神戸オフ会(2001年4月21日〜23日)

1.三宮の長い午後

 伊丹空港9時40分。551の豚まんにココロ動かしながらも、食べるのを我慢して人を待つ私であった。衝動を抑えたのはただひとつ。
 (これから、こうしゃくさんに付き合う)
 との思いであった。
 こうしゃくさんといえば、日に3キロの昆布を食い、ラーメンと親子丼と焼き肉定食を同時に食う、と噂される美女である。これから、きっと神戸の元町にある南京町に行くであろう。ラーメンも食うであろう。豚まんも食うだろう。
 そのとき、「ボク、お腹いっぱいです」などと軟弱なことを言えばどうなるか。きっと、怒濤のぶちかましで3メートルは飛ばされるだろう。サバ折りで背骨が折られるだろう。ひねりの入った掌底で首が折られるだろう。とどのつまり、神戸オフ最初の殉職者として名を連ねることになるだろう。

 食欲を抑えながら「ぐうたら生活入門」を読んでいると、携帯電話が鳴る。取ったとたん、後ろから恐ろしい力で肩を掴まれる。恐怖のあまり動くこともできないでいると、
「下条さんですね。お待たせしました」
 との声が。振り返ると、なんか見たことのある巨漢が、野太い声で
「はじめまして、飛騨です」
 と怒鳴るのだった。ああ、これが飛騨さんであったか。熊のプーさんとか負け犬わんことか呼ばれているから、てっきり身長1メートルくらいなのかと思っていたのだが、その倍はある巨漢であった。チャットでは「飛騨くん」と呼んでいた私が、それ以降、「飛騨さん」と呼ぶようになったのである。私は肉体的迫力に弱いのだ。

 やがて飛行機が到着し、出口からチョコチョコと小娘が出てくる。飛騨さんはいきなりダッシュし、その娘を羽交い締めにする。いかんよ幼女誘拐は、罪は重いよ、とたしなめようとしたが、その小娘、
「はじめまして、こうしゃくです」
 と挨拶するではないか。え、これがこうしゃくさん? 横綱とかカイギュウとか言われていたから、てっきり体重3トンくらいなのかと思っていたが、その半分にも満たないちっこい娘さんであった。むしろこうしゃくさんのほうが、熊のプーさんっぽい。いやむしろ、プーさんの友達のコブタに近いか。ううう、東北色白系の美女、というより、カワイイ、という娘さんだ。カワイイぞ、本当に。
 しかし「こうしゃく」と呼び捨てにすることは、私にはできない。なぜなら、身体こそ小さいものの、横綱クラスの人格的迫力を発散しているから。「小さな巨人」とは、こうしゃくさんのようなのを言うのだろう。「小さな横綱」でも可。私は人格的迫力にも弱いのだ。

 飛騨さんの運転するバンに乗り、出発する。
 飛騨さんの運転はすこぶる怖い。チンタラ走っている車には幅寄せしてプレッシャーをかけ、前を走る車には、「ババァ、チンタラ走ってんじゃねえよ!」と悪口雑言を吐き、カーブではタイヤを鳴らしながら走る。
 助手席に座ったこうしゃくさんは、そのたびに、「飛騨っち、いいかげんにしろ!」などと怒り、飛騨さんの脇腹にパンチを叩き込む。ときには飛騨さんの首筋に袈裟斬りチョップを叩き込む。そのたびに私は、飛騨さんが衝撃でハンドルを切り損ね、ガードレールに激突するのではないかと、ハラハラ見守るのであった。
「これから真っ直ぐ、神戸まで行きますか」と飛騨さん。
「キムチはもう買ってあるの?」と私。
「いや、買ってないよ」
「じゃ、鶴橋に行かなきゃ」
「大丈夫ですよ。ダイエーで買って、鶴橋で買ってきたと嘘つきゃいいんです。どうせMICKさん、味なんかこれっぽっちもわからないんだから」
 そう言う飛騨さんを、こうしゃくさんと私でようやく説得し、車を鶴橋へ向ける。鶴橋でキムチと焼き肉のタレと、モーニング娘。のプロマイドと箸と皿を購入し、昆布の店に釘付けとなったこうしゃくさんを引き剥がすようにして車に乗せ、西へ。

