SF読書録
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2001年 下半期

“変革への序章” デイヴィッド・ブリン
“また、つかぬことをうかがいますが… ” ニュー・サイエンティスト編集部 編
“未来世界から来た男” フレドリック・ブラウン
“20世紀SF (4) 〜 1970年代 接続された女” 中村 融、山岸 真 編
“百万年の船” ポール・アンダースン
“20世紀SF (3) 〜 1960年代 砂の檻” 中村 融、山岸 真 編
“20世紀SF (2) 〜 1950年代 初めの終わり” 中村 融、山岸 真 編
“20世紀SF (1) 〜 1940年代 星ねずみ” 中村 融、山岸 真 編
“失われた遺産” ロバート・A・ハインライン
番外編“ハヤカワ・オデッセイ”
“渇きの海” アーサー・C・クラーク
“チャンピオンたちの朝食” カート・ヴォネガット・ジュニア


“変革への序章 (上・下)” デイヴィッド・ブリン (ハヤカワSF)

スタータイド・ライジング” などの知性化シリーズの続編、“知性化の嵐”三部作の第一部です。 舞台は、辺境の惑星ジージョ。 「休閑地」に指定され知性種族の立ち入りが禁じられているはずであるが、 そこには、故郷を追われた難民たち、 なんとヒトを含め六種もの種属が住んでいた。 彼らは、過去の争乱の時代を乗り越えて、(潜伏者とはいえ) 平和な暮らしを営んでいた。

そこにある日、脳を損傷し、記憶を失ったヒトが現われ、 ときをほぼ同じくして銀河文明の宇宙船が現れた。 新たな難民か、それともついに「裁きの日」が訪れたのか? しかし、それは大災厄の前触れにしか過ぎないことを、 ジージョの住民たちは知る由もなかった…。

そう、本作の終わりで、話は一区切りは付きますが、 問題はほとんど何も解決しません。 むしろ、悪化して終わっているというか… ^^;。 長い長い話の、ほんとうに「第一部」です。 とはいえ、本作だけで上下巻で文庫本1000ページを越えているのですが…。 第一部、ということで状況設定が多いせいか (これまでのシリーズよりも、 この「知性化宇宙」全体についての設定も増えています)、 前半は特に話の進みが遅い感じです トールキンの“指輪物語”の“旅の仲間”みたいなものでしょうか。 何にせよ、続きが待ち遠しいところです。

そうそう、“遙かなる地平” をこれから読む方、 “誘惑”を読むのはこの三部作の後にしたほうが良いです。 読んでしまった方 (含・自分)、御愁傷様です^^;。 (12/21)


“また、つかぬことをうかがいますが… 〜科学者も居留守を使う98の質問〜
ニュー・サイエンティスト編集部 編 (ハヤカワNF)

もちろん、イギリスの週刊科学雑誌“New Scientist” の巻末の人気コーナー “The Last Word”の投書をまとめた “つかぬことをうかがいますが…” の第二弾です。 二作目にありがちなパターンとして第一作ほどのインパクトはありませんが^^;、 もちろん十分に楽しめます。 是非ともシリーズとして続いてほしいものです。 とはいえ邦題のサブタイトル、 人の興味をひくためのものというのは解りますが、 いまいち内容にマッチしていないよなあ。 (11/1)


“未来世界から来た男” フレドリック・ブラウン (創元SF)

“SFと悪夢の短編集” とサブタイトルのようなものがカバー表紙に書かれている短編集です。 その名の通り、前半がSF的なショートショート、 後半が非SF的なショートショートから成り立っています。 “スポンサーから一言” ほどのインパクトは無い感じです。 “おれとロバと火星人”がいちばんおもしろいかな。 あとは、ユーモアものよりは恐怖もののほうが切れが良い感じです。 (10/30)


“20世紀SF (4) 1970年代 接続された女” 中村 融、山岸 真 編 (河出文庫)

