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 左は芯のあるもの。右は芯のないもの。


 産卵木を天然水に浸す。


 産卵木からアクが出てきた状態


 産卵木を陰干しにして余分な水分をとばす。


 電子レンジで産卵木を加熱処理する。


 オオクワガタの交尾


 飼育ケースに産卵木をセットしたところ。


 セットして約2週間経過後の産卵木の状態


 セットして約1カ月経過後の産卵木の状態
ほぼ、確実に産卵・孵化されていると思われる


 幼虫の食痕(中央部のおがくずのような部分)


 現れた1令幼虫。この時点では♂♀の判断は困難


 幼虫を1頭ずつプリンカップに分ける。
ブリーディング(ペアリング)

はじめに
 ♀(成虫)は春(4月上旬)になると活動を始めます。5月になったら栄養のあるえさを与えて産卵に備えます。
 えさは高カロリーゼリー、バナナ、ラードなどが適しています。反対にスイカ等の水分の多い果物はオオクワガタのえさとして適していません。産卵する♀は特に栄養価の高いえさが必要です。市販の高カロリーゼリーに加えて、バナナをすりつぶして与えます。また、動物性タンパク質を欲しがりますのでラード(ヨーグルトでも可)なども適宜与えます。♀個体によってえさの好き嫌いがあるので、様子を見て与えます。

ペアリング及び幼虫飼育に必要なもの
1 ペアリング用のケース
 市販のプラスチックケースを用意します。ケースの大きさについては最低でも40cm×30cm以上のものを選びましょう。これは、産卵木(卵を産みつける朽木)が3本以上入れられることを考慮してのサイズです。プラスチックケースはペットショップやホームセンター等で入手できます。

2 産卵木(オオクワガタが卵を産みつける朽木)
 自然界ではオオクワガタの♀はクヌギなどの朽木や倒木に産卵します。ペアリングをする場合、クヌギやコナラの朽木が必要になります。最近では、ペットショップ等で購入できます。これらの朽木は木の堅さ、木の太さ等選別する上でいくつかのコツがあります。朽木にはいろいろな太さがありますが、オオクワガタの産卵に用いる朽木として適しているものは10cmから20cmくらいの太さのものです。長さは20cm程度にカットしてあるものがよいです。また、柔らかい朽木と堅めの朽木がありますが、あまり柔らかいものは♀が産卵の際、朽木をボロボロにしてしまいますので注意が必要です。
 産卵木はさきほどペットショップ等で購入できると書きましたが、購入する前に朽木の切り口を観察しましょう。(たいてい、透明ビニールなどで梱包されていますが、切り口を見ることができます。)朽木の切り口の中心部をよく観察します。この部分に「芯」の少ないものを選びます。

3 マット(ケースのなかに敷き詰める、いわゆる土のかわりになるもの)
 ケースの中には朽木を粉砕したマットを使います。ペットショップやホームセンター(季節商品です。)で朽木(クヌギが多いです。)を粉砕したマットを売っているのでこれを購入するのが一番手っ取り早いでしょう。カブトムシの産卵の場合は発酵マット(クヌギ等の朽木を粉砕したものに薄力粉やフスマなどの添加剤を加えて発酵処理したもの)を用意する必要がありますが、オオクワガタはこの限りではありません。発酵済みマットでも、そうでないマットでもかまいません。ちなみに私の所では発酵マットを使っています。

4 菌糸ビン
  ※ 菌糸ビン飼育のところで詳説しています。

実際のペアリングについて

6月上旬 ペアリングの前準備
 用意した産卵木をセッティングするための前準備に入ります。まず、ミネラルウォーター(天然水)をプラスチックケースに注ぎ、その中に産卵木を3〜4時間浸しておきます。このとき産卵木はタイプの異なるもの(材質の柔らかいものや堅いもの)を選別して浸します。理由としては、産卵する♀が産卵木を選ぶためタイプの異なる産卵木をセットする必要があるからです。
 3〜4時間水に浸しておくと産卵木からアクが出て天然水が茶色になります。また、産卵木に潜んでいた雑虫(オオクワガタの幼虫にとって特に危険なのが、肉食性の雑虫です。これらはオオクワガタの幼虫を食べてしまいます。)が出てくる場合があります。産卵木を3〜4時間水に浸すのは、あくまで産卵木に水分を行き渡らせるための処理です。産卵木に潜んでいる雑虫を完全に取り除くことはできません。雑虫を完全に殺すためには電子レンジを使います。500Wで3分間ほど加熱します。これで産卵木の中に潜んでいる雑虫は死滅します。
 加熱処理の終わった産卵木は1日〜2日ほど陰干しを行い、産卵木の水分を蒸発させます。産卵木の表面の皮が乾いていて、切断面が湿っているくらいの状態がよいです。しかし、ここであまり産卵木の乾燥状態に神経質になることはありません。

