「青い目/西行U」創作ノート2

2009年5月

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05/01
空白の一日。昨日M大学、明日はW大学で講義がある。それでパソコンを仕事場においたまま、三宿にもどってきた。この一日は何もないので三宿ですごすのだが、慣れたパソコンがないので落ち着かない。古いデスクトップで「青い目」を入力。反応が遅く集中できない。このデスクトップは、光ケーブルを入れたときに購入したもので、当時としては最新のものだったが、もっぱらネットを使う時と、プリンターを使う時に使用していた。当時から仕事はラップトップでやっていた。いまは10メートルのランケーブルでメールやネットもラップトップで作業するので、このデスクトップはまったく使っていない。さまざまなソフトを更新しているので、作動が遅くなっている。仕事場には、妻、義父母、次男夫婦に孫が揃っているのだが、こちらは一人で仕事をしている。

05/02
文藝家協会の顧問弁護士と法学部の講義。著作権について話す。さすがに法学部の学生は顔つきが前向きだ。仕事場に戻る。孫は熱が出ていて機嫌が良くない。そのため大人たちも疲れている。作品社のドストエフスキーのゲラが届いている。ぶあつい本なので、少し気持が引いている。

05/03
妻が義父母を車に乗せて大阪に向かって出発。次男夫婦も帰って、一人きりでゲラに取り組むはずだったが、孫が熱を出して病院に通っているので、まだしばらく滞在することになった。四日市に帰っても医者があいていないとのこと。で、孫のいる喧騒の中でゲラに取り組む。とりあえず初校で直したところと、編集者のチェックを点検。直したところはきっちり直っているし、チェックもごくわずか。900枚ぶんの作業を一日で終えた。これで作業を終了してもいいのだが、のんびりと楽しみながら最初から読んでみたい。

05/04
妻がいないが次男夫婦と孫がいる。孫は突発性発疹で元気がなかったが、昨日の夜から元気が出てきた。この病気は発疹が出ると熱が下がる。二人の息子も幼い時にかかった。同じことがくりかえされる。次男たちはドライブに出かけたので、こちらは一人でゲラを最初から読み返す。14章まで読む。面白い。出だしから独特の雰囲気があり、展開が早い。あまりに充実しているので一日が長い。読者はたぶん気づかないのだろうが、よーく考えてみるとまだ一日しかたっていない、ということで、ややつじつまのあわないところを発見。修正する。あとは漢字の不統一が目につく程度。ほぼ完璧の文章だ。読んでいて気分がいい。夜、大阪から戻る妻を迎えがてら、次男夫婦の鷲津のイタリア料理へ行く。ピザとパスタだけの店だが、どちらもなかなかいい感じで、妻とはよくいく店。次男たちとは初めてだが、次男も嫁さんも食欲旺盛なので、気持のいいくらいによく食べる。鷲津の駅前は静かで広々としている。妻と久しぶりに会った気がするのだが、昨日出発したのだから、久しぶりというわけではない。

05/05
孫はさらに元気になった。しかし激しい雨。次男たちは植物園に行く予定だったが、やめて、われわれの買い物に同行。われわれはプランター用の土を買う。広々としたスーパーで、隣に大きな公園のあるところだが、本日は雨。ペットショップの犬を見て帰る。ゲラ、全22章、完了。この本は2日あれば読めるということだ。たぶん読むだけなら一日でも読み切れるのだろう。わたしが『罪と罰』の原典を読んだのは中学1年の時で、夏休みに3日かけて読んだ。それと同じ内容で、より深くなった作品が1日で読めるというのは、すごいことではないだろうか。

05/06
連休最終日。次男一家を先に送り出してから、こちらも出発。ところどころ渋滞はあったが、高速料金が4000円も安いのありがたい。10日間ほど仕事場にいたのだが、わたしは途中で一度、東京に戻っているので、郵便物などもそれほどたまっていない。この連休中は、義父母と次男と嫁さん、一歳の孫との交流の中、ドストエフスキーの再校を仕上げることができた。明日、投函する。途中でわたしが東京に戻り、妻は義父母を大阪まで送っていったのだが、それらのスケジュールも無事に完了した。さて、これからまた三宿での日常が始まる。