カウンターカルチャーの揺り戻し、ニューウェーブの衰退などなどで語られる 1970年代。 多くの女性SF作家が現れてきた時代でもあり、 シオドア・スタージョンの 「新人作家でこれはと思うのは、 ティプトリーをのぞいてほとんどが女性だ」 という有名な言葉もあります (注: ジェームス・ティプトリー, Jr. もその正体は女性だが当時はまだ明かされていなかったというところがポイント)。 このような新たな流れと、古いタイプのSFの復活との両面があるころですが、 収録作は新たな流れのほうに重点を置いた感じでしょうか。

表題作はサイバーパンクの先駆けとも言われるティプトリーの作品で、 ほかにはル・グィンやラファティ、ヴァーリイ、 フリッツ・ライバーの作品などが収録されています。 アイデンティティや価値観の変わった世界を扱った作品を集めた感じです。 (10/27)


“百万年の船 (1)〜(3)” ポール・アンダースン (ハヤカワSF)

人類の中には、昔からごくわずかな確率で不老不死の人びとが生まれていた。 もともと確率は少ないし、 普通の人間より病気に強く強力な回復力を持ってはいるとはいえ、 大けがなどをすれば死んでしまうので、 彼らはほんとうに世界中のあちこちに一人ずつ、 ぽつぽつと散らばっているだけであった。 彼らが歳を取らないことがわかってくると、 周りの人間はいぶかり、恐れ、忌嫌った。 その度ごとに彼らは新たな生活の場を求め、彷徨わなければならない。 それだけでなく、彼らは、愛する人々が年老い、 死んで行くのを何度も何度も味わわねばならないのだ。 そんな中で、ひたすら耐え抜き長い年月を生き延びるものも何人かいた…。

長く苦しい歴史を通り抜けてきた彼らに、 安住の地はあるのか? 止まれない彼らの行く末は? 「止まれない」からというわけではないでしょうけれども、 最後の章は何か“タウ・ゼロ” に似ています。 現代に至るまでを、比較的短いエピソードを重ねて書かれているのだから、 「行く末」もそういうリズムだったら良かったかも、 という気がします。 (10/7)


“20世紀SF (3) 1960年代 砂の檻” 中村 融、山岸 真 編 (河出文庫)

三冊目、1960年代。 カウンターカルチャーの影響を受け、ニューウェーブ運動の起こった頃。 既存の価値観を否定したり、違った文化を (受け入れたり、 征服したりするものではなく) 根源的なものとして捉えたり、 そういった作品の出てきた頃です。 ディレイニー、バラード、オールディス、etc.。 もちろん、それだけではなく、クラークや、そしてニーヴンの作品も出てきます。

ニューウェーブ的なものも悪くはないですが、 やはりそういうのばかりになってしまったら嫌だよなー、 という感じです。 収録作品の中では、ショートショートの“何時からおいでで” が一番おもしろいかな^^。

ちなみに、今回の隠しテーマ(?)は「音楽」ですね。 (9/5)


“20世紀SF (2) 1950年代 初めの終わり” 中村 融、山岸 真 編 (河出文庫)

↓に引き続いてシリーズ二冊目です。 一冊目に引き続き収録されているブラッドベリ、スタージョンのほか、 シェクリー、ディック、シマックなどの作品が収録されています。 解説に曰く 「SFの主要テーマの変遷が、各巻を通じて見えてくるように」 というのもあって、同じような雰囲気の作品が多いかな、 という気が少しします。 この巻であれば 「現実の脆さ」とか「相互監視社会の息苦しさ」 などを扱った作品です。

とはいえやはりできの良い作品ばかりを集めているので、 退屈な感じはありません。 さすがに技術的な描写が古びて見えるものの、 発想などの点では「この時代に既にこういうアイデアがあったのか」 というような作品も、前巻に引き続きあります。 (8/25)


“20世紀SF (1) 1940年代 星ねずみ” 中村 融、山岸 真 編 (河出文庫)

その萌芽は19世紀に遡るとしても、 “SF”というものが形作られ、発達したのは20世紀である (そしてまた、20世紀は科学技術の発達した世紀でもあり、 この二つは決して無関係ではない)。 そのSFの世界を年代ごとに (英語圏の) 短編を集めて味わってみよう、 というシリーズの一冊目です。