 鶴橋を出たのが11時を過ぎていたので、待ち合わせ予定の2時ぎりぎりに三宮に着くか着かないか、という微妙な時間になってしまった。したがって南京町食い歩きは中止。これにこうしゃくさんはおかんむり。おつまみ昆布を囓りながら、
「ねえ、三宮、まだー? おなかすいたよー。おなか、おなかー、へったー、へったー、へったよー」
 とわめく。こうしゃくさんというのはとても愛すべきピュアな人で、眠くなったらむずかる、空腹になったら不機嫌になる、という、とても生理現象に支配された精神構造をしているらしい。ある意味とてもわかりやすい人だ。うちの姪(1歳3ヶ月)にちょっと似ている。ごはんを食べたとき、にこっと笑う笑顔の可愛らしさも似ている。

 2時ぎりぎりにようやく三宮に着き、ダイエーの裏に駐車しているJIMさんと落ち合う。黒いシャツで黒眼鏡といういでたちの、とても落ち着いた感じの女性だ。昔の三流アクション映画に出てくる、ギャングの女ボスみたいな印象(失礼)。しばらくするとぴっちぴちの扇情的なパンツで胸を揺らしながら、ミラさんが走ってくる。ギャングの情婦の踊り子といったところか(すごく失礼)。その後ろから悠然と、Cisneさんが歩いてくる。すべてを操る裏のボス、という役柄でしょうか(やや失礼)。そしてちえぞうさん登場。一見ふつうの娘さん、という印象で、ギャングに騙されて中近東に売り飛ばされるウブな娘、という役どころ(わずかに失礼)。
 こうしゃくさんのご機嫌が悪いので、とりあえず昼食を食べることにする。飛騨さんの運転で車がロイヤルホストに滑り込むと、女性陣からいっせいにブーイング。なるほど、このへんの打たれ弱さが飛騨さんなのだな。

 昼食後、飛騨さん車は肉の買い出しに、JIMさん車は野菜の買い出しに行くことに。こうしゃくさんは相変わらずのわかりやすさを発揮し、お腹がくちくなったら眠くなって、助手席でちんまりと眠り込んでいるので、飛騨さんとちえぞうさんと私で打ち合わせ。
「とりあえず神戸牛を買いに行きましょう。せっかく神戸牛バーベキューと、案内で謳ってるんやから」とちえぞうさん。
「どこで買うのがいいのかな。やっぱ元町ですか」と私。
「ここのダイエーで買いましょうよ。どうせMICKさん、神戸牛もオージービーフも区別が付きませんよ。MICKさんに神戸牛なんてもったいない」と飛騨さん。
 そういう飛騨さんを、ちえぞうさんと私でようやく説得し、元町へ。そこで一流といわれる神戸牛の店に行ったのだが、すぐさまUターン。百グラム千円以下の肉が、ないんだもの。シクシクシク。
 やむなく三宮のダイエーに戻り、肉を買う。しかし神戸牛を買わないと、看板に偽りあり、となってしまう。そこで編み出したのが、「秘技、上げ底の術」。神戸牛を申し訳程度に二百グラムほど買い、あとは輸入肉を三キロほど購入。

2.鍋よ、鍋よ!

 5時過ぎに三宮を出て、三木に向かい北上。会場のグリンピア三木に到着したのは、6時を過ぎていた。
 ロビーに入ると、なんだかヤバそうな集団がいる。目つきの悪い男たちが傍若無人に高笑いしながら、ビールをぐびぐび飲んでいる。きっと山口組関係の方々にちがいない。
 中でも一番ヤバそうなおっさんが、横に水商売の女みたいなのをはべらせ、ふんぞり返ってビールを飲んでいる。これがきっと、組長にちがいない。
 明らかにスジもんだ。目を合わせてはいけない。こっそり通り過ぎよう、そう思った瞬間、組長が立ち上がって、なにやらわれわれを怒鳴りつけた。まずいよ、目が据わってるよ。怒ってるよ。殺されちゃうよ。大阪南港だよ。コンクリ詰めだよ、全員集合。
「おぅ、よう来たなワレ!」
 ……組長ではなく、MICKさんでした。
 立て膝でパンツを見せながらMICKさんにビールを注いでいた山瀬まみ似の女性は、水商売の女性でなく、雛さんでした。でも立て膝しすぎて膝小僧にカサブタができていました。ちょっと巨人の工藤にも似てました。雛さんの表紙の鳥さんにも、ちょっと雰囲気が似てました。
 そして代貸しに見えた、藤村有弘クリソツの人は、つるんさんでした。若頭に見えたのはうねうねさんでした。出所してきたばかりの若衆に見えたのはRONさんでした。カツアゲと暴走族スカウト担当のチンピラに見えたのはひろしさんでした。

