「カラマーゾフ」創作ノート10

2013年10月

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10/01/火
火曜だがなぜか大学は休み。本当かなと思う。先週は祝日の月曜から始めたのでその代休ということらしい。月曜日が祝日になることが多いのでそのための調整だろう。とにかく休みなのでゆっくり寝て、雨が上がったので夕方に散歩。それ以外はひたすら『カラマーゾフ』。9月から本格的に書き始めたのだが、だいたい20ページ、400字にして60枚くらいか。月に200枚くらいのペースで進まないと長篇は書けない。今月は集中したい。ここまでのところ、イントロの謎の人物の手記ふうのところから、主要登場人物3人が列車に乗りあわせて会話を交わす。その会話で状況設定をするつもりだったが、この場面が少し長すぎる。半分にカットした。状況設定も半分になったが、これでいい。状況を説明しすぎるとつまらなくなる。列車はモスクワを出発して、いまコロムナに着いたところ。次がルホヴィッチ、それからリャザンに停車する。それから馬車に乗って、廃墟となった修道院に向かう。その間、ずっと会話をしているので、長すぎる。このあたりで時間を飛ばしてしまいたい。まだ大長編(2000枚くらいか)の最初の100枚にも到達していない。修道院に着いたところで100枚になればいいか。そこで主人公のアリョーシャを登場させたい。今週は火曜日が休み、金曜も休みだが、週末には大学の入試があるのでややスケジュールが厳しい感じだ。わずかな時間でもメモをとり続けて登場人物たちの会話を進めていきたい。実は修道院に着いてから何が起こるのか、細かい手順は考えていない。考えると図式的になる。なりゆきに任せて、1人ずつじっくりと新たな登場人物を紹介していきたい。最初に出てきた3人とは、準主役のコーリャ、探偵のザミョートフ、それから12使徒の1人のマトフェイというメンバーだ。使徒は当然12人いるので、全員が1人ずつ出てくることになる。大長篇になる。これに前篇の主要登場人物、すなわちカラマーゾフの3兄弟と対応する3人の女を出さないといけない。とにかく10月になった。気分を一新してこの月を乗り切りたい。

10/02/水
水曜日は授業はないが学部長会議。急いで帰ってイーブックジャパンの編集者と打ち合わせ。

10/03/木
大学。授業3コマ。まあ楽しく学生諸君と歓談できた。

10/04/金
本日は休み。淡路町の角にある文房具屋にボールペンを買いにいった。仕事はワープロだが、メモ書きと日記のために水性ボールペンを用いる。最近はゲルインキが普及して水性ボールペンを置く店が少なくなった。通信販売で購入したこともあるのだがいま住んでいる集合住宅では受け取りがめんどうなので、近くの店にあるかと行ってみたのだが、愛用の100円のものがなくて、150円のものしかなかった。値段の違いはペンのデザインというか、ちょっと上等っぽい感じになっているだけで、書き心地は同じだ。小雨が降っているので他の店に回ると濡れると思い、5本購入した。帰ってからリビングルームから下界を見下ろすと、淡路町の交差点はほとんど真下に見える。散歩になるような距離ではなかった。雨の日は地下鉄で大手町あたりに出かければよかった。

10/05/土
昨日と同じような霧雨。小川町から新宿線に乗って新宿三丁目。マッサージ。肩が凝っていたので楽になった。このところよく仕事をしている。『カラマーゾフ』のピッチが上がっているのでキーボードを叩いている時間が長い。よく働いている。

10/06/日
日曜日だが大学でAO入試の面接。丸一日がつぶれた。あー、疲れた。

10/07/月
前日から続けて早起き3連続の2日目。本日は1年生の授業がなく学科会も中止になったのだが、武蔵野文学賞在校生卒業生部門の予備選考があるので研究室で作業。ようやく候補作を選んで他の選考委員に渡して自宅に戻る。四日市の次男が来た。山形県に転勤になって引越の作業に出向くとのこと。サラリーマンだからそういうこともある。まあ、元気そうだった。明日が早いので早めに寝る。

