「カラマーゾフ」創作ノート09

2013年9月

8月に戻る 10月に進む 月末
09/01/日
新しい月になった。このノートは今年の1月にタイトルを新しくしてスタートしたのだが、『カラマーゾフ』はまだ出だしの数ページを書いただけだ。しかし数ページ書けたというのはすごいことで、ゼロではない。ゼロからは何も生まれないが、数ページができているということは、無限に通じる。いまその数ページをくりかえしチェックしている。まだ文体が確立されたという感じがしていないが、ほぼ固まりつつあるという感触がある。長篇を書く時はいつもこんなふうに文体確立までに時間がかかる。けれども今回は時間がかかりすぎている。手探りでノートを書き始めたせいだろう。そもそもノートを書き始めた段階では原典を読み返していなかった。高校生の時に初めて読んでから、ちゃんと通読することはなかった。評論などを読みながら部分的に読み返したことがあるだけだ。で、今回、改めて読み返して、少しゆるいかなと感じた。『悪霊』の方が密度が高いように感じた。考えてみると『罪と罰』はすごい作品だし、『白痴』のノートもよくできている。『カラマーゾフ』の原典は、脇役が活きていない。おそらく続篇でしっかり書く、というつもりのキャラクターも何人かいるのだろう。そう思ってじっくりと読み返したのだが、コーリャ以外の人物は魅力がうすかった。それでなかなか第一歩を踏み出せなかったのだが、この作品は自分が書くのだから自分の作品であり、何をやってもいいのだと思い直した。そうしたら気が楽になって、いくつかのひらめきがあった。これまでの三作を踏まえた上でのこの作品がある。最初のスヴィドリガイロフ、それから創作ノートの中の白痴、そしてニコライ・スタヴローギン、こういう人物の系譜のあとに、今回の作品のヒーローが続くことになる。わきやくたちも、これまでの三作の魅力的な人物をそのまま使っていいのだと考えている。そこで第一作の主役に抜擢したザミョートフを今回は使うことにした。主役はコーリャだが、そこにいきなりザミョートフを出す。わたしの『白痴』の冒頭は、汽車の中で3人の人物が偶然出会うという設定(原典もそうなっているが人物は異なる)ということになっている。そのパターンを今回も使う。で、どういう3人を揃えるかでしばらく考えていたのだが、コーリャ、ザミョートフ、それからマトフェイという人物を登場させる。マトフェイはわたしの白痴みたいな人物だ。これでクセのある人物が揃った。ここから作品はいきなり、個性と個性のぶつかりあいになる。冒頭から密度を高くして、そのまま一気に突っ走る。出だしの文体がまだできていないのは、密度がそこまで高まっていないからだ。あと数日で、どんどん密度が上がっていきそうな気がする。

09/02/月
書協で図書館当事者協議会。年に3回くらい開かれる定例と会。いつもと同じメンバーで議論を重ねるものの何も決まらない。それでも何かやっているという気になる妙な会議。いったん自宅に帰ってから夕方は新宿住友ビルで日大文芸賞の選考会。昨年からこの選考会に参加したので自分にとっては2回目。まあ、楽しく選考ができた。選考のあとで食事。このところ酒を断っている(動物園ではビールを飲んだが)のだがこれは公用なので日本酒を少し飲む。早めに寝る。

