「カラマーゾフ」創作ノート07

2013年7月

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07/01/月
7月が始まった。月曜日。1限の講義を終えるとほっとする。この時間は文学史について語るので、ひたすらしゃべり続ける。プルースト、ディケンズの新しい20世紀的手法について語り、フランスのヌーボーロマンを簡単に紹介してから、アメリカのカート・ヴォネガットの『猫の揺りかご』の話、それから村上春樹の『風の歌を聞け』から突然、フィリップ・K・ディックに話が及ぶ。これを90分で語りきるのはたいへんだが、毎年これをやっている。いまは前後期の32回で語っているのだが、来年は2クラス設定することになっているので、前期と後期は同じ話をすることになる。ということは16回ですべてを語りきらないといけない。短くした方が楽だともいえるのだが、どうやるか、やってみないとわからない。さて、研究室で仕事を少し。それから4限の1年生のゼミ。自分が担任をしているクラスがあって、時々、授業の順番が回ってくる。本日は学科会はないので、授業が終わると研究室に戻らずにそのまま帰る。大学は広い。研究室と、4限の授業がある1号館は、反対の方向にある。1号館は門に近いので直接帰った方が早い。仕事は研究室でしたので、帰ったら食事のあとは雑誌などを読んですごした。少し疲れているかな。明日も1限なので早めに寝る。ところで授業があったのでサッカーを見られなかったが、スペインがブラジルに完敗。信じがたい。孫がスペインにいるので、わたしは母国のごとくスペインを応援している。準決勝の延長PK戦になったイタリア戦から中2日しかなく、スペインの選手のはキレがなかった。来年の本大会はこんなことはないだろう。しかし、ゴールキーパーのカシージャスにやや衰えが見られる。来年までに新たな正ゴールキーパーを育てる必要があるだろう。それにしても、ブラジルのネイマールがバルセロナに入るらしい。バルセロナはそのままスペイン代表といってもいいチームなのだが、主力2人が外国人ということになると、代表チームとしてのパワーが弱まるのではないかと思う。

07/02/火
本日も1限。授業が終わったらすぐに帰るつもりだったが、大学の機関誌の取材が入ったので少し話していた。それでも正午には自宅にいた。本日はひたすら『釈迦とイエス』を書く。もう7月に入ったのでピッチを上げないといけない。

07/03/水
午前中、文藝家協会でMyBook変換協議会。この協議会も最初は雲をつかむようなものだったが、ジャブダという自炊業者の団体もできて具体的な交渉が進み始めた。一つのプロジェクトが、具体化しているプロセスというのは、これまでも何度も体験しているのだが、何かすごいことだな、とそのつど思う。午後は大学で学部長会議。いつもは沈黙の多い会議なのだが、本日は活発な意見交換があった。まあ、その方がおもしろいと思う。今日も1日がつぶれてしまったが、『釈迦』を少し進めた。

07/04/木
木曜は3コマ授業がある日。3年生の授業は一人でしゃべったので疲れた。4年生の授業は雑談。大学院は学生が1人なので、近くのヤキトリ屋で授業。長い授業になった。

07/05/金
金曜日はこのところMyBook変換協議会の日になっていたが、今週は水曜に入ったので本日は休み。近くの町医者に行って薬をもらう。転居して2度目。血圧の薬をもらっているのだが、このところ血圧は低め。まったく問題はないのだが、薬をやめたらまた上がるかもしれず、薬を飲むことは負担ではないし、飲むことで悪化もしていないので、このまま同じ薬を飲み続けることにする。血圧が安定しているのは、大学に行くと構内を歩き回るし階段も昇るのでいい運動になっているからだろう。そのことから生じるストレスはない。部屋に閉じこもって原稿を書くだけの方がストレスがたまる。学生たちを相手に適度に気晴らしをしている方が気分的には楽だ。午後は世話になった中目黒の不動産屋に出向く。日本橋の千疋屋で果物などを買ってもっていく。昨年、昔住んでいた家を売却した時にお世話になった。新居の引き渡しの時には、チェックに立ち合ってもらった。まあ、友人みたいな人だ。自宅マンションの1階のバーで妻と軽く飲む。妻はまったく酒を飲まないので1人で飲むのだが。『数式のない宇宙論』のゲラが届いた。このあいだ原稿を渡したばかりだと思っていたのだが、ゲラになるのが早い。先週渡した図表ももう挿入されている。5章のうち2章まで読んだ。いい文章だ。そう思って読んでいるから、直すところはまったくない。これはなかなかいい本ではないかと思う。

