、 プルーンは洗ってありますからそのまま召し上がれますよ、 あっ、イガ付きの栗はディスプレイです、食べられませんから(笑)。 今かかっている曲ですか?..オスカー・ピーターソンですね、 アルバムタイトル「The Oscar Peterson Trio Plays」 オスカー・ピーターソン(p)、レイ・ブラウン(b)、エド・シグペン(ds) (POCJ-2472 PolyGram Records Inc.) ..夕方になってからふらりと街へ出たんです、空がほんのりオレンジ色になった頃。 あたりはキンモクセイのいい匂いでいっぱいでした。 近くに様々な植物のある所がありましてね、その小道を、いつもの半分以下の速度でぶらぶらと歩きました。いたるところにオミナエシがつぼみを付けていました、足元に散らばるキンモクセイの花を踏みながら、それらの花々にあいさつして、ムラサキシキブのある辺りにさしかかると、..紫色の小さな実が今年もたくさんついていましたよ。..ムラサキシキブとホトトギスは、一緒に生けるとなんともいい取り合わせなんですが、生える環境が若干違うらしく、一緒に生えているところを見ませんねぇ。あとは、山野に生えるワレモコウ。あれも街なかでは花屋で買うものですね、この辺で生えているのは見たことがない。 小道を抜け、商店街に入り本屋をのぞいて出る頃には日ももうとっぷりと暮れて、さて、どこへ行こうか、と、のぞいた花屋の軒先には、ピンクのガーベラとトルコキキョウ、紅花、そしてありましたよ、ワレモコウ。 あのフランス人形のドレスみたいなピンクガーベラを、カスミ草でなくワレモコウとアレンジして、紅花をすきまにあしらったら、すっかり秋の花らしくなるなぁ..と思い、財布のヒモが緩みかけましたが、結局は買いませんでした。..これからまだ少し距離を歩きます。道連れに花はちょっと可哀想ですからね。 小さな市場みたいな一画がこの街にはありましてね、秋の果物がいっぱいに並んでいました。ええ、今お出ししている果物はそこで買いました。安くて新しいものが手に入ります、近くの飲食店のみなさん御用達ですからね。 プルーンがありました。これは出回る時期が短いですから、見つけたら買っておくことにしているんです、この時期、「柿が赤くなると医者が青くなる」なんて言いますが、本当に、健康にいい果物がたくさん出回りますね。 プルーンは結構な数がぎっしりと入っているパックなので一つにしたんですが、「2つで500円にするよ」と言うお兄さんの言葉につい、2つ買わされてしまいました。商売上手だなぁ。 果物の袋とさっき買った本を持って、中心街から一本外れた脇道を行きます。ここには知る人ぞ知る、穴場のイタリアンレストランがあります。店の隣りは花も売っているカフェです。周りは閑静な住宅地ですから、この道に入ると遠くからでもそれらの灯りが道に暖かい光を投げかけているのが見えます。 ..あぁ、今年も灯火の恋しい季節になったなぁ。 しみじみ、そう思います。白熱灯の黄色い光が、心なごませてくれます。カフェの方と目が合ったので軽く会釈して、お花を見させていただきます。コーヒーを飲んでいるお客さん方は皆楽しそうで、店内には低くジャズが流れ..あ、ウチの店とちょっと似ていますね。 天井にぎっしりとぶら下がったドライフラワー、店内のガラスの器に灯りがきらきらと反射します。秋の夕暮れを楽しむのに最高のロケーションです。 ..隣りのレストランのシェフが「本日のおすすめ」の黒板を抱えて出ていらっしゃいました。 おすすめの一品と赤ワインのカラフェをとって、ゆっくり食事したくなりましたが、..アタシも店開けなきゃなりませんしね、こうして来て下さるお客様のためにも、それから店の冷蔵庫で待っている食材たちのためにも、ここはぐっと我慢です(笑)。 今かかっている曲、「Little Darlin'」好きですね、この曲は。ビッグバンドの定番ですが、このピアノトリオのテイクも好きです。 さて、そうやってあとはとりたててお話するようなこともありませんが、こうして店に戻って灯りを灯し、果物を洗いコーヒーをいれ、シチューの仕込みなんかをしていますとね、...秋なんだなぁ、って。 いえ、本当に、それだけのことなんですけども、このなんでもない秋の宵を楽しめるって、..なんだかいいじゃありませんか。 おや、すっかり平らげていただけましたね、あとはお酒に切り換えましょうか? ..夜は長いですからね、どうぞごゆっくり。 |