「カラマーゾフ」創作ノート04

2013年4月

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04/01/月
大学。本日は有明キャンパス。いつものように妻に恵比寿まで送ってもらう。国際展示場から徒歩5分。辞令交付式。困ったことに学部長になってしまった。専任になってからまだ2年しかキャリアがないのだが、年の順で引き受けざるをえなかった。また会議が増える。数年前から、いまが人生でいちばん忙しいと思ってきたが、今年も更新だ。午後は学科会などがあるので武蔵野キャンパスに移動。これは初めての体験だ。自宅から有明に往復するだけなら楽なのだが、有明から三鷹に移動するのは大変だ。以前、客員だった時に、国際展示場のブックフェアのイベントから大学(武蔵野キャンパス)に行ったことがあった。その時は埼京線で新宿まで来て中央線に乗り換えたのだが、本日は東京駅に向かう。これも去年だったか、ブックフェアのイベントから新幹線で大阪に行った時にたどったコース。本日は新幹線ではなく中央線のホームに向かう。動く歩道があるので、長い距離を歩くわけではない。二つめの駅が御茶ノ水。ここに引っ越すことになるので、有明キャンパスからここまでの時間を計る。45分くらいか。新居から有明キャンパスまではわりと近い。そこからが遠い。ほぼ毎日通うことになるのだが、三宿から通うよりも遠い感じだ。三鷹まで乗り換えがないのだが、電車に乗っている時間は長い感じがする。特快の時間をメモして対応すれば少しは時間短縮ができるか。学科会。問題山積。長時間の会議になった。疲れきって帰ると四日市の孫2人がまだいた。癒されるような、疲れるような感じ。とにかく長い一日だった。

04/02/火
引っ越しに備えて着々と準備が進んでいる。本日は車で新居に行ってみた。オフィスも商業施設もある再開発の施設なので、広大な地下駐車場がある。とりあえず駐車場の入口のゲートの前に停車する(運転は妻)とバーが上がった。登録済みのナンバープレートを機械が読み取って入場を許可してくれたのだ。機械というものをあまり信じていないのだが、バーを上げてくれたので、機械は偉い! と思った。初めての駐車場だが、表示に従って地下2階まで下り、所定の駐車スペースで、立体式の装置を操作して駐車する。妻は運転はうまいのだが車庫入れは苦手なので、そとから声で誘導する。これをクリアーすれば快適な生活ができる。映画はお台場で観ることにしているし、勤め先の大学の本部もお台場にあるので、車でお台場まで行ければ、何かと便利だ。そのためには、妻に車庫入れに慣れてもらわにければならない。とりあえず本格的な引っ越しの前に、少しずつ大切な荷物を車で運び込みたいと思っている。本日は本棚を一つ運んだ。駐車場のある地下2階の倉庫に物置を借りた。わずかばかりのスペースだ。いまの自宅の地下物置の4分の1くらいのスペースか。いまの自宅は2階建ての別棟があって、本は無限に所蔵できる感じがしていた。今度の引っ越しでは自著のストックも最低限しか保存できないので、とりあえず気に入らない著作は全部捨てようと思っている。試しに本棚を一つ運んだ。もう一つくらい本棚は入る。残りのスペースはなるべくあけておきたい。近くの千代田区役所の出張所に行く。転入届。印鑑登録。それから住民票を6通もらう。文藝家協会をはじめ、理事をつとめている団体が4つある。勤め先の大学にも届けが必要だ。昼休みに出張所に行ったので、定年延長の老人みたいな人しかいなかった。作業の遅いこと、驚くべし。隣で区民会館の会議室を申し込んでいた人は、途中でキレて帰ってしまった。わたしと妻は辛抱強く待つ。それからすぐ近くの警察署へ。運転免許の住所変更。運転免許証は身分証明書を兼ねている。住民票と免許証。それに印鑑登録。これさえやっておけば、諸手続が進んでいく。午後2時に文藝家協会で教材出版社との打ち合わせがあった。区役所出張所で時間をとられたので、昼食の時間がなくなった。駐車場に戻る前に、同じ施設内にあるパン屋でパンを買った。車に乗り込んでパンをかじると焼きたてで美味であった。このパン屋が同じ敷地内にあるということは幸福につながる。ドーナツ屋やドラッグストアや、ワインバーみたいなものもオープンしている。施設内のスーパーもオープンしていた。大きなスーパーが施設内に入り、隣のビルには中規模の高級スーパーが入ったので、生活に不便はない。駐車場を出る時にも機械はちゃんと反応してくれた。姉がよく出演するオペラシティーの国立劇場の駐車場では、劇場のすぐ下にある料金精算機で料金を払うと、出口のゲートが勝手に開くので、以前から不思議だったが、入口でナンバープレートを機械で読み取っていたのだろう。ということで、駐車場の出入りも問題がない。外に出たところで車から下ろしてもらって、地下鉄で文藝家協会へ。これから何度も通う文藝家協会にどう行ったらいいかは、事前に考えてある。御茶ノ水から中央線快速で四谷まで行って歩くというのが最速だろう。本日は雨なので歩きたくない。小川町から都営新宿線市ヶ谷乗り換えで有楽町線の線麹町というのが有力なのだが、マンションの入口から最短は千代田線の新御茶ノ水駅なので、とりあえずそこから電車に乗り、とっさに考えた。千代田線の国会議事堂前と南北線の溜池山王駅はつながっている。南北線の永田町までは一駅だ。南北線永田町の出口は文藝家協会のある文春ビルに近い。このコースで行ってみたが、10分くらい遅刻したかな。まあ、問題はなかった。打ち合わせを終えて自宅に帰る。孫が1名だけになっていた。もう一人の孫は嫁さんのお母さんが連れて帰ったとのこと。次男は仕事があるので日曜の夜に四日市に帰った。嫁さんは引っ越し荷物の整理を手伝ってくれている。そのかわりにわたしが孫の相手をして、レゴの組み立てを手伝ってやった。自分の息子2人とレゴで遊んだのは遠い想い出だ。また同じことがくりかえされていく。しかしこちらが根気のない老人になっているせいか、ひどく疲れた。夜中は仕事。あと10ページというところまで来ているが、それで宇宙論の結論が出せるのか。とにかく書いてみるしかない。