09/03/火
大学で打ち合わせ。プリントのチェックはイエスの章の後半まで進んだ。「カラマーゾフ」も少し前進。

09/04/水
「カラマーゾフ」これまでよりも文章の密度が高くなりつつある。早い段階で登場人物の素性を明らかにすることで、人物のモチベーションが読者に見えるように設定したい。2人人物が出てきてしばらく議論する。やがて3人目が登場して新たな展開がある。こういうスタートの仕方があっていい。ただし冗長にならないように気をつけたい。ドストエフスキーの原典は冗長なやりとりが多い。19世紀の小説だし、もともとロシア人はおしゃべりなので、冗長な会話にリアリティーがある。日本人はそれほどしゃべらない。しゃべらなくても相手が空気を読んでくれるという国民性だからだ。わたしが書いているのは日本の読者を対象とした日本の小説(たとえ舞台がロシアでも)なので、日本人の感性に伝わるようなスタイルで書きたいと思う。本日は夕方、文藝家協会で打ち合わせ。業界はいまたいへんな状況にある。電子出版権をめぐって、魑魅魍魎の世界になっている。自分としては、楽しみながら眺めていたいと思うのだが、けっこう忙しいことになりそうだ。『釈迦とイエス』のプリントのチェックはイエスの章が終わった。実は最終章は書きかけてストップしている。ということはこの先は新たな領域になる。明日からの作業はハードになる。並行して「カラマーゾフ」もやらないといけない。とにかく全体として自分の作業のピッチを早め、密度を上げないといけない。

09/05/木
本日は自宅で仕事。「カラマーゾフ」を進めている。人物がようやく動き始めて流れができそうだ。文体も固まってきた。これで行けるかどうか。まだわからないし、冒頭部にワクのようなものを置いたので、これの効果がどのあたりで生きてくるかが懸案だが、このワクは時々見せておいた方がいいだろう。1章の長さをどの程度にするかも考えておきたい。登場人物がかなり多くなるので、とくに出だしの部分は一人、また一人と人物が増えていく感じにして、いきなり多人数を出さないようにしたい。

09/06/金
大学。臨時教授会。単位を落として9月卒業となった学生の認定。そのあと短く学科会。このところカリキュラムの編成などで先生方にはたいへんな負担をかけていたのだが、実務のできないわたしはただ見守るばかりだった。朝、『数式のない宇宙論』の出来上がった本が届いたので、学部の先生方に進呈する。それから急いで文藝家協会に向かう。常務理事会と理事会。ここでも本を配る。それで一日がつぶれた。週末は何もないが、来週は人間ドックがあるので体調を調えたい。さて、いよいよフットボールの季節になった。開幕戦は

ペイトン・マニングのブロンコスと、昨シーズンのチャンピオンのレイブンズ。ブロンコスの昨シーズンのトーナメントで、ラストプレイで逆転負けした。その恨みを晴らすようにマニングの7タッチダウンパスのNFLタイ記録で快勝。ただ守備の弱さは昨シーズンのままで、地区優勝はするだろうが、プレイオフのトーナメントで取りこぼしをしそうだ。さて、今シーズンの優勝候補がどこなのか情報はまったくないのだが、自分が応援するチームは、ブロンコス、49ナーズ、ジャイアンツ、スティーラーズになると思う。開幕戦に快勝したプロンコスだが、2戦目にはジャイアンツと当たる。おおっ、マニング兄弟の対決ではないか。昨シーズンのスーパーボウルは監督ハーボーの兄弟対決だった。このマニング兄弟の対決はスーパーボウルで見たかったのだが、今年もジャイアンツは守備が弱そうで地区優勝も危ういのではないか。スティーラーズはロスリスバーガーの体調がふつうなら地区優勝はまちがいない。スーパーボウルで惜敗した49ナーズは今年もがんばるだろう。ここは地区のレベルが低いので地区優勝は確実。コルツとかセインツとか、昔応援していたチームにもがんばってほしい。ああ、ついにフットボールが始まってしまったが、今年はまだ日本の野球もおもしろい。日本のジャイアンツもまだ生き残っているし、今年は楽天のマサヒロくんがすごい。巨人、楽天の日本シリーズになるのだろうか。田中くんが中3日で投げて3勝するかもしれない。日本シリーズで負けたら、来期は松井監督になるかもしれない。

