第8話 アメリカはこわい?

 ところで、私はアメリカ生活の中で、サクソフォーンの練習は1日8時間を目標にやっていました。そんな自分とは逆に、シカゴ響の主席ホルン奏者のデイル・クレベンジャー氏の弟子のひとりは、1日2〜3時間の練習で十分と言っていましたけれど…。彼は、1年生ながら、天才肌の技量を持っていて、次のようなことを言っていました。「要するにダラダラと練習するのではなく、集中力をもって練習することが大事なんだよ」。私は人の数倍やらなくてはと思ってここまでやってきたので、考えさせられました。確かに、1週間ぶっ続けで練習するよりは、日曜日は休みとした方が練習の効率は確かに上がりました。
 このほかにも、アメリカでは、いろいろなことがありました。一番忘れられないのは、大学の近くの大きな邸宅の三階に間借りしていたころの話です。ある日、大学の講義の合間に、用があって部屋に戻りました。この家では、家の中に黒い犬を飼っていて、私が三階に住んでいることは、この犬だって十分知っているはずなのに、この日も吠えられました。三階にしばらくいると、家のチャイムが何度かなりました。ふつうは鳴らない三階のチャイムです。なんだろうと不思議に思いながらも階段を降りていきました。三階から二階、二階から一階へ。すると、そこには拳銃を構えた警察官がいるではないですか。よく映画で見るような、両手で拳銃を持ち、中腰のあの構えです。私は、反射的に階段を駆け昇ると、とたんに後ろから発砲の音が…。ああ、ここはアメリカだった。というのは冗談で、そうはせず、両手を左右に広げ、その警察官に理解を求めました。そばにいた中高生ぐらいの女の子が"It's my mistake!"。 これでようやく話が解りました。その子はベビーシッターとしてその日の夕方きていて、私が三階に住んでいるのを家主から聞いていなかったのです。そりゃ、なにも知らないで留守番をしていて、犬が激しく吠え、誰かが三階に昇っていったとなると、誰だって警察に電話しますね。警察官もすぐに気付いたようでしたが、身分証明書(ID)の提示を求め、確認してから帰って行きました。
 今では、警察官と一緒に記念撮影をしとけばよかったなあと思っていますが、みなさん、やはりボディ・ランゲージは必要ですね。(つづく)

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