04/03/水
大学。学部長会議。今年度から文学部の学部長になった。やたらと会議が増えることになるが、まあ、会議は慣れている(会議中に内職をすることに慣れているというべきか)。土砂降り強風だったので最寄り駅の池ノ上まで妻に送ってもらう。すでに転居手続きは済ませたのだが、まだ荷物の整理が終わっていないので、新居に行ったり来たりの生活になる。これからの半月が大変だが、『宇宙論』も終盤に差しかかっている。

04/04/木
大学。入学式。朝10時からの入学式。学部長は壇上に並んで座る。これは疲れるなあ。式の途中に気づいた。会場の学生は全8学部の半分だけなのに、学部長は8人いるぞ。ということは午後1時からの2回目の入学式にも学部長は出席しないといけないのだ。式のあとはまず保護者会で挨拶。それから学生のガイダンスに駆けつける。と思ったら午後の入学式が始まる。え、昼食の時間もないのか。2回目の入学式が終わると、くたくたに疲れている。じっと座っているというのも大変だが、総長、理事長、学長の同じ話を2回聞くのがつらい。もっとも本人も同じ話をするのはつらいのか、少しずつ変形した話し方をした。昔、集英社主催の高校講演会に参加していたころは、午前と午後の講演を2日連続でやるということを、何年も続けていた。一回の旅行で4校で話す。聴き手は毎回違うから、4回とも同じ話でいいのだが、担当編集者がついて回る。それが気になって4回とも違う話をしたことがった。さすがにウケる話とウケない話があるので、そのうち同じ話を、少しずつヴァリエーションを変えて話すようになった。いまも、そんな感じで講演をしている。さて、2回目の入学式で解放されるわけではない。まだ大学院の入学式がある。これは壇上に昇らなくていいのだが、3回目となると、疲れがピークに達した。長い1日だった。『早稲田1968』のゲラが届いていた。これを書き上げたあと『宇宙論』を書き始めて、もうゴール寸前のところまで来ている。本日、ダークマターの痕跡が見つかったというニュースが流れた。わたしの本では、その種のトピックスを扱うわけではないので、どうでもいいのだが、エンディングを書く前にいままでのところをプリントして読み返すのもいいかなと思っている。とにかく本日からはゲラを見る。目次の感じはなかなかいい。軽い読み物という感じが出ている。実は中身は重いのだが、重い中身を軽く語ってみるという試みだ。その狙いがうまくいっているかどうか、とにかく読んでみるしかない。

