SF読書録
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2004年 上半期

“密やかな結晶” 小川洋子
“第六大陸” 小川一水
“妻という名の魔女たち” フリッツ・ライバー
“ニューロマンサー” ウィリアム・ギブスン
“地球間ハイウェイ” ロバート・リード
“南極大陸” キム・スタンリー・ロビンスン
“さよならダイノサウルス” ロバート・J・ソウヤー
“戦う都市” アン・マキャフリー & S・M・スターリング


“密やかな結晶” 小川洋子 (講談社文庫)

珍しくたて続けに日本人作家だ…^^;。 しかも、SFではありませんが、 たまたま見かけたこの本の紹介で、 設定がけっこう SF的興味を惹くものであることを知ったので、 読んでみました。

舞台となる島では、ときどき、何かが「消滅」する。 物理的に消滅するのでなく、人々にとってそれが何も意味を持たなくなるのだ。 それに纏わる記憶も全て失われる。 例えば、「写真」が消滅すると、 人々は「写真」を見てもそれが何か判らず、 写真に写っている情景の思い出も想起されない。 いわば、心の空白がだんだんと増えていくのである。 何かを失ったことさえ思い出せず、それでもその島で人々は暮らしているが…。

分類するのなら「幻想文学」というのがしっくり来る話です。 「消滅」の仕方がなんか中途半端な部分もあったりもしますが、 その状況下での人々を綴る話なので、そういう話だと思えば別に気にはなりません。 もちろん、SF読みとしてはもっといろいろと現象の原因を追求したり、 起こり得ることを考えてみたくなるのですけど^^;。 最終的に起こることは、 いくつか容易に想像できるパターンのうちの一つですが、 余韻が残ります。 (6/12)


“第六大陸 (1,2)” 小川一水 (ハヤカワJA)

砂漠や南極、ヒマラヤ、深海、 と極限環境での建設事業を得意とする会社に、 巨大レジャー企業から持ち込まれた次の仕事の建設地は月。 月面に結婚式場を作るというのだ。 中国の月面基地に現場調査に赴いたり、 画期的な新型ロケットを手に入れたりと、 計画は着々と進んでいくが、当然大きな問題にもぶちあたる。 それでも、さまざまな努力と期待と夢が、それらを乗り越えて…。

技術的な面は比較的ハードに (= ちゃんと考証して) 書かれた、まっとうなSFです (作者本人が書いてますが、経済的な面は…^^;)。 ストーリーとしても、ちょっとわざとらし過ぎるよなー、 と思うところは散見されますが、まあ、まずまず。 ただ、描写 (特に技術的なところ) がいまいちかな、 というのと、長期に渡る話なのに、 キャラクターがその年月をあまり感じさせない、 というのがもったいないところです。 あと、細かい(?)ところでは、あの裁判はあれでは勝てないだろうなあ、 と思われてしまう部分がちょっと残念。 もうひとつ、月面で作業する人達が日食 (地球から見れば月食) を把握してないのはまずいでしょう。 とはいえ総合的には、読む価値あり、だと思います。

ところで、何で上下巻じゃなく1,2巻なんでしょう…。 (5/29)


“妻という名の魔女たち” フリッツ・ライバー (創元推理文庫)

SFというよりファンタジーですが、ライバーですし、 魔術を論理的に扱おうとするところが出てきますし :-)。

文化人類学の大学教授であるノーマンは幸運な生活を送っていた。 ところがある日、彼は最愛の妻の部屋で奇妙な品々を見つけてしまった。 それはどれも「魔術」を執り行うためのものであった。 ノーマンはそれを捨てさせるが、その途端、 彼の生活の歯車が狂い、さまざまな災難が彼の身に降り掛かる。 信じたくはないが魔術は本物なのだろうか? 彼は元の生活を取り戻せるのか?

読む人によっていろいろな印象を受けるかもしれません。 ホラーと見ればホラーだし、一種のコメディととれなくもないですし、 べたべたのファンタジーと見ることもできます。 そして、冒頭にも書いた通り、 魔術 (と思えるもの) を論理的に検討して突破口を見出そうとするあたり (そんなに細かくは出てきませんが) は SF的楽しみともいえます。 さすがライバー、という感じです。 “放浪惑星” よりも読みやすかったです。 (5/10)


“ニューロマンサー” ウィリアム・ギブスン (ハヤカワSF)

前にも書きました が個人的にはサイバーなのはいいけれど、 別にパンクじゃなくっても、という好みなので、 実は読んでいませんでしたこの作品。 いうまでもないサイバーパンクの代表作です。 1984年出版、ということで、 これが出た当時はそりゃ衝撃的だったろうなー、と思いますが、 20年後の今、冷静に読むとストーリーはぎくしゃくしているし (著者の第一長編だそうですが)、 扱っているテクノロジーなどのネタ自体も、 出版された時代ならばそれほどぶっ飛んではいないんじゃないかな、 というところです。

ストーリーは…、仕事でへまをやり、「ジャックイン」 (電極で頭にコンピュータをつなぎ、 電脳空間に没入し直接データを見聞きし操作する) できなくさせられたケイス。 腕利きだった彼にその能力の再生を餌に怪しげな仕事の依頼が舞い込んだ。 どうも裏で糸を引いているのは尋常でない存在のようだが…。

“ニューロマンサー”というのがネクロマンサー (呪術師、 死者を呼び出す者、死者を操る者) をもじったものだというのは知っていましたが、 英語では neuromancer と necromancer で一文字違いだったんですね。 気づいていなかった^^;。 (4/10)


“地球間ハイウェイ” ロバート・リード (ハヤカワSF)

数限りない平行宇宙の地球を順々につなぐ<輝き>。 百万年以上の昔からそれを辿って旅をし、各地球の人類 (世界毎に、違った歴史を持ち、違った進化を遂げている) を助け、仲間を募り、 <輝き>を築いた<創建者>を探し求める<巡りびと>。 彼らの目的は果たされる日が来るのだろうか…?

