第2部 反 乱

第8章 ミッドランド制圧(1)

前頁より




「王がマーシャ伯エドウィンとノーサンブリア伯モルカールを、ノルマン
ディーに連行しましたので、中部・北部の統治は、がたがたになってお
ります。とりわけ領主がたびたび変わったノーサンブリアは酷い状態で
す」

かってノーサンブリアの領主は、南のゴッドウィン伯と対立した有力貴
族のシワード伯であった。しかしながらシワード伯の没後の領主は転
々と変わった。

 故エドワード懺悔王はゴッドウィン家のトスティ伯を任命した。トスティ
伯の失脚後は、エドウィン伯の弟モルカール伯になった。しかし、モル
カール伯がウィリアム王の人質となっている間に、モルカール伯の重臣
オズルフと、トスティ伯の家老だったコプシプの間で領地争いの騒動が
あり、二人ともこの闘争で命を落としていた。
 コプシプは、スタンフォード橋の激闘でトスティ伯が戦死した後、戦場
を逃げ、領地に戻っていたのであった。

「ところでゴスパトリックはどういう態度か」

 ゴスパトリックというのは、北部の古い貴族の家柄であった。
 ノーサンブリアの統治権を得ようと、ゴスパトリック卿は、ウィリアム王
に大金を払ってノーサンブリアの一部、北部バーニシャの領主となっ
ていた。しかし、ゴスパトリック卿はノーサンブリア全体の支配に食指
を動かしていた。

 もともとノーサンブリアの郷士たちは血の気が多く、好戦的だった。
彼らに必要なのは、家柄のあるリーダーだった。ウィリアム王に臣従を
誓ったゴスパトリック卿も、反ノルマンの郷士や領民に突き上げられて
変心した。

「ゴスパトリック卿とてアングロサクソン貴族です。配下の者や領民たち
の意向により、反乱の動きに乗りました。しかし『ノーサンブリアの手勢
だけでは気勢はあがってもノルマン軍団には勝てぬ』と判断し、北の
隣国スコットランドのマルコム王と、デンマーク王スウェイン・エストリス
サンに助力を求めたようです」

 一方、ノーサンブリアに逃げ帰った領主モルカール伯もまた反乱の
リーダーにならざるを得なかった。臆病なモルカール伯は、人質時代
は「解放されれば、領民を抑え、ウィリアム王の政権に協力します」
といいながら、帰国後は豹変していた。反ノルマンにならなければ、自
分の命が危なかった。

 これらの情勢は、ウォルターの諜報網によって時々刻々把握されて
いた。



「モルカール伯も、帰国後直ちにスコットランド王とデンマーク王に助
力を求めた様子でございます。多分『白き妖精の女王』の仲立ちでし
ょう。また血縁のある北ウェールズのブレディン王子にも支援を求めた
ようです」
「うむ」
「殿、ケルトとアングロサクソンが長年の抗争を捨て、更にはデーン人
も合従連衡に加わるとなると、今後相当の覚悟が必要でございます。
わが組織も全力を尽くして、スコットランド王やデンマーク王の動きを探
索しましょう」

「分かった。『白き妖精の女王』の暗躍は重臣にも他言無用。先手必勝、
反乱の気配あるエドウィン伯の中部ミッドランド地方は速やかに制圧す
べし。その上直ちにモルカール伯の拠点ヨークへ向けて主な都市へ示
威行進をし、城を築き、われらが手の者を配置しよう」



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