09/07/土
この週末は何もない。来週、人間ドックなので体調を調えたい。散歩のついでに妻と東京駅前のキッテに行った。マチカネワニというものの骨格標本があるとのことで行ってみたのだが、確かにすごい標本があった。これは確かにワニで、こんなものが故郷の大阪にいたとは驚きだ。日本の神話に出てくるワニはワニザメだといわけていたが、本物のワニがいたということになると、神話も読み替えないといけない。

09/08/日
散歩に出ようとしたら雨が激しくなったので出かけるのは中止して住居のマンションの敷地内にあるスーパーでウイスキーとビールを買って帰った。『釈迦とイエス』のエンディングを仕上げないといけない。プロローグを読み返して、最初の問題提起がうまく結びにつながっているかを確認したい。世の中は東京オリンピック決定で騒いでいるようだが、わたしはどうでもいいと思っている。マドリッドの方がよかったかな。長男と4人の孫がいるスペイン経済の方が心配だ。東京だって経済は苦しいのに税金でお祭をすると国債が増えるだけだ。湾岸の土地が値上がりすれば有明にキャンパスのある大学の経営が少しは楽になるかな。わたしは新居に引っ越したばかりだから、土地の値が上がっても被害はない。と自分のことしか考えていないが、レスリングが復活してよかった。テレビで見るのは好きなのであの競技は楽しみだ。それにしても7年後のことなどどうでもいい。そう思っている人が多いのではないか。

09/09/月
ついにフットボールが本格的に始まった。金曜日の開幕戦はブロンコスの圧勝だったが、日曜のゲームでは、49ナーズがパッカーズに辛勝。強敵なのでぎりぎりでも勝ててよかった。スティーラーズとジャイアンツはまさかの惜敗。こいつらは今シーズンはダメなのか。ジャイアンツは2戦目はブロンコスで、QBのマニング兄弟対決だけど、これは兄が勝つだろう。コルツ、ジェッツ、セインツがよさそうだ。さて、こちらは明日の人間ドックに備えてリラックスしている。高齢者だから、体に欠陥が出ると予定が狂う。

09/10/火
6時半に起床して三宿の病院へ。去年までは三宿に住んでいたので、近くの病院ということでここに通うようになった。今度引っ越したところは病院街といってもいいところなのだが、これまでのカルテが残っているので三宿に出向くことにした。体重は変わっていないが背が年々縮んでいくのはどうしたことか。血液検査の数値がやや悪化している。今年は引越があり、学部長になり、著作権でも難しい問題があり、少し酒量が増えたようだ。この人間ドックを控えて、半月ほど断酒したのだがダメだったか。まあ、いい。明日から酒を飲もう。胃も腸もセーフだった。ポリープがあると割り増し料金をとられた上に一週間は酒が飲めないところだった。とにかく終わった。これで一年間、元気で仕事ができる。

09/11/水
人間ドックは疲れる。体が元に戻るのに時間がかかる。酒を飲む気にならない。浅草橋まで散歩することにした。わたしが大学卒業後、最初に就職した街だ。懐かしいところを歩いてみたいと思ったのだが、雨がぽつぽつ降ってきたので、浅草橋の西口までたどりついて電車に乗って帰ってきた。勤務先は東口なので、西口を利用したのは初めて。一年間、浅草橋に通ったのに、西口から乗降したことは一度もなかった。まあ、用がないのだから当たり前か。「釈迦とイエス」。プリントに赤字を入れたところの入力を始めた。「カラマーゾフ」もアイデアが次々にわいてきた。早く「釈迦」を片づけて集中したい。

09/12/木
高田馬場の日本点字図書館で本間文化賞の選考。視覚障害者の福祉のために貢献した人や文化人や研究者として活躍している障害者などを顕彰する。今年で第10回とのこと。わたしは1回目から関わっている。もう10年経ったのかと感慨がある。本間先生が亡くなってからの企画で、葬儀にも参列したし、その前、本間さんが会長だったころも知っているので、点字図書館とは長いつきあいになる。理事の仕事は阿刀田さんから引き継いだ。いまの武蔵野大学の仕事も阿刀田さんから引き継いだ。まあ、なりゆきみたいなものだ。本日は暑い。久しぶりにビールを飲みに行く。妻といっしょに居酒屋みたいなところに行く。夜中は仕事。赤字の入力。