04/05/金
大学。大学院の学生のガイダンス。そのあと会議。その間にも突発的な問題が生じたりして、問題山積という感じかする。実は著作権関係でも問題が山積していて、どうなることかと思っているのだが、そこは老人なので、経験がある。問題というものは、なるようにしかならない。与えられた状況の中で、つねに最善を尽くすということをやっていれば何とかなるし、うまく行かなくても世間はよくやったと言ってくれるし自分でも納得できる。つねに最善を尽くす。これは簡単なことだ。その場で考えて、最善を尽くせばいいので。あとで冷静に反省すると、もっといいやり方があったのではないか、といったことは考えない。その時に気がつかなったのは、自分の能力の限界なのだし、運もなかったということだろう。だからくよくよしない。少しいいかげんかもしれない。最善を尽くすというのは、その場で最善と思われる戦略を立て、必要なら人にも頼み、自分も努力するということだ。それだけのことをやれば、気分よく生きることができる。『早稲田1968』のゲラ。おお、これはなかなか面白い本ではないか。軽い文体がいきいきしている。こういう文体を見ると、純文学って何だろうという気がする。文章は軽くて読みやすい方がいいのではないか。文章は軽いのだが、すごく重いことを語っているぞ。この週末、引っ越しの荷物の整理がまだ残っているのだが(妻と嫁さんがかなり片づけてくれたので、あとは自分でチェックするだけでいいのだが)、夜中はゲラを見られるので、日曜の夜には完了したい。

04/06/土
この週末は休み。ゲラを見なければならないのだが、本日は部屋の片づけ。ほとんどがゴミだ。著作権関係の資料のようなもの。いちおう置いておこうかと思っているうちに大量にたまってしまった。どんどん捨てる。何もかも捨ててしまう。新居の本棚は、自著を1冊ずつ入れるとそれだけで埋まってしまいそうで、何ももっていけない。まあ、捨てられない本は大学の研究室に運べばいい。ようやく作業が終わった。あとは別棟だけだが、これは昨年、研究室に自分の本をもっていった時に見ていて、妻が残りの本は処分してしまった。残っているのは自著で、河出から出した本は今度、すべて電子書籍になるので、残しておく必要はない。自分でいい本だと思うものだけ何冊かもっていくことにする。

04/07/日
日曜日。台風なみの強風。雨がやんだので車で新居に行ってみる。本棚を1つ運ぶ。これで地下の倉庫は満杯。自宅の地下の倉庫は長さでこの倍の広さ。幅も倍なので面積は4倍だ。まあ、仕方がない。わずかでも物置があるというのはありがたい。隣接した建物は商業ビルになっている。2階と3階のオープンはまだだが、1階の路面店と地下のスーパーをすでにオープンしている。この前に来た時にパン屋で焼きたてのパンを買って美味だったので、いいところに来たと思った。地下のスーパーはそれほど広くはないが、それでも必要なものは揃っているし、地下の駐車場を抜けてマンションの方に移動することができる。まだそのあたりの地理的感覚がなく、迷宮の中を進む感じだが、そのうち慣れるだろう。

04/08/月
大学。まだ授業は始まっていない。学科会。べつに紛糾したわけではないが9時までかかった。やれやれ。

04/09/火
大学。本年度、最初の授業。まずは1限、2年生のゼミ。これから2年、3年、4年と、3年間、つきあうことになる。この中から、何人か、才能のある書き手を発掘したい。まだどんなメンバーなのかわからない。とりあえず授業はスタートした。まあ、いい感じでスタートできたと思う。本日は1限だけなのだが、研究室に戻ると何やかやと用件が押し寄せてきた。能楽資料センターの事務の人が来て、打ち合わせをする。まだよくシステムがわからないのだが、学部長になると能楽資料センターと武蔵野文学館の責任者になるようだ。やるべきことは、とりあえずハンコをつくということ。新聞記者が来て取材を受ける。自宅が荷物で埋まっているので研究室でインタビューを受ける。これからはこういうことになるだろう。小さなマンションに引っ越すので、応接間というものはない。来客を部屋に招くことはできない。まあ、ロビーが広いマンションなので、ロビーで打ち合わせはできるし、同じ建物の中にバーなどがあるので、編集者とはすぐに飲み始めるという感じになるだろう。『早稲田1968』ゲラ完了。終わった。いい本になる。研究室で『宇宙論』をプリントした。最初から読み返して、エンディングに突入したい。その次の仕事は決まっていないので、いよいよ『カラマーゾフ』かなと考えている。その前に引っ越しだ。早く楽になりたい。