07/06/土
『数式のない宇宙論』3章。『釈迦』も進んだ。あとわずかで釈迦の章が終わるはず。ひたすら仕事をしているが、土曜日は「あまちゃん」の一週間ぶんを見る。昨年の暮れに録画してあった『野田ともうします』もついでに見る。まだ三宿に住んでいたころに録画したもの。いままで見るひまがなかった。うちのテレビはハードディスク内蔵なので、テレビとともに録画したものもそのまま引っ越してきたのだ。古いビデオを見る余裕が出たのは少し落ち着いてきたからか。

07/07/日
4章まで読む。猛暑が続く。本日は妻とスーパーに行っただけ。スーパーは住んでいるマンションと同じ敷地にある。同じ建物ではなく、アネックスと呼ばれる別棟なのだが、わずかな距離だ。これでは運動にならない。金曜日が休みになったので三連休だったが、あっという間に時間が経過した。わたしに休日というものはない。週末は自分の仕事をする。この週末は『宇宙論』のゲラに集中した。草稿を書いたあと、編集者のアドバイスによって一度、修正しているので、大幅な訂正はないはずだが、その草稿の修正によって新たに書き足した部分には文章の乱れもあうし明らかな間違いもある。図表のミスも一つ発見した。文章では言及しているのにその図表がない。初校ではすでに図表もレイアウトされているので、大幅な直しにならないように、一つの図表の中に二つ絵を描くことで乗り切ることにした。その絵を作るのに時間をとられた。

07/08/月
また一週間が始まった。今週はハードなスケジュールだ。休みがない。ただ本日は少し楽だ。授業は1限だけで、1年生のゼミはお休み。その時間に学科会をしたので早く自宅に帰れた。『宇宙論』5章までチェック。あとは終章だけだが、ここが大幅に書き直したところなので、たぶん文章が乱れているのではないかと思う。が、明日からハードなスケジュールが始まる。ゲラを大学までもっていきたくないので、明日の一限のあとのアキ時間には、『釈迦とイエス』の作業をしようと思っている。明日の夜中にやりたいところだが、水曜日は午前中に会議が入っている。うーん、スケジュールがタイトで時間がとれない。どうなるんだ。

07/09/火
大学1限。午後は文藝家協会の常務理事会。夕方、自宅に帰って『数式のない宇宙論』(課題)のチェック。最後まで読んだ。図版の修正などがあるが、文章の流れはこれでいいと思えるほどに仕上がっている。数式を用いないという縛りを自分で設定しているので、最新の状況については概略しか語れないのだが、古代ギリシャからの宇宙論を哲学として、しかも誰にもわかるイメージとして語っている。こんな本は、かつてなかったと思う。

07/10/水
大学。今シーズンから学部長になったので、授業のない水曜日が忙しくなった。本日は何と、4つも会議がある。文藝家協会でもハードワークを続けてきたが、1日に4つも会議があるのは初めてだ。まあ、大学の構内だけの移動だし、アキ時間は研究室で自分の仕事ができたので問題はない。会議は楽しい。ところで、昨日、スペインの長男のところで、4人目の孫が生まれた。次男のところにも2人いるので、わたしにとっては6人目の孫ということになる。長男のところが女子3人、次男のところが男子2人だったのだが、今回は長男のところに男子誕生。これは長男にとっては喜ばしいことだろうと思う。女の子も可愛いが、「若草物語」みたいに四姉妹になるのかと思っていたので、男子誕生はわたしにとっても喜ばしい。というか、高齢出産の嫁さんが元気そうなので、それがめでたい。本日は4つめの会議は最後は宴会になったのだが、多くの人々と杯をかわしながら、自分の胸の内では、6番目の孫の誕生に祝杯をあげていた。

07/11/木
大学。軽く飲んで帰る。

07/12/金
本日は大学は休み。午後、文藝家協会でMyBook変換協議会。議論が白熱してきた。これはすごいことになるぞ。新宿に出てタカシマヤで妻と待ち合わせ。三田和代さんが出演する『頭痛肩こり樋口一葉』(井上ひさし作)を観る。今回は母親役の姉は、22年前に別の役で出たらしいが、記憶がほとんどない。その時よりも面白かった。演出がよかったのだろう。6人しか出ない俳優のレベルも高かったのだろうと思う。サザンシアターから新宿駅に出て快速で帰る。新宿から15分くらいで帰れるのが嬉しい。