 MICKさんが雛さんのヨコチチをつついたり、ちえぞうさんが怖がるのを無理矢理抱き寄せてヨコチチをつついたり、こうしゃくさんを抱きしめるふりをしてヨコチチをつついたりしているうち、三宮を先に出たのになぜか遅れたJIMさんの車が到着。MICKさんはJIMさんとCisneさんとミラさんを集め、同時にヨコチチをつつきながら、
「これで、あとはブロイだけやな」
 ただひとり、約束の時間通りに2時に来て、ずっと待っていたうねうねさんは、安堵の溜息をついて、
「よ、よかった。これで鍋が食える。ではさっそく、準備を……」
「いや、それがや、鍋はブロイが持ってくるのよ。待たなアカンな」
「そ、そんな、私は10時には帰らないと……」
「ごじゃごじゃ抜かすな! じっくりと待てんのかいワレ!」
 一喝されて、うねうねさんは哀れにも黙り込んでしまいました。目には光るものがありました。

 7時も過ぎたころ、ようやくブロイさん到着。うねうねさんは感激のあまり涙ぐんでいました。ぞろぞろと宿泊するコンドミニアムに移動し、鍋を出し、コンロを準備し、食材を出して、ようやく鍋、というところで。
「あれ、地鶏と黒豚は?」と飛騨さん。
「オマエが買ってくる約束やったやんけ。いや、ひろしか」とMICKさん。
「ボクは刺身だけですよ、持ってきたのは」とひろしさん。
「ブロイさんが持ってくると聞いたんだけどな」と飛騨さん。
「いいえ、僕はぜんぶ飛騨くんに頼んだと」とブロイさん。
「しゃあないな。鍋に火つけるの、ちょっと待て。こうしゃく、だし昆布は食うな。飛騨、ブロイ、おまえら罰として買い出しじゃ。うねうね、泣くな」とMICKさん。
 うねうねさんは床に崩れ落ちて、さめざめと泣いていました。

3.三木は地獄だ!

 ようやく黒豚と地鶏が到着し、水炊きとボタン鍋がはじまったのは9時も過ぎたころ。ひろしさん持参の明石の鯛とタコも登場し、うねうねさんはあまりの喜びに、号泣しながら食べていました。
「こら、うねうね、泣くな、お通夜じゃあるまいし」とMICKさん。
「だって、だって、だって……美味しいんだもん、えぐえぐ」と、嗚咽しながら器用に猪の肉を呑み込むうねうねさん。
「どうも辛気くさいな……コラ、おったん、下条、なんか落語やれ」と、とーとつに指名するMICKさん。
「え、私?」
「そうじゃ。5秒以内にやらんかったらしばく」
「え……ええ、毎度ばかばかしいお笑いで」
 とおずおずと始め、MICKさんを窺うと、雛さんを膝の上に載せてヨコチチどころか正チチまでつつきながら、耳元に口を寄せて、
「おい雛、ワシの愛人にならんか?」
 ……まるで聞いてないし。
 その雛さんは雛さんで、いきなり私に
「下条さんって、本当にロリコンなんですか?」
 と聞いてくる。私は誤解を解くべく、私はロリコンではないこと、単にストライクゾーンが五歳から四十歳までと広いだけのこと、ましてや「少女の敵」などと新聞雑誌に書かれるある種の人物とはまったく違っていること、われわれは少女を愛し慈しむ人間であって、少女の敵はすなわちわれわれの敵であること、などを力説したのだが、
「いやーん、MICKさーん、そこくすぐったーい」
 などと身をくねらせており、ひとの話をまったく聞いていない。
 ……お似合いだよ、MICKさんと雛さん。

 やがてさくさくさん登場。たしかに二枚目だわ。三十年遅れの松田優作のような風貌。ううむ、これが全裸にならないとトイレに行けない人なのか。
「そういえば、しおさんは?」
「しおさんな、遅れると言うとったわ」
「遅れるといっても、もう10時ですよ。もう新幹線も終わるし」
「心配するな、しおさんのことじゃ、三宮のランパブかどっかにしけこんどるわい、がはははは」
 ……あとになって本人から聞いたのですが、このMICKさんの推測、みごとに正解でした。鼻水が出そうになりました。

