エコエコ断章

 先日、先輩の家でエコエコ大会を繰り広げた。夕方集合し、今年の春公開されたエコエコアザラク3の映画と、テレビ東京で去年放映され、酒鬼薔薇君事件で打ち切られたドラマ版のエコエコアザラクをLDで鑑賞する大会である。なかなか面白かった。その感想などを書いてみようかと思う。エコエコ3のネタバレが含まれているので、まだ見ていない人はご遠慮ください。

・TV未放映版の「血」には白鳥智恵子が出演している。彼女はエコエコ2の映画で初代ミサの吉野公佳と対決し、そしてこれで2代目ミサの佐伯日菜子と対決している。もはや彼女は「エコエコのバルタン星人」と呼んであげるべきであろう。

・TV未放映版には放映しなくてよかったと思える作品がいくつかある。というのは、後半はオカルトホームコメディを指向していたとおぼしき作品があるのだ。ミサの父親として団時朗(帰ってきたウルトラマンの郷秀樹役)が、母親として榊原るみ(帰ってきたウルトラマンの坂田アキ役)という新マン黄金コンビが参加している。しかも、団時朗が父親になった理由が、「佐伯日菜子とクリソツ」なんだそうだ。さらにミサのおじさん、妹アンリまで出現する。もしもエコエコのTV再放映が決定したら、そのときはアンリが主役であろうな。

・「エコエコ3」では黒魔術師がウエイトリイ家からの文書をもとにホムンクルス制作に精を出す。ウエイトリイ家とは、ラブクラフトの「ダニッチの怪」の主人公であるが、別に人造人間を研究した気配はない。悪魔の召還を研究していただけだ。だいいちウエイトリイ家は当主が犬に食われて死んでしまい、次男も呪文で分解されてしまって、血統が絶えているはずだ。そもそもラブクラフトはホムンクルスに興味を持ったことはない。彼の興味はあくまで、死者の再生である。「死体蘇生者ハーバート・ウェスト」や「チャールズ・ウォードの奇怪な事件」など。

・ドラマ版でも「仮面」にピックマンの面なるものが登場する。これをはめると盲人も魔界の風景が見えるというものだ。しかしラブクラフトの「ピックマンのモデル」は、画家が地下室に閉じこめた怪物をスケッチするという話であり、ちょっと違う。しかし、これに影響されて高橋洋介が、「触角」という漫画を書いている。これは事故で片目を失った画家の眼窩から触角が生えてきて、それがこの世の事物の裏にある魔界の風景を見せてくれるというもの。おそらく脚本家はこちらからヒントを得たのだろう。

・ホムンクルスといえば渋沢のたっちゃんと種村の季ちゃんの独壇場である。種村季弘「アナクロニズム」の「人間栽培論」、渋沢龍彦「黒魔術の手帳」のホムンクルス誕生」、「夢の宇宙誌」の「ホムンクルスについて」が詳しい。ただし、この中で両氏が称揚しているペトルッチなる生物学者の人間合成、これは真っ赤な嘘なのである。
 1961年、ペトルッチ教授の試験管での胎児発生の報告は科学界にセンセーションを巻き起こした。しかし教授は実験に使用した設備を報告しなかった。ふつう、科学論文には追試により他の研究者も確かめられるよう、実験器具を事細かに書くのが普通である。これのない論文は引用文献の書いていない文学論文と同じで、価値は全くない。しかもペトルッチは、研究者が自分の研究設備を見学することさえ拒否した。さらに胎児を見せてくれとの要求が高まると(当然の要求である)、自分の所行が怖くなって胎児を殺してしまった、と言い訳した。ここで科学者はペトルッチを完全に見捨てた。はっきりいって、それ以降ペトルッチの実験について言及しているのは、渋沢龍彦のような科学に疎い文人だけである。
 人造生命のペテンについてはガードナー「奇妙な論理2」の「生命を作り出す人々」が詳しい。ペトルッチの実験批判は畑正憲が「われら動物みな兄弟」で行っている。

・ホムンクルスは生まれながらに完全な知識を持っている、という説は、どうやらパラケルススと、それを引用して「ファウスト」を書いたゲーテだけのものらしい。

・ホムンクルスには人間の感情だけが欠けている、それを手に入れて完全な人間になるためには・・・という話は、おそらく石ノ森正太郎の「キカイダー」が原点だと思う。あの話も、人造人間のジローが苦しみながら人間らしさを手に入れてゆく物語であった。(TV版では、「ギルの笛に負けない強靱な心、人間らしい心を手に入れるため、修行の旅に出ます」というとんでもない理由で旅立っていった)

・佐伯日菜子の笑顔は、血塗れの佐伯日菜子よりも怖い。

・エコエコ3の上映会には、私は参加できなかった。ハラ君とふたりで見に行こうとしたのだが、なにせ人気のないマイナーアイドル専門の2人のこと、たかをくくって上映時間ぎりぎりに駆けつけたのだ。そこにはすでに、「満員御礼」の結界が張ってあった。我々が入ろうとすると手足がびりびりと痺れるのだ。我々が映画館にありったけの呪詛を放ち、そして居酒屋でやけ酒を呷ったのは言うまでもない。その荒れようときたら、相席になった二人の女性が怯えて、「あの、私たち帰りますけどよかったらこのお酒飲んでください」と供物を捧げて逃げていったほどだ。えこえこあらでぃーや。


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