SF読書録
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2004年 下半期

“すべてのまぼろしはキンタナ・ローの海に消えた” ジェームズ・ティプトリー・ジュニア
“万物理論” グレッグ・イーガン
“ガス状生物ギズモ” マレー・ラインスター
“レ・コスミコミケ” イタロ・カルヴィーノ
“揺籃の星” ジェームズ・P・ホーガン
“未來のイヴ” ヴィリエ・ド・リラダン
“ホーカス・ポーカス” カート・ヴォネガット


“すべてのまぼろしはキンタナ・ローの海に消えた” ジェームズ・ティプトリー・ジュニア (ハヤカワFT)

ばりばりにファンタジーですが、 “たったひとつの冴えたやりかた” などで有名なティプトリー作品ということで。 何よりも、 もうこれ以上読めないかと思っていたのに新刊が出たのがうれしいところです(^^)。

メキシコ、ユカタン半島のキンタナ・ロー地方の海を舞台とした、 3つの幻想的 (ホラー? ^^;) な短篇が収録されています。 SFの筆致とはまたちょっと違った感じですが、 ティプトリーらしい迫力と眩惑感があると思います。 (12/19)


“万物理論” グレッグ・イーガン (創元SF)

標準統一場理論 (大統一理論) よりさらにその基礎をなす「万物理論」 が完成されようとしていた。 それは我々の宇宙が、何故、 我々が観察しているような物理法則を持っているかを説明するはずのものであった。 工学産の珊瑚からなる巨大な人工島「ステートレス」で開かれる物理学会で、 万物理論の候補を三人の学者がそれぞれ発表する。 そのうちの一人を中心にした番組を作るためにやってきたジャーナリストのワースは、 万物理論の完成を妨げようとする陰謀に巻き込まれていく。 その真の動機は? 世界で広がっている謎の疫病、ディストレスとの関連は?

アイディアてんこ盛りのイーガンの長編です。 “宇宙消失” や “順列都市”、 短篇の“ルミナス”など、あるいは他の作家ではクラークの “90億の神の御名”などを彷彿とさせるアイディアが二転三転、 はたして結末は? という感じです。 話の中心となるアイディアが何かはネタばれになるので書きませんが、 前二作の長編の中心アイディアと同じくらいのおもしろさだと思います。

長めの話ですが、前二作より確実にこなれて読みやすくなっていると思います。 ただ、性別をなくした、女性でも男性でもない汎性、 という人達がいる世界が舞台で、 その人達を差す代名詞が「彼女」や「彼」に対して「汎」なので、 それに慣れるまではやや引っかかるかもしれません。 あとは、最初のほうに出てきただけで惜しげもなく^^; 置き去りにされてるアイディアとかがけっこうあるので、 そこが気になるといえば気になります。 とはいえイーガンの作品はやはりおもしろいです(^^)。 (11/28)


“ガス状生物ギズモ” マレー・ラインスター (創元SF)

昔から地球にいたのか、それとも宇宙からやってきたのか。 とにかく、そのガス状の生物、ギズモは人間を含む動物を殺し始めた。 一体一体の力は弱いが、人間の呼吸の邪魔をすることができ、 何よりも人間の目にはほとんど捉えられない。 すなわち、相手の存在をそもそも認識できないのだ。 人里離れた森の中で襲われ、その事実を認識した数人は、 ギズモの大群が人類に大攻勢を仕掛ける前にそれを知らしめることができるのか?

古い (1958) SFでこういうタイトルだと、 スペースオペラ的なものを想像しがちですが、 けっこうしっかりとした SF で、楽しめます。 べたべたにお約束の展開もありますけどね^^;。 (10/23)


“レ・コスミコミケ” イタロ・カルヴィーノ (ハヤカワepi)

SFというか幻想文学というか奇想短篇集というか宇宙サイズのほら話、です。 宇宙の始まる前から生きているという Qfwfq じいさんが語ってくれる、 宇宙と地球の歴史です。 “900人のおばあさん” が思いだし笑い(?)をしていた内容ってのもきっとこんなのだったのでしょう^^;。 ほら話ですし、喜劇ですが (タイトルの意味は“喜劇的宇宙” ってなところではないかと思います)、せつなくなる話も多いです。 “恐竜族”とか特に。 (10/2)


“揺籃の星” ジェームズ・P・ホーガン (創元SF)