04/10/水
大学院の会議が中止になったので休み。『宇宙論』を読み返している。プリントしたものに赤字を入れながら慎重に読み進む。できれば刈り込んで短めにしていきたい。結論の部分に枚数が必要だから、前半を少し削りたい。

04/11/木
3年のゼミと4年の卒業ゼミ。前年と同じメンバーなので初回のガイダンスは楽。早めに終わって学務課で打ち合わせ。これは学部長の仕事。それから月曜日の準備をしておく。火曜は1コマ、木曜は2コマだけ。去年は木曜に夜間の大学院の授業があって疲れが残ったのだが、今年度はその大学院のコマを月曜2限に移した。月曜1限に最もハードな文学史のコマがあるので、そのクールダウンを兼ねて大学院の学生を相手にのんびり雑談をしたい。木曜は午後から出勤なのでのんびりしている。電車もすいている。井の頭線の車窓に、ツツジの花が見えた。もう少し季節が進むと紫陽花が見える。井の頭線は神田川に沿った丘陵地を走るので掘り割りみたいな半地下のゾーンを通ることが多く、斜面にツツジや紫陽花が植えられていて、季節感があっていいね。でも、引っ越しまで2週間を切った。まだカウントダウンではないが、出講しない日もあるので、井の頭線で大学に向かう、という日は、もはやカウントダウンだ。来週は水曜の学部長会議にも出るので4回、再来週の月曜と火曜、その次が引っ越しなので、あと6回ということになる。もう転居届けは提出して、ベッドも入っている。荷物を運びながら新居に宿泊することも考えていたのだが、窓に欠陥があってまだ工事が続いている。オプションの内装工事もまだ続いている。それでも地下の倉庫にはものを運べるし、郵便物の確認に時々は新居に行くことになる。荷物は梱包できるものはほぼ片付いたが、生活に使っているものは当日、引っ越し業者とともに一気に梱包することになる。これが人生の最後の引っ越しになるだろう。あとは病院か老人ホームだ。

04/12/金
書協で会議。途中で退席してペンクラブへ移動。途中、新居に寄って郵便物を確認。文藝家協会には転居通知を出しているので文書が一つ届いていた。書協から新居のロビーまで、25分。そこからペンクラブまでも25分。どちらも三宿からなら1時間かかる。老人にとっては、移動の時間が短いのはありがたい。御茶ノ水駅前のビルと、その裏側にある新居の入っているビルの飲食店が、本日、同時にオープン。駅前のビルの明るい地下広場に面して、ぐるっと飲食店が取り囲んでいる。その前を通って新居に向かう。新居の飲食店街にはやや下品な音楽が流れていた。やめてほしい。桜の咲く(もう散っているが)広場に面して、イタリアふうのバーが2軒並んでいる。早く引っ越して、昼間からここで飲みたい。

04/13/土
池袋のカルチャーセンターで講義。池袋へ行くのは久しぶり。以前、何かでこのカルチャーセンターの控え室にいると、小阪修平さんと出会った。わたしより一年くらい年上だったか。在野の哲学者として独特の存在感をもった人だったが、語り口がマイルドで、ハンサムだった。池袋は遠い。今度引っ越す新居だとわりと近い感じだ。いよいよカウントダウンという感じになってきた。

04/14/日
日曜日は休日。引っ越し準備の追い込み。新居には地下に小さな倉庫がある。主に自著のストックを収納する。これまで大邸宅に住んでいたので、自著は多めに購入していて保存していた。今回はもっていける量に限りがあるので、とりあえず保存の必要のあるものから箱につめていく。ダンボール箱に8つというのが限度。すぐに詰め終わる。車で新居に運び、倉庫に収める。これで作業が終わった。同じ建物と隣の建物の飲食店が先週の金曜日にオープンした。その日にわたしは郵便物の確認のために素通りしたのだが、今回は妻といっしょに店を確認していく。同じビルにスーパーはあるのだが、隣の駅前ビルには成城石井が入っていて、輸入チーズの品揃えが豊富だ。いい具合に相互補完していて便利だ。さて、本日の作業で、山は越えた感じがした。来週の土曜には、大学の研究室に荷物を運び込む。写真とか資料みたいなものは研究室に移す。武蔵野文学館というものができたのでそこに寄付しておきたい。