 鍋はおいしゅうございました。猪の肉も思ったより柔らかくておいしかったし、えとっちさん特製のポン酢が絶品! そうそう、えとっちさんが調達した播州の地酒も、あまりに美味しく、あっという間に飲み尽くしてしまいました。
 やがてうねうねさんは、目に涙をいっぱいに浮かべ、口に肉をいっぱいに頬張りながら帰っていきました。さくさくさん、RONさんも帰宅。こうしゃくさんは、
「にくー、にくー、肉食ったー。おなかいっぱーい。眠ーい」
 と、相変わらずわかりやすい理由で寝にいく。
 このへんから酔いが回って、よくわからなくなってしまった。たしか夜中の1時頃、なぜか首筋にいっぱいキスマークをつけたしおさんが登場し、全員で「ヨコチチ・ブルース」と「真夏のヨコチチ」を絶唱したと思う。ミラさんがフラメンコを踊り、しおさんが
「チチが揺れてないぞ! ミラ、お前、さては、偽チチだな!」
 と不謹慎なヤジを飛ばしていたと思う。MICKさんはますます酔いが回り、もうヨコチチどころか女性陣の全チチを揉みしだいていたと思う。

4.焼肉製造者

 翌朝、二日酔い気味で目覚めると、もう10時前。いかん、チェックアウトは10時だった。慌てて狼藉のあとを片づけ、荷物をまとめて、車の前に集合。
 なぜかこうしゃくさんは、飛騨さんの車で寝ている。それも片膝を立てて。やはり雛さんに影響されたのだろうか。写真に撮ろうとしたら、飛騨さんにぶっとばされた。
 ロビーでチェックアウトしている間に、しおさんがどこかに消えたと思ったら、なぜかバトミントンの道具を買ってきた。雛さんを誘い、芝生でふたりで球打ちに興ずる。その姿は、エロオヤジが行きつけのキャバクラ嬢を誘って外泊した翌朝、そのものでした。しかしふたりとも、まったく球が当たらない。二日酔いなのか、動体視力が衰えているのか。クルーズとペレスの三振合戦を見ているようでした。
 当日参加組のえとっちさんとその恋人、ロケットマンさんとその奥様、ヨウヘイさんがここで合流し、バーベキューの会場へ。えとっちさんはいかにも料理人! という感じの人。恋人はかいがいしくえとっちさんに寄り添い、早くも小料理屋を経営する夫婦、という雰囲気になっている。「渡る世間は鬼ばかり」の藤岡琢也とその嫁さんを、ちょっと若くしたような感じか。ロケットマンさんは物騒なHNに反しておだやかそうな人。その奥様、POPOさんはとてもおとなしそうな美人でした。MICKさんに、
「POPOさん、その鼻の穴好きやー。鼻の穴美人やな。いっぺん、その鼻の穴に指つっこましてくれや」
 と絡まれ、困ったように寂しく微笑していました。その奥様をかばうようなロケットマンさんの仕草がとても印象的でした。「あんた、穴やったらなんでもつっこむのか」と、言いたかったけど言えませんでした。

 炭と固形燃料を調達し、火をおこすのだが、炭になかなか火がつかない。固形燃料だけがぼうぼうと燃えている。「ええい、いっちゃえ!」と網をかぶせ、固形燃料の火力だけで強引に焼き肉を始める。とりあえず火の通りが早いタンと、高価な神戸牛だけ網に載せて焼き始める。うまいわ、神戸牛。
 ふと気づくと、こうしゃくさんとJIMさんがいない。……こうしゃくさん、まだ寝てるの?
「うん、JIMさんも疲れたって、車で寝ている。こうしゃくもずっと寝とるわ」とMICKさん。
「あのこうしゃくさんが、焼き肉の匂いにも起きずに寝てるなんて、よっぽど疲れてるんでしょうね」と、さすがに心配になってくる。心配のタネはもうひとつあって、
「あの、こうしゃくさん、焼き肉を食べ損ねて、あとで激怒して大暴れ、ってことはないでしょうね」
「ありそうなこったな」
 ……しかし神戸牛はうまいな。シマチョウも、意外と柔らかくてうまい。さすが鶴橋の肉だ。

