12BH7A パラ CSPPアンプ






 前章に引き続き作り易さを目指して増幅

部に半導体を使わない回路のCSPPアン

プです。ただもう少しNFを掛けたいので

一段だけでも利得の取れるドライブ段とし

て、前章で好結果だった古典的位相反転回

路の発展形であるQuadU式のトライブ

回路を採用して見ました。さらに五極管は

大きなドライブ電圧を得る為にも有利なの

で、電源の簡素化にも繋がりました。

 半導体を使った回路が年々と難しくなっているのは前章でも説明したので、これ以上は述べません

が、真空管のみで構成しようとすると回路的に複雑になりそうです。それはCSPP出力段が高いド

ライブ電圧と充分な利得の両方を要求するからで、さらに位相反転まで同時にこなして、これを複雑

にならないよう一段で構成しようとすると回路も限られて来るので、その解決策としてQuadU式

位相反転回路を採用する事としました。この回路は上記のように基本的に古典的位相反転回路の発展

型ですが、様々な回路的工夫により優れたACバランスが得られます。その解説は結構複雑なので詳

しくは他章に譲る事として、本機では現物合わせで定数を決めてACバランスをとっています。

 また高いドライブ電圧を得る為に、ドライブ段に別途高電圧の電源を用意する事が多いのですが、

本機の出力段が7Wまでは出ないので、出力段の電源と共通にしてデカップリングして前段部に供給

するようにしました。ただ、なるべく電圧低下を少なくする為に、抵抗ではなくチョークコイルか半

導体式リップルフィルターとするのがベターで、本機では予算とスペースの関係で半導体式リップル

フィルターを通して前段部の電源とするようにしました。

 話が前後してしまいましたが、肝心の出力管には双三極電圧増幅管の12BH7Aの両ユニットを

パラ接続として使いました。前章では五極管を採用していたので、本章では三極管として作例として

の幅を広げる狙いもあります。この12BH7Aは本来は電圧増幅管ですが少々馬力のある球なので

出力管として使っても5W程度の出力を取り出す事が出来ます。一方で本格的な三極出力管を使うと

大体は感度が悪いので、大きな利得の取れない本機のドライブ回路とは相性が悪いのですが、12B

H7Aを出力管としてみると「μ」が高く高感度な三極出力管になるので、本機のドライブ回路との

相性も良さそうです。

 という事で以下のような回路になりました。



 なお、CSPPアンプ製作のページをご覧頂いているという事は、CSPPについては理解されて

いると思うので、QuadU式ドライブ段の元になったQuadUアンプについて簡単に触れておき

たいと思います。このアンプはイギリスのオーディオメーカーQuad社から1953年に発売され

た市販のアンプで、実用性が高く音が良いとベストセラーになったのですが、広く評判になったので

自作アンプ愛好家達にも注目されて、この回路を採用したアンプが数多く作られました。

 この回路の解析についてはAyumiさんのページに詳しく載っているので、興味があるようでし

たら参照して見て下さい。



 製作のポイントとしては

1.本機に採用したOPTはARITO's Audio Labから発売されているCSPP用トランスで、この大き

  さにも係わらず希少なバイファラー巻トランスとなっています。有名なマッキントッシュアンプ

  で世に知られたCSPPアンプが手軽に実現出来るのも、この専用トランスのお陰です。

   詳細についてはARITO's Audio Labのページをご覧下さい。

2.電源トランスは型番もない手持ちのジャンク品を使いましたが、既製品なら東栄変成器の電源

  トランスP-100Nと、同社の電源チョークCH−3030Zを使えば簡潔になって良いと思い

  ます。 なお東栄変成器のページはこちらです。




3.出力管には他にも6FQ7や6CG7等が、ソケット周りのヒータ配線に変更が必要ですが同様

  に使えます。その出力管ですが本来は電圧増幅管でペアチューブなどは無いので、少し多めに入

  手して、プレート電圧を比較して大体同じ電圧になる様に組み合わせて下さい。この手の12B

  H7Aや6FQ7等は真空管式テレビに数多く使われていて、中古の球なども出回っていたので

  入手は比較的容易と思います。



諸 特 性


 各周波数の歪率特性で、予想はして

いましたがQuadU式ドライブ回路

の特徴で高域だけ離れた曲線を描いて

います。この特性図だけを見ると音が

悪そうですが、実際の音を聴いている

と、私の耳では過不足なく高域が荒く

聴こえる事もありませんでした。

 なお出力管がクリップを始めるポイ

ントを無歪出力、歪率5%の時を最大

出力として併記しています


利得 15.3 dB (5.85倍)

NFB 7.4 dB (2.35倍)

DF= 10 on-off法 /1kHz 1V

無歪出力5.6W THD2.2%/1kHz

最大出力6.5W THD 5%/1kHz

残留ノイズ 0.46mV

F特 10〜55kHz/−3dB








 さらに周波数特性ですが、ドライブ段に五極管を使っているので高域が制限されて広帯域という訳

には行きませんが、途中に山谷はなく滑らかに落ちています。最終的に10〜55kHz/−3dBの

素直な特性が得られました。




 低NF回路なので見るまでもないのですが、一応は高域安定度の確認で10kHzの方形波応答も見た

のですが、全く問題ありませんでした。このように高域が落ちている時でも、リギングくらいは出る

事が多いのですが、それも見られないのはOPTの優れた特性を表していると思います。



 先にも述べましたが、CSPPアンプではドライブ電圧が目一杯になって最大出力が制限される事も

あるので、通常はドライブ段用に高電圧電源を用意するものですが、本機は6W程度の出力なので共通

電源でもドライブ不足になる事はないと考えました。それを確認する為にドライブ段の電源電圧を上げ

たり下げたりしてオシロでクリップポイントの観測をして、同所の電圧が340Vでもフルドライブし

ている事を確認しました。CSPPアンプとしては前例のないドライブ段ですが、現状でもフルドライ

ブ出来ていますので、念の為に申し添えておきます。



 後  記

 本機の出力管は最大プレート電圧の制限で、これ以上プレート電圧を上げる事は出来ません。さらな

る出力増加を望む場合は、出力管を6BQ5等の本格的な出力管に変更するのが早道と思います。ただ

その場合は出力段の電圧は今より下げて、逆にドライブ段の電源は今より上げる為に別途高電圧電源を

用意する必要があるので、電源部が一気に複雑になってしまいます。という事で、回路の難易度と得ら

れる性能を天秤に掛けて考えると、本機の回路くらいが丁度良い「落とし所」ではないかと思います。

 ただOPTは7Wの容量を持ちますし、電源トランスも10W×2の出力を賄える容量があるので、

この回路でしばらく聴いた後は性能UPを目指して組み直すつもりでした。つまり本回路は中級編とし

て発表し、次は高性能なアンプに組み直す事として当然回路も複雑になるので、それを上級編の作例と

する予定でした。

 しかし本機の音も私の耳では大した不満もなく聴こえるのです。自分が駄耳というのは自覚している

のですが、それでもOFF会等で耳にうるさい諸先輩方からダメ出しが出そうな音は、事前に予想が付

く程度の耳は持ち合わせている・・・つもりなので、これだけの音を聴かせるのなら上級編は当分後回

しにして、しばらくはこのまま聴き込んでみようと思います。