5分でまとまる国

(前頁より)



生活必需品であるガソリンも決して満タン売りはしない。
「無くなったら買いに来て下さい」
少量しか売ってくれないので、どうしても頻繁に買いに行くことになる。
ガソリン・スタンドには車の長い列ができている。英国人たちは悠揚迫
らず自分の順番を気長に待っている。

彼らは「メイク・ア・キュウ」(列を作ろう)という習慣を、第二次世界大戦
の窮乏時だけでなく日常生活でも、身につけ実践している。
日本ではガソリンのドラム缶の買い溜めもあったとか。
邦銀派遣職員は、ゴルフに行くのも当分の間乗合にしようと申し合わせ
をした。




しばらく経ってテレビやラジオで、ガソリンの配給切符制度のことが報道
された。石油問題がこれ以上深刻になる時には、配給切符で制限する
というのである。

結局は配給切符は使われる事なく、石油危機は終息したけれども、憶
良氏の受けた衝撃は大きかった。なんという英国政府の手回しの良さで
あろうか。国民が配給切符制度に文句ひとつ言わず、なんと素直に従う
ことか。

日本では配給切符のキの字も出なかったようだが、自民党政府が仮に
配給切符制度をとると言ったら、はたして社会党や共産党はすんなり賛
成したであろうか。

「この切符の印刷と全国配布の手回しの素早さから察するに、英国政府
は中東戦争と禁油措置を予測してたのではあるまいか」
「007の国ですから、大いにあり得ますね」
憶良氏と部下の園田君は、英国人の政治外交感覚の底知れぬ深さに
感嘆した。


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