04/15/月
早朝の1限。この時間を選択する学生は本当に文学について知りたい学生だと思う。こちらもせいいっぱいに語る。2限は大学院。教室の連絡がうまくいかなかったのか、去年もいた2人しか来ない。それでもいいのだが、新人と出会いたいという気持がある。3、4限は1年生の入門ゼミ。5限は教授会。その後、講師の先生方との懇親会。うわー、長い一日。今週はハードだなあ。明日は文藝家協会の理事会だ。その次も何やかやと仕事がある。引っ越しの荷造りは峠を越したとはいえ、まだやらねばならぬことがある。宇宙論もこれからが山場だ。まあ、しかし、こういうところを乗り越えていけば、少しは楽になる。というふうに前向きに考えないといけない。少しずつよくなっていく、というのが、若いころからのわたしの信条であったが、この10年くらい、果てもなく多忙になっていくという、悪しきスパイラルにのめりこんでいる感じた。それでもわたしは元気で、これから新釈カラマーゾフに取り組もうとしている。忙しい方がアイデアが出る。それがこれまで新釈罪と罰、新釈白痴、新釈悪霊を書いてきて体験から出できた楽観論だ。気持は前向きになっているのだが、引っ越しの荷造りの肉体労働の疲れと、ハードな日々の埋め合わせて寝酒を少し飲み過ぎる傾向があるので、もう少し穏やかな日常を取り戻したいと思う。

04/16/火
火曜日からは2回目の授業。1限の2年ゼミのあと、休学を希望している留年した1年生が相談に来た。それから文藝家協会の常務理事会と理事会。やや紛糾した。あとで加賀乙彦さんや川村湊さんらと軽く飲む。文藝家協会に向かう前、早めに四谷の駅に着いてしまったので、ルノアールで30分ほど仕事。行き詰まっていた『宇宙論』の第5章の冒頭部分にいいアイデアが出た。本日はこれだけが成果だ。明日は大学でアキ時間があるので研究室で仕事をしたい。

04/17/水
大学。学部長会議など。それからメンデルスゾーン協会運営委員会。疲れがたまっている。明日も大学。金曜はシンポジウム。なかなか楽になれない。『宇宙論』のことも気にかかるのだが、プリントに赤字を入れた部分の入力もストップしている。

04/18/木
大学。授業2コマのあと、臨時学科会議。来年のカリキュラムのことなど。疲れが少しずつたまってきた。引っ越しの荷物まだ完成せず。

04/19/金
秋葉原でシンポジウム。MyBook変換協議会。わたしが会長。会長としての挨拶のあと、パネルディスカッションに参加。いい感じで論点が進んでいく。激しい論戦になるかと思っていたのだが、写真家の瀬尾さんの根回しが奏功したようで、何か、まとまった感じだ。帰りに新居に寄る。秋葉原から歩いて5分。広場で物産の販売をやっている。にぎわっていた。マンションのロビーは閑散としている。まだ引っ越してきてない人が多いのか。それともこんなふうにロビーは落ち着くことになるのか。このマンションの最大の売りはこのロビーで、ふつうのマンションよりスペースが広く、椅子の数が多い。マンションでは応接間というスペースはとれないので、このロビーは貴重だ。

04/20/土
土曜日。以前からこの日を、荷物運びの日と決めていた。新居に運べない本を大学の研究室に運ぶ。自動車通勤でない者が車で乗り入れるためには許可が要るので事前に大学に届けを出していた。去年の春、研究室が移動になった時に、自宅にある本を大量に運び込んだ。自著も運び込んで、ダンボールのつめて窓際に積んである。今回、自宅の引っ越しにあたり、捨てたくない本がかなりあったので、10箱くらいのダンボールを運ぶことになった。去年は引っ越し業者に頼んだのだが、今回は何とか自分の車で運ぶことができた。とりあえず運び入れただけだ。これまで、新居に運ぶもの、大学に運ぶもの、捨てるもの、と3種に分類していたのだが、大学に運ぶものは運んでしまったので、整理しやすくなった。帰りにスーパーで赤いテープを買って、捨てるものが入った箱に×印をつけた。あとは引っ越し業者に任せる。この忙しい時期に『早稲田1968』の再校ゲラが届いている。読んでいくと、明らかな間違いもあるし、直したいところも出でくる。明日中に仕上げたい。