表題になっているフレドリック・ブラウンの作品のほか、 アシモフ、クラーク、ハインラインはもちろん、 ブラッドベリ、スタージョン、ヴァン・ヴォクト、 ムーアなどの作品が収録されています。 いかにも初期の頃のSF、という感じの部分もあれば、 現在でも十分に通用するようなものもあり、楽しめます。 いろいろな作家の作品が収められているので、 SF初心者にもよいかも。 (8/11)


“失われた遺産” ロバート・A・ハインライン (ハヤカワSF)

ハインラインの初期の作品のうち “未来史”シリーズに属さない作品を集めた短編集です。 4篇収められていて、すべて1940年代の作品です。 さすがに old-fashioned な感じがします。 分かりやすい話ばかりです (それがハインラインの特徴でもありますが)。 初期のものとはいえ、 分かりやすさ以外にもハインラインらしさの多くは既に現れています。 (7/31)


番外編 “ハヤカワ・オデッセイ 〜本がいっぱいの惑星めぐり〜 (2001 BOOK PARTY 解説目録)” (ハヤカワ文庫)

たぶん、毎夏 (毎シーズン?) やっているハヤカワ文庫のキャンペーンの解説目録を、 本屋でたまたま見掛けました。 SF、ミステリー、ファンタジー、JA (日本人作家)、ノンフィクション、 いろいろなカテゴリーの本が紹介されています。

で、SF関係はどんなのが取り上げられているかな、とぱらぱらと見てみると…。 広く浅くといった紹介なので、同じ作家の作品が複数出てくるのは珍しいのですが、 何人かは複数紹介されています。 一般受けしそうな “ジュラシック・パーク”のマイケル・クライトンや “アルジャーノンに花束を” のダニエル・キイスが複数取り上げられているのはまあありがちとして、 その次に多いのが、なんと (と言ったら怒られるかな) カート・ヴォネガット・ジュニアです。 このページの下のほうで紹介している“チャンピオンたちの朝食” を含め 4作品! アイザック・アシモフが 1作品、 ロバート・A・ハインラインも 1作品、 アーサー・C・クラークも 3作品だというのに…。 たしかにヴォネガット作品は面白いのですが、 たくさん紹介されているから、と買ってきて読むと面食らうかも^^;。 (7/29)


“渇きの海” アーサー・C・クラーク (ハヤカワSF)

月面の一角に、微細な塵の降り積もった場所があった。 この塵はまるで水のように振る舞い、そこにうっかりとレンチなどを落とすと、 あっというまに沈んでしまう。 そこは「渇きの海」と呼ばれていた。 月には大気がないので、もちろん、風はなく波も立たないが、 そこには月世界唯一の「船」、観光船のセレーネ号が浮かんでいる。 そのセレーネ号が自然の気まぐれのトラブルに巻き込まれ、 22人の客・乗員とともに「渇きの海」に沈んでしまった。 「渇きの海」で救助活動が可能なのは、小型のダストスキーのみ。 はたして、彼らは無事に助け出されるのか?

「アポロ計画」より昔に書かれた、月を舞台にした傑作ハードSFです。 助け出されるのを待つ船内、必死の捜索・救助活動を続ける外の世界、 両面が書かれています。 自然と人間の知恵と技術の勝負、という感じで、 一つ問題が解決したと思うと次なるトラブルが襲い掛かり、 (そんなに長い小説ではありませんが) 最後まで緊張感が保たれます。 (7/19)


“チャンピオンたちの朝食” カート・ヴォネガット・ジュニア (ハヤカワSF)

ヴォネガット風社会風刺小説、とでもいったところでしょうか。 主役はキルゴア・トラウト、SF作家。 多くの傑作を書きながらも未だ世にその価値は知られていない。 その彼に、アート・フェスティバルでの講演の依頼が来た。 一方、そのアート・フェスティバルの開かれる街に、 自動車販売会社を経営する男、ドウェイン・フーヴァーがいた。 この二人は出会う運命にある…。

ストーリーはあるんだか無いんだか、という感じで、 これまでに読んだヴォネガット作品の中では読みにくいほうだと思いました。 でも、 ときおり織り込まれるキルゴア・トラウト作品の粗筋がいい味出してます。 (7/6)

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