07/13/土
大学、有明キャンパス。大学院の説明会。勤務先の武蔵野大学は昨年度から有明に新キャンパスを開設した。大学の本部が移転したので、こちらで説明会や入学試験が実施されることがある。ということで、武蔵野キャンパスにある文学研究科だが、有明キャンパスで説明会が開かれる。今シーズンから学部長になった。必然的に大学院の責任者にもなっている。ほかにも能楽資料センター長や、武蔵野文学館長というのもある。何だかわからないがそういうことになっているので仕方がない。幸い御茶ノ水に引っ越したので、少しは有明に近くなった。実はリビングルームからお台場の観覧車が半分だけ見えている。夜はイルミネーションが見えるので退屈しない。観覧車とキャンパスの間は、徒歩数分の距離だ。しかし実際に行くとなると大変で、秋葉原から京浜東北線で大井町乗り換えで国際展示場前まで行くか、東京駅から長い距離を歩いて京葉線で新木場まで行くか、いずれにしろ小一時間はかかる。で、妻に車で送ってもらった。三宿の家ならガレージのシャッターを開ければ出発できたが、いまはマンションなので地下の駐車場に行き、立体駐車場のリフトを動かすことから始めないといけない。動き始めてからは30分くらいで行けたが、けっこう手間がかかる。説明会は2時間ほど。その間に質問に来た学生は2人だけ。同じ部屋で看護学部の先生2人が質問に応じていたのだが、そちらの方は待っている人がいっぱいいて、次々に対応している。こちらは誰もいない時間がほとんどなので、『カラマーゾフ』の出だしの部分を書いていたら、何とすごい勢いで書けてしまった。ただあまりに書けすぎてしまったので、いままで考えていたオープニングとの整合性が難しくなった。文体が少し違う。これまでは記憶喪失のような人物が過去を語るという設定で話を始めていたのだが、今回はそういう回想という枠物語を排除して、いきなりリアルタイムで話を始めるというスタイルにした。枠物語を設定した上で、リアルタイムの話を始めるという設定も不可能ではないが、文体に違和感が残るだろうし、枠物語を設定すると文体の自由度がなくなる気がするので、今日、偶然に書けた文体でしばらく話を進めてみようと思う。こういうのはまさに天啓だ。これまでの3作でも感じた、ドストエフスキーの霊が降りてくるという感じがついに宿った感じがする。その意味で、本日の説明会というのは、まことにありがたい機会だった。2時間の質問時間に、来場者が2人しかいないという偶然によって、いよいよ『カラマーゾフ』は本格的にスタートを切った気がする。とはいえ、まだ『釈迦』という仕事が残っている。それよりもイーブックジャパンの連載の締切が目の前に迫っているので、これを片づけなければ。土曜日の出勤は負担だが、思いがけず成果があったし、月曜の祝日はめずらしく大学が休みなので、あと2日休みがある。ところで、わたしを送ってくれた妻はお台場の観覧車の横にあるビーナスフォートというショッピングモールが買い物をしたようで、そのあとキャンパスまで迎えにきてくれた。買い物が長びくようなら電車でお台場に行って妻と合流し、どこかでビールでも飲みたかったのだが、猛暑なのでどこへも行かずに自宅に帰って仕事をした。長男のブログを見ると、もう嫁さんは退院して赤ん坊といっしょに自宅に戻っている。その自宅の壁に横断幕みたいなものがかけられている。孫の姉3人と、もうオトナになっているイトコたちが作ったもののようだ。嫁さんは5人兄弟の末っ子なので、おそらく今回のベビーは、一族のイトコたちの中の最後の出生だろと思われる。その最後のベビーの誕生を、イトコたちが祝ってくれたのだろう。スペイン人は家族の絆が固い。そういうところを見ると、感動する。日本では、家族はともかく、一族といった概念は失われてしまった。長男はスペインの熱い血族の絆の中で生きているのだと実感できる横断幕だった。

07/14/日
昨日は出勤だったので、やっと週末。猛暑の中、住居の近くを軽く散歩。それだけの1日。雑文を2件仕上げる。

07/15/月
祝日。大学は祝日でも休まないことが多いのだが、なぜか本日は休み。月曜は学科会のある日なのでこの休みは貴重だ。どこへも出かけず。録画しておいた「あまちゃん」の総集編を見たりしてのんびりすごす。のんびりしている状況ではないのだが、あせっても仕方がない。先週は大学で1日に4回会議があるという日があったし、土曜も出勤して、疲れがたまっていた。というほど疲れたという自覚はないのだが、パソコンに向かう時の集中力が持続しないので、やはり疲れているのだろう。こういう時は無理をしないことにしている。老人なので無理はしない。やれることを自分のペースでやるだけだ。