04/21/日
引っ越し前の最後の休日。廃棄するテレビのアンテナ線を抜いたり、カードを抜いたり。パソコンもデータを消しておこうと思ったのだが、まったく動かなくなっている。再校ゲラは早朝から作業をしたので午後3時くらいに完了。すぐに送り、祝杯を上げるためにビールなどを買う。酒類は仕事場に運び、残ったものは消費してきたので、あと3日ぶんの必要量だけを確保してあるのだが、連休に片づけをするのでそれまでは冷蔵庫を活かしておくことになった。だからビールを残しておいてもいいのだ。さて、月曜、火曜と大学があるので、あとは妻に任せるしかない。テレビは連休に次男一家が来るので、小さいのを残しておく。『早稲田1968』は完全に手を離れた。次は8割ほどできている『宇宙論』を仕上げる。連休までまだ片づけの作業が残るのだが、夜中は仕事ができるだろうから、何とか早めに草稿完成に到達したい。いよいよ「カラマーゾフ」だが、もう一つ、新書を書くことも検討している。構想を練るのにまだ時間が必要なのと、大学が多忙なので集中力が持続しない。夏休みになってスタートしたい。

04/22/月
電子書籍販売サイト ebook japan に「三田誠広の小説教室」を開設。このホームページのインデックスページにもリンクを貼った。学生の作品が無料で読める。先生のコメントもつけてあるし、小説の書き方の連載も始めた。高校生の読者が多いので、武蔵野大学文学部の楽しい雰囲気を伝えて、受験者を増やしたい。人気が出れば将来的には募集人数を増やすこともできる。さて、本日は1限と2限、昼休みに休学したいという学生に対応し、1年の入門ゼミにも行ってみたが、こちらは担当の先生が3クラスぶんをまとめて対応してくださったので、こちらは研究室で自分の仕事。「釈迦とイエスが伝えたかった『ただ一つ』のこと」というタイトルの本を書くことになった。そのただ一つのこととは何か。それはここでは明らかにしない。夕方は学科会。自宅に帰って荷物の整理の追い込み。引っ越しは明後日だが、荷物は明日、出発する。やりかけの仕事の資料などはそのままにしておく。明日の夜も仕事をしないといけない。妻が本日、新居に出向いて、電器製品の搬入に立ち合い、水道の栓なども開いた。明日はわたしが見に行って、深夜電力でわかすお湯がわいているかを確認する。長い一日になりそうだ。

04/23/火
大学の1限のあと、新居に移動。夜間電力の温水器でお湯がわいていることを確認。冷蔵庫の製氷器の氷を捨てる(2〜3回は捨てる必要があるらしい)。ガラス窓の補修が終わり(結局あと1枚は後日交換することになった)、床や家具にかけられていたカバーがとれて、ようやく住める感じになってきた。とにかく明日が引っ越しだ。新居の階下の飲食店のようすを見る。隣のソラシティーの地下飲食店は賑わっていたが、こちらは奥まったところにあるので、少し寂しい感じ。まあ、その方が落ち着くのだが。池尻大橋駅の近くの松屋で昼食。妻が不在の時、よくこの店を利用したが、これで最終回になるか。自宅に帰ると引っ越しの作業が続いている。こちらはすることがないので、書斎にこもって仕事をする。『宇宙論』のプリントに赤字を入れたものを入力。しばらく作業が止まっていたので、とにかく前に進めたい。プリントした草稿は完成しているわけではなく、結びのところは白紙になっている。入力作業を進めながら、その勢いでエンディングと考えていたのだが、とにかく引っ越してしまわないと集中力が出ない。大量の荷物を解いて、片づける作業が大変だ。あまりの荷物の多さに、急遽、ダイニングのテーブルをもっていくのを中止。テーブルの位置にダンボール箱を積み上げることになりそうだ。テーブルは新しいのを買うことにしていたが、サイズがよくわからないので、とりあえず三宿のものを運ぶことにしていたのだが、箱を片づけないとダイニングで食事という雰囲気にならないようだ。とにかく業者が荷物を運んでいった。本日は業者の車庫に荷物を積んだままで一泊して、トラックが新居に着くのは明日。業者は荷物を運び込むだけだから、荷を解くのはわたしと妻の仕事だ。すぐに必要なものもあるので、とにかく箱を開けて、必要なものを確保しなければならない。がらんとした部屋を見ると、27年暮らした家だけに、感慨がある。できればずっとここに住みたかったのだが、こちらが老齢となって、維持が難しくなった。仕方がない。新居での新しい生活に期待をかけて、前向きの姿勢で引っ越したい。