09/13/金
参議院会館。著作権の仕事をするようになって、議員会館にも通うようになった。三宿にいたころは永田町の方から行ったのだが、いまは御茶ノ水なので行きは千代田線、帰りは丸の内線で帰った。本日の会議は印刷文化電子文化の基盤整備に関する勉強会というもの。超党派の国会議員の勉強会ということになっているが、実際は出版界が議員を集めてまとめて陳情するというもの。著作権法の改正をめぐって議論が続いているのだが、わたしはもう腹をくくっているので、法律の文言などはどうでもいい。契約は法律に優先するので、われわれで契約システムを確立して新たな慣例を作ればいい。ということで、本日の会議でも超然としていようと思っていたのだが、黙っているわけにもいかないので与えられた制限時間5分はきっちり費やして必要なことを話した。御茶ノ水に転居してからこういうちょっとした会議に出向くのに負担がなくなった。ちょこっと出かけて、すぐに帰ってくる。徒歩で神保町に出かけると本屋をはしごするので時間をとられるが、会議は時間が来れば終わるのできっちりと自宅に帰って仕事ができる。

09/14/土
マッサージに行っただけ。上半身が異様に固くなっていた。少し楽になった。

09/15/日
朝7時に起きて豪雨をついて有明キャンパスに。大学院の一般入試。8月の相談会に来た2人が受験してくれた。わたしの説明がよかったのではないかと自負している。うち一人はわたしを指名。これで来年もゼミが存続する。学部長は筆記試験の時は待機しているだけ。この1時間半の時間、ひたすら仕事をしていた。『釈迦とイエスが伝えたかった《ただ一つのこと》』のエンディングを書き上げた。まだ入力の作業が残っているが、着地点が見えてきたので安心して前進していける。面接を終え、外に出ると朝の豪雨が嘘のようにピーカン晴れになっている。遊歩道の橋を渡るとウサギがいた。緑色の髪の女子もいた。大塚家具の隣のビルでコスプレ大会をやっているのだ。一階のフロアなので外から見える。この人々は何を考えているのだろう。真夏のような陽射しに、大塚家具の入っているビルに飛び込む。冷房が効いている。100円ショップで買い物をしてから、ユリカモメに乗る。いつもはりんかい線に乗るのだが、天気がいいので景色を眺めたいと思った。レインボーツリーを渡って新橋へ行こうと思っていたのだが、発車したばかりだったので反対向きに乗る。これだと豊洲から有楽町線に乗る。豊洲は初めてだな。というかユリカモメに乗るのも初めてに近い。以前、車で来て、短い区間を乗ったことがあるだけだ。りんかい線は地下を走るので、ユリカモメでのんびり移動するのもいいものだと感じた。自宅からお台場の観覧車が見えるので、自分の住居が見えるかと思ったのだが、目の前に高層マンションが林立していて都心の方は見えない。眺望を期待してこういうところに住んでもすぐに周囲がビルで埋まってしまうのではないか。東京オリンピックのころには、このあたりはビル街になるだろう。さて、有楽町線で帰るのも初めてだ。有楽町で下りると目の前に三田線の改札があった。これだと神保町で乗り換えなので、千代田線の日比谷まで歩いた。かなりの距離だった。東京駅で京葉線に乗り換えることを思えばましだが。結論として、有楽町線で市ヶ谷まで行って新宿線に乗るというのが、歩く距離がいちばん少ないかなと思う。しかし電車賃が高くなる。ちなみに有明キャンパスで業務のある日は大学が交通費を支給してくれる。事務局が提案したコースは大井町乗り換えで、いまもその運賃をもらっている。ユリカモメに乗ったり地下鉄を遠回りすると個人負担が増えるのだが、りんかい線で帰るより気分がいい。本日は八王子でコーラスの練習がある日だが、台風が接近している感じがしたので、朝のうちに欠席通知をメールで送ったのだが、自宅に帰ってみると雨も風もない。しかし帰りが心配なのでやっぱり欠席。仕方がないので仕事をする。プリントに赤字を入れた部分。赤字で紙が真っ赤になっている。文脈をたどるのに苦労する。これでは入力作業に数日かかるだろう。