いろいろな地球がありますが、 それらの世界のことよりも登場人物の描写のほうに力点の置かれた話です。 ストーリーは、モリアクの主張も説得力があるような気もしますが、 どうも裏で「神の見えざる手」が働いているようなのが一番気になるところかも^^;。 エピローグのジュイの動機の告白と、 ビリーの様子はなかなかさわやかな感じでよいです。

解説には「キリスト教色が出るのを巧妙に避けているようなので」 と書いてありますが、たしかに表面的にはあまりはっきり出てこないものの、 話の根幹のところでかなり宗教的と言うかキリスト教的な部分があると思います。 原題は“Down the Bright Way”。 邦題もそれをそのまま“輝く道をたどって”とか“輝きの彼方に” とかのほうがよかったんじゃないかなぁ。 (3/16)


“南極大陸 (上・下)” キム・スタンリー・ロビンスン (講談社文庫)

近未来の南極大陸。 地球温暖化の影響はここにも及んでいるが、 南極条約批准国はその更新に関してもめ、 批准していない国々は資源探査を行ったりしている。 もちろん、南極はまったくの手つかずのまま残しておくべきだと主張する団体もいる。 現在、南極にいるのは科学調査を行う研究者にその補助を行う人達、 観光ツアーにやってくる人びとにそのガイド、そして…。

「近未来」で現在の科学技術をほんのちょっと延長した範囲くらいしか扱っていませんので、 SFの範疇に入るかどうか微妙なところですが、 まあ SFのうちといえば SFのうちでしょう。 “永遠なる天空の調” や“レッドマーズ”(このシリーズは三作めまで翻訳されてから読むつもり^^;) を書いている作者ですし。

裏表紙のあらすじには「アドベンチャー小説」「冒険小説」と書いてありますが、 冒険というよりは、 極地の厳しい環境を描いた小説と言ったほうがあっているように思います。 メインの「事件」は下巻に入ってから起こりますし^^;。 ストーリーは、最終的には一種のユートピア建設物語かな、という感じです。

ところで、作中で、空に見えた現象として「氷弓 (icebow)」というのがでてきます。 訳注では「幻日」とされていますが、 描写からすると内暈です。 「氷弓」という表現は初めて見ましたし、icebow というのも水滴の替わりに氷 (雹や霰) で見られる を指して使われているのしか見たことはありません。 その少し前に出てくる「(雲が)サングラスで極端に偏光され、 プリズムのようになって見えた」というのも気になります^^;。 彩雲 のようにも思えますが、彩雲は偏光していないので、 こちらが幻日のことをいっているのかもしれません。 どのみち、サングラスをかけなくても見えますが^^;。 (3/7)


“さよならダイノサウルス” ロバート・J・ソウヤー (ハヤカワSF)

発明されたばかりのタイムマシンを使って、 古生物学者が白亜紀末期へと赴いた。 目的は、もちろん、恐竜絶滅の原因を探るためである。 しかし、白亜紀へ着いてみるといろいろとおかしい。 恐竜が統制のとれた行動をとっているし、 あまつさえ喋り出しさえもした! 脳内に寄生する青いゼリー状の生物が知性を持っているらしいのだが、 その正体は何と?! そして恐竜との関係は?

裏表紙の粗筋では伏せ字になっているその正体、 めちゃくちゃぶっ飛んだものではないですが、 確かに意外な線を突いてきました^^;。 しかも、その後にもうひとひねり。 ほうほう、なるほど。 「再起動のコードもあるだろうに」とか 「あちらはどの時点で消滅したの?」とか、 冷静に考えればいろいろ突っ込みどころはあるんですが、 力業で押し切っちゃう感じです。 結末は、それだとまだやばそうな気もしますが、 でもまあつまりはそれでも大丈夫なのでしょう^^;。 ある意味、究極の陰謀論? (1/27)

ワンポイント

sort して diff とったな。


“戦う都市 (上・下)” アン・マキャフリー & S・M・スターリング (創元SF)

いうまでもなく、 “歌う船” シリーズです。 ヘルヴァが言及される箇所があるのはお約束でしょう :-)。 さて、他の作品でもちらっと登場する今回の主役 <殻人> (シェルパーソン) シメオンは、 宇宙船ではなく、宇宙ステーションを管理しています。 彼は軍事史マニアで、戦略ゲームを趣味とし、 いつか宇宙軍の船を駆ることを夢見ています。 新たな筋肉 (ブローン) が着任し、 まだまだお互い馴染まずにどたばたしているうちに、 緊急事態が発生。 操縦不能のポンコツ船がまっすぐにステーションへ向かって飛来。 それを何とかしのいだとおもったら、今度は凶悪な海賊集団がやってくるという。 シメオンもちまえの軍事知識を発揮する機会とはいえ、 いかんせん、ここは非武装のステーション、 まともに応戦することはできない。 中央諸世界の宇宙軍が駆けつけるまで、 頭脳戦で何とか持ちこたえることができるか?

元祖“歌う船”以外の、 これまでに読んだシリーズものの中では良くできているほうかな、 という感じでしょうか。 でもやはり元祖に較べてしまうと薄っぺらい感じがしてしまうのはしょうがないところでしょうか。 いや、充分おもしろいんですけど。

そんな体してて、ほんとに生物学的に同じ種なのか? >コルナー人、とか、 一番おそるべきはジョートでしょう、とか、 つっこみどころもいくつかあります^^;。 (1/20)

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