07/16/火
月曜、火曜と1限の授業があるので完全朝型になるのだが、昨日の月曜は祝日で休みだったので、今日だけ早朝に起きる。やや調子が狂ってやたらと眠い。とにかく1限をこなし、そのまま自宅に帰る。少し休憩してからペンクラブの理事会へ。本日は例会のパーティーがあるので東京会館。自宅のある新御茶ノ水から2つ目の二重橋前。20分くらいで会場に着く。ペンクラブではなるべく発言しないようにしている。文藝家協会の仕事だけで手一杯なので、息をひそめている。宴会には出ずに自宅に帰る。何も発言しないのはかえってストレスがあって疲れた感じかした。東京会館から地下道に出ると最初にあるのは都営三田線日比谷駅の改札口。二重橋前まではわずかな距離なのだが、思わず都営の改札口に入ってしまった。これだと神保町で乗り換えて小川町に行くべきだが、乗り換えがめんどうなので神保町で地上に出た。今日は少し涼しい感じがしたのでさんぽがてら神保町から自宅に向かう。意外に近く10分で着いてしまった。本屋でも回っていけばよかった。とにかく朝1限のある日は1日が長い。夜中、『釈迦とイエス』を書く。そろそろピッチを上げないといけない。

07/17/水
水曜日は授業はない。学部長会議のあと、新聞記者のインタビュー。自宅に帰るとリビングルームが養生のシートでおおわれていた。ガラスに不備があるとかで明日、とりかえの工事がある。大きなガラスなので大工事になる。

07/18/木
大学。3年ゼミの授業のあと前期打ち上げの飲み会。ガラスの交換はもってきたガラスに傷があって工事は延期。

07/19/金
MyBook変換協議会。業者との第二回の協議会。順調に推移。一度、自宅に帰ってからジャスラックへ。前理事長のお別れの会。前理事長とは創作者団体協議会(わたしが議長)の設立に際してお世話になった。貫禄のある人なのでずっと年上だと思っていたが、一歳年上だと判明した。ジャスラックのホールでご挨拶をして、付随のレストランでワイン一杯飲んで帰る。ジャスラックは以前の三宿から徒歩30分だったが、今回は千代田線で30分かかった。歩かずにすむのでありがたい。

07/20/土
宇宙論の本ゲラ届く。すでに控えゲラを送ってもらっているので、じっくり読み返してこちらで修正すべきところはチェックしてある。図表のまちがいが2点あったのでそれもできている。しかし校正者の手が入ったゲラは、かなりのチェックが入っている。数字の表記などが問題になっているので、そこは統一する方向で直していけばいいのだが、こちらのまちがいもしばしば指摘されている。何しろ素人が物理学の本を書いているので、単純なミスもあるし、見解の相違みたいなものもある。「数式のない宇宙論」というのは、もともと無理な試みなのだが、そこを乗り越えるために、ウラ技みたいなものも使っている。この本を読んで、宇宙というものが何なのか、わかった気になるように、超絶技巧を使って話を展開している。自分にとって最も有意義な本を書いたという気もするが、自分の本業ではないので、ただの道楽だという気もする。しかし自分にとっては、回り道ではなく、これを書くためにここまで生きてきたのだという気がしているし、これからの仕事の土台にもなると思っている。

07/21/日
「宇宙論」のゲラ。数字に関する統一。もともと統一するのは無理なので、苦労する。疲れて、数ページ進む度に、大きく息をつき、コーヒーを飲んだり、窓から外を眺めたりする。三宿の家では、リビングルームの外は、向かいの家が見えるだけだった。書斎の窓の外は塀があるだけだった。現在の住まいは、高層ビルの中ほどで、最上階の人から見れば、わたしは「下層民」なのだが、それでもそれなりの眺望はあって、大手町のビル群が正面に見えているし、皇居の緑の向こうに国会議事堂があり、その向こうに陳情のために歩き回った恨めしい議員会館も見える。左の方にはお台場の観覧車が半分だけのぞけている。というふうに眺望があるので、ぼんやり見ていると癒されて、仕事をやる元気が出てくる。ここに引っ越してよかったと思う。夕方、コーラスの予定だったが、急遽、練習はなしになった。飲み会だけやるというので、八王子めじろ台まで出かける。仲間と飲んで帰る。明日は1限があるのでそのまま寝てしまう。