05/07
大学。小雨。さて、今日から本格的に「青い目」に取りかかる。それと、仕事場で朝型になった生活時間を夜型に切り替えないといけない。

05/08
金曜日。何事もなし。久しぶりに北沢川を散歩。少しずつ調子が戻ってきた。「マルクスの逆襲」は見本が出たようだ。といっても、表紙が真っ白の集英社新書だし、表紙の刷り見本は届いているので、出来上がりの感じはわかっている。ただ、本が出来たということは、喜ばしい。書き終えた直後に経済危機が来たので、発売時期をずらして中身を修正などの作業があり、大変だった。とにかく本が出たことを喜びたいし、結果としては、発売時期のタイミングもよかったのではないかと思う。

05/09
土曜日。いつものように北沢川を散歩。日だまりでカルガモのヒナが羽根を干している。「青い目」少し前進。

05/10
日曜日。いやに暑い。真夏みたいだが、家の中はひんやりしている。「青い目」少し前進。そろそろ「西行」のことを考えないといけないのだが、迷いがある。冒頭、清盛の叔父と、義朝の父の処刑シーンをどう画くか。史実ではそれぞれの屋敷で処刑したことになっているが、これを三条河原でやるというプランにこだわっている。史実に反するわけだが、小説としての面白さを考えると、三条河原でやりたい。しかし源平合戦のあとで平家の公達が三条河原で処刑されるシーンを際立たせるためには、やはり保元の乱の段階では、屋敷で処刑ということの方が穏やかでいいかもしれない。まあ、じっくり考えたい。

05/11
シアターコクーンで「雨の夏30人のジュリエットが還ってくる」を観る。三田和代さん久々の全力投球の主演。しかし観ていて疲れた。充実した芝居だが、おなかいっぱいという感じだ。

05/12
メンデルスゾーン協会の運営委員会のはずだったが、事務局長から電話で中止。いま盛岡にいるが帰れそうもないとのこと。全員ボランティアの組織だから、こういうこともある。「青い目の王子」を進める。少し進んだ。

05/13
医者に行く。月に一度医者へ行く。そのあと、わが教え子でもあるNPOの事務局長が自宅に来る。今回は彼の自分の仕事に関する用件。その後、雑談。夜、「マルクスの逆襲」の担当者と渋谷で打ち上げ。ずいぶん時間がかかった本だが、結果としてはいいタイミングで出せたので、結果オーライ。売れることを期待する。

05/14
大学。陽射しが強く、武蔵境から歩くと汗が流れたが、帰りはひんやりとした風が吹き渡っていた。

05/15
文藝家協会総会。副理事長としてはただ座っているだけでいいのだが、知的所有権委員長を兼ねているので、グーグル問題について説明する。必要な説明はできたと思う。総会ではずっと、出席者と対面して、理事長や議長の横に座っていないといけない。じっとしているだけで、えらい疲れた。夜は懇親会。いつもお世話になっている人々がドッと参集したので、歩き回って頭を下げ、会話をし、キリのいいところで話を終えて、次の知人に挨拶に行く。一年で一番疲れる会合である。その後、NPOのスタッフと打ち合わせ。これも毎年のルーチン作業で、気心の知れたスタッフだけになると、ほっとする。このメンバーの活動は数年になるが、いい仲間だと思う。

05/16
土曜日。雑用1件。新聞の書評だが、ケプラーの「宇宙の調和」。書名のみは知っていたが、本邦初訳とのこと。すごい本だ。この本を2枚弱で書評できるのは、わたししかいないのではないか、などと考える。コーラス。八王子は遠いようで近い。

05/17
日曜日。メンデルスゾーン協会運営委員会。土曜、日曜と用があって、休みがないまま、来週もまたハードなスケジュールが始まる。「青い目」、ようやく半分くらいのところに到達した。ここからはスピードアップできるはずだ。

05/18
今週もハードな日々が続く。ペンクラブでグーグル問題勉強会。その後、言論表現委員会。こちらはグーグル問題は食傷気味で、ぼんやりと皆さんのご意見を聞いていた。自分の仕事ものんびりしているうちに、あとがなくなってきた。今月中に「青い目」を完了させて、「西行U」に移行したい。ピッチを上げないといけない。