09/16/月
台風が来た。浜松の仕事場の近くを台風が通ったようで、現地で世話になっている大工さんに見に行ってもらったのだが、かなり雨漏りがあったようだ。また補修が必要だろう。一昨年も台風が来て、去年修理をしたばかりなのだが。東京もかなりの風雨だったが、こちらは引っ越したばかりのマンションだから、風の音がうるさかっただけだ。台風一過、いい天気になって、西の山並みが見えたし、目の前のビルの屋上に富士山がシルエットで姿を見せた。夕方、妻と散歩。オープンしたばかりの万世橋の旧構を見に行く。煉瓦造りの高架下がショップになっている。遺構となっている駅の階段を昇ると、中央線が両側を走っているプラットホームに出られる。おもしろいところだ。今度、四日市の孫が来たらつれていこう。徒歩5分の至近の観光スポットだ。入力作業もかなり進んだ。昨日、大学院の入試で待機している時に書いたエンディングの入力。1時間半で書いたものだから、同じ時間で入力できるかというとそういうわけでもない。書いた時から時間がたつと気持が離れるので、これでいいのかと疑問を抱き、慎重に吟味しながら入力することになる。明日もペンクラブの理事会があるだけなので、明日の夜中くらいには完成するのではないか。

09/17/火
スペインにいる長男の誕生日だ。考えてみると彼は40歳になる。おお、りっぱな年齢だ。よく育った。息子が幼児のころは、まだ作家になる前で、やや人生に疲れていた。彼の励ましで、何とか乗り切ったという遠い記憶があるが、もうほとんど忘れてしまった。さて、本日はペンクラブの理事会。茅場町の事務所ではなく日比谷の東京会館。発言することは何もないので、部屋の端に陣取って自分の仕事をしていた。『カラマーゾフの兄弟』の続篇。すでに執筆がスタートしている。冒頭、『白痴』のオープニングを踏襲して列車の中に主要登場人物3人が揃っているところから話を始める。まだ2人しか出ていない。そこに3人目が出てくるところの会話を書いた。最後に電子書籍出版権の話をふられたので1分間だけ話した。しかし1分で話すのは集中力が必要で疲れた。明日はまた午前中からの仕事なので早めに寝る。台風一過、天気がよく空気が乾燥している。台風の雨で窓が汚れていたのだが、グッドタイミングで窓ふきのゴンドラを下りてきた。数日前から順番で窓ふき作業が始まったのだが、台風の前に順番が回ってきたところは、これから3ヵ月、汚れたままになってしまうのだろう。

09/18/水
大学。本日は有明キャンパスで前期卒業式。学部長などで列席する。本日はユリカモメ、有楽町線、三田線、新宿線と、3回乗り換えで帰ってみようと思ったのだが、神保町のホームに出ると次は急行だという表示。地下鉄のくせに急行なんて走らせるなよと思いつつ改札口から出て歩いて帰った。けっこう陽射しが強かったので、おとなしく待っていればよかったかなと思った。