 そのうちに炭火も景気良く燃えだし、昆布を酒で湿してスズキを焼いたり、ノビルを炙ってみたり、飲み食いを延々と続ける。えとっちさんはMICKさんに「ラーメンが食いたい!」などと無理難題をふっかけられ、やむなくコンロでラーメンを作っていた。
 75度のラムをオレンジジュースで割り、MICKさんの「これがジャマイカのラムの飲み方や」という言葉を信じつつ、みんなで飲む。
「これを飲んだ朝やったかな、ワシ、最後に嫁さんとエッチしたんや」
 などというMICKさんの湿っぽい述懐を聞きながら、ひたすら飲む。
 その間にも、ブロイさんはカメラを持って、どこかに消えたり、また出現したり。聞いてみると、
「あそこで女子高生がピクニックしてるんですよ。ちょっとアクションカメラしてきました。いや、いい写真が撮れた」
 と、とても嬉しそうに教えてくれました。
 そうこうしているうち、新幹線組のしおさん、飛行機組のこうしゃくさん、雛さん、つるんさんはぼちぼち帰り、日は西に傾きはじめる。おいおい、もう4時だよ。
「じゃあ、これから明石に行こう。下条、時間は大丈夫やろ」
 とMICKさんに言われ、ラムの酔いで気が大きくなった私は頷く。
 会場を撤収し、車は明石へ。明石駅前の店に入り、みんなで明石焼き。ちょっとつまむくらいかと思っていたが、20個くらいあって、おなかいっぱいになる。ふわっとして美味しい。MICKさん直伝の明石焼きの食べ方は、明石焼きにあらかじめソースを塗り、それを出し汁につけて食す。そのあとで、出し汁も飲む。なるほど、美味しい。
 そこでさらにMICKさんは、
「どうや、これからカラオケ行けへんか。新幹線明日でもええやろ。ヨウヘイのところに泊まったらええやんけ」
 と囁き、明石焼きとビールでさらに気が大きくなった私は、ヨウヘイさんの嫌そうな顔も無視して頷く。明石駅前でMICKさんは車を預け、MICK、ヨウヘイ、ちえぞう、私の四人は駅前のカラオケボックスへ。ここでジュリーをフリ付きで熱唱。MICKさんと私はご満悦。ヨウヘイさんとちえぞうさんはいい迷惑。

5.夢みる明石

 カラオケが終わって店を出たのは11時過ぎ。そろそろ終電の某女性(これから先は、本人の将来を考慮して仮名とさせていただきます)とはここでお別れ。のはずだったのですが。
 とりあえず、MICKさんの車に載せたままの荷物を取りに行こうとしたのですが。
 駐車場、閉まってるやんけ!

 よく看板を見れば、「営業時間 午前6時半〜午後10時」とはっきりと。ああ、われわれはどうすればいいのか。
「とりあえず、タクシーでヨウヘイのとこまで行くしかないな」さすがに憮然としてMICKさんが呟く。
「えー、あたし車の中に、化粧品とか着替えとか入れたまんまなんですよー。あれがないと、明日会社に行けなーぃ」と某女性。
「着替えはワシが責任を持って洗うから。特にパンツはワシが手洗いする」とMICKさん。
「いやん、洗わないでー」と某女性。
「じゃ、臭いかいでもええか」とMICKさん。
「MICKさん、ヘンタイー」と某女性。いかん、このままふたりに掛け合い漫才させていても、現状が打開されないのみならず、某女性に貞操の危機まで訪れてしまう。
「パンツは私が責任もって嗅ぎます。それより、どうしましょう。駅前のホテルにでも泊まりましょうか」と私。
「それもええな。某女性とワシはあそこのラブホテルに泊まるから、ヨウヘイと下条、おまえらはカプセルホテルで寝てなさい」とMICKさん。
「そんなの、イヤですーぅ」と某女性。
「大丈夫。ワシ紳士やから。一発しかせえへん」
「一発でもイヤですーぅ」
「一発、150円払う」
「なんでヨコチチプッシュの半額なんですかーぁ。150円じゃ安いですーぅ」
「わかった、ワシも男や。250円出そう」
 なんか今の窮状もわきまえず、価格交渉に入りだしたふたりを、私は慌てて止める。
「ちょっと待ちなさい。それなら私は350円出します」