04/24/水
いよいよ引越当日。荷物は昨日のうちに運送屋のトラックにつめこんだ。妻は早朝に新居へ。こちらは残って、NTTの人が来るのを待つ。光ケーブルの取り外しと電話の撤去だが、もともと電話はこちらが購入した電話機を使っている。光ケーブルは壁から出ている線をプチンと切ってそれで終わり。電話線は家の外から何か操作していたようだ。ネットにつながらなくなったが、『宇宙論』チェックの入力作業を昼まで続ける。新居に行くと部屋の中が箱で埋まっている。身動きができないのでいちおう書斎とされているところの箱を開け、本を書棚につめこむ。事前に選別したので、自著と資料のようなものだけ。以外に早く、夕方にはほぼ片付いた。まだ箱がいっぱいあるのだが、これは妻の担当。三宿のご近所の方が手伝ってくれたので食器の一部は棚に並んだ。夕方、NTTの人が来て、ネットと光電話の装置をとりつけてくれた。分電盤にセットするようで、部屋の中にルーターを置く必要はない。これは便利だ。設定が大変ではないかと心配していたのだが、ものすごく簡単だった。以前よりも手続きが簡略化されている。こちらが慣れたせいか。しばらくメールを見ていなかったので大量の未読メールがたまっている。とりあえず食事に行く。オフィスとマンションと商業施設がセットになった建物なので、店がいくつか入っている。どこもオフィスのサラリーマンで満杯で、少し遅い時間に行ったので、もう盛り上がっている。もう少し落ち着いた店を探しておかないといけない。長い一日だった。この文章を書き終えたら、軽く飲んで疲れを癒したい。

04/25/木
新居から初めて通勤する。JR御茶ノ水駅に行くと特快が来た。特快は早い。それよりもこれまでは旧自宅から池ノ上までアップダウンある道を20分近くかけて歩いていたのでので、ずいぶん楽になった。昨日はネットの設定でせいいっぱいだったが、本日はテレビが見えるようになった。テレビでニュースなどを見ていると日常が戻った感じがする。ここは都心にあるのに妙に静かな感じがする。周囲のビルが騒音を防いでくれるのだろうか。明日は休みだ。まだダンボールが山積みになっているのだが、気分的にのんびりしたい気がする。疲れを癒したい。

04/26/金
本日は休み。新宿のマッサージ屋に行っただけ。疲れがたまっていたが、少し楽になった。

04/27/土
大学。世の中は連休に突入したのだが、わが大学では新入生歓迎の催しがある。先輩の学生たちが中心になってプログラムを組む恒例の催しで、この先輩たちの熱心な活動にいささか感動する。で、終わったあとは先輩学生たちを教員が慰労する飲み会がある。そのあと、学部長(私)と学科長の2人で二次会につきあう。それでも、三鷹から御茶ノ水まで一本で帰れることが嬉しい。この日のために引っ越したようなものだ。妻には先に寝るように言ってあったので、静かな部屋で、風呂上がりの酒を飲む。いい気分だ。