07/22/月
大学1限。研究室でレポートを見たり、メールのチェックをしたりしているうちに、昼休みも終わり、1年生の入門ゼミ。本日は外部から講師を招いて講演してもらうので、こちらは講師に学部長としての挨拶をして、あとは客席で聴いているだけでいい。思えば去年の同じ催しで、客席で聴いているうちに膝が痛くなった。いまから思うに、去年の7月はスペインと四日市の孫たちが三宿の家に結集していた。孫たちの喧騒の中で仕事をしていたので、そのストレスから脚に過剰な力がかかっていたのだろう。それが講演で客席にいた時に、限界に達したのだと思う。スペインの孫たちを成田に送りに行った時、もはや歩けないかと思われるほどに悪化していた。医者に行ってレントゲンをとると何でもないということなのだ、結局、気分の問題だったのだと思う。いまでも時として膝が痛むのだが、月に一回マッサージに行って、もんでもらっている。そのマッサージの先生のアドバイスで、腰のつぼにカイロを貼っている。これが効いているみたいだ。夏場になってコンビニでカイロを売らなくなったので、しばらく貼らずにいたらまた痛みだした。医者の薬を調合してもらう薬局でカイロを販売しているのを妻が見つけてくれたので、いまは毎日貼っている。そのせいか膝の調子もいい。

07/23/火
1限の授業。2年生のゼミ。生まれて初めて小説を書く学生も多いこのクラスで、かなり厳しいことを言ってきた。でも学生たちはめげずにがんばるだろう。時代は変わっても若者は意欲的だ。能楽資料センターに寄って打ち合わせ。文学部の学部長は、不随した大学院の三つの研究所の責任者になる。雑用が5倍くらい増えた。簡単な打ち合わせで済ませて自宅にすっとんで帰る。『数式のない宇宙論』のゲラ。明日は発送したいので本日がリミット。4章まで仕上げたところで、イーブックジャパンの山本くんが打ち合わせに来る。その後、自宅マンションに付随した施設で軽く飲む。ちょっと歩いたところにいくつかいい店を発見しているのだが、本日は急な夕立があったりしたので、敷地内の濡れずに行けるところで軽く飲んだ。その敷地のオープンスペースでは、本日からビアガーデンがオープンしたのだが、夕立のあとも雨がパラパラ降っていたので閑散としていた。軽く飲んだだけなので風呂に入れば酔いは醒める。夜中、『数式のない宇宙論』のゲラ、完了。数字表記の統一、どこまでできたかわからないが、とにかく自分で文章を修正した箇所は、校正者のゲラに転記する。これで手が離れた。明日は学部長会議も大学院の会議もないので休み。自分の仕事も一段落したのでのんびりしたい。

07/24/水
本日は休み。とりあえず昨日完成したゲラを発送。このマンションは外部からの人が入れないので宅急便はマンションの担当者が受け取って、各部屋まで運んでくれる。発送はその逆の手順で、電話でマンションの担当者を呼べば荷物をとりに来てくれる。ゲラが届いた時に着払いの伝票が同封されていて、すでに住所なども書き込まれているので、担当者に伝票とともにゲラの入った封筒を渡すだけ。簡単だ。それで1日の仕事が終わった気分になる。少しくらい休んでもいいだろう。妻が外出しているので、部屋でのんびりしている。それでも『釈迦』を少し書く。月末までに釈迦の章を書き終わればいいだろう。「カラマーゾフ」のスタートが遅れることになるが、ノートにはいろいろな試行錯誤の文章が書いてあるので、あとは決断だけだ。とにかく自分なりにベストを尽くしている。

07/25/木
少し早めに大学へ行く。荷物が届いていたり事務職員がハンコを求めに来たり、あわただしい中で必要な作業を終えて、3年生のゼミへ。先週打ち上げをやったのだが、作品の返却が残っている。少し講義をして早めに終える。4年ゼミは打ち上げの飲み会。12人中10人参加。皆、就職活動で厳しい日々を送っているようだが、つかのまの宴会で大いに盛り上がった。本日の仕事はこれだけ。

