質問、意見等はこちらへどうぞ。[kyou4-a●ルナドットEメイルドットエヌイードットジェイピー(luna.email.ne.jp)](●を@に)天野 貴司
久々のハリー・ボッシュシリーズ。
シリーズ前作「ラスト・コヨーテ」を読んだ時、ボッシュシリーズも最終章を迎えたかと、このシリーズが無くなる寂しさを感じたものであるが、そんな読者の思いをあっさりと吹き払うかのような新作登場である。
本作を読むと、「ラスト・コヨーテ」は最終章ではなく大きな節目として位置付けられる作品かもしれない。しばし懸念してしまうのが一作目「ナイト・ホークス」との類似かもしれない(その辺りに関しては岩田嬢が細かく解説で述べているので省かせていただくが)。「ナイト・ホークス」との類似性が、生まれいでたところに再び帰ってゆくという一種の回帰的な印象をあたえ、本作こそがシリーズ最終章なのではないかと思わせる点だろう。ボッシュの物語としては確かに既に完結している状況でこの先どういう物語を紡ぎだしていくのかと。しかし、シリーズは今後も続くということを聞くと、実はここから新しいボッシュの物語が始まるのかという期待もある。
今までの作品がボッシュの過去に焦点を置いていたとすると、この先はボッシュの現在、そして未来を描く作品が生まれてくるのかもしれない。
早いもので、本シリーズもあっという間の5作目である。
作品毎にさまざまな趣向をこらして物語を描いているシリーズであるが、本作は夏のアラスカが舞台。そして物語の中心をなしているのが宗教の問題である。日本人の感覚としては宗教という事柄はあまり実感としてピンとこない物であると思うのだが、キリスト教圏においてはそう簡単にすませられない事であるのは部外者ながらも想像することだけは出来る。民族というひとつの血のつながりという点を比較的中心にすえている本シリーズであるが、そこにキリスト教という新たな要素が加わることで更に血のつながりというものを強調させているのではないか。
さてこのシリーズは作を重ねるにしたがって徐々にミステリー色が希薄になってきているシリーズだと思うのだが、本作ではその色が非常に強くなっている気がする。それとも、ここで描いたテーマについては簡単に結論をつけたくないのかもしれない。それが物語の結末を曖昧にさせている要因かもしれない。
ピーター・デッカーシリーズのフェイ・ケラーマンが描くシェイクスピア物語である。
シェイクスピアといっても、私自身はあちらこちらでよく引用される名台詞くらいしか知識がないのだが、そんな私でも本作は非常に楽しめることができたのはおそらく筆者の力量であろう。
舞台は16世紀末のロンドン。一人の友人の死をきっかけにその犯人捜しをはじめる主人公のシェイクスピア、そしてその過程で巡り合う一人の女性。当時のヨーロッパの国と国との争い、そしてユダヤ教とキリスト教の問題。後半のユダヤ教というテーマはデッカーシリーズからのおなじみのものであるが、現代よりも中世に舞台をおいたことで、宗教プラス政治的要素も加わってユダヤ教というものがさらに緊迫感を増して描かれている。
さらに、なににもまして上手さを感じるのは、舞台設定等だけでなくシェイクスピアという劇作家の記録の無い空白ともいえる時代の物語を、その後の史実と食い違うこと無く絶妙にかみあわせている点だろう。新境地というわけではないが、フェイ・ケラーマンの新しい一面をみせてくれた作品である。
なかなか魅力的な作品の登場である。
舞台はニューオリンズ、とくればもちろんBGMはブルース。久々に題名と内容がうまくマッチしており手に取った期待を裏切らないでくれた作品でもある。
しかし、主人公のアンディであるが、まあよく殴られること。探偵役の主人公はまずいちどは殴られて気を失わないといけない、と意見を持っていた知人がいたが、これだけひとつの物語の中でけがをする主人公も珍しいかもしれない。別段タフさを強調しているようにも思えないが、主人公の気骨よりも周りの女性陣の母性本能をくすぐる要素になっているのではないかと勘ぐったりもする(苦笑)。
ちょっと変わり種のSFハードボイルド。
近未来ハードボイルドというと、どうも映画「ブレード・ランナー」のイメージが強く、無意識のうちについ比較してしまう。まあ比較してどうするって話しもあるが。
さて本作であるが、近未来という舞台設定とやはりこれもクローンという未来的なテーマのせいか、本来なら重くなってしまう内容が比較的軽く感じられる。そういう点では現代を描いたミステリーよりも現実味が薄い分だけ軽く読めてしまうといったところか。
主人公の設定やその行動する場所というのは悪く言えばステロタイプで安直に感じられてしまうが、それもひとつの魅力となっているのかもしれない。
どうも今年の天気は優柔不断な気がする。もう少しめりはりがついて欲しいものだが。
しかし、天気にも似て先月から本のほうも、いまひとつ飛びぬけた物に巡り合えていないように思えるのは気のせいだろうか。もっとも、単に私の感性が鈍くなってきているだけかもしれないが(苦笑)。
では、新しい作品に巡りあえることを祈りつつ、また次号で。
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