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「ハムジルの言葉」

家の軒に芽生えたのは  嘆きに満ちた業

エルフ達の涙の源  喜びの乾き。

曙の頃  感ぜうるあらゆる悲しみは

人々の不幸の為に  悲しき炎を心にともす

それは今日のことではない  ましてや昨日のことでもない

長きが流れた  かの時より--

かくまで古きことは数少ない  これが二倍の時を重ねぬほどに--

グズルーンが煽ったのだ  ギューキの息子へと

彼女自らの子息たちに  スヴァンヒルドルの敵を討てと

「あなた達の姉は  スヴァンヒルドルと呼ばれました

彼女こそ、ヨルムンレックルが  自分の馬たちとともに踏みにじった女性

白き馬 黒き馬とともに  兵の行き交う道の上で

歩みもよどみなき灰色の馬  ゴート族の馬とともに

あなたがたは皆挫かれてきました  国々の王であるあなたがた--

ただあなた達だけが生き残りました  私の血筋のものの中で

私は独りで立っています  森の中のポプラの木のように

血族を失っているのです  小枝を刈られた松の木のように

喜びも剥ぎ取られています  それはまるで裸木のようだ

枝葉を落とす者が  暖かい日にやって来るときの」

[「グズルーンの苦しみ(嘆き)」3節より

「あなたたちはグンナルとその兄弟のようには  育たなかった

それどころか自分自身で  ホグニほども勇敢さを示したことはなかった--

(ヒュレスタッドの教会にあった木彫りのグンナル)

彼女のために考えることもあったはず  復讐を求めようと

もしあなた達に 私の兄たちの心があったなら

あるいはフン族の王の  強き想いを持っていたなら」

するとハムジルは語った  かの心猛き者が:

「あの時よもやすることはなかったであろう グズルーンよ  ホグニの勇気を誉めるなど

彼らがシグルズルを  眠りから覚ましたときには--

あなたが臥所に跪き  殺し手たちが笑いを挙げたときには

(ユリウス・シュノル・フォン・カロルスフェルト画 Hagen ermordet Siegfried(ホグニ(ハーゲン)のジークフリート(シグルズル)殺し)1845.

「あなたの織物絨毯は  白と蒼の糸を用いて

見事な芸で織られている--  彼らはあなたの夫の血で彩ったのだ。

シグルズルが倒れたその時  あなたは彼の身の上に跪いた

あなたは陽気な想いは持たず--  あなたの上にグンナルがそのように図ったのだ。

siegfriedsleiche(カール・シュモール・フォン・アイゼンワース画 Klage an Siegfrieds Leiche(ジークフリート(シグルズル)の死を悼む))1912-13.

「あなたはアトリに痛みをもたらそうとした  エルプルの殺しをもって

さらにエイティッルの死をもって--  あなたにとってはさらに悪いことではあったが。

人は誰でもそのように余人に対して  死を図るべきものだ

傷を切り裂くつるぎを持って  自らを傷つかせることなく」

するとソルリが語った  彼の聡い知恵を持っていたものだ

「私は母に対して  話を交わすつもりはない。

あなたがたは誰しも心には  さらに語るべき多くを持っていよう。

グズルーンよ いま何をお望みか  悩みの中にありながら手にできぬものは何か

10

あなたの兄たちのために嘆くがいい  愛すべき息子達のためにも

あなたの近しい血筋の者が  悩みを近しいものとしたのだから。

我らのためにも グズルーンよ  二人のためにも嘆くがいい

馬上の今でも すでに死に定められ  遙かの土地に死にいくのであれば」

11

彼らは宮廷を出て行った  怒りを内に燃え立たせながら

若き者らは旅を続けた  じめじめとした山並みを越えて

フン族の馬に乗りながら  復讐を遂げに行くために。

12(写本では15節)

彼らは石の敷かれた途上に出会った  まことに抜け目なき者に

「この茶色いチビがどうやって  我らを助けることができよう?」

13(写本では14節)

母の違う彼が答えた  自分に知っていることがある

血族の助けとなることを  片方の足がもう一方の足を助けるように。

「どのようにして片足が片足を  助けることができようか

また一つの体から生える片手が  もう一つの手を助けることができようか」

14(写本では12節)

するとエルプルが語った  短い一言を一度のみ

素晴らしき戯言を  馬の背の上にて

「臆病者に途を説くは  災いなり」

彼らは言った:『剛胆なるは  庶子なる者』だな!

