![]() 1.5リットル菌糸ビン。上蓋付近まで菌糸がぎっしり詰まっている。 ![]() 菌糸ビンの上蓋を開けた状態。菌糸が成長している様子がわかる。 ![]() 上蓋付近の菌糸をビンの肩口付近まで空気循環用に削り取る。中心に幼虫潜行用のガイド穴をあける。 ![]() 発酵マットから取りだした3.1gの幼虫 脱皮をして2令になってしまった。頭幅が大きい。 ![]() 菌糸ビンのガイド穴に幼虫を入れたところ。この後、幼虫は無事菌糸ビン内部へ潜行してくれた。 ![]() 幼虫投入3カ月経過後の菌糸ビン。食痕が現れ、幼虫が成長していることがわかる。 ![]() 菌糸ビンの交換。幼虫の入った菌糸ビンを注意深く慎重に掘ってゆく。 ![]() 菌糸ビン底部に幼虫を見つけたところ。 菌糸を食べて空洞を作り、その中で活動していた。 ![]() 菌糸ビン交換のため、幼虫を取りだしたところ。2令幼虫だが19グラムあった。 ![]() 新しい菌糸ビンに幼虫をおいたところ。あらかじめ掘っておいたガイド穴を利用して菌糸ビン内部に向けて潜行した。 ![]() 菌糸ビン投入後約10カ月で蛹になった♂ 蛹室の一部を壊して撮影。 ![]() 羽化した♂。まだ、体の一部が赤い。後に大きさを計測したところ76mmであった。 |
菌糸ビン飼育 「菌糸ビン」とはオオクワガタを初めて飼育しようとされる方は初めて聞く言葉ではないでしょうか。「菌糸ビン」とは一般的にクヌギなどの粉砕材にカワラタケやヒラタケなどの菌を混ぜたものをいいます。 自然界のオオクワガタはクヌギなどの朽木や倒木に産卵し、孵化した幼虫は朽木を食べながら成長します。かつて、オオクワガタ幼虫の人工飼育においては朽木の中に幼虫を入れて成長させるいわゆる「材飼育」が一般的でしたが近年、手軽に大きなオオクワガタの成虫を得るために考案されたのが、「菌糸ビン」による飼育です。菌糸ビン飼育では材飼育にくらべて、かなりの確率で大型の成虫を羽化させることが可能になりました。 昆虫を扱う業者からいろいろな菌糸ビンが売られています。業者によって菌糸ビンの作成材料は異なります。粉砕材の種類や粒の大きさも異なりますし、配合されている菌糸も異なります。また、一般的に添加剤(成分は非公開のことが多いです。)を加えて富栄養化させ、幼虫がより大きく育つように工夫されています 幼虫を菌糸ビンに投入する時期等については、ブリーディングのところで説明しましたが、菌糸ビン飼育において最も重要なのは温度管理です。一般的に菌糸ビン飼育に適した温度は私の飼育経験上21度から25度くらいの範囲です。年間を通じて、この温度で管理するにはエアコンなどの設備が必要になります。趣味でオオクワガタを育てようという人は、なかなかそこまで管理できないのが現状ではないでしょうか。私の所では、夏と冬では菌糸ビンの設置場所を変えて管理しています。冬は暖房の利いた室内において管理し、夏は日当たりの悪い屋外の納屋において管理しています。温度管理をしませんと夏に高温で菌床の発酵が進み、発熱して最悪の場合、幼虫が死亡するという事故が発生します。幼虫にとって夏場の高温は特に危険ですので十分注意する必要があります。 幼虫の羽化パターンと菌糸ビンを取り替えるタイミング 1令幼虫を菌糸ビンに投入して、羽化するまでずっとそのままでよいのかというとそうではありません。幼虫は菌糸を食べて大きくなりますので、時間の経過と共に菌糸ビン内部の栄養がなくなってゆきます。また、菌糸自体もだんだん劣化してゆきます。ですから、幼虫を投入して一定期間経過した菌糸ビンは交換する必要があるのです。 菌糸ビンを取り替える時期についてですが、私の所では1.5リットル菌糸ビンについては約3カ月を目安としています。しかし、実際に交換をするときは幼虫の成長具合と季節(気温)によってタイミングが異なります。上手に菌糸ビンの交換をするためには、オオクワガタ幼虫の成長パターンを知る必要があります。 一般的にオオクワガタ幼虫の羽化パターンは2つあります。一つは幼虫の形態でその年の冬を越して翌年の夏に羽化するいわゆる一年羽化型です。もう一つは幼虫の形態のまま冬を2回越して羽化する2年羽化型です。前者については初夏に卵からかえった幼虫に見られることが多く、後者は晩夏に卵からかえった幼虫に多く見られます。しかし、これらの幼虫の羽化パターンについても、実際にどのような条件がそろえば一年羽化型になるのか、2年羽化型になるのかは不明です。私の飼育経験では、晩夏に孵化した幼虫で大型に成長したものについては2年羽化型になることが多いように思われます。 このようにオオクワガタ幼虫の成長パターンは2つありますが、どちらの場合も幼虫は外気温が高いと活発に活動し、気温の低下と共にえさを食べなくなります。菌糸ビンを交換するタイミングとしては幼虫が活動している時期を選んで行うようにします。反対に、厳冬期には菌糸ビンの交換をしない方がよいです。 以上のように、菌糸ビン交換は基本的に幼虫が活動している時期を選んで交換を行うようにします。しかし、幼虫が3令になっていて活動期であっても蛹化(蛹になることをいいます。)