6月上旬 セッティング
 さて、プラスチックケースにマット(朽木を粉砕したもの)を敷き詰めます。乾燥したマットに天然水を加え、加湿します。水分量の目安ですがマットを手で握って、再び手で開いてみて形が崩れないくらいになるのがちょうど良いです。次に産卵木をセットしましょう。産卵木のセットの方法はいくつかありますが、今回はそのうちの一つをご紹介します。プラスチックケースには3本から4本程度セットします。先ほど敷き詰めたマットの中に産卵木を垂直に立てます。そのとき産卵木がマットに2分の1くらい埋まるようにします。
 いよいよ、オオクワガタの♂と♀をセットしてペアリングを開始するわけですが、その前に忘れてはならない大切なことがあります。一般的にオオクワガタは♀が♂を選びます。♀が♂を気に入りませんと♂を傷つけたり、かみ殺してしまう場合があります。実際にセットする前に♂と♀をプラスチックケースに入れてみて相性を確認します。10分程度一緒にしてみて♀が♂にかみついたり(もちろん、これの逆のパターンもあります。)しなければ、相性的には悪くありません。また、♂と♀は1匹ずつセットしてもかまいませんが、♂が十分に交尾できるように♀を2匹程度セットしてあげても良いでしょう。(後で記述しますが産地による血統管理をなさっている方はこの限りではありません。)
 成虫のペアが決まりましたら、ペアリングの開始です。成虫のペアをケースに入れてえさを与えておきましょう。えさは前段で述べたものを与えます。ケースには、直接ふたをするのではなく、通気用の小さな穴をあけたビニールや新聞紙などをはさんでおきます。(水分の蒸発を防ぐため。)なお、ケースは静かで暗いところ(ケースに段ボール箱などをかぶせて光を遮蔽しても良いです。)へおいておきます。えさの交換と水分の補給以外はなるべくケースにふれないようにしましょう。

6月中旬 ♂のとりだし
 ペアリングを開始して約2週間ほど経過しましたら、セットした♂を取りだして別の飼育ケースに移します。これは、交尾の終わった♂を長期間ケースに入れておくと様々な悪影響があるからです。♂を取り出すことで、♀は産卵に専念することができます。
 セットして2週間位しますと、産卵木には変化が見られます。♀が産卵木をかじった後や、産卵木を貫通してトンネルを掘っている場合があります。また、♀によっては産卵木の皮をぐるっと剥いでしまうものもいます。
 オオクワガタの雌にはおもしろい習性があります。産卵した部分を埋め戻し、卵を産んだ場所を見た目にわかりにくくしてしまうのです。ですから、一見して産卵木の皮(表面)を見ただけではどこへ産卵したのかわかりません。なお、産卵木の表面には青カビ等が発生しますが、それほど気にすることはありません。

6月下旬 ♀のとりだし
 ペアリングを開始して約1カ月が経過しました。ここで、♀を取り出します。一般的に産卵した♀を長期間ケースに入れたままにしますと、卵から孵った幼虫を食べてしまったりしますのでセット後1ヶ月くらい経過しましたら取り出します。♀を取りだした後は一週間に一回程度の割合で産卵木に水分を与えます。産卵木の入ったケースは直射日光をさけてできるだけ、涼しい暗いところへおいておきましょう。この時点で、産卵木から卵を回収して管理する方法もありますが、私の所では、孵化して1令幼虫になった時期に産卵木から取り出すことにしています(オオクワガタの幼虫は約2週間で卵から孵ります。) 一方、産卵後の♀は体力を消耗していますから、高カロリーのえさを与えます。
 昆虫学的な裏付けは全くないのですが、どうやらオオクワガタの♀は一度交尾すると次のシーズンも有精卵を生むらしいことがわかりました。これはもしかすると♀の体内に精子を一定期間貯蔵することが出来るからかもしれません。

