11月19日 (水)
「ウーマン・イン・ブラック」 PARCO劇場

出演者: 斎藤晴彦、上川隆也

あらすじ

ある小さな劇場に中年弁護士・キップスと若い俳優がやってくる。キップスは自分の過去の忌まわしい話を家族や友人に話すため、俳優の力を借りたいと思っていた。彼の告白は一挙に話すと5時間以上かかるものであったため、俳優は芝居仕立てにしようと提案する。若い頃のキップスを俳優が演じ、若き日のキップスが出会った人々を中年キップスが演じることとなった。
かくして、恐ろしいキップスの過去の告白劇が始まる…

なお、99年公演の興奮の感想(笑)はコチラ

4年前に上川さん目当てで観に行き思わずこの芝居の魅力に飲み込まれた私。そのとき「あと3回以上は観たい!」と思った経験を生かし(笑)、千秋楽の1日前のチケット(しかもかなりいい席!)をゲットいたしました。何度も行きたくても行けませんからねぇ(苦笑)
で、今回はどう思ったかといえば…
 
『素晴らしい!!!!!!』
のひとことです、ホント!前回の公演を観て
結末を知っているにもかかわらずこうも興奮できる芝居はまたと無いと思います。9月から全国公演を行い、千秋楽の一日前ということもあってか斎藤さん・上川さんの息もピッタリだし最高に素晴らしい作品に仕上がっておりました。

当日券も売り切れており、会場は超満員。開演の5分前くらいにはいつの間にか皆固唾を飲んでいるのか
シーーンとなっておりました。こんな雰囲気も『ウーマン』ならではで、始る前から私も緊張…。そんななか、今回は演出のロビンさんによる英語の観劇前注意放送が流れてきました。最後のほうは英語と日本語が入り混じっていて、なんだかとってもお茶目な放送に張り詰めていた空気がボワッと緩んでました(笑) でもそのあとはまたすぐシーーーーン・・・ ハッキリいって始る前から恐怖が迫ってくるようで・・・

公演は終了していますが、ここから下は超ネタバレ感想ですのでご注意を(笑)

最初にも書きましたが、斎藤さんと上川さんが
前回以上に素晴らしいコンビネーションを魅せてくれました。特に上川さんは演技に余裕が出てきたみたいで、前回ではあまり観られなかった笑いの部分が多々見られました。特に、キップスが演技をするのに躊躇しているときには、演技指導に必死になるのに変な顔をしてみせたり(笑) あれ〜〜このお芝居ってこんなに笑い菜部分もあるんだぁ〜と再発見。もともと斎藤さんは軽妙な演技がとても魅力的な方ですが、今回は上川さんが斎藤さんの呼吸に上手く合わせられているように感じられました。

こんな絶妙な二人による若き日のキップス体験談芝居は・・・もう・・・
ドキドキの連続連続連続・・・。恐がらせるような特別な音楽もないし、効果音もそんなに多用してるわけではないのにこの恐怖はいったい何!?
この恐怖心を駆り立てるのが、
黒い女の絶妙な使い方です。ドラブロー夫人の葬儀に参列している若き日のキップスがふと後ろを振り向くと、客席からス〜〜〜っと音も無く現れて舞台を横切っていく黒い喪服の女性。このときの上川さんのビビリ方がちょっと可愛くも感じられたりして(笑)またいいんですよ〜。そしてこのお芝居を一瞬止めた若い俳優が中年キップスに「今の魔法はなんですか?素晴らしいです」と語りかけることで、観客は俳優が実際に黒い女を目撃したことを知ります。ここでは中年キップスは『魔法』の意味を『自分の演技が上達したこと』と捕らえているわけで・・・このあたりの伏線が非常に面白いところです。
葬儀で出会った黒い服の女性を忘れかけた若き日のキップスは、ドラブロー夫人の書類整理のために彼女の屋敷に訪れその周りの
景色の美しさに感動します。この美しい風景は斎藤さんの語りと少ない照明のみで表現されるのですが、あの殺風景な舞台の上にちゃんとその情景が浮かんで見えてくるのだからすごい!いつもは想像力に乏しい私にもそれが浮かんできましたから(笑) その美しい景色の中のドラブロー夫人邸内にある墓地を訪れた若きキップスは2度目の黒い喪服の女を目撃します。若き日のキップスは幽霊をまったく信じていないという設定だけに、ここで迫真の上川さんの恐怖の演技が繰り広げられるのですが・・・あれはもはや演技を超えている!!というくらいすごかったです(>_<) 座席がけっこう近かったこともあるのですが、上川さんもう冷や汗ダラダラ状態で・・・もうのめり込んで見ている私なんかはその恐怖が乗り移っちゃいましたよ〜〜! それでもこの舞台から目が離せない!!
そして明るい時間には美しい景色だった場所が暗くなると急に
底なし沼になるということで、スモークが大量にモクモク・・・・これが思いっきり客席まで入り込んできて臭いの寒いのなんの(苦笑) こんな状況下で屋敷から抜け出した若き日のキップスが馬車が沼地にはまって沈む幻を見て雄叫びをあげる!ひぃぃぃ〜〜!!!客席もこのスモークにまかれながら擬似的に恐怖を体験するんですっっ!このスモークが本当に冷たくて独特の臭いがするので、お客さんの中には苦手な方もけっこういたと思うのですけど(私も苦手なほうだけど)、かえってこの芝居にはよかったんじゃないかなと思います。相乗効果として・・・(笑)