05/19
文藝家協会で理事長とグーグル問題について打ち合わせ。引き続き書協の教材関係の担当者と打ち合わせ。これらの問題は大きな流れの中に位置づけられなければならない。少し時間がたてば、その流れが見えるてくるが、いまは全体像が見えないまま、対処しなければならない。それはわたしが書く歴史小説の登場人物の行動に似ている。全体の流れが見えないので、目先の状況だけで判断を強いられ、対応しなければならない。わたしは作家だから、多少は前後の文脈を推理することができる。たとえば、国立国会図書館のデジタルアーカイブについて、国会図書館の職員は、これは単なるアーカイブで、予算も限られているので、そのデータベースがネットで配信されるような事態は生じないと語っていた。彼らは嘘を言っているわけではなく、自分の言っていることを信じ込んでいるように見えて。しかしわたしは、デジタルアーカイブのための法律改正が実現されれば、そのための予算は倍増され、データ配信に向かって急速に事態が変わるはずだと予言しておいた。だからこそ法律改正は、今回の複製権だけに限定しなければならず、同時に将来のネット配信にそなえて、補償金制度の検討をただちに始めないといけないと提言しておいたのだが、担当者は消極的だった。彼らは、嘘を言っていたのか。そうではない。公務員の想像力がその程度のものだったということだ。わたしの予想どおり、アーカイブの予算が一挙に100倍になった。つまりわたしの考えたとおりの展開になったということだ。これは逆に言えば、わたしの歴史認識が正しいということだ。未来を予測することができるのだから、過去の歴史解釈をするのは簡単だ。そういう意味で、わたしの歴史小説は、きわめてリアルなものだと信じていただいていい。ついでに出たばかりの「マルクスの逆襲」で展開されているわたしの論理も、ほぼ正しい認識であると思っていただいていい。というふうに自画自賛している。さて、明日は名古屋、明後日は福岡だ。体調を整えないといけないのだが、「青い目」も調子が出てきたので、明け方まで作業に取り組む。

05/20
名古屋で講演。こういう依頼は、2〜3カ月前にある。ずいぶん先の話だと思いながら、スケジュールがあいていれば引き受ける。引き受けた時点では、ずいぶん先の話だ。ところが、ふと気づくと、当日が来てしまっている。わたしは基本的に、旅行があまり好きではない。それでも孫に会いにスペインに行くし、講演の依頼があればどこへでも行く。それでも当日は緊張する。非日常というものが嫌いなのだ。都内の仕事なら、かなり多忙でも、自宅に帰れば日常が戻り、夜中は仕事ができる。しかし地方へ行くと、たとえ日帰りでも、日常のバランスが崩れる。本日は名古屋。妻に東京駅まで送ってもらって、名古屋駅から徒歩で行ける会場で講演。そのあとの懇親会にもつきあって、また新幹線に乗る。それだけだが、今日は仕事をする気にはなれない。明日は福岡だ。

05/21
福岡で講演。羽田まで妻の車で行く。しばらく飛行機に乗っていない。チケットレスというものが普及しているようだ。文藝家協会の仕事なので書記局にチケットの手配を頼んだ。コンビニでお金を払ったようで、その「お客さま控え」がある。これでどうするのかよくわからなかったが、機械の前にいたお姉さんに頼んだらやってくれた。やりかたを見ていたので、帰りは自分でできた。少し早めに福岡についたので、適当に散歩。知らないうちにカナルシティーという商業施設に着いた。お台場みたいなところだ。講演は著作権に関するもので、時間も短く、必要なことを的確にしゃべってすぐに空港に引き返した。福岡には何度も行っているが、いつも出迎えがあって車で移動した。今回、初めて地下鉄に乗ったが、2駅で博多駅だ。これを東京駅にあいはめると、茅場町に空港があるような感じだ。二日連続の出張で疲れがピーク。だが、明日も午前中の会議がある。

05/22
図書館との協議。議論が膠着状態だったので、一声発したら、急に議論が動きだした。みんなこういう話がしたかったのでは。目の前の行き詰まった話よりも、近未来を視野に入れた方が話が前向きになるのだ。

05/23
土曜日。やっと休みだ。散歩に出ると、実に久しぶりだという感じがした。先週の週末は土日がつぶれた。ウィークデーはぎっしりスケジュールがつまっている。外出する日は、散歩をしないので、確かに長い間、いつもの散歩コースを歩いていなかった。

05/24
日曜日。小雨の中を散歩。来週もハードなスケジュールで、土曜も仕事があるので、つぎの日曜日まで散歩はできない。

05/25
ペンクラブ総会、理事会、懇親会。ずっと以前からペンの会員だが、総会に出たことがなかった。今シーズンから理事になったので、出ないわけにはいかない。文藝家協会の懇親会は、文化庁のお役人、いつもお世話になっている他のジャンルの管理団体、お金をいただいている教材出版社など、関係者を招待しているので、わたしは挨拶して回るのに大変に疲れるのだが、このペンの懇親会は、作家と編集者しかいないので、とても楽。それでもグーグル問題があるので、多くの人々と言葉を交わした。疲れた。

