アイドルをめぐる冒険・4

アイドルの変貌

「アイドルは復活しないのか?」という問を最近耳にすることが多い。かつてのようにベストテンの1位から10位までをアイドルが占めた時代、誰もが口ずさむような国民的ヒットをアイドルが産んだ時代は昔になった。今ではアイドルが歌番組に出ることは希で(そもそも歌番組がない)たまにアイドルがCDを出しても、51位だとか143位だとかはなはだ威勢の悪い順位にしかならない。

 循環史観をとる論者はこう考える。今はアイドルが気勢上がらぬ時代だが、今にみるがいい、そのうち昔の全盛時代が戻ってくる・・・

 しかし私の答は「ノー」だ。アイドルをめぐる環境、そしてアイドル自体も変わり、そしてそれは元に戻らないからだ。

 何故こうなったのか?

 歌手側からの説明は簡単だ。国民的歌手を生じさせるニッチがなくなったからだ。つまりファン層が特殊化し過ぎ、そのすべてをカバーするような戦略が破綻してしまったのだ。

MacArtherとLevinsのモデルがこれにあてはまる。(下図参照)体長の異なる二種のアリと、それを捕食する三種のトカゲがいる。トカゲの二種はそれぞれ、大きな方のアリと小さな方のアリを捕食するのに特殊化しており、三種目のトカゲはどちらのアリも食べる何でも屋である。アリの体長が3ミリと5ミリで、2種のアリが混合して生息する環境では、何でも屋のトカゲがもっともうまく餌にありつく。ところがアリの体長が2ミリと8ミリにもなると、大きさが違いすぎて両方を食べるという方法が無くなってしまい、特殊化したトカゲが勝利をおさめる。(おそらく、2ミリのアリを食うトカゲはアリクイに似た口をして、舌でアリをなめとるだろう−スナトカゲのように)

エリック・R・ピアンカ「進化生態学」(蒼樹書房)P.286より 

 このようなファン層の特殊化が最も痛手を加えたのはアイドル界である。元々アイドルは短命、不確実なr戦略者として生きてきた。常に飢えているが、時々有り余る資源に恵まれる、そんな環境に適応してきた。それが、時々あった有り余る資源すらわずかになってしまったため、危機に瀕してしまったのである。

 しかし、何故ファン層は変わってしまったのだろうか、という問題が残る。これについては次項で。


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