海外旅行

「わたい、先日海外に行ってきまして」
「ほほう、マニラでっかジャカルタでっかプエルトリコでっか」
「なんでいきなりそんな地名が出てくんねん」
「いや、あんたが海外っていったら、てっきり金にいよいよ困って臓器でも売りに行ったんかな思て」
「失礼なこと言いなさんな。人が聞いたら本気にするやないか」
「あんたの経済状態やったら、本気にもするやろうなあ」
「マニラでもインドネシアでもありません。バンコクですよタイの」
「あんまり変われへんやんけ」
「ま、しかし行き先はどうあれ、海外旅行というのは楽しいもんですな」
「独特の雰囲気がありますからね」
「まずは新宿から成田エクスプレスに乗り」
「ちょい待てや」
「なんやねん」
「わしら大阪弁で漫才してんのに、なんで成田空港行かなあかんねん」
「ええやないか、パクリサイトではよくあるこっちゃで。北海道の人間がなぜか大阪弁で話してたり、名古屋の人がなぜか行きつけの酒場が三軒茶屋やったり」
「ホンマはこの漫才も、怪物ランドからパクってきました」
「嘘でっせ一応。……まあええわ、新宿駅から乗ります成田エクスプレス」
「カッコよろしおまんなあ」
「ふと外を見やると、山手線のホームには行列がびっしり。思わずこみあげる笑い。缶ビールを開けながら、思わず語りかけます。『労働者諸君、しっかり働けや』」
「そないにエラそうな」
「そして成田エクスプレスは東京駅に停車。また外を見ると、ホームに労働者がびっしり。思わず呟く、『働け、クズども』」
「あんた、なんぼ働くこともできない身分やからって、そんな」

「成田空港に着きました」
「エスカレーターで出発ロビーに移動し、まずはチェックインカウンターへ」
「お客様、航空券とパスポートをお見せくださぁい」
「おっとボールはバックネットを転々と、ランナー労せずして二塁へ」
「それはパスボールでございまぁす」
「だから山田を使うなちゅうたんや」
「山田はいま日本ハムでございまぁす」
「やっぱ吉本やないとアカンな」
「私らが所属するのは吉本興業、阪神の吉本はやっぱりパスボーラーでございまぁす」
「えらい冷静なお姉ちゃんやな。冷静に阪神ファンの肺腑をえぐるようなこと言いよるわ……はいこれ」
「それはビー玉でございまぁす」
「おはじきが楽屋になかったんや」
「なんでおはじきが必要なんでございまぁすかこのバカタレ」
「ハジキは俺のパスポート」
「今の若い人にわからないギャグ抜かしてどうするんでございまぁすかこのバカタレ」
「ああ怖、あの姉ちゃんだんだん地が出よったで」

「搭乗券をもらったら、次は税関でんな」
「はい次の人……パスポートを」
「ボールは転々とバックネットへ」
「はい、そのギャグはもうやりました。はい次」
「えらい事務的なおっちゃんやな」
「搭乗券を見せてください」
「右下斜め右下で決定」
「はいそれは昇竜拳ですね、次のギャグ」
「とことん事務的やな。いやん、私の顔写真にヌードを貼るのは」
「わかりにくいけどそれは肖像権と言いたいのですね。はい次」
「いやん、うふん、オカマだって人権はあるのよ。都知事に立候補しちゃうからん」
「はい東郷健ですね。わかりにくくておまけに若い人に通用しませんね。減点1」
「くそぅ」
「旅行の目的は?」
「ウェルダンで」
「それはビフテキですね。ええ加減にせんと殴りますよあなた」
「あかん、このおっちゃんもだんだん地が出てきた」
「目的は?」
「静かな湖畔の森の影から」
「静かな湖畔の森の影から」
「もう起きちゃいかがとカッコーが鳴く」
「もう起きちゃいかがとカッコーが鳴く」
「カッコー、カッコー、カッコーカッコーカッコー」
「カッコーカッコーカッコー……って、カッコーやなくて観光やろ!」
「とうとう大阪弁に戻ってもた」
「ギャグひとつに、いちいち歌わなならんのかい」

「いよいよ飛行機に乗り込みます」
「出発ゲートからの細い通路をくぐり抜けると」
「そこは雪国だった」
「なんで飛行機が雪まみれやねん。ちゃんとスチュワーデスさんが笑顔で出迎えてくれます」
「ご休憩ですかご宿泊ですか」
「それ、スチュワーデスとちゃう」
「だってスチュワーデスの制服着とるで」
「それはイメクラかコスプレ喫茶じゃ」

「とりあえず飛行機に乗り込みます」
「ああしんど。これで出発を待つばかりや」
「アーテンション・プリーズ、アテンションプリーズ」
「お、機内アナウンスや」
「ただいまから当機、キャセイパシフィックCX501便はバンコクに向けて離陸いたします。その結果は神のみぞ知る」
「なんやイヤなこと言っとるで」
「離陸前にいくつかのご注意を、乗客の皆様に言っておきたいことがある」
「なんや関白宣言になっとるぞ」
「メシはうまくつくれ」
「あんたが作れや」
「いつもキャセイでいろ」
「宣伝かいな」
「飛べる範囲で かまわないから」
「ちゃんと目的地まで飛べや」

「お客様、まもなく離陸いたしますので、ベルトをお締めください」
「お、いよいよ出発か。でもシートベルトは、ちゃんと締めとるで」
「いえ、その首のところのベルトも」
「あら、こんなとこにもベルトが。初めて見るなあ。まあええわ、締めてと」
「それから手首もベルトで肘掛けに固定してください」
「えらい厳重やな。よいしょっと」
「右手首はわたくしがお締めいたします……さあ、これで身動きできなくなりましたね。うふふふふふ」
「なんやねん、いきなり不気味な笑い方しよってからに」
「さあ、めくるめく官能のひとときを、おまえに過ごさせてあげるわ。さあ感謝しろこの豚め、もう逃げられないぞ!」
「おいおい、スチュワーデスの姉ちゃん、いきなり皮の服に着替えてムチ持ってきよったぜ」
「うーふふふふふふふ。おまえの臓器を取ってやるぅ。高く売りつけてやるから往生せい」
「なんやねんこの飛行機は。キャセイパシフィック航空やろ、これは」
「いえ、枷マゾヒスティック航空でございます」


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