 考えてみれば、また元のカラオケに戻ればよかったんだよな。まだジュリーは歌い尽くしていなかったし。「憎みきれないろくでなし」とか、「時の過ぎゆくままに」とか、「酒場でDABADA」とか、「AMAPOLA」とか、なんぼでもあったんだから。
 ここで、オフ会参加の女性陣に、勝手に捧げるジュリーの歌。
 ミラさんには、やっぱり「酒場でDABADA」だよね。「真夜中過ぎたら左手が おまえを恋しがり 豊かな身体を思い出し ビリビリ震えることもある」だもんね。
 Cisneさんはクールだから、「背中まで45分」かなあ。「会話のために HP名を聞いて むつかしい名で すぐに忘れた 指が動いて それが35分前」てなもんで。
 JIMさんはどうしても、「君をのせて」ですね。「僕の地図は破れ くれる人もいない だから僕ら 肩を抱いて ふたりきりで歩く」。ああ、三木はこっちだよ。そっちは淡路島。
 こうしゃくさんは「おまえがパラダイス」ですね。「オオオ 抱きしめたならば まわらないさ腕が おまえがパラダイス オオオ 昆布ならば食って 車ならば眠って おまえがパラダイス」。
 ちえぞうさんは、「AMAPOLA」だなあ。清楚で素直なイメージ。「アマポーラ 清らかな天使 唇に指さえ触れずに」だもんな。唇に指どころか、ヨコチチに指さえ触れた悪魔がいたけど。許すまじ。
 雛さんはどうしたって、「OH!ギャル」だよなあ。「Monday カサブタ固めた聖女で過ごせよ Tuesday ヨコチチ押されて生きては駄目さ Wednesday 他人の話など聞かないふりして Thursday オヤジの口説きで落ちてはいけない Friday 喋りの早さはしおさん以上さ Saturday 男を迷わす妖しいパンツさ Sunday Sunday 雛の辞書には 不可能はないよ」。つい長くなりました。
 えとっち恋人は、なんかえとっちさんと「あんじょうやりや」を歌いそうですね。「あんな 聞けや ごじゃごじゃ言うな お前だけやんけ」とか、なんか播州訛りで。
 ロケットマン夫人のpopoさんは、やっぱり、「許されない愛」でしょう。「だけど もしも ここにあなたが いたなら 駆け寄り すぐに抱くだろう」ヤバいかこのネタは。

 なんだかんだ言いながらタクシーに乗り込み、ヨウヘイさんのワンルームマンションへ。ヨウヘイさんが部屋を片づけている間に、近くのコンビニで買い物。私がビールやお茶を買っている間にも、MICKさんは某女性の肩を抱きながら、
「こういうのがええよな。な、な、な。ちょっと、ヨウヘイの部屋で、穿くの見せてくれや」
 と、セクシーショーツをさかんに勧めているのでした。

 翌朝、ヨウヘイさんがMICKさんに叩き起こされている物音で目を覚ます。どうやらMICKさんは、
「こらヨウヘイ! トイレに紙がないぞ。ワシ、ウンコしたいんじゃ。早よ買ってこんかい」
 と怒鳴りつけているらしい。ヨウヘイさんは慌ててコンビニに走り、MICKさんがつつがなくウンコをしたところで出発。明石に戻り、ようやく車を手に入れる。

 明石城にある全日本プロレスの石碑を見学し、そこから舞子の駅前に。目の前に広がる海岸。長くのびる明石大橋。遙かに見える淡路島。ああ、海だなあ。MICKさんはいたくここが気に入ったらしく、
「よっしゃ、次回のオフはここじゃ。バーベキュー場もあるし、ここで宴会しよう。宿舎は、……あそこにラブホテルがあるな。某女性、ワシとキミは、あそこで泊まろう」
「えー、イヤですよーぅ」
「じゃ、雛も入れて三人で泊まろう。それならええよな?」
 とふたりで盛り上がっていました。

 舞子で昼飯後、新明石の駅で本当にお別れ。みなさま、楽しゅうございました。MICKさん、お世話になりました。ヨウヘイさん、泊めてくれてありがとう。いい人です。ちえぞうさん、こうしゃくさんとはまた違った天然っぷりが素敵です。本当にありがとうございました。ご迷惑でなければ、次回もまた参加させてください。ではでは。

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