屈服浪漫〜マリベル無惨

(このページはポルノです。十八歳未満の人は、お父さんお母さんの許可を得てから読むようにしてください)

「あーやだやだ、いつまでこんなとこにいなきゃならないのよ」
 マリベルはいかだの上で、さんざん愚痴をこぼした。
「いつまで……って、ワープ地点も水没しちゃったし、この海域からは出られないし……」
 アルスは櫂をあやつりながら、ぼそぼそと言う。
「やっぱ、グラコスとかいう魔王を倒さないと、駄目そうだな」
 もうひとつの櫂をこぎながら、ガボはぼそりと言う。
「もう! あたし、もう魔法使いを極めちゃったのよ! 転職したいんだから」
「そんなこと言ったって……」
「先は長そうだぞ。敵も強くなってきたしな」
「そうよ、強いのよ。それなのにあたしのこの格好はなに? こんなしょぼい装備で、グラコスの城に行けというの? だからあたし、あのときマジカルスカートを買おうって、そう言ったじゃない。だのにアルスの愚図が、金が足りないとか何とかいって」
「こんなことになるとは、思って……」
「だからグズだって言うのよ! ほら見なさい、ガボだって炎の爪を買っていれば、今ごろ楽勝だったのに、ヘボい武器だから『怒濤の羊』に頼るしかない有様なのよ」
 いつ果てるとも知れぬマリベルの愚痴を聞かされ、大海原の上とて逃げるところもなく、黙々と櫂をあやつるふたりの男の表情は、だんだんと険しさを増してきた。

 やがて海底に沈む神殿を発見し、三人は神殿の中に入り込んでいった。マリベルは依然、喋り続けていた。
「でも、さっきのアルスは何だったの? いきなり痣が光って、そのとたん渦に巻き込まれて」
「わからない。僕にもわからない……」
 まだ妙に疼く腕の痣をぼんやりと見ながら、アルスはそう呟くだけだった。
「ま、あんたにわかるはずはないと思ってるけどね。それにしても、こう簡単に神殿に入れるってのは、あんた、グラコスの親戚か何かじゃないの?」
「まさか……」
「ありうるわよ。漁村の生まれだしね。あんたが生まれるのを見た人って、あんたの両親しかいないそうだし。実はあんたんとこの親父が、網にかかった赤子を拾って育てたとか」
 ひとの心を傷つけると上機嫌になるマリベルは、声高にそう話しながら神殿の通路を闊歩していた。そこへ突然、モンスターが現れる。
「ゲヒャヒャヒャヒャ」
「うるさいわね。邪魔しないでよ。イオラ!」
「ギヒェー」
「ヒャダルコ!」 
「ゲシェー」
「ふん、弱っちいくせに、あたしの前に現れるからそうなるのよ。それよりアルス、あんたもちっとは攻撃技を覚えなさいよ。どうせたいしたちからがないんだから」

 これだけの魔法の大盤振る舞いでは、やがて魔力が尽きてしまう。
 戦闘を重ねるごとに見る見る減っていくマリベルのMPを見て、ふたりの男はひそかに目配せを交わした。
「ねえ、いつまで歩くの。もう疲れちゃったよ」
「もうすぐだよ。もうすぐ、魔王の神殿のはずだ」
「聞き飽きたわよその台詞。いったん戻って、休んでから出直しましょうよ」
「いや、せっかくここまで来たんだから……」
 渋るマリベルを、ふたりの男はなだめすかして、神殿の奥まで到達した。

「あーもう、イライラするわね! 何よこのややこしい構造は!」
 神殿の最深部。水路は寸断され、無数のスイッチとレバーと梯子とが並んでいる。
 しばらく考え込んでいたアルスは、ガボと何事か話し合い、マリベルに向かった。
「たぶん、あのレバーで水を引かせて、梯子で水路の下を歩けば、階段まで行けると思うんだ。それにはあの橋が邪魔になる。僕たちは水路の下を歩くから、マリベル、君はここで待っていて、僕たちが合図したらこのスイッチを押して、橋をひっこめるんだ」
「ちょっと、あんたたち、あたしを放っといて先に行く気?」
「大丈夫だよ。また戻ってくるさ。マリベルは疲れたろうから、ここで休んでいなよ」
 言い残してアルスとガボは、マリベルを置いて梯子を下っていった。

「まったく、レディを置いてどういうつもり……」
 ぶつぶつと愚痴をこぼすマリベルは、突然、なにものかの殺気を感じ、立ち上がった。
 知らぬ間に、ヘルダイバーが近づいていたのだ。それも、三匹。
「しつっこいわね。これでも食らいなさい……ヒャダルコ!」
 呪文を叫んだマリベルだったが、指先から無数の氷針が発射されると思いきや。
「……?」
 まったく何もおこらなかった。
 慌てたマリベルは、MPを確認した。まずい。ゼロになっている。これまでの道のりで、使い切っていたのだ。
 魔法の聖水を求めて、マリベルは自分のポケットを探し回った。しかし、指先に触れるのは、満月草、兎のしっぽ、薬草だけ。
(まずい。さっき整理したとき、ふくろに入れちゃったんだわ……)
 敵に後ろを見せるのは大嫌いなマリベルだったが、この際、そんなことは言っていられない。女手で、しかも魔法使いだ。肉弾戦で勝てる相手ではない。逃げるしかない。
(…………!)
 しかし、逃げようとして一歩を踏み出したマリベルの肩を、恐ろしい力でなにものかがつかんだ。マリベルが振り返ると、赤黒い醜悪な顔が、鼻息を吹きかけて迫っていた。