10/08/火
3連続早起きの3日目。1限だけなのですぐに帰って自宅で仕事。明け方まで作業を進める。1日が長い。

10/09/水
大学院の会議がなくなったので自宅にいた。『カラマーゾフ』は100枚くらいのところまで来た。9月から書き始めたのでまだペースは遅いのだが、出だしで方向を間違うと軌道修正が大変なのでやや慎重に進んだ結果だ。まだ3人しか登場人物が出ていない。3人だけで100枚引っぱったので、この先、何枚書けばいいのかと暗澹とする。まあ、前進するしかない。120枚くらいで舞台の修道院に到達できるか。それでもまだしばらくは主人公アリョーシャが出てこないのではないかと思う。本日から妻が大阪の実家に行った。親の介護などのため。わたしの親2人はもういないのだが、妻の親はまだ2人とも健在だ。夫婦は親を4人かかえているわけで、4人の介護が終わった頃には自分の介護が必要になる。ところで、4月に転居して、妻がいなくなるのは初めてだ。三宿の家では何の心配もなく一人で生きていけたのだが。この新居ではわからないことが多い。トースト一枚焼くのにも大いなる戸惑いの中にあって、結局、何だかよくわからなかった。電子レンジ、洗濯機も新しくなったので使い方がわからない。料理はしないのでディスポーザーは使わなくていいだろう。皿洗い機も必要ない。とにかく何とか生きていきたい。

10/10/木
大学。3コマの日だが、学生にしゃべらせる授業だったのでそれほど疲れなかった。日曜日に予定されていた入試に関して、学部長は出なくてよくなった。わあ、休みだ。日曜に休めるのは本当に嬉しい。

10/11/金
本日は午前と午後、2回文藝家協会で会議。1度自宅に帰る予定だったが午前の会議が長びいたので、四谷ルノアールで仕事をする。妻がいない4日間も明日で終わる。

10/12/土
池袋のカルチャーセンターで1回だけの講義。空海について。空海の話はおもしろい。まあ、愉しく語れた。その後、担当者と軽くビールを飲むつもりだったがもう一軒、大塚で飲むことになった。明日は入試の予定だったが直前で担当が外れたのでのんびり飲めた。妻が帰ってきた。本日は四日市で孫の運動会を見たそうだ。

10/13/日
本来は入試の監督のはずだったのだが、直前にやらなくてよいことになって、のんびりした休日。日曜が休みだというのはありがたい。ひたすら仕事。第一章がそろそろ終わりそうだ。第二章の冒頭部を少し書いてみる。この作品は語り手が冒頭に登場する。ストーリーが動き始めると語り手は消えてしまう。それで章の頭などに時々語り手を登場させて、このスタイルを読者に確認してもらわないといけない。今回は語り手を限定することに意味がある。これまでのたとえば『罪と罰』は捜査官ザミョートフの視点で押し通した。『白痴』はイッポリートを主人公に据えた。『悪霊』はキリーロフが主人公になった。今回はそのようなスタイルで視点となる主人公を設定することができない。スケールが大きくなっているからで、登場人物も多いし、論点も多様になっている。ところでこの作品は何枚くらいになるのか。何も考えていない。『悪霊』よりは短くしたいとは考えている。第一章は120枚くらいになった。10章で1200枚に収まればいいのだがそういうわけにもいかないだろう。とにかくしばらくは何も考えずに前進したい。

10/14/月
大学1限。あとは授業はない。他の先生方は入試問題の検討会があるので自分の部屋で自分の仕事をする。2時くらいに検討会が終わるという連絡があったので、教授会を2時半に設定して、それから学科会もやって午後4時にはすべて終了した。本日は1年生の入門ゼミの授業がないので全体の作業を早く終えることができた。自分の仕事も少しできた。

10/15/火
大学。1限だけ。わたしがセンター長をつとめている能楽資料センターに寄ってから帰宅。午後にペンクラブの理事会が予定されていたのだが、人数が揃わず流会。自宅で仕事ができた。

10/16/水
本日は何もない。台風は朝のうちに通過していった。夕方、文藝家協会で著作権団体の会議。電子出版をめぐっての法律改正についての対策を考える。業界ごとに微妙に立場が違うのだが、未曾有の事態なので団結をしたいと思う。その方向で進むことになった。夜、テレビで巨人・広島をやっていた。プレーオフが始まったようだ。巨人に1勝のアドバンテージがあるが、まあ、勝った方が安心できる。前半、負けていたので、べつのチャンネルをしばらく見てからチャンネルを戻すと、同点になっていた。さらに得点のチャンスになった時に、放送時間が終わった。衛星でもやっていない。パソコンを開けてまずラジオをかけ、ネットで同時中継をやっていないかと探したら、ストリーミングで放送はやっていたのだが、ラジオをかけながら見ると、画像にタイムラグがある。結局、ラジオを聞きながら、あとで画像を確認するという感じになった。マンションに転居したので、CS放送も見られるのだが契約していない。これは自分にとって禁じ手にしている。CSやケーブルテレビを見るようになると仕事に支障がある。フットボールのプレーオフなどは、CSやケーブルで同時中継を見ている人々のチャットを見て経過を知る、といった状態になるのだが、それはそれでけっこう面白い。ところでそのフットボールだが、マニング弟のニューヨーク・ジャイアンツは開幕6連敗。マニング兄のブロンコスは6連勝。明暗が分かれた。スーパーボウルでの兄弟対決は今シーズンも難しいだろう。しかしジャイアンツのいる地区は1位のチームが3勝3敗なので、まだチャンスはある。ブロンコスは全勝だが、同じ地区のチーフスも全勝なので、これからも厳しい闘いになるだろう。しかし優勝できなくてもプレーオフには残る。今年はセインツも調子がいい。あとは49ナーズの調子が戻れば面白くなる。大昔に応援していたベンガルズも今年はなかなかがんばっている。

