質問、意見等はこちらへどうぞ。[kyou4-a●ルナドットEメイルドットエヌイードットジェイピー(luna.email.ne.jp)](●を@に)天野 貴司
題材が本ということ。これ以上本読みの心をくすぐる題材はおそらく無いであろう。だからといって内容が多少悪くても評価するほど読者は甘くないというのも真実の筈である。
本作品が(前作「死の蔵書」も含め)高い評価を受けるのは、本を題材にしていること以外にも、物語の設定、展開が非常によく出来ているからだと思う。作品全体に読者の心をくすぐる遊び心がたくさんちりばめられていることも、それを後押ししている重要な要素であるだろうが、たまたまキーワードである謎が「本」であるだけの良質な作品、それが本作であろう。解説によると、著者は本シリーズを量産していく積もりはないようであるが、引用されているインタビューを読むと、残念なような嬉しいような複雑な心境である。
バンコクが舞台ということで、ちょっと色物という気がしたのだが、本作を読むとひょっとしてこういう舞台でこそ往年のハードボイルドを髣髴させる物語が描けるのかもしれない、そんな印象を受けた作品である。
アメリカを中心とする欧米圏という舞台は、時代の移り変わりとともにその時代に合った新しいハードボイルド小説を次々と産み出しているが、時として読みたくなる昔ながらの物語とキャラクターが登場する場所はひょっとしてもう無いのかもしれない。
ベストという程ではないが、小粒ながらなかなかもの哀しさを秘めた一冊。
友人から教えられて慌てて読んだ一冊。
全体的に非常にテンポがよいのだが、ちょっと軽すぎるかな? と。クライムノヴェルというには、いまひとつインパクトが足りない。まあ、フロリダには暗く湿った物語は似合わないのかもしれないが。
いまひとつ、というのはやはり主人公に対しちょっと反発を感じたからであろう。仕事と家庭を放り出してどこかへ行ってしまう。うん、ここまではいい、だが金はあるは別れた女房とよりを戻そうとするは、うーん、ただの金持ちの身勝手としか思えないところがちょっと鼻についてしまいました。取り敢えずは、前作の「絆」とデビュー作の「争奪」を読む事とする。
ある謎の解明を行っていく過程において、意図にかかわりなく明らかにされていく真実にどう登場人物が立ち向かっていくかというのがミステリ、特にハードボイルド作品の大切な要素と私は思っているだが、まさにそれを具現しているのが本作品ではないだろうか。
犯罪ノンフィクション作家である主人公、そして親友の保安官。タイプは違うが、同じ心情を持つ二人の男を中心に物語は進み、そして迎えた結末。この二人の男の哀しい思いがこの結末に結集されている気がする。どちらかと言えば単調なストーリーなのかもしれないが、これがクックの手によって珠玉の物語に仕上がっている。もう、涙涙の作品である。まだ読んでいない去年の作品が数多く残っているが、1997年のベスト1は本作に決定。
ケイトの物語も、はや四作目。前作を読み終えた後に感じた期待が裏切られなかったことに一安心。
このシリーズの場合、アラスカという土地とそこに住む人々の事柄が非常に目新しく、物語に彩りを加えている強い要素だと思うが、本作でもそれが物語の展開によくマッチしており、良質の作品に仕上がっている。ともすれば、ケイトとジャックのラブロマンスストーリーと化してしまいそうな作品なのだが、なかなかそうはならない辺りが作者のうまいところであろう。
新年の第一号です。
昨年はなかなか本が読めない年で、未読が沢山残ってしまってしまいました。本来なら、本号で1997年の私のベスト3とファルコン賞の選出をしたかったのですが、気になる作品がまだ残っているので、それは次回のお楽しみとして繰り越してしまいました。(誰も楽しみにしていないか(苦笑))もっとも、「今月の収穫」に書いたようにベスト1は決まっており、おそらく一ヶ月では変わらないと思いますが、まあそれは来月になってみないと判らないということで。
では、また次号で。
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