07/26/金
昨夜は少し飲み過ぎてすぐに寝てしまったので、メールをチェックしなかった。で、パソコンを開けたら、メールが取り込めない。ネットにもつながらない。ひかり電話もつながらない。引っ越して初めてのトラブル。三宿にいた時は、NTTのモデムに自分で購入したルーターをつないでいて、トラブルがあれば双方の電源を切って1分後につなげばよかったが、今回はマンションに設置されたコンセントにケーブルを差して使っているので、ルーターそのものがどこにあるのかもしらない。玄関のシューズボックスに配電盤があり、そのあたりで業者が作業していた記憶があるので、シューズボックスをのぞいてみると、配電盤の奥にもう一つ配電盤みたいなものがある。箱の開け方がわからなかったが、触っているうちにカバーが外れた。どうやらルーターらしい。黄色いランプがずらっと並んでいる。これは異様な状態だ。リセットボタンを探したが見当たらない。しかしわかりやすいところにコンセントがあり、プラグがささっているのが見えたので、試しに抜いてみたいにランプが消えた。ゆっくり10数えてから差し込むと、緑色のランプが点滅を始めた。ほどなくすべてのランプが緑色になった。明らかに異常は回復したようで、とりあえず妻に電話をかけるように命じた。天気予報か何かにつながったようだ。これでオーケー。初期化しただけで設定の再入力は必要なかった。再入力を求められてももう何をどうすればいいのかきれいに忘れている。引越に際して最大の課題はネットの設定とテレビアンテナへの接続だった。ルーターの設置は業者がやってくれたので、壁のコンセントにケーブルをつないで、もらったディスクで設定をしたのだが、必要なパスワードとか、プロバイダーの入力など、どうやったか忘れている。とりあえずつながったのでよかった。テレビアンテナの接続もずいぶん苦労した記憶がある。テレビが作りつけのサイドボードの中にあるので、サイドボードの奥に配線しないといけないのだが、継ぎ目の穴が小さく、距離が長いので、アンテナ線をどうつなぐかに苦労した。とにかくいまつながっているので問題はない。二度とやりたくない。三宿にいた頃もテレビが急に映らなくなったことがあった。どうやって修復したか記憶がない。さて、今日は予定していた会議がキャンセルになったので、映画でも観に行こうと思った。三宿にいたころはお台場までドライブしたのだが、妻が夜の運転はいやだというので、地下鉄で日比谷に出かけることにする。ネットで調べると座席を予約できるようなので入力する。老人だから1000円だ。ちゃんと老人割引で購入できた。まだ劇場入口で指定券を出す仕組みがわからないのだが、届いたメールをもっていけば何とかなるだろう。
ということで映画を観て帰ってきた。切符を入手するのは簡単だった。映画を観るのは久しぶりだ。『レミゼラブル』を観て以来か。今日は『風立ちぬ』だ。感動的な映画だった。いちばん感動したのは牛だ。牛のアップがなかなかいい。表情がいい。その牛が零戦を工場から飛行場まで牽いていく。最先端の技術の成果を牛が牽くというアンバランスに、当時の日本というものが象徴されている。それにしても牛の表情がいい。あれだけしぶい表情が描けるのに、主人公はハリー・ポッターそっくりだし、ヒロインにいたってはアルプスの少女ハイジがそのまんま出てくるみたいだ。牛ですよ。このアニメの主人公は。零戦も牛に負けていた。その次は野村萬斎のメフィストフェレスみたいなのがよかった。さて、明日は宇都宮だ。毎年、年に一度、この時期に宇都宮に行く。宇都宮はものすごく暑い。明日はどうか。

07/27/土
年に一度、宇都宮に行く日。4月に転居して、新幹線に乗るのは初めて。三宿にいたころは、妻に車で東京駅まで送ってもらうことが多かったが、御茶ノ水に引っ越したので電車で5分で東京駅に行ける。宇都宮までは1時間。快適な旅だ。いつもこの時期に宇都宮に行く。たいてい晴天のものすごく暑いのだが、本日は曇っていた。涼しいというほどではないが、とにかくものすごく暑いというわけではない。90分の講演。午後3時には自宅に戻って寛いでいる。今日は浅草の花火の日。テレビ中継をやっているが、急に風が強くなった。これは中止になりそうだと感じたので、夕食を中断してエレベータのあたりに行ってみる。わたしの部屋は南西向きなので浅草の方は見えない。エレベータのところまで行くと北側が見える。が、秋葉原のビルに隠れて半分くらいしか見えない。エレベータで上の階に行ってみる。わたしは低層民なのだが、上の方はさすがに見晴らしがよく、秋葉原のビルも目の下に見え、花火もよく見えたが、少し距離がある。先週は北千住の方向で花火をやっていてよく見えたが、それと大して大きさは変わらなかった。そのうち雨が強くなってきたので自宅に引き返して夕食の続き。花火も中止になった。それよりも昼間にいた宇都宮ですごい豪雨になっている。宇都宮の人は大変だと思うが、個人的にわたしの講演の前後に降らなくてよかった。