09/19/木
『釈迦とイエスが伝えたかった《ただ一つ》のこと』草稿完了。思いの外、長くかかった。すでに『カラマーゾフ』のオープニングを書き始めているので、並行して作業を進めていた。これでカラマーゾフだけに集中できる。来週から大学が始まってしまうのだが、夏休み中も大学の事務はオープンしていて、次々と仕事が舞い込んできたから、授業が始まってもどうということはない。これまでの本も、多忙な日々の隙間に時間を作って書いてきたのだから、この仕事もやがてゴールにたどりつくだろう。思えば『罪と罰』は臨終の母の病室の前の廊下で書いたのだし、『白痴』はスペインで息子たちと食事をしながらポメラを叩いていた。『悪霊』は震災の余震で揺れ動く病院のベッドの上で構想を練った。じっくりと腰を据えて仕事をしていたわけではない。さて、本日はペンクラブの言論表現委員会。電子書籍についてという議題があったので参加して意見を述べた。PENの「E」はエディターなので、著作権管理団体などの見解とは違う感想が交わされる。それもいいだろうと思う。

09/20/金
「カラマーゾフ」。これまで書いてきたところを読み返している。イントロがついているのだが、その前に何かが必要だ。原典では「一粒の麦、地に落ちて死なずば……」という扉の引用がある。これを活かした緒言を入れることにした。ここからが始まりだ。ということは本日から、この作品はスタートしたといってもいい。さて、編集者の中村くんと久しぶりに飲む。三宿の家の引越の直前に、最後の三宿ということで飲んだ。それ以来だ。新居のマンションには店も入っていて、その中から2軒回り、それから御茶ノ水駅の方に出向いてもう1件。11時には解散。三宿は不夜城なのでいつも夜中になったが、御茶ノ水の夜は早い。まあ、健康のためにはいいだろう。

09/21/土
世の中は3連休だがわたしはそうではない。本日は大学でお彼岸の会がある。日曜は休みだが月曜の祝日から大学が始まる。本日は午前11時の式典のあと精進料理の弁当を食べておしまい。研究室で『釈迦とイエス』の終章をプリント。10ページくらいしかない。少し短いかとも思ったが、とりあえず読み返してみたい。

09/22/日
日曜日。本日は休み。当たり前だ。前日にプリントした『釈迦』の最終章を読み返す。プリントしてみた感じで少し短いと感じたのでか論旨が行き届いていないところを書き足した。これで長さもちょうどよくなったと思う。ただ入力が大変だ。

09/23/月
本日は祝日だが大学は授業がある。本日から後期のスタート。月曜1限の講義だけの授業。後期だけ参加する留学生や教育学部の学生がいるので、前期に話したことのダイジェストをまじえながら、後期は日本文学の近現代史を語ることになるが、小説にしか言及しない。初回はただ「自由」について語る。近代の課題が自由だからだ。自由になった人間は生き方に迷うことになる。だから人生の指針となるような小説が読まれるようになる。3・4限の1年生の授業も初回の担任の授業がある。学生たちにプレゼンテーションさせたのだが聞いているだけで疲れる。それから教授会と学科会。月曜日は1日が長い。

09/24/火
火曜は1限だけ。だが、夏の模擬授業のレポートと武蔵野文学賞高校生部門の作品がドサッと来た。前者は緊急を要するのですぐに見て評価とコメントをつけて入試課に返却した。後者は量が多いのでとりあえずアラ読みをして可能性のあるものとダメなものとに分けた。可能性のあるものを来週の月曜日に熟読して候補作をセレクトしたい。疲れ果てて自宅に戻り『釈迦とイエス』の入力。明日は休みだ。嬉しい。作業の途中、ネットでブロンコスの勝利を確認した。ブロンコスは余裕で開幕3連勝だが、ジャイアンツもスティーラーズも無残なスタートだった。回復不能かもしれない。49ナーズもまさかの1勝2敗。こちらはまだ回復の可能性がある。セインツとカージナルズにも期待がもてる。そんなところかな。とりあえずブロンコスに期待をかけたい。そういえばいつのまにか日本のジャイアンツが優勝していた。しかしプレーオフがあるので油断ができないし、日本シリーズではマサヒロくんのいる楽天と当たることになるだろうから、これは大変だ。そのころには野球も見ないといけないが、いまはとりあえずフットボールのことだけを気にかけていた。