が近いときは交換をさけた方がよいでしょう。では、次に実際に幼虫を菌糸ビンへ投入する方法と菌糸ビンの交換について実例を交えて説明します。 菌糸ビンへの投入方法 産卵木から初令幼虫を割り出して1カ月程度発酵マットで飼育しましたら、いよいよ幼虫を菌糸ビンへ投入します。まず、用意した菌糸ビンの上蓋をあけます。そして、空気の循環を確保するために園芸用の小型シャベル等を使って菌糸ビン蓋付近の菌糸を削り取ります。これが今後、幼虫に酸素を供給するための重要な空間になります。更に、小型シャベルで幼虫が潜れる程度の穴をあけます。そして、この穴の付近に幼虫をそっとおきます。すると、幼虫はこの穴をガイドに自力で菌糸の中に潜行を始めます。通常は、このまま菌糸ビンの蓋を閉めて保管します。しかし、一度菌床の中に潜行した幼虫が再び菌床の中から出てきてしまう場合は、その幼虫にとって菌床が合っていない場合が考えられますから別業者の菌糸ビンに交換するなどの処置が必要です。 菌糸ビンの交換方法 初令幼虫を1.5リットル菌糸ビンに投入して3か月程度経過しましたら新しい菌糸ビンに幼虫を移し替えます。このとき、注意することは今まで使用していた菌糸ビンと同じものを用意するということです。別業者の菌糸ビンは使用している菌糸はもちろん、添加剤も異なりますので幼虫にとって環境が変化してしまいますから勧めできません。 交換用の菌糸ビンが用意できましたら、空気循環用の空間を確保します。幼虫潜行用のガイド穴もあけておきます。次に幼虫の入っている菌糸ビンを園芸用の小型シャベルなどを使って慎重に掘っていきます。菌糸ビンの外から食痕が見える場合はこれを目安に掘っていくとよいでしょう。 幼虫が現れましたら、慎重に取り出します。なお、この際幼虫を素手で触れてはいけません。簡易ビニール手袋等を使って取り出すようにします。次に、取りだした幼虫を新しい菌糸ビンのガイド穴付近におきます。幼虫は、ガイド穴より菌糸ビン内部に潜行するはずです。菌糸ビンの交換はこれで完了です。市販のラベル用紙を用意して交換年月日などを記載して菌糸ビンに貼っておくとよいでしょう。 なお、私の所では菌糸ビンの交換の際に幼虫の重さを量って記録を取っています。幼虫の重さからある程度、成虫になったときの大きさが推量できるからです。経験的には70ミリオーバーの♂を羽化させるためには最終令幼虫時の重さが25グラム以上必要です。通常、幼虫が羽化するまでは1.5リットル菌糸ビンで3本程度必要になります。 幼虫の蛹化〜羽化した成虫の取り出し 菌糸ビンの中で脱皮を繰り返し、幼虫は大きくなります。幼虫は3回目の脱皮をしますと終令幼虫となり、いよいよ蛹になる準備を始めます。成長を終えた3令幼虫は蛹室を作ります。蛹室とは細長い繭型の空間で、幼虫の大きさよりも一回りくらい大きいです。終令幼虫は蛹室の中で蛹になります。運がよければ菌糸ビンの外から蛹を観察することができます。菌糸ビン内部に蛹室を作った場合は観察できませんが、ビンの外側に作った場合は蛹室の中の蛹を観察することができます。 蛹になったばかりの頃は白い色をしていますがだんだん茶色に色づいてきます。外気温にもよりますが、およそ一月程度で羽化します。私の経験では大型の蛹は小型のそれに比べて羽化不全(蛹から成虫になるときに不具合が発生すること。具体的には、羽化に失敗して死んでしまう場合や羽化しても成虫の体の一部に欠損等が生じる現象。)が起こる確率がいくぶん高いように思われます。羽化する季節にもよりますが、自然界では晩夏に羽化した成虫は蛹室の中でそのまま越冬して、次の年の春に地上に出てきます。菌糸ビン飼育の場合、外部から蛹が観察できる状態を除けば羽化の判断は難しいです。 ここで、脱皮初期の3令幼虫と成長がほぼ終わった3令幼虫(3令末期)の見分け方をご紹介します。今後成長する3令幼虫の体色は白っぽく体の中が所々透けて見えます。これに対し、ほぼ成長を終えた3令幼虫の体色は黄色みを帯びています。体も透き通っていません。3令初期幼虫はこれからも成長するので更に大きくなる可能性があります。よって菌糸ビンの菌床の状態に気をつけます。一方成長の終えた3令幼虫はこれから蛹室を作って、蛹になるのでなるべく菌糸ビンを動かさないようにします。もし、菌糸ビンの設置場所を移動しなければならないときは、幼虫にショックを与えないように静かに移動するようにします。 未使用菌糸ビンの保存 本題から少しずれますが、菌糸ビンを購入しても使用せずに余ってしまった場合の保存方法について記述します。未使用菌糸ビンは常温で保存しますと時間と共に菌糸が劣化してゆきます。菌糸の劣化は特に夏の高温では顕著です。そこで、私の所では未使用菌糸ビンを冷蔵庫の野菜室で保管するようにしています。野菜室で保管するのは冷蔵庫の通常の保存庫よりやや温度が高めであるという理由からです。このように、冷蔵庫で保存しますと菌糸の劣化の進行は止められませんが、劣化が最小限ですみます。私の所では、購入から半年程度保存したものを取りだし、初令幼虫に使用しましたが幼虫の死亡は見られませんでした。 |