10/17/木
木曜は授業が3コマある。学生にしゃべらせるようにしているのでそれほど疲れるわけではないが時間をとられる。夜中に少し仕事をする。

10/18/金
本日は休み。『カラマーゾフ』は第2章に入った。語り手が再び登場する。この語り手が語るというスタイルは、当初は迷っていたのだが、冒頭に続いて第2章にも登場させることで、文体が安定したように思う。というか、もはや引き返せないという居直りみたいなもので、このまま先に進むしかない。第1章は列車でひたすら3人の登場人物が語るだけで、最後に修道院が見えたところで終わっている。第2章では修道院の中に入り、いよいよ主人公が登場することになる。巨人が3連勝で日本シリーズ出場を決めた。楽天は負けた。相手が楽天だと戦意が喪失する気がするのでロッテが勝てばいいかなとも思うのだが、巨人対田中の試合も見たい気がする。

10/19/土
土曜日だが大学で保護者会がある。大学でそんなものがあるのかと、初めてこの大学の専任になった時は驚いたのだが、もとは女子大だったからだろうかこの大学はサービスがいい。中学や高校の保護者が心配するのは進学のことだが、大学の保護者の関心は就職ということになる。文学部は資格がとれる学部ではないが、経済学や法学部よりは役に立つ教養を学ぶことができる。そういうことを説明する。本日から妻が不在。また親の介護のため。先週もしばらくいなかった。その時にわかったのは、転居したこの御茶ノ水の地は学生街なので、一人暮らしには大変に便利で、コンビニもたくさんあるし、周囲には食事をするところがいくらでもある。このあたりはカレーと中華で有名な街だが、ごくふつうの定食屋もある。とにかく一人で生活していても困ることは何もない。夜は『カラマーゾフ』。第2章、順調に進んでいる。

10/20/日
日曜だが大学で学園祭があり、わたしがセンター長をしている能楽資料センターが能面制作の実演という催しをやっている。終わりかけのころに会場に着いて、締めの挨拶をした。これで義務を果たせたので、八王子の北野の公民館でのコーラスの練習に参加。大学から京王線北野に行く方法は5通りある。バスで武藏境に出て西武多摩川線で白糸台まで行き京王線に乗り換えるというコースを試してみたかったのだが、乗り換えに少し歩く必要がある。真冬のような冷たい雨が降っているので、雨に濡れないコースを考えた。中央線で八王子に行って京王線の八王子まで歩くというのも却下。とにかく三鷹に出て特快が来たら立川から分倍河原に行こうと思っていたのだが、各駅停車の高尾行きが来たので高尾まで行って京王線に乗り換えた。子どもたちが幼稚園から小学生までをすごした、めじろ台という駅を通過する。あとで飲み会でここまで戻ることになる。30年ほども以前のことだ。

10/21/月
大学祭の代休で休み。この休みはありがたい。ひたすら仕事。

10/22/火
まだ妻がいない。朝1限がある日。昨夜は午前3時まで仕事をしていた。それで朝6時半に起きられるかが課題だった。目覚まし時計が時々鳴らないことがあるのでケータイの時報もセットしておいたのだが、危惧したとおり目覚ましは鳴らずケータイの音楽で目覚めた。曲のタイトルは「癒し」というらしい。快適な目覚めた。1限のあと大学院の修士論文を書く学生たちの中間発表。これも締めの挨拶をする。これで公用は終わり。午後3時半に自宅に戻り、荷物を置いて理髪店へ。1800円。安い。さて、本日はマンデーナイトの日で開幕6連敗中だったジャイアンツがやっと1勝をあげた。昨日、6連勝していたマニング兄のブロンコスがついに1敗したのだが、マニング弟はようやく1勝した。これから全勝すればまだプレーオフに出るチャンスはある。さて、フットボールのことを書いておこう。Aカンファレンスの方はチーフスが全勝、これは意外だ。去年2勝しかしなかったチームだ。監督とQBが変わっただけでこんなに強くなるものか。キャパニックの活躍で47ナーズをクビになったQBスミスがこのチームを締めている。マニング兄のブロンコスは1敗したけれどもプレーオフには残る。他にはベンガルスに期待している。ペイトリオッツも5勝してはいるがQBブレイディーはワイドレシーバーの不出来に困惑しているようだ。Nカンファレンスの方は、ジャイアンツがわずか1勝なので希望がなくなった。セインツと47ナーズを応援しよう。