8月上旬 割り出し(孵化した幼虫を産卵木から取り出す作業)
 ペアリングを開始して約2カ月が経過しました。産卵木から幼虫を取り出すわけですが、割り出しは産卵から60日程度が限度になります。これ以上の期間、幼虫を産卵木に入れたたまにしておきますと、産卵木内で幼虫同士の密度が高まり、共食いが始まったりして順調に成長できなくなります。また、幼虫を大きく育てるという観点からしても適切とはいえません。産卵木を割って幼虫を取り出す前に次のものを用意してください。
@ 発酵マット
 発酵マットは個人で作ることも可能ですが独自の作成ノウハウがあります。作り方については今回は割愛します。既製品の発酵マットは昆虫を扱うペットショップで購入することができます。天然水を含ませて水分を与えておきます。発酵マットでなく通常のマットでも特に支障はないと思われますが、気温の高い夏場、マットに水分を加え、幼虫を飼育すると発酵が始まってしまい、酸素不足や高温のため最悪の場合、幼虫が死亡することがあります。発酵マットを使った方が不安材料が少ないです。
A 取りだした幼虫を入れる容器
 幼虫の数だけ必要です。ホームセンター等の台所用品売り場などで手に入るいわゆるプリンカップが適しています。カップの蓋にいくつか空気穴をあけておきます。
B 幼虫を産卵木から取り出すための紙
 産卵木から幼虫を取り出すときに直接素手で触ることをさけるために必要です。コピー用紙等の一般紙で十分です。

 まず、はじめにAのプリンカップに@の発酵マットを入れておきます。産卵した♀が新成虫(今年羽化した成虫)の場合は越冬新成虫(昨年の春に羽化して冬を越した成虫)に比べて産卵数が減るようです。(新成虫の♀は羽化して3〜4カ月程度経過すれば産卵は可能です。)ここでなぜ、産卵木から取りだした1令幼虫を直接菌糸ビン(菌糸ビン飼育については、「菌糸ビン飼育」を参照してください。)に移し替えないかという点について言及しておきます。この時期のオオクワガタの幼虫は1令幼虫と呼ばれ、環境の変化に敏感で死亡率も高いです。1令幼虫にとって菌糸ビンは朽木の中とは異なり新しい環境です。私の飼育経験から、富栄養化された人工えさである菌糸ビンに移し替えるのは1令幼虫の後半がよいと考えています。産卵木から取り出したばかりの1令幼虫は朽木の粉砕マットで飼育するほうが幼虫にとって環境変化が少なく、生存率も高まるのです。
 さて、産卵木を割る方法ですが、基本的に「手」で割っていきます。ノミなどを使っても良いですが、そのときは細心の注意を払って産卵木の外側からほんの少しずつ削ってゆきます。幼虫を産卵木から取り出すコツとしては「食痕」を探し出すことです。「食痕」とは幼虫が産卵木を食べた道筋です。この道筋が見つかりましたら、近くに幼虫がいる可能性があります。幼虫が見つかりましたら、決して素手では触らず(すぐにつぶれてしまいます。)用意した紙を使って慎重に取り出します。
 取りだした1令幼虫は用意したプリンカップに1匹ずつ入れます。一つのプリンカップに複数の幼虫を入れてはいけません。幼虫を大きく成長させるためには十分な飼育スペースと十分なえさが必要です。
 プリンカップに入れた1令幼虫は発酵マットの水分に気をつけながら、気温21度から25度程度の環境で飼育します。気温がこれより高くても死ぬことはありませんが、えさの食べ方や幼虫の成長に影響が出ます。
 さて、次は幼虫をプリンカップから菌糸ビンに移すタイミングです。最初にお断りしておきますが「○○令幼虫に成長したら菌糸ビンに移すのが最適である。」という根拠がありません。私の飼育経験から、1令幼虫の初期に人工栄養である菌糸ビンに移し替えた場合、幼虫の死亡率が若干高いように思われます。そこで、私の所では1令幼虫の後期に菌糸ビンに移すようにしています。
 初心者の方には難しいかもしれませんが、初令幼虫を投入する菌糸ビンについては、ある程度菌糸の成長が落ち着いているものが望ましいです。菌糸ビンを購入する場合は、産卵木から幼虫を割り出すタイミングなどを考慮した上で購入することをお勧めします。

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