腹巻きとやどかり

 若い頃は、夏は腹巻きが手放せなかった。

 夏は薄着の季節である。
 TシャツとGパン、などという軽装で外出することも多い。
 これがお腹に来た。

 昔から腸の弱い体質である。
 何かというと腹が痛くなる。
 Tシャツ1枚、などという弱い防御で私のお腹を外気に晒すと、あっという間にお腹をこわして下痢、ということになる。お腹の防御力3、というような状態なのである。
 かといって暑い中、上着を着るのも嫌だ。
 ということで、こっそりお腹だけを腹巻きで防御していたのであった。
 腹巻きというと、どうしてもステテコ、カンカン帽、草履である。
 カンカン帽の代わりに鉢巻でもいい。
 ヒゲもアイテムとして欠かせない。
 若い身空で植木均かバカボンパパか、という境遇に落ち込んだのだ。

 それがここしばらくは平気である。
 腹巻きを手放した。
 25歳くらいから平気になったようだ。
 腸が弱いのは相変わらずというのに。

 つらつら考え、やっと結論に達した。
 脂肪だ。
 25歳頃からみるみるうちに増えた私の体重。
 そのなかでも、みるみるせり出していった私のお腹。
 この分厚い脂肪層が、腹巻きの代用をなして余りあるのだ。
 中年太りにも、効用があるものだ。

 腹巻きの代用をするくらいだから、ずいぶん厚みのある脂肪層である。
 そのため、入社時の背広が着にくくなってしまった。
 無理に着ると、ズボンがはち切れそうになる。
 折り目も何もない。
 息苦しい。
 圧迫されて、腹が痛くなる。
 外気からお腹を守ってくれた脂肪層が、今度はお腹を苦しめるのである。
 諸刃の剣というべきであろうか。意味が違う気もするが。

 ヤドカリは弱い部分を巻き貝の殻で隠して暮らしているが、成長して殻がきつくなると、新しい大きな貝殻を探してそちらに移り住む。
 私は弱いお腹を脂肪で隠して暮らしていたが、そのため10年前に買ったズボンがきつくなっても、買い換えもせず苦しんでいる。
 私はヤドカリにも劣る人間かもしれぬ。

 いや、待てよ。同じ背広を10年間も着続けることこそが、問題なのかもしれないぞ。
 ひょっとして、これって、すごく恥ずかしいことだったりして。
 サラリーマンとして、許されない行動なのかもしれない。
 いやいや、人間として、許し難き行為なのかもしれない。
 ダメ人間なのかもしれない。
 それでは、定番の締めを。
 皆様ご一緒に。
 いやんいやん。


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