「なんだ、小娘か……まあいい、なかなか可愛い顔じゃ。げひゃひゃ」
 神殿の玉座まで連行されたマリベルを迎えて、半人半魚のおぞましい姿をした魔王は、上機嫌だった。
「こんな小娘が、各地で儂の仲間を倒してきたとはな……。よほど、相棒が強いのか」
「いいえ、あたしの力よ! あたしがみんな、倒してきたんだから!」
「その鼻っ柱の強さは、さすが救い主と呼ばれるだけのことはあるな。げひゃひゃひゃひゃ。大海原を支配するこのグラコス様の、精を受けるにふさわしい」
「だ、だ、だれが……あんたみたいに、下品でみっともなくて生臭くってぬるぬるしていて内弁慶で顔がでかくて短足でうすらハゲで息も臭くて水かきがあって四頭身であさましくて……」
 顔を真っ赤にして罵言を吐き続けるマリベルをにやにやと眺めながら、魔王グラコスは配下に指を立ててみせた。
「ちょっとは、自分の置かれた立場というものを判断した方がいいぞ。げひゃひゃ」
「や……何……あたし……こんなことして……覚えて……」
 配下のたつのこナイトに無理矢理押さえつけられたマリベルは、必死の抵抗も空しく、拷問台に縛りつけられてしまった。
「げひゃひゃ……気の強い小娘だが、こうなっては抵抗もできない。おまえは、このグラコス様の側女として、これから暮らすのだ」
「だれが、あんたなんかに」
 マリベルが吐きかけた唾をまともに顔に受けたグラコスは、顔を拭おうともせず、笑みを消して、いきなり立ち上がった。
「おい、あやつらを連れてこい」
「はっ」

 配下に命令したグラコスは、それからゆるゆると顔を拭き、マリベルに向かった。
「ゆっくりと調教するつもりだったが……聞きしにまさるじゃじゃ馬だな。すこし手荒なのがお好みと見える」
 グラコスは持っていたポセイドンの槍を、ゆっくりとマリベルの身体に近づけていった。
「ちょっと……何……する気……」
「なあに、こうするだけだ」
 槍の刀身は、ゆっくりとマリベルの白い肩の皮膚を這う。そしてシルクのビスチェの肩紐をぷつりと切った。薄い衣類がはらりと落ち、マリベルの半身は剥き出しとなった。
「や……やめて……」
 身動きのとれないマリベルの、もう一つの肩も容赦なく槍が襲った。そしてスローモーションのようにゆっくりと、ビスチェが地面に落ちたとき、マリベルは身を覆うものもなく、裸身を晒していた。
「いや……見ないで……」
「ふふん、まだ小娘だな。乳もまだ未発達だ。それとも、これ以上大きくならないのかな、げひゃひゃ」
 劣等感を抱いている貧乳のことを大声で、こともあろうに魔王から指摘され、マリベルは屈辱と羞恥と怒りがごっちゃになって、顔をいっそう赤く染めた。

「さて、次は……その下に穿いているものが邪魔だな……げひゃひゃひゃひゃ」
 舌なめずりをするグラコスのもとに、配下のデスキャンサーが耳打ちした。
「猊下、お呼びの連中が」
「おう、来たか。げひゃひゃひゃ。残念だがマリベル、お仕置きは一時中断じゃ。それよりもお前のその姿を見てもらいたい者が来たでな……げひゃひゃ」

 俯いていたマリベルは、階段を下ってきた気配を感じた。どうやら、ひとりはちんちくりんの子供、ひとりは痩せた頼りない少年……?
「アルス! ガボ!」
 助けに来てくれたんだ、そう確信して、マリベルは歓喜の叫び声をあげた。
 だが……?
「ごめんね、マリベル。こんなことになって」
「そんなことはいいから、早く助けなさいよ!」
「オイラ、マリベルと別れることになって、ちょっとは寂しいぞ」
「……ど、どういうこと?」
「げひゃひゃひゃ。つまり、こういうことだ」
 グラコスはゆっくりと、ふたりの男の前に宝箱を据えた。アルスは宝箱をゆっくりと開け、中から石版を取りだした。
「つまりだ、マリベル。お前は売られたのよ。げひゃひゃひゃひゃ」
「ごめん、マリベル」
 アルスは頭を下げた。
「グラコスと話をして、水を引かせることと、この石版と交換に、マリベルに残ってもらうことにしたんだ」
「村の人が救われて、石版が手に入れば、オイラたちも文句はないだかんな」
「ちょ、ちょっと、そんな……」
「君の家にはちゃんと言っておくよ。悲しませないようにね。そうだな、恋人ができて、過去の世界に残ることにしたと」
「あ、あのね……!」
「村の人には、魔王と闘って相打ちになったと言うよ。マリベル、英雄になるだろうな。詩人が歌い継いで、きっとマリベルの名前は永遠に残るよ」
「そんじゃな、マリベル」
「ま、待って!」
 哀願の絶叫もむなしく去っていったふたり。扉が閉まる音を遠くに聞いて、マリベルはがっくりと首を垂れた。そこに、グラコスが下品な笑みを浮かべながら近づいてくる。
「げひゃひゃひゃ……ま、そういうことだ。それではお仕置きの続きを」

(第二部海底の奴隷少女へ続く)


戻る