07/28/日
日曜日。昨日の宇都宮はいい話ができた。でも少し疲れたかな。大学では90分授業を3コマ続ける日もあるのだが、年に1度の講演となると、集中しないといけない。この続きは来週というわけにはいかない。まあ、全力を尽くせてよかった。本日はイーブックジャパンの原稿を書いた。それから『カラマーゾフ』について考えた。当初考えていた、謎の語り手が語るというスタイルを捨てて、ごくふつうの文体にしようと考えていたのだが、金曜日に『風立ちぬ』を観ているうちに、もっとすごいものを書かないといけないという気分になってきた。冒険を恐れてはいけない。やっぱり謎の語り手に語らせることにした。夕方、神田の業務スーパーに行く。この業務スーパーという店は、浜松の仕事場にいる時に、時々利用していた。浜松では時に、うなぎを食べる。白焼きを買ってきて自宅で妻が温めてくれる。たれはついているのだが増量したいので、たれだけ買えないかと思い、以前から気になっていた業務スーパーに行ってみたら、うなぎのたれの巨大なボトルがあった。この店は文字通り業務で店をやっている人が買いにくるような、大きなボトルや、大きな袋に入ったものを安価に販売している。業務用に特化しているのかと思ったが、その安さに一般人からも支持されているようで、店舗を増やして一般人向けに小分けしたものを売るようになっている。先日、散歩している時に、神田に店があるのを見つけた。のぞいてみるとウイスキーも安い。で、妻と散歩のついでにボトルを2本買う。このところウイスキーばかり飲んでいる。ビールはプリン体が気になるのと、炭酸の泡が胃にもたれるようになった。以前はアーリータイムスを飲んでいたのだが、このバーボンは香りはいいのだがキャップの包装が開けにくい。と思っていたら国産の安いウィスキーで比較的香りがよいものに見つけた。実は居酒屋でもこれのハイボールを飲んでいる。午後、業者が養生に来た。先日失敗したガラスの入れ替え。明日は1限からの日なのでわたしは夜まで外出している。この前は午後出勤の日だったので、朝からの作業で寝室に閉じこめられてしまった。ガラスに傷があるというのは業者の不備なのだが、とにかく取り替えてくれるというのは良心的だと思う。明日は成功してほしい。

07/29/月
前期はあと1週間あるのだが、最終回は「補講日」にあてているので、皆勤のわたしの場合は、本日が前期最後の授業。朝1限の授業が終わるのは嬉しい。朝1限(9時)の30分前に研究室に着くためには、自宅を7時半くらいに出る。電車は通勤ラッシュとは逆向きなのでそれほど混んでいない。実は、たいてい御茶ノ水で座れる。コツみたいなものがある。要するに老人席に座るのだ。朝のラッシュ時だから怪我人や妊婦はいないから、堂々と老人席に座る。わたしは老人だ。文句あるか、という感じである。1限が終わっても、本日は1年ゼミの昼食会と試験がある。クラスアドバイサーという名の担任の仕事がある。わがBクラス37名は本日も全員出席。これまでも担任が担当する日は全員出席だし、ローテーションで各クラスを回る先生方から届いたチェック表でも、ほぼ全員が皆勤だ。わたしは長く早稲田で先生をしてきたので、名簿に出ている全員が出席などというのは奇蹟だと思っている。いまの大学でも何人かが休むのは当たり前なのだが、今年のBクラスは奇蹟の学級である。37人といっしょに弁当を食べる。それから試験。これで1年ゼミも終了。その後、学科会。問題山積だが、その割に早く終わった。本日は自宅の窓ガラスの交換作業の予定だったが、朝からの雨。雨天順延である。従って、居間も廊下もビニールシートで「養生」されたまま。月曜日は早朝に家を出て夜に帰るので、工事の影響を受けずにすむと思っていたのだが……。明日は火曜1限のある日だが、すでに火曜の最終授業は先週終わっているので明日は休み。大学の能楽資料センターとの打ち合わせも本日すませている。夜にメンデルスゾーン協会のサロンコンサートがあるだけ。ということは昼まで寝ていたいところだが、工事の人々が入ってくるので熟睡できない。この前、ガラスの交換に失敗した日がまさにそんな感じで、だから本日の月曜日に作業を組み込んでいたのだが、恨みの雨である。昨夜は夜中に仕事をしながら世界水泳を見ていた。萩野という若者が2位に入った。ずっと3位争いをしていたのに、ゴールに飛び込んだら2位になっていた。かなり水をあけて2位だったアメリカの選手は最後に失速したようだ。陸上と違って、水泳は水の抵抗を受けるので、前半に飛ばしすぎて最後に力尽きると、ガタッとスピードが落ちてしまう。そういうことだったのだろうと思うのだが。萩野選手は専門は個人メドレーのはずだが、いわば余技で銀メダルというのはすごいことだ。その萩野選手は本日はクロールと背泳の予選と準決勝があるので1日に4本も泳ぐことになる。すごいことだ。