土星の衛星に移り住み、少数ながら理想的な社会を築いている ケイロ…じゃなくて^^;、 クロニア人たちは、太陽系は従来思われていたほど安定していたわけではない、 という説を打ち出した。 地球では、政策が科学に深く影響し、金・票にならない宇宙開発は長らく停滞し、 クロニア人たちの説も一笑に付されていた。 しかし、突如として木星から巨大な彗星、アテナが飛び出した。 クロニア人たちが正しいのか? それでも地球はそれを受け入れなかったが、やがてアテナは地球へと向かい…。

かの有名なトンデモ本、ヴェリコフスキーの“衝突する宇宙” の内容がほぼそのまま正しかった、という世界を構築してしまった話です。 もちろん、SFですので、彗星が楕円軌道から真円に近い軌道にどうやって入ったか、 など無理矢理とはいえ理屈を付けています (ホーガンお得意の架空理論!)。 で、三部作の予定だそうで、 本作ではとりあえず切りのよいところまでしか話は進みません。 気になったのは、何も謎が解き明かされていないし、 事件が解決したわけでもないところ。 後半はパニックものになっているのもあって、 ホーガンの小説の欠点とされる、人物設定・描写の薄さが目立ってしまう感じです。 悪役が絵に描いたような悪役だし…。 続編で面白くなることを期待しておこう。

もう一つ気になるのは、解説にもあるように、 これを読んだヴェリコフスキー信者が嬉々として 「科学的に正しいことが証明された!」 と引用するのではないかという点… ^^;;;。 (9/9)


“未來のイヴ” ヴィリエ・ド・リラダン (創元ライブラリ)

電球や蓄音器の発明でその名を馳せた発明王エディソン。 彼は人造人間 (アンドロイドといったほうが判りやすい?) をも発明していた! 電気・磁石・機械仕掛けによりその立ち居振舞いは生身の人間と見分けがつかず、 蓄音器に記された言葉しか喋れぬはずのその声も、 いっぱしの文化的な人物と変わらぬバリエーションを紡ぎ出す。 彼はその人造人間を、彼の恩人にして、ヴィナスのような完璧な肉体とひたすらに低俗な魂を持つ恋人に悩む英国青年貴族のために化身させた。

19世紀後半に書かれた、SFの源流の一つとして有名な作品です。 初訳は昭和初期、ということで当時の雰囲気を伝えるために、旧仮名づかひで、 漢字もいわゆる正漢字が使われています。 読みづらいといえば読みづらいですが、まあ、 この文体だと現代仮名使いで書かれるとかえって鬱陶しいかも。 そう、詩人でもある作者故か、時代的なものか、描写は長々としています^^;。 たとえば、序盤、エディソンが 「なんで蓄音器を今まで誰も発明しなかったのだろう。 そのために失われたものがたくさんあるよなぁ」 という感慨を述べるのですが、それが数ページに渡ります^^;。 人造人間の各部の構造についても詳しく説明してくれます。 おかげで、ついに化身した人造人間が登場するのは物語 (?) が終わる直前です。 そういう話だったのか…。

解説を読むと、いちおう「科学万能主義」「得体の知れぬ実証主義」 に対する風刺のようなのですが、「科学」の部分が、 電気が万能だったり、神秘的 (と思っている) 素材には神秘的な作用があったり、 という、無邪気な調子なので、 現代から見るとほのぼのしてしまって風刺になってません^^;;。 結末も、皮肉な結末のつもりなのかもしれませんが、 現代的な視点から見ると手抜きにしか見えない… ^^;;;。 (8/14)


“ホーカス・ポーカス” カート・ヴォネガット (ハヤカワSF)

アメリカのとある刑務所で集団脱獄事件が発生した。 このときのアメリカは、国家財政は破綻し、 企業のほとんどはヨーロッパや日本の資本に買収され、 刑務所までもが日本の企業が管理するという状態だった。 この「小説」は、脱獄事件の首謀者とされた刑務所の教師、 ハートキが自分の身の上を裁判を待つ獄中でそこらへんの紙に書き連ねたものである。

ホーカス・ポーカスとは「嘘を誤魔化す作り話」というような意味で、 ハートキがベトナム戦争時に行なっていたような、 新兵を鼓舞するためのばかげたスピーチを指します。 ベトナム戦争はハートキの人生に大きく影を落し、 これは、一種の「反戦」小説と言えるでしょう。 結末は意外な事件で…。 (7/12)

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