04/28/日
昨夜は深夜に三鷹から御茶ノ水に帰り、誰もいないマンションのロビーを通って帰宅した。三宿の家は、広大で、書庫には本がつまっていて、終の棲家だと考えていたのだが、最寄り駅まで、田園都市線の池尻大橋まで15分、大学に通う場合は井の頭線の池尻まで20分歩いていた。老人にはややきつい距離だった。引越をしたのは、第1に、一戸建て住宅の管理が大変で、妻の負担を思うと大邸宅を放棄せざるをえないと決断したことに尽きるのだが、引っ越し先については、大学への通勤のことも考えた。で、昨夜、やや酔って帰宅して、御茶ノ水駅からマンションまで、ふらふら歩いても、あっという間に部屋に帰りついた。駅前の信号を渡れば、あとは信号を渡ることもなく、雨に濡れることもないというのが何よりのメリットだ。
さて、本日の課題はデスクの組み立て。新居では仕事場の設定のために、通信販売でデスクと椅子を買っておいた。三宿の家では、最初は書斎があって、壁一面に長大なデスクが作りつけで設定されていたのだが、その書斎は長男のピアノ室になって、和室を書斎とした。それから犬と真夜中をともにすごすようになって、リビングの椅子で膝にパソコンを抱いて仕事をする日々となり、そして最後は、ダイニングのテーブルで仕事をするようになった。犬が亡くなり、2人の息子もいなくなって、妻と2人きりの生活になると、冷暖房も一部屋だけの方が効率がいいので、ダイニングで仕事をし、休日には朝から晩までダイニングにいるようになった。しかしそれでは、つねに妻といっしょにいることになり、妻にストレスをかけていたようだ。引っ越し先のマンションでは、ダイニングとリビングとわたしの仕事場は、ワンルームでつながっているようでもあるが、わたしの仕事のスペースだけは引き戸で仕切れるようにもなっている。そこでその仕事のスペースのために、通信販売でデスクと椅子を買っておいた。
しかし通信販売だから組み立て式で、中国製なので不具合もあるようで、うまく組み立てられるか心配だった。で、本日、組立の作業に取りかかった。デスクは思いの外、簡単だった。説明書を熟読して、ミスのないように慎重に進めたので、まったくミスもなく組み上がった。問題は椅子で、これは雑な作りでネジがうまくはまらないところがあって苦労したが、何とか組み上がって、耐久性がどれほどかわからないが、とにかく快適に仕事ができる環境になった。あとはこのマンションで、ギターを弾いて歌を歌う、といったことを試みてみたいが、昨夜、学生たちとカラオケに行ったので、しばらくは自宅で歌を歌うことはないだろうと思う。それよりも部屋の片付けをしないといけない。世の中はすでに大型連休の入っているのだが、M大学は独自のスケジュールで進行しているので、明日も1限から授業がある。軽く飲んで早めに就寝したい。

04/29/月
祝日だが大学は開講している。朝の1限。この時間に新居から大学に行くのは初めてだが、鉄道も休日ダイヤなので、すいているし、高円寺、阿佐ヶ谷、西荻窪をパスするので、とても快適だ。1限の授業のあと、大学院の授業は木曜の夜に移動した。ここで自分の仕事ができるかと思ったが、学生の小説などを読んでいて時間がつぶれてしまった。3、4限の1年生の授業。それから学科会と臨時教授会、さらにメールで大学事務とのやりとりがあって、いやあ、疲れたなあ。明日の1限が終われば、大学も休みになる。少しのんびりしたい気がする。

04/30/火
本日は1時限だけ。だが学生のレポートを帳簿につけたり、遊びに来た学生の対応をしているうちに時間が経過した。管財課の人が来てケータイを貸与してくれた。学部長はこれを携帯していないといけないらしい。なーんか、鵜飼いの鵜になったみたいだな。それでも午後4時には自宅に帰れた。三宿の家よりも20分くらい短縮できるし、歩く距離が圧倒的に少ない。その20分、余分に歩いていたということだろう。部屋も片付いて仕事に集中できる体制になった。昨夜だったかな、深夜に「カラマーゾフ」の構想を練りながら、ふと書棚から『新釈悪霊』を出して、シャートフが妻の出産に立ち合う場面で、きみがマリアならぼくはヨセフだ、というくだりを読んで、こんな美しい文章を誰が書いたのだろうと思った。ドストエフスキーの原典にはこんな文章はないぞ。自分が書いたのだな。うーん、すごい文章だと自画自賛する。エンディングのところも、読んでいて泣けてきた。キリーロフがいい。少しセンチメンタルなキャラクターになったけれども、原典のキリーロフよりも人間らしい人物になった。何となく、「カラマーゾフ」も書けそうな気分になってきた。


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