第2部 反 乱

第8章 ミッドランド制圧(1)




 ウィリアム王はいつものように軍団を動かす作戦会議の前に、側臣
ウォルターを呼び、最新の情報をもとに二人で基本戦略を練っていた。

 実は、エドウィン・モルカール兄弟が、ロンドンのウェストミンスター
宮殿から逃亡し帰国したのは、ウィリアム王とウォルターの仕組んだ
遠謀であった。

 エドウィン伯モルカール伯兄弟を、この2年間、一見客人として待遇
しながら、実質は人質として身近に軟禁状態にしてきた。その結果イ
ングランド中部のマーシャや北部のノーサンブリアの郷士領民の反乱
を抑えるには効果があった。
しかし両国の領民からみれば、牢獄にぶち込まれた囚人と変わりなく
みえた。

 ウォルター配下の牒者が、情報を伝えてきていた。
「人質にいつまでも捕っておくことが、かえって敵愾心を異常に燃えさ
せる懸念が生じております。まだわれらが足を踏み入れていない地域
は、エドウィン伯モルカール伯兄弟が人質でいようといまいと、どちみ
ちわれらに反乱を起こすに相違ありません」
 という内容であった。

「ウォルター、警備を緩め、半ば逃げ出すように帰国させよう。両名とは
いずれ戦で処罰するほかあるまい。人質の首は掻きたくないからのう」
「御意」
 との会話があって、軟禁状態を解いた上での逃亡帰国であった。
「領主の人質解放」という反乱蜂起の名目を事前に潰したのである。

 一方エドガー・ザ・エセリング王子の場合は、事情が異なっていた。
 アングロサクソン王朝の賢王アルフレッド大王の正統であるだけに、
全国的な反乱のシンボルに利用される懸念があった。王子と母や二
人の姉妹の警備は厳重を極めていた。
 王子一家の失踪は全く予期していないものであったから、ウィリアム
王や側臣ウォルターにとっての衝撃は大きかった。

「エセリング王子一家の失踪は、警備の油断だけではあるまい。後ろ
で誰か操っていよう」
「御意、手助けしたのは例の『白き妖精の女王』の仕業と読んでいます。
その後の調べでは女王クリスティーヌとあがめられる女は、ケルトとア
ングロサクソン両王家の血を引く者のようです」
「成る程、神出鬼没にして神秘的な白き妖精たちか。アングロサクソン
王族を脱走させるということで、われらノルマンへ恥をかかせてきたの
だな」

「で、王子一家の消息は掴めたのか?」
それが皆目見当掴めませぬ。ただ、わが手の者の知らせでは、『白き
妖精の女王』は北ウェールズやイングランド中部から北部、更には国
境を越えてスコットランド、海を渡りデンマークにも出没しているという
ことでございます。引き続き探索いたします」



「うむ。女狐めがなかなかやるのう・・・・。ところで軍団を動かす前に、
中部や北部の最近の状況を聞こう」
「わかりました」
 ウォルターは、ウィリアム王戴冠後の動きをかいつまんで説明した。



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