05/26
グーグル和解管理団との協議。アメリカから来日された作家協会の事務局長、作家協会の弁護士、出版社協会の弁護士の3人の方々との質疑。通訳はいるのだが、英語が頭の中に飛び込んでくるので大変に疲れた。明日も同じメンバーに、他団体の人々を加えて協議を続けることになる。

05/27
昨日に続いてグーグル和解管理団との協議。昨日は文藝家協会単独だったが、今日はペンクラブ、推理作家協会、児童文学2団体との合同の協議会。そのぶん発言の機会は少ないかとも思ったのだが、昨日の協議を踏まえて追加の質問もあったので、けっこう大変だった。その後、テレビのクルーにつかまり、記者会見があり、また新聞記者たちにつかまった。和解管理団の慰労のために夕食を用意していたのだが、記者との対応のために遅れて参加。昨日から英語の世界にひたっていたので、しゃべれないものの、相手の言うことはわかるようになった。しかしこれで終わった。日本語の世界に戻りたい。しかし、今日はチャンピオンズリーグの決勝戦だ。これからのんびりと、時間のあいまに書いたメモを入力しながら、ゲームの開始を待つ。
で、ゲームを見た。最初の5分間、マンチェスターが圧倒的に攻め続けた。準決勝で、チェルシーにロスタイムまで負けていたバルセロナだから、力の差があるのかと思われたのだが、5分をすぎるとバルセロナのパスが足もとにピタッと決まりだした。バスケかハンドボールみたいに、何気なくパスがつながり、一度ボールをとると相手に渡さない。圧倒的なボール保持率で、マンチェスターは攻め手がなくなった。バルセロナはラテン系にアンリとエトーが加わっている布陣で、気分にムラが多い人々だが、決勝戦は全員がモチベーションをもって戦っていた。マンチェスターは逆に、途中から気分がいらいらしてきたようで、ラフプレーや不用意なロングキックが多くなった。2対0というのは当然の結果だ。わたしはスペイン人に親戚がいるので、もちろんバルセロナを応援していたのだが、とくにバルセロナのミッドフィルダーは完璧だった。途中からは、応援するというよりも、あまりにみごとなパスさばきに、呆然と見とれるという感じだった。個人的にはエトーが好き。がんばったね。

05/28
大学。先週は創立記念日で休みだったので、久しぶり。この大学で教えはじめてまだ二ヵ月。まだ大学に向かっている自分が、自動的に動いていくというほどではない。ようやく出席簿が届いたので名前を呼んで顔を確認する。帰ると注文したポメラが届いていた。昔懐かしい専用ワープロ。慣れたATOKが使える。去年、発売されたことは知っていたが、最近テレビで宣伝しだしたので、かなり普及しているらしいことがわかった。つまり使い物になる製品らしい。届いた品物を見ると小さい。こんなもの使えるのかと思ったが、キーボードそのものが小さいので慣れが必要だ。しかしやってみるとメモ帳を打ちこむような感じで、とにかくテキスト文書がすぐにできる。いま書いているこの文章もパソコンのメモ帳で打ちこんでいるので、とくに問題はない。毎日少しずつ練習すればスピードも上がるだろう。

05/29
点字図書館の評議員会と理事会。5時間かかる。一日仕事だ。しかし福祉というものの現場と接することができるので、貴重な体験である。さて、週末、といきたいところだが、明日の土曜日もシンポジウムがある。こういう場は新たな出会いがある。それにしても付き合いが広がりすぎている。まあ、元気に対応したい。

05/30
ELNシンポジウム。著作権関係の弁護士グループの組織で、フェアユースについてのパネル・ディスカッション。とくに利害関係のあるテーマではないので、楽しく話ができた。打ち合わせのあと、自分の出番が来るまでの時間、ポメラで仕事ができた。メモ帳(昔ながらの紙のメモ)に書き込むよりも集中力が増すみたいだ。やれやれ、やっと週末だ。この2週間は驚異的なハードな日程だった。明日はゆっくり休みたい。

05/31
日曜日。昨日が仕事だったので、ようやく週末という感じ。今週はまったくハードだった。豪雨なので散歩も休んで、ひたすら「青い目の王子」に取り組む。忙しい日々の合間にメモした部分を入力。昨日はポメラで書いたのでその部分はすでにインプットされている。ポメラはすごい。ようやくすべての紙に書いたメモの入力を終え、ポメラの部分につながった。ここから先は未知の領域だが、すでに8章に突入(全体は10章の予定)しているので、ゴールは近づいている。予定では今月の月末に完了したかった。だが、この作品は重要なステップなので、時間をかけて完成させたい。


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