もう屋敷には行かないほうがいいという地主の忠告にも耳を貸さず、ふたたびドラブロー夫人の屋敷へ訪れる若き日のキップス。ここからは
地主の愛犬・スパイダーが彼のお供として登場するのですが、実際にここでワンコが出てくるわけではありません(笑) 斎藤さんと、上川さんの動きだけであたかもそこに小さな子犬スパイダーがいるように表現しているのですが・・・本当にそこに自由に駆け回る子犬の姿が私たちに見えるのだからすごい!!!私のイメージとしては白くてちっちゃくてすばしっこいワンコかなぁ(^-^) 実際に本物の犬がいるわけではないのに、可愛いワンコがそこに存在しているのには4年前にも観ましたが、改めて脱帽してしまいました。
ドラブロー夫人の書類を整理している若き日のキップスはある真夜中に
開かずの扉の奥からの不気味な音を聞きます。このとき舞台はほとんど真っ暗に近い状態で、そんななかギコギコと不気味な音が聞こえてくるんですよ〜〜〜・・・もう、キップスじゃなくたってこの状態はめちゃくちゃ恐い! そしてなんと開かずの間だった扉が自然にす〜っと開いてキップスが恐る恐る中に入っていくと、古い揺り椅子がひとりでにギコギコ動いてるんですよっっっ!!4年前にも見て知っていたはずなのにやっぱり恐い〜〜〜!!
ここで明かりがついてこの椅子があった部屋が映し出されるのですが、
綺麗に整頓されている子供部屋がそこにあるのです。これが先ほどまでお墓だったセットだからなんとなく不気味・・・(苦笑) 子供部屋全体に布をかぶせていたのをお墓に見立ててたんですよねぇ。このあたりの舞台美術も素晴らしいと思います。で、若き日のキップスがその子供部屋をなんだか寂しい感情に駆られて出てきて、その感想を述べようと椅子に座ったそのとき!!!暗闇の中からなんの音も無く突然黒い服の女が彼をのぞきこんでるんですよっっっっ!!
キャァァァァァァ〜〜〜〜〜!!!
私このシーンが
一番恐怖でございました(>_<) もうね、これ書いてるときですらドキドキしてますもん(爆) このあとの上川さんの恐怖表現はもはや演技とは感じることが出来ないほどで・・・さらに恐怖心が増していく私!でもこの舞台から目をそらすことができないっっ!こんなに恐いのに本当に不思議。
やっとの思いで蝋燭に火をつけ屋敷を見回っても誰も見当たらない。そんな時、スパイダーが突然外に向かって走り出し、あの馬
車が飲み込まれた幻惑を見た沼地にはまってしまいます。そこにスパイダーの姿はないのに、沼に吸い込まれそうになっているスパイダーが観客には見える!それだけに若きキップスが必死にスパイダーを沼地から引き上げる姿を手に汗握って見守ります。う〜〜ん、つくずくすごいお芝居だ・・・!
スパイダーを救い出したとき、キップスを心配した地主が屋敷に彼を迎えに来ます。急いで帰り支度をするキップスはもう一度あの子供部屋に入っていくと・・・なぜか
部屋が荒れ放題に荒らされているんですよ〜〜・・・。キップスがその無残な部屋にショックを受けて出て行くと、またもや黒い女がその荒れた部屋の中で狂ったように揺り椅子に座ってギコギコギコギコ揺すり続けてるんです・・・!!そしてボロボロの神経になって地主の馬車(この馬車は劇場にあった大きめの籠で表現されています) で屋敷をあとにするキップスをあざ笑うかのように、屋敷の中を音も無くうろうろしている黒い服の女がまた恐い〜〜〜〜!!