09/25/水
水曜は大学は休みの日。他の用もない。朝から雨で一歩の外に出ず。このマンションは朝刊は配達してくれるのだが、夕刊はロビー階の郵便受けに入る。そこまでとりに行くのだが、妻が買い物に出かけて帰りにとってきてくれたので、部屋から一歩も出なかった。雨の日でも実は散歩ができる。千代田線の新御茶ノ水駅まで傘なしで行けるので、1駅先の大手町まで行けば地下街を東銀座まで歩いていける。東京駅前のキッテへ行ってぐるぐる回っていてもいいのだし、大丸へ行ってもいい。本日は散歩する気分になれなかった。『釈迦とイエス』の入力、本日中に終えたかった。がんばったので完了した。最終的に4ページ(400字で12枚)くらい書き足したので、全体の長さもちょうどよくなった。すぐに編集者にメールで送る。イーブックの連載も送った。これで『カラマーゾフ』に集中できる。この作品は謎の語り手が最初に出てきて枠を作る。それからモスクワ発の列車の中に3人の人物がいて会話が始まる。コーリャ、ザミョートフ、マトフェイの3人。コーリャは原典に13歳の少年として登場する。誰が見ても続篇の主要人物なので奇をてらわずに最初から登場させる。ザミョートフは『罪と罰』に出てくる事務官で、わたしの「新釈」では主人公の探偵になっている。ザミョートフを探偵にしたのは実は手塚治虫のマンガをパクッたのだ。この探偵が中年の捜査官になって出てくる。わたしの作品でも『新釈白痴』にも登場させたので、おなじみの人物だ。マトフェイは新たな人物。この名は新約聖書のマタイからとった。工場の経営者で教団の信者という設定になっている。合理主義者の側面をもっている。かなりしたたかな人物なので裏がある。コーリャはテロリストなので、テロリスト、捜査官、裏のある商人、という3人のメンバーで会話が進む。長篇の冒頭としては、いきなり腹の探り合いが始まるので読者は途惑うかもしれない。

09/26/木
大学。木曜日の後期最初の授業。3コマ連続。最後の大学院の授業は3人学生が来たので、充実した授業になった。

09/27/金
日大文芸賞の授賞式。全日大生が応募できる日大新聞主催のコンクール。審査員になったのは今年で2回目。若者たちと交流できて愉しかったし、1人、年輩の人がいて、これも愉しかった。

09/28/土
女優の三田和代さん来訪。久しぶり。夕食階。転居してからは初めて。ネットで長男のブログを見せる。孫の写真など。スペインの4人目の孫、姉は女の子と信じていたようで、男の子の写真を見せると驚いていた。姉は地方公演に出ていたので長らく会話を交わしていなかった。

09/29/日
夕方、妻と散歩に出る。本郷のあたり。本郷は近い。

09/30/月
大学。本日は1年のゼミも学科会もないので、1限だけでおしまいのはずだが、武蔵野大学高校生部門の下読みがあるので昼過ぎまで研究室にいた。わたしが下読みをして候補作を選び、他の先生方にも見ていただく。今年もいくつかいい作品があった。よかった。自宅に帰って『カラマーゾフ』の作業を進める。およその状況設定を読者に伝えたあとで、いよいよ主人公のアリョーシャが出てくる。まだ本人が登場するわけではない。噂の中でアリョーシャについて語られる。とにかくこの作品の主人公がアリョーシャだということが示され謎めいた英雄として噂が語られる。重要な場面だ。無理をせずに、アリョーシャについて語られる設定だけにして、残りは明日の作業としよう。明日はなぜか大学がお休みなので自分の仕事を続けることができる。本来なら火曜は1限の授業があるので、この休みはありがたい。



次のノート(10月)に進む 8月へ戻る

ホームページに戻る