07/30/火
ガラスの取り替え。ようやく成功。このガラス、1枚で200キロもあるらしい。ついでに床の傷の補修もしてくれた。入居してからわたしがつけた傷もあるのだが、サービスでやってくれた。これでようやく、引越の作業がすべて完了した。すでに3ヵ月すごしたわけだが、快適な生活ができている。キッチン、ダイニング、リビング、書斎が扇型のワンルームでつながっている機能的な部屋だ。キッチンやリビングにいる妻との距離感が絶妙だ。書斎は間仕切りで閉ざすこともできる。歌を歌う時だけここを閉める。ネットの住人書き込みサイトを見ると、騒音の苦情が出た階はその周辺に注意書きが配られたらしい。騒音源のところには必ず配布されるらしいが、わたしのところには来ていないので、隣にも聞こえていないのではないか。
夜はメンデルスゾーン協会のサロンコンサート。新橋にあるサロン「都市小屋《集》」にて、テノール歌手松原陸さんのリサイタル。協会の後援するので1曲だけメンデルスゾーンを歌ってもらった。あとは自由なプログラムで、愛の歌というテーマで編成されていて、聴き応えのあるコンサートだった。休憩のあとでいちおう理事長としての挨拶と、メンデルスゾーンへのオマージュを語ったのだが、以前はとくにメンデルスゾーンが好きだったわけではない。しかし理事長になってから数年になるので、いまではかなり好きになっている。会場ではワインなどをサービスしていたのだが、挨拶があるので飲まず。自宅に帰ってから軽く飲む。

07/31/水
7月も月末になった。予定では『釈迦とイエス』が完成しているはずだったが、まだ「釈迦」の章も終わっていない。会議が多く時間が不足している。まあ、8月になると少しひまができるので挽回したい。「カラマーゾフ」も準備は整っている。出だしの部分はできているので、少しずつピッチを上げていきたい。さて、本日はのんびりと昼近くまで寝ていた。昨日、窓の補修が終わったので、少しほっとしている。午後は日本脚本家連盟で著作者団体協議会の総会。日脚連に行くのは初めて。この会議は理事長にお任せしているので、わたしは関わっていない。著作権関係の仕事はわたしの担当なのだが、著団協はわれわれの理事長が会長をつとめているので、わたしは出なくていいことになっている。が、本日は理事長が海外出張中なので、わたしが代理で出席した。代理なのだが会長の代理として議長をつとめることになった。議長の仕事は点字図書館でいつもやっているので慣れている。出席しているメンバーは各団体の著作権担当者なので、ほとんどが知り合い。総会は前年度の決算と今年度の予算を承認するだけなのですぐに終わり、あとは雑談。その雑談が密度の高い内容だった。著作権に関しては問題が山積している。裏情報などもあり、楽しかったし役に立った。これで1日の終わりならいいのだが、大学で会議がある。日脚連のある六本木から三鷹にどうやっていくのか。わたしの頭の中には地下鉄の地図が入っているので、こういう時にはすぐに決断できる。大江戸線で乗り換えて代々木、それから総武線の各駅停車。代々木で乗り換えるのは初めて。大江戸線はどの駅も深いところにあるが、ここもエスカレーターをいくつも乗り継いで地上に上がっていく。しかしJRの改札の前に出てくるので乗り換えは便利だ。少し早めに研究室に着く。学生の宿題が届いている。見ているひまはない。もって帰ることにした。午後6時スタートで、会議が3つ。とにかく義務を果たした。



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