15

彼らは鞘から  鞘持つ鉄(=剣)を抜いた

剣の刃を  妖女の喜びを。

彼らは自分たちの力の  三分の一を切り裂いた

若き者は倒された  大地の上に

16

自分らの着物を払い  短剣の上から彼らは纏った

神の末裔である王子達は  豪奢な上着に袖を通した

17

彼らの眼前には途が続き  悲しみの途があるを見た

また彼らの姉の息子が  刑台の上に傷つきあるを

風の吹きすさぶ冷たさの中にある狼の木(=磔刑台)が  町の西にある

鶴たちの餌は風に絶え間なく揺られ--  留まり居るは楽しきものにあらず

18

館の中には饗宴が設けられ  戦士達は麦酒の中で喜ぶ

誰も認める者はなかった  馬のいななく声を

勇ましい戦士が  角笛を吹き鳴らすときまで

19

彼らは御前にて  ヨルムンレックル王に告げる

兜をつけた男らを  彼らは見たと申し上げた

「御前には軍議をなさるがよろしいでしょう--  高貴なる王子らが到着しました!

力強き男達の  妹を王様が踏みしめたがゆえに」

20

するとヨルムンレックル王は笑った  その手で髭を撫でながら

猛々しい想いに自らを駆り立て  葡萄酒のために殺気をその身に帯びて

茶色の髪を振り乱し  真白い楯に一瞥をくれて

その手の中の  黄金の杯を振り回した。

21

「幸せな時と思うであろう  かりそめにも見ることができるならば

ハムジルとソルリとを  我が館の中にある姿を。

その二人を我が意のままに  我が弓の弦もて縛め

ギューキ族という神の眷属を  磔刑台に突き刺してやるならば」

22

一人の女が勇ましさを喜びつつ語った  自らの部屋の扉の側で

指の細い女は声をかけた  若き騎士達に

・・・[写本損傷](従って誓うべきではありません  出来もしないことを)。

二人の男だけでできるものでしょうか  千人ものゴートの兵を  

縛めたり打ち倒すことなど  高き館のただ中で?」

23

混乱が館の中に沸き起こった  麦酒の杯は下ろされて

戦士達は横たわった  ゴート人達の胸から流れる血にまみれて

カール・オットー・スツェシュカ Carl Otto Czeschka画 Die Saalschlacht(館での闘い)1908.

24

するとハムジルは語った  勇猛な心の持ち主が

「望まれていたな ヨルムンレックル王殿  我らがこうしてやって来るのを

同じ母親から生まれた兄弟が  お前の館の中にいるのを。

お前はお前の足を見るだろう  お前の両腕を見るだろう

ヨルムンレックル王よ それらが飛んで  熱き炎の中に落ちるのを」

25

その時唸り声を発した  かの神の力を持つ者は/かの力ある理智を持つ者は

帷子を着た王は  まるで熊が唸り声を発するように

「石を投げ打てこの者たちには  槍では歯が立たない故に

剣も鉄の刃も  ヨーナクルの息子たちには通用しないのだ」

26

「兄弟よ 君が我らを滅ぼした  君があの袋の口を弛めたときに

『血塗れの袋(=死にゆく人)からこそ  剛胆な忠告はしばしばやって来る』

27

「ハムジルよ 勇気を持つことができたであろう  賢い想いを持っていたならば:

『人は多くを失うのだ  頭脳を失った時にこそ』」

28

「あの口を持つ頭は落ちていただろう  もしエルプルが生きていたならば

我らが闘志溢れる兄弟  我らが途上で殺した弟

闘いにおいて勇ましき--  ディーシル(女守護精たち)が俺をそのように駆り立てた--

あの不撓不屈の男を--  彼女たちが俺を殺人に駆り立てたのだ」

29

「我々が狼の例に倣うべきとは  思わないぞ

お互いに食いちぎり合うなどと  ノルンたちの飼い犬のように

あいつらはがつがつ喰らうように育てられている  荒野の中で

ハンス・トマ画 Hans Thoma Die Nornen(ノルンたち)1889.

30

「我らは良く闘ってきた  ゴート人らの屍の間に立って

剣に倒れた使者たちに跨って  木の上にとまる鷲たちのように。

我らは名誉を得るだろう  今死のうが明日死のうが。

誰もノルンの定めた夜を  生き延びることなどできないものだ」

31

ソルリはそこで倒れた  館の屋根の下で

そしてハムジルも膝をついた  館の裏側で

これが「古きハムジルの言葉」と呼ばれているものだ。

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