10/23/水
休み。ひたすら仕事。親の介護で実家に行っていた妻が帰ってきた。よかった。

10/24/木
大学。3コマの日。3年、4年、大学院の授業なので楽。疲れるのは2年生と、文学史の講義の時間。月曜の1限、火曜の2限という早朝の授業なので、そちらは疲れるのだが、木曜日は午後からの授業なので体が楽だ。『カラマーゾフ』は実在の人物が登場する。皇帝暗殺に到るプロセスが、小説の中に入り込む。たぶんドストエフスキーがやろうとして出来なかった構成だ。われわれ(わたしと読者)はロシアのその後の歴史を知っている。ドストエフスキーは知らない。その差を利用して原典のスケールを上回る作品に仕上げる。それがこの作品に取り組む意義だと自分では思っている。

10/25/金
大学の同窓会。同時に半年前に亡くなった級友の追悼会。早稲田の完之荘。大隈庭園の中の一軒家。昔は仕出し弁当みたいなものを食べさせるところで、教授会とか、『早稲田文学』の編集会議をやったものだが、いまは併設されたロイヤルホテルと提携しているようで、上品な料理が出てきた。値段もそれなりだが、皆、高齢者なのでお金には困っていない。でも会えば貧しかった学生時代の話になる。このクラスで亡くなったのは3人目か。知らないだけなのかもしれないが、けっこう皆しぶとく生きている。台風が近づいている。今週は月、水、金と休みで週末も休みだったので楽だった。昔、大学の先生も著作権の仕事もしていなかったころは、毎日が休みだったのだが。しかしいまの方が確実に自分の仕事はできているので、忙しい方が頭の回転が速くなるようだ。

10/26/土
この週末は休み。今週は比較的のんびりしている。マッサージに出かけただけ。『カラマーゾフ』を進める。原典を踏まえた作品なので、原典とどのようにつながるかをおりにふれて書き込まなければならない。重要なのは、3兄弟と3人の女の関係が、原典の結末と、わたしの作品の出発点では、微妙にズレているということだ。そのことを最初に示しておいた方がいいのか。グリューシェニカがアリョーシャのそばにいる。そのことを提示する前に少し説明しておいた方がいいだろう。そういう展開はドストエフスキーが暗示していたものなので、そのアイデアを踏襲しているのだが、これは続篇を書く場合に、決断が求められるところだ。わたしは何かをじっくりと考えているわけではない。憑依したドストエフスキーの霊に従って書き進めているだけだ。こういうことは考えすぎてはいけない。閃いたことを、神のお告げだと信じて先に進むしかない。

10/27/日
妻と大手町まで散歩。木々に電飾が施されてクリスマスムードになっていた。

10/28/日
大学。1限のあと、本日は3・4限と1年生の授業。文学について語る。臨時教授会と学科会。

10/29/火
大学。1限のあと能楽資料センターに寄って自宅に戻りひたすら仕事。50ページ150枚を突破したのにまだ主人公が登場しない。大丈夫か。

10/30/水
授業のない日だが早朝に大学に出かけて学院長と打ち合わせ。昼休みに教務・学務と協議。それから日本点字図書館の理事会。長い一日だった。

10/31/木
3コマある日だが、4限は狂言についての講演会に振り替えたので講師に挨拶しただけで講演を聞いていればよかった。5限は女の子が2人来ただけなのでひたすら雑談。6限は4人集まったので充実した授業になった。一人でしゃべり続けるような授業ではなかったので楽だった。まだ清書の入力をしていないが、主人公登場の直前まで話が進んだ。日曜日は入試があるのでつぶれるのだが、明日の金曜と明後日の土曜はお休み。自分の仕事に集中できる。10月も終わった。『カラマーゾフ』は順調に進行している。大学の仕事もこなしている。来月は文藝家協会の仕事も緊迫してくるだろう。超多忙の中でいよいよ主人公のアリョーシャが登場する。忙しい方が脳が活性化する。憑依したドストエフスキーの霊が暴走するような気がする。


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