命からがら逃げ出してきたキップスは、地主から黒い女にまつわる話を聞きます。ドラブロー夫人の妹は
自分の子供を泣く泣く姉に養子に出したのだが、やがてその子供を取り返したいという感情が湧き上がってきた・・・そんなある日、子供は馬車ごとあの底なし沼にはまって死んでしまうという事故が起こってしまう。キップスが初めに見た幻はこれだったんですねぇ・・・。で、その後、ドラブロー夫人の妹は気が狂って最期は心不全で死んでしまったというのですが、その後、次々に彼女の呪いによって黒い服の女を見た人の子供が無残な形で死んでしまうという現象が起こったというわけです。つまり、あの黒い服の女はドラブロー夫人の妹の呪いの姿!なんだかとっても悲しい話なんだけど、実際に黒い服の女を見てきた私たちは・・・ひぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜・・・背筋が凍るように恐い話に思えてしまうのです(苦笑)

こんな恐ろしい事件があっても、数ヶ月すると
人の記憶は忘れてしまうものなのでしょうか(笑) キップスは婚約者と幸せな結婚をし、一人息子も生まれ平和な日々を過ごしていました。そんなある日、とある遊戯場で妻と子供が馬車に乗っていると・・・なんと、あのときの黒い女が現れるのですっっ!
キャァァァァァ〜〜〜〜(>_<) 
妻と子供は馬車から飛ばされて死んでしまう・・・。
キップスにも呪いがかかっていたのです・・・。もうこのときの黒い女の形相といったらめちゃくちゃ恐ろしいのですよ〜〜〜!平和な空気もどこ吹く風って感じでした(苦笑)

ここでキップスの告白劇が終わり、俳優と中年キップスは握手を交わします。そして、俳優は
『それにしてもあの女性はどこから連れてきたんです?』とたずねると・・・中年キップスは突然顔色を変えて『見てません』と応えます。ここにこの芝居の本当の恐怖の意味が出てくるんですねぇ…。冒頭部分で俳優には子供がいることが告白されているからなおさらゾゾゾ〜〜〜〜・・・・!この結末を知ってはいてもやっぱり恐いですよ〜〜。ここでフェードアウトしてお芝居終わりますからねぇ(苦笑) で、最後のカーテンコールには斎藤さんと上川さんだけが出てくることで観客にも『黒い女の存在』を曖昧にするところがまた恐い訳です(苦笑) 二人がカーテンコールに応えている間に上のほうでボーーッと黒い服の女が客席を見つめてますから、最後までゾゾっときますよ〜〜


今回は4年前に観たときよりも
『恐怖』を強く感じさせられました。99年の感想にも書いてますが、私はホラーが大の大の苦手なのですが、この芝居だけは特別です。本当に見ているとゾゾ〜〜っとくることがものすごく多いのですが、それは『二度と体験したくない感覚』ではなく、『もう一度体験したくなる感覚』なのです。これはねぇ、もう、不思議というしかないです(笑) とにかく自分が劇場にいるのも忘れてしまうくらい必死になって舞台にのめりこんでしまい、斎藤さんと上川さんに自分を重ねていつの間にか観てしまうんです。こんなに緊張感あふれる舞台はあまりないと思います。恐いんだけど…それがなんだか心地よい恐怖というか…う〜〜ん、上手く表現できないんだけど、とにかくめちゃくちゃ面白い作品です!!!
こんな素晴らしい舞台にしてくれた
斎藤さんと上川さんには改めて大拍手です(それから黒い服の女にも 笑) !また次も同じメンバーで絶対再演してほしいと思います。ホラーが苦手な皆さん、このホラー嫌いな私が言うんですから再演のときは是非・・・恐いもの見たさにでも観に行ってみてください(笑) とにかく超お勧めな一本ですよ〜〜〜(^o^)