アイドルをめぐる冒険・2

K戦略とr戦略

 余り耳慣れない言葉だが、生物の繁殖戦略は大まかに言って、K戦略とr戦略に分けられる。

 K戦略とは少ない子供を産み、十分成長するまで育て上げる育児の方式。典型的なのは哺乳類、とくにヒトである。

 r戦略とはこの逆で、とにかく大量に子を産み、そのうちいくばくか生き残ればいいやという戦略。1万の卵を産むというマンボウ、びっしり卵で埋まった卵嚢を産む昆虫などがこの戦略の典型的な例である。

 基本的に、環境が安定していて同種内での競争が激しいとK戦略が優勢となる。生き残るカギは実力だから、少ない子を十分育てて、競争に勝ち残れるようにした方がいいからである。逆に不安定な環境、特に食べ物が希にしかないが有るときはありあまるほど有るとr戦略が優勢になる。生き残るカギは幸運だからである。従って、大量な子供のひとりでも食糧を見つけるという幸運にあずかることを期待した方がいい。

 さて、ヒトは先ほどのように典型的なK戦略者である。ところが、アイドルは・・・

 ヒト社会の中でアイドルはr戦略者として社会的に生きているのである!

 ご存知のようにアイドルは毎年大量に生み出される。そのうち生き残るのはごくわずかだ。例えばアイドル同人誌「OHHO」によると1989年のアイドル新人は18組。(たぶんこの時点で有望新人にバイアスがかかっていると思う。実数はもっと多いはずだ)このうち、曲がりなりにも現在生き残ったアイドルはCOCOと早坂好恵だけだ。(別世界からのアルバイト組である宮沢りえとキューティ鈴木は除外する)おそらく、アイドルでデビュー5年後に生き残るのは1割に満たないのではないだろうか。

 他にもr戦略者の特徴がある。アイドルは寿命が短い。せいぜい16歳でデビューしたとして25歳までの9年間の命である。もちろん、それより短命なアイドルが圧倒的なのは言うまでもない。

 こんな短命な存在に長い教育をしたところで採算がとれない。従って、アイドルの多数は未教育のまま供されることになる。

 以上のようなアイドルの性質により、所属事務所の形態も規定される。前記のような戦略では永続性、確実性に欠けるため、企業の形態は小さいものにとどまる。寿命も同様、しばしばアイドルの死滅とともに事務所も寿命を終える。

 このような条件の中で企業体を増大させるにはどのような方法があるか?

 第一は総合商社的戦略である。所属下にアイドル、演歌歌手、ジャズ等多様な歌手を置くことによって、利益を安定させる。鉄が儲からないうちは木材の儲けで何とかするというわけだ。ホリプロ、ナベプロ等がこの戦略を取った。

 第二は所属歌手を大量にすることにより期待値を安定させる戦略がある。マンボウやアリマキのように大量に卵を産み、数打ちゃ当たる、という方法である。

 第三の戦略を、かりに群体戦略と名付けた。これは時期的に連続して同種のアイドルを供給し続けることにより、あたかも一人の歌手が長期にわたって存在するように、同一のファン層をつかみ続ける戦略である。おニャン子くらぶ、MOMOKOクラブ、乙女塾等のクラブ形